刺殺からはじまる侯爵令嬢、カロリナだってがんばります!

牛一/冬星明

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27.カロリナ、黄金芋を愛する同志をみつける。

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ウッチ・ラーコーツィ家はかなり古い分家になる。
ラファウは優しい姉に育てられた。
姉の婚約者は結婚する前に戦死し、姉はしばらく操を立てていた。
そして、サポヤイ伯爵がラーコーツィ家の血を欲しがったことからラファウの姉はイザーク・ファン・サポヤイ伯爵に嫁いだ。

サポヤイ伯爵家は王国領の北の果てを領地とし、セーチェー領と接していたのでセーチェー家派の王族として王家に仕えていた。
ところが先代の代で家督争いが勃発し、当主が決めた3男イザークを次期当主にすることをセーチェー家が反対し、長男と3男で家督を争うことになった。
セーチェー侯爵家の権威に対抗する為に、ラーコーツィ家の分家から嫁を貰うことになった。
それがラファウの姉が嫁いでいった理由だ。

イザーク・ファン・サポヤイ伯爵の元にアルコ商会の商人アンデが訪ねてきたのは秋口であった。
セーチェー領で発見した金山の採掘権を買って欲しいと言ってきた。
貧しく、特に資源もないサポヤイ家には渡りに舟だ。
もちろん、巧い話には理由があった。

セーチェー領の領主は非常の評判が悪い。
商人らの契約を不履行にする貴族であった。
慇懃無礼、貴族を体現したような方であり、領民への度々の臨時徴収、領内での暴行行為、美しい女性を攫ってきては妾にして孕めば放逐する。
そんな領内で金山が見つかったとなれば、どうなるだろうか?
山の所有権・採掘権も奪われ、掘り出した金も盗まれることを危惧した。
そこで隣に隣接するサポヤイ伯爵に権利を譲り、採掘をアルコ商会に任せて貰えないだろうかという願い出を上げてきた。
つまり、盾役になって欲しいのだ。

しかも発掘された山はかなり奥地であり、セーチェー側の領内を通るよりサポヤイ伯爵領を通った方が王都に近い。
商人アンデにとって一石二鳥であった。

イザーク・ファン・サポヤイ伯爵は受けた。
しかし、サポヤイ伯爵領には、そう言った経営ができる家臣がいない。
セーチェー家派の代官に任せることはできない。
そこで妻の弟が優秀と聞いて呼ばれた。
ラファウは学生の身でありながら、金山採掘の総責任者を任された。
その商人アンデもラファウを見て信用を得る為に真実を語った。

この金山の話は悪党シャイロックから齎された。
その悪党シャイロックも青い目で金髪の髪を持ち、左目の下にホクロのある少女から命じられたと言う。
信じがたいが悪党シャイロックと言えば、貴族にも噛みつく狂犬であった。
商人アンデはかなりやり手の商人であり、悪く言えば、あくどい商人、悪徳商人と言っていい。
ゆえに危険な匂いを嗅ぎ取る能力に優れていた。

そもそも悪党シャイロックが真面目に働く意味がない。
悪党シャイロックが本当に脅されているとしか考えられないのだ。
そうでなければ、商人アンデも悪党シャイロックなどと手を組もうなど考えない。

ラファウは商人アンデの言う事を信じた訳ではない。
悪党シャイロック、商人アンデ、どちらも信用に値しない。
だが、金山の採掘に支障はない、
また、支障がないように組織を組み込めばいいと思った。

だが、この噂は無視できなかった。

青い目、金髪、左目下の泣きホクロ、妖精種を護衛に雇う少女など一人しか思い当たらない。

なぜ、カロリナ様はこんな輩に命じられたのか?

こんなドブ鼠のような者を使わずとも、まっとう者を使えばいい。

真意が見えない。

そう考えはじめるとカロリナ様には噂が絶えない。
カロリナ親衛隊に入ったルドヴィクの話をまとまると、

・ご生母様のお気に入り。
・ご生母様と王妃を仲介。
・7歳での古代文字習得(魔法語)。
・盗賊退治。
・町を徘徊。
・悪路の悪党討伐(シャイロック)。
・駆け出し冒険者の保護。
・悪党フベルト(蛇竜会アングィス・ドラコの会頭)の庇護下。
・屋台の指導。
・マグナ・クロコディールスの討伐。

非凡過ぎて、何を考えているのか判らない。
この悪路(下町)をどうしたいのか?
何が最終目的なのか?
どうしてこんな馬鹿騒ぎの祭りをする?

金山で知った事をカロリナの兄レヴィンに告げた。
レヴィンも驚いていた。

「知らなかった。カロリナがそんなことをしていたとは!」
「レヴィン様もご存知なかったのですか」
「まったく、知らないな。我が天使は微笑んでくれれば、それだけで満足なのさ!」
「では、この事は不問とします」
「その必要はない。カロリナがそれを望んでいるなら私は喜んで協力する。その為ならこの地位も利用する。すべてはカロリナの為にある。よかろう、その真意を確かめて、私に報告してくれたまえ」
「承知しました」

カロリナも理解不可能だったが、そのカロリナの為にすべて使うというレヴィンも大概であった。

ともかく、約束通り一度会う機会を作って頂いた。

もう本人に聞くしかない。

 ◇◇◇

ラファウは思った。
はじめて会ったカロリナは噂通りの可愛らしい少女だ。
屈託のない笑顔だけで好感が湧く。
言葉使いに無理をしているが、おおむね及第点である。
天使と言われるだけの事はあった。

どの話ものらりくらりと答えて真意を話そうとしない。

そもそもラファウはカロリナの基準点を上げ過ぎていた。
大人顔負けの策謀を巡らし、裏でどんな情報網を構築しているのか?
なぜ、子供のフリを演じ続けるのか?
根幹から勘違いをしていた。

カロリナは粗相がないように気を付けているだけであり、策謀とか無縁の子供であった。
すべて本人の関係のないことであり、思惑とは無縁であった。
カロリナは美味しい物を食べたいだけの食い意地の張った少女である。

業を煮やしたラファウは単刀直入に聞いた。

「黄金の意図はどこにあります。何故、あの者らに任せたのです」

カロリナがはじめて動揺した。
ラファウがにやりと口を緩める。

やっと正体を現したな!

さぁ、あの金山は何の為にあの者らに託した。
教えて貰おう。

金山の所在をどうやって知ったかも興味があったが、それは妖精族の秘話かも知れず、探ることを最初から放棄していた。
いつか、教えて貰える日が来ると嬉しい。
その風に思っていた。

重要なのはあのような下賤の者らに託した理由だ。
カロリナが悪路(下町)に拘る意味だ。
なぜ、底辺の者に拘っているのか?

ラファウの追求にカロリナは冷や汗を流す。
カロリナは正直に「黄金芋を食べたかった」と言った方が良いのかしらと悩む。
だが、そう言えば、「馬鹿にするか!」と怒られるような気がした。
どう答えればいいの?
悩んだ。
少ない脳みそをフル回転して、ラファウが求めている答えを探した。

『当然、皆の食卓が豊かになる為です』

屋台の店主の言葉を借りた。
ラファウは美しい顔を崩し、間抜けたようにぽっかりと口を開いたまま固まり、そして、何か思い詰めたように、ぶつぶつと呟き始めた。

馬鹿なぁ!
あり得ない。
何故…………否、あり得る。
あり得るぞ!
言われて始めて気が付いた。

我ら貴族は何の上に立っている。
民だ。
民の上に君臨している。
その民が困窮すると言う事は国家が困窮することだ。
民が豊かにならねば、国家は強くならない。
民を豊かにするには底辺の者を引き上げねばならない。
あのようなドブ鼠のような者までカロリナ様には王国の民なのだ。
確かに、
あの者らを引き上げれば、民全体の暮らしもよくなる。

『皆の食卓が豊かになる』

なんという深謀遠慮なもくろみだ。
だから、あのような者を取り立てるのか。
金山から取れる利益もそれに沿って使われるべきだ。
そうでなければ完結しない。

カロリナ様が目指すのは、『民の安寧』だ。

ラファウは馬車の中で跪き、首を晒した最敬礼を取った。
貴族が王に対してのみ行う最敬礼。
自らの主君と決めたと言わんばかりに、ラファウの顔は澄んでいた。

「このラファウ、この身が尽きるまでカロリナ様に忠誠を誓わせて頂きます」

なぜ、そうなったか?
どうやら正解を引いたようだが、意味が判らない。
とにかく危機が去ったことを悟った。

「感謝します」
「凡庸なる者ですが、できる限り協力させて頂きます」
「協力? (黄金芋をおいしく食べる)お知恵をお貸し下さいますの?」
「もちろんです」
「貴族である貴方に賛同して貰えるなんて思いもしませんでした」
「他の者がカロリナ様を理解できなくとも、私はカロリナ様を理解しております」
「神よ、感謝します」

ラファウはいい人だった。
カロリナと同じく、黄金芋をおいしく食べようと考える同志だった。
少なくとも、カロリナはそう誤解した。

馬車は大公園へと入って行く。
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