42 / 103
34. カロリナ、カルチャーショックを受ける。
しおりを挟む
ミスホラ王国は人口1万人の小さな国であった。
山間に点在する小さな盆地の村々を治めるのがミスホラ王であった。
小さい国なので貧しいと思っていた。
粗末な家であったが綺麗に手入れされており、みすぼらしさの欠片もない。
畑を作業する村人も手を振ってくれる。
気持ちの良い村であった。
そして、村を抜けて大きな屋敷の前に泊まった。
馬車を降りたカロリナが驚いた。
「立派な宿があるのですね?」
「カロリナ様、この王国に宿はございません」
「この屋敷は」
「この村の領主の屋敷でございます」
バタン、扉が開くと、太った女中が現れた。
「あら、あら、あら、いらっしゃい」
「ラースロー・ファン・ラーコーツィ侯爵の娘、カロリナと申します。この度は国王陛下より大生母様への返礼の品を届けにやって参りました。どうか、一晩の宿をお貸下さい」
「これはご丁寧に。でも、生憎、ご主人様と奥様は畑に出ております。どうか中に入ってお寛ぎ下さい」
「よろしければ、お名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「お名前なんて大層な者ではないわ。私はただの掃除婦よ。女中はいないから、お茶が欲しかったら自分で入れて頂戴ね。では、私は次の家が残っているのよ。またね!」
そう言って、女は屋敷を後にした。
屋敷に中は誰もいなかった。
オルガにお茶を入れて貰って、とにかく落ち着く。
「ラファウ、私に判るように説明してくれる?」
「畏まりました」
イアスト山脈に広がる盆地は岩肌がころがる荒野ばかりだったらしい。
別名が『流刑の地』と呼ばれていたらしく、アール王国の建国当初の勢力争いに負けた貴族達が追って逃れて山に入ったと伝わる。
わずかに草木は生える貧しい土地であり、辿り着いてもほとんどが飢えて死を待つだけの不毛な大地であったらしい。
不毛な大地?
カロリナが首を傾げるのも当然だ。
村は緑の木々に溢れ、畑では沢山の作物が取れていた。
これのどこが不毛な大地なのだろう。
300年前、やはり権力争いに負けた貴族が流れ着いたが、その貴族の子息は妖精王と盟約を結び、それ以来、緑溢れる国に変わったらしい。
「それが妖精の国と呼ばれる由縁ね。それと屋敷の主がいない理由とどう関係するの?」
「初代王のミスホラ様は100人の子供を作って各土地を治めさせました」
「100人?」
「町や村の長はすべて王の直系であり、村の民も王の子孫か、妻に迎えたか、そうでなくとも何某かの縁者です」
「もしかして、 村人全員が王族ってこと?」
「はい、そうなります。村人全員が家族ですので通貨も必要ありません。貧しい村なので、村人すべてが畑や狩りなどに出ます。
パン屋は村人のパンを作るのが仕事。
鍛冶は村人の農具や武器を作るのが仕事。
先ほどの掃除婦は家の掃除をするのが仕事なのでしょう。
通貨も存在しませんので、金で支払うこともできません」
「信じられないわ?」
「我々はここに泊めて頂きますので、そのお礼として料理と草刈りを行います。それが侍女と冒険者(領兵を含む)を連れてきた理由でございます」
カロリナは隣の王国にあいさつに行くのに、どうして侍女や冒険者を連れて来るのか不思議だった。
カロリナの世話ならオルガ一人で十分だ。
政情不安という訳でもないのに護衛が多いと不思議に思っていた。
まさか、料理や草刈りをする為に連れて来たとは。
「材料は村に行けば手に入りますので料理を作って振る舞い、村人に感謝を示さねばなりません」
「それでオルガの他に料理をできる者を連れてきたのね!」
「はい、そうなります」
「そして、私達の料理のお返しに。ミスホラ王国の郷土料理を食べるのね!」
「残念ながら料理を作るのは我々のみです」
「郷土料理は?」
「王都に着くまで無理ですね」
そぉ、そんな!
カロリナは落ち込んだ。
楽しみにしていた郷土料理が食べられないと知った。
村には屋台のような店もなかった。
詐欺だ!
こんな事なら引き受けなければよかった。
大失敗である。
がっかりされるカロリナを見て、ラファウは軽い感動を覚えていた。
流石、カロリナ様。
文化の劣った小国であっても、カロリナは何か学ぶ所を探しておられる。
見習わねば!
頭がキレるのも考えものだ。
カロリナの奇妙な行動に何某かの理由を付ける癖を身に付けて、その行動を歪曲した。
ラファウの解説は親衛隊にはどうしようもないほど理想のご令嬢像が浸透し、皆を狂信者へと導いていた。
今日もカロリナ経典で新たな一行が加えられた。
『ラファウ様はどんなに劣った文化の者にも偏見を持たない。そして、その向上心は塵芥の中から宝石を探そうと努力される。劣った者を見下してはならない。その者の中にも見習うべき所は必ずあるのだ』
ラファウの色眼鏡はどうしようもないほどねじ曲がっていた。
もう手遅れであった。
「オルガ、どこに行くの?」
「夕食の材料を仕入れに行きます」
「なら、私も行きます」
「お嬢様」
「散歩くらい許してよ。楽しみにしていた郷土料理がおあずけになったのよ」
「仕方ありませんね」
「流石、オルガ! 大好きよ」
「はい、はい、では、皆さん、行きますよ」
国境を超えると文化が違う。
訪れた方が料理を作って振る舞うなんて聞いたことがない。
宿はタダだけど!
カロリナはカルチャーショックで軽い目眩を覚えていた。
山間に点在する小さな盆地の村々を治めるのがミスホラ王であった。
小さい国なので貧しいと思っていた。
粗末な家であったが綺麗に手入れされており、みすぼらしさの欠片もない。
畑を作業する村人も手を振ってくれる。
気持ちの良い村であった。
そして、村を抜けて大きな屋敷の前に泊まった。
馬車を降りたカロリナが驚いた。
「立派な宿があるのですね?」
「カロリナ様、この王国に宿はございません」
「この屋敷は」
「この村の領主の屋敷でございます」
バタン、扉が開くと、太った女中が現れた。
「あら、あら、あら、いらっしゃい」
「ラースロー・ファン・ラーコーツィ侯爵の娘、カロリナと申します。この度は国王陛下より大生母様への返礼の品を届けにやって参りました。どうか、一晩の宿をお貸下さい」
「これはご丁寧に。でも、生憎、ご主人様と奥様は畑に出ております。どうか中に入ってお寛ぎ下さい」
「よろしければ、お名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「お名前なんて大層な者ではないわ。私はただの掃除婦よ。女中はいないから、お茶が欲しかったら自分で入れて頂戴ね。では、私は次の家が残っているのよ。またね!」
そう言って、女は屋敷を後にした。
屋敷に中は誰もいなかった。
オルガにお茶を入れて貰って、とにかく落ち着く。
「ラファウ、私に判るように説明してくれる?」
「畏まりました」
イアスト山脈に広がる盆地は岩肌がころがる荒野ばかりだったらしい。
別名が『流刑の地』と呼ばれていたらしく、アール王国の建国当初の勢力争いに負けた貴族達が追って逃れて山に入ったと伝わる。
わずかに草木は生える貧しい土地であり、辿り着いてもほとんどが飢えて死を待つだけの不毛な大地であったらしい。
不毛な大地?
カロリナが首を傾げるのも当然だ。
村は緑の木々に溢れ、畑では沢山の作物が取れていた。
これのどこが不毛な大地なのだろう。
300年前、やはり権力争いに負けた貴族が流れ着いたが、その貴族の子息は妖精王と盟約を結び、それ以来、緑溢れる国に変わったらしい。
「それが妖精の国と呼ばれる由縁ね。それと屋敷の主がいない理由とどう関係するの?」
「初代王のミスホラ様は100人の子供を作って各土地を治めさせました」
「100人?」
「町や村の長はすべて王の直系であり、村の民も王の子孫か、妻に迎えたか、そうでなくとも何某かの縁者です」
「もしかして、 村人全員が王族ってこと?」
「はい、そうなります。村人全員が家族ですので通貨も必要ありません。貧しい村なので、村人すべてが畑や狩りなどに出ます。
パン屋は村人のパンを作るのが仕事。
鍛冶は村人の農具や武器を作るのが仕事。
先ほどの掃除婦は家の掃除をするのが仕事なのでしょう。
通貨も存在しませんので、金で支払うこともできません」
「信じられないわ?」
「我々はここに泊めて頂きますので、そのお礼として料理と草刈りを行います。それが侍女と冒険者(領兵を含む)を連れてきた理由でございます」
カロリナは隣の王国にあいさつに行くのに、どうして侍女や冒険者を連れて来るのか不思議だった。
カロリナの世話ならオルガ一人で十分だ。
政情不安という訳でもないのに護衛が多いと不思議に思っていた。
まさか、料理や草刈りをする為に連れて来たとは。
「材料は村に行けば手に入りますので料理を作って振る舞い、村人に感謝を示さねばなりません」
「それでオルガの他に料理をできる者を連れてきたのね!」
「はい、そうなります」
「そして、私達の料理のお返しに。ミスホラ王国の郷土料理を食べるのね!」
「残念ながら料理を作るのは我々のみです」
「郷土料理は?」
「王都に着くまで無理ですね」
そぉ、そんな!
カロリナは落ち込んだ。
楽しみにしていた郷土料理が食べられないと知った。
村には屋台のような店もなかった。
詐欺だ!
こんな事なら引き受けなければよかった。
大失敗である。
がっかりされるカロリナを見て、ラファウは軽い感動を覚えていた。
流石、カロリナ様。
文化の劣った小国であっても、カロリナは何か学ぶ所を探しておられる。
見習わねば!
頭がキレるのも考えものだ。
カロリナの奇妙な行動に何某かの理由を付ける癖を身に付けて、その行動を歪曲した。
ラファウの解説は親衛隊にはどうしようもないほど理想のご令嬢像が浸透し、皆を狂信者へと導いていた。
今日もカロリナ経典で新たな一行が加えられた。
『ラファウ様はどんなに劣った文化の者にも偏見を持たない。そして、その向上心は塵芥の中から宝石を探そうと努力される。劣った者を見下してはならない。その者の中にも見習うべき所は必ずあるのだ』
ラファウの色眼鏡はどうしようもないほどねじ曲がっていた。
もう手遅れであった。
「オルガ、どこに行くの?」
「夕食の材料を仕入れに行きます」
「なら、私も行きます」
「お嬢様」
「散歩くらい許してよ。楽しみにしていた郷土料理がおあずけになったのよ」
「仕方ありませんね」
「流石、オルガ! 大好きよ」
「はい、はい、では、皆さん、行きますよ」
国境を超えると文化が違う。
訪れた方が料理を作って振る舞うなんて聞いたことがない。
宿はタダだけど!
カロリナはカルチャーショックで軽い目眩を覚えていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる