刺殺からはじまる侯爵令嬢、カロリナだってがんばります!

牛一/冬星明

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33. カロリナ、山を越えて行こう。

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美しい絵画のような山々が近づいてくる。
山頂には白い雪の帽子を被り、壮大な山々が連なっていた。
近づくほどに大きさが実感された。
その山を越えて向こうに行こうなんて思う人はそう多くない。

カロリナの一行は王都を南下してからイアスト川の渡河場で一泊すると、早朝から大型船を使って馬車を東に渡して山を目指した。
イアスト川は上流になるほど山が近くなる。
カロリナは近づく山を見上げながら、本当に超えられるのか不安になっていた。
その左手には手付かず大森林が広がっていた。

「ねぇ、マズル兄ぃ! 魔物が少ないのにどうして王都の東を開発しないのかしら?」
「敵が押し寄せてきたとき、大森林があれば侵攻できないからです」
「侵攻ね!?」

カロリナは不満そうに首を捻った。
イアスト川の東側はめずらしい食べ物や果実が多くあった。
これは嬉しい収穫だったのだが、余り取りに行けない。
川で渡るには舟をチャーターしないと行けない。
対岸に村もなく意外と不便だった。

宿泊宿があれば、もっと散策できるのに!

カロリナは常に自分オンリーで考える。
定期便と宿泊村を作りましょう。
侯爵におねだりしたこともあったが見送られた。
ぷんぷんであった。
どうやら国防上の理由で許可が下りなかったようだ。

カロリナは馬に乗りながらマズルにその時の事を話していた。

「ねぇ、おかしいと思わない」
「カロリナ様」

木の実などの他にも山の中腹にある湖の大ザニガニを捕獲にも便利だ。
定期便と宿泊宿村は必要だ。
カロリナはまだ諦めていない。

カロリナは近衛隊と並走していた。
護衛の対象が先頭近くにいるのはどうだろうか?
少なくともよろしくない。
でも、窓の小さい馬車では楽しめない。
マズルとも話せる。
それに馬の方が楽だった。
滅茶苦茶な使者であった。
マズルでなければ許可を出さなかっただろう。

「カロリナ様、町の手前から馬車にお乗り下さい」
「そんなことを心配しなくていいわ!」
「カロリナ様を気にしている訳でありません。我が国の体面を気にしております。私が王から叱責を受けます。どうか、少しでも私をお気づかい下さるならお乗り下さい」
「狡い、も~う判ったわ。町が見えてきたら乗るわよ。それでいいでしょう」
「ありがとうございます」
「マズル兄ぃのお願いだから聞いて上げるのよ」
「ありがとうございます」
「その代わり、普通に話してね! マズル兄ぃに敬語で話されると気持ち悪いわ」

カロリナが少しデレていた。
マズルに嫌われるのはちょっと嫌だった。
ホンの少しだけよ!
自分でそう言い聞かす。

「では、遠慮なく。騎乗はいいがドレスで馬に乗るのはどうかと思うぞ」
「大丈夫よ。見られていいようにドロワーズを履いています」
「せめて横座りに」
「嫌よ! 景色は半分しか見られないじゃない」
「ならば、せめて着替えるとか?」
「面倒よ。誰も見ていないわ」
「おまえ、本当にレディーか?」
「可愛くなったでしょう」

うん、可愛くなった。
だが、そういう問題ではない。
ドレスで馬車に乗るのがはしたない。
風でスカートが揺れると下着が見えてしまう。
たとえ、ドロワーズとしても。
他の近衛達が見ないように気を使っていた。

「おい、あの馴れ馴れしい近衛は誰だ?」
「昨日、あいさつを聞いていなかったのか。第1中隊第3近衛小隊長殿だ」
「そういうことを言っているのではない」

ドスの聞いた声でルドヴィクが声を荒げた。
もちろん、ラファウも判っている。
マズルとは二人とも王城の自主練で何度か手合せをした中だ。
ルドヴィクも嫌いではなかった。
群を向いて強く、世話好きでお人好し、部外者の財務官の新人でも練習に付き合ってくれる。
話せる近衛であった。
だが、今回は違う。
カロリナとマズルが楽しいそうにおしゃべりとしている。
ルドヴィクの敵であった。

兄のレヴィン侯よりルドヴィクとラファウは秘書として随行を命じられた。
二人とも学園を卒業して財務官として大蔵省に所属していた。
騎士団志望であったルドヴィクが財務官になったのも、カロリナの為だ。
近衛や騎士団に入ると自由が利かない。
カロリナが遠出やダンジョンに入る時に随行できない。
カロリナを警護する。
タダ、その為に夢を捨てた。
ルドヴィクだけではない、貴族学園のカロリナ親衛隊は大方が大蔵省に就職している。
レヴィン侯の私兵となった!
その一番と自負があったルドヴィクにとってマズルの登場は晴天の霹靂へきれきである。
独占した訳ではない。
特別な誰かでありたいと願っていた。

ぐぐぐ、ルドヴィクと同じように歯ぎしり立てて悔しそうに前方を見つめるのは、ルドヴィクの弟であるイェネーがあった。
反応が同じだった。

「彼奴は誰だ! カロリナ様に馴れ馴れしくしやがって!」
「諦めろ!」
「クリシュトーフは悔しくないのか? ポッと出の奴で奪われて!」
「ポッと出はむしろ、僕たちの方じゃないかな?」
「うむ、カールが正しい」
「そんなことはどうでもいい。彼奴は誰だ?」
「昨日、あいさつしたじゃない。カロリナ様のお兄さんのような存在だって!」
「アザ、お前もカロリナ様を取られて悔しくないのか?」
「私は別に。でも、マズル様ってかっこいいわよね!」
「カッコいいです」
「急に呼び出されたら海外に言うとかいうカロリナ様も大概だけれど、イケメンが集まるから眼福だわ。これだけは感謝ね!」
「はい、眼福です」
「ニナちゃんも判っている!」
「ラファウ様も、ルドヴィク様も、マズル様も素敵です」
「ニナ、あいつらに憧れているのか?」
「はい、昨日はラファウ様に声を掛けて頂きました。幸せです」
「うおおおぉ、そんな! 俺はどうしたら?」
「少年、がんばれ! まだ、成長はこれからだ」
「うん、判った」

冒険パーティ『森の守人の息子シルバ・デフェンシオン・パブ・フィーリウス』(略して、森人シルバ・ホミネース)も付いて来た。
アザは強制参加、ジクとニナはお気に入り枠で参加。
リーダーのレフを始め、レベルの高い6人のみが選抜された。
残念ながらカロリナの護衛として三貴族子息は選ばれなかったが、それでも付いて来たかったので臨時メンバーとして貰った。
他のメンバーはブーイングものだが、貴族様に頭を下げられると仕方ない。
と言う訳で冒険パーティ9人が参加だ。

因みに森の守人の息子シルバ・デフェンシオン・パブ・フィーリウスは総勢30人の大冒険者パーティに成長していた。
駆け出し冒険者の研修会を実施し、手伝ってくれる卒業した冒険者が自然と加わって大所帯になっていた。
皆、屋台においしい肉を届ける冒険者を増やす会のお手伝いだ。
カロリナは嘘偽りなく、本心でそう言っている。
でも、みんなは駆け出し冒険者の為に研修会を開いてくれると感謝していた。
王都の冒険の間では凄ぶる評判がいい。
新人の死亡率も減って、冒険ギルドも感謝していた。
皆、カロリナを『俺の姫様プリンケプス・ミィア』と呼んでいた。

この使節団にはラーコーツィ領兵の兵士60人も付いてきていた。
カロリナの世話をする為にオルガ達侍女も数人同行している。

延べ100人近い一団がミスホラ王国を目指して山道を馬車で登り、深い谷の道を進み、少し広がった村に到着した。

山の中腹、はじまりの村ティンポル・ディムスであった。

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