刺殺からはじまる侯爵令嬢、カロリナだってがんばります!

牛一/冬星明

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34. カロリナ、カルチャーショックを受ける。

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ミスホラ王国は人口1万人の小さな国であった。
山間に点在する小さな盆地の村々を治めるのがミスホラ王であった。
小さい国なので貧しいと思っていた。
粗末な家であったが綺麗に手入れされており、みすぼらしさの欠片もない。
畑を作業する村人も手を振ってくれる。
気持ちの良い村であった。
そして、村を抜けて大きな屋敷の前に泊まった。
馬車を降りたカロリナが驚いた。

「立派な宿があるのですね?」
「カロリナ様、この王国に宿はございません」
「この屋敷は」
「この村の領主の屋敷でございます」

バタン、扉が開くと、太った女中が現れた。

「あら、あら、あら、いらっしゃい」
「ラースロー・ファン・ラーコーツィ侯爵の娘、カロリナと申します。この度は国王陛下より大生母様への返礼の品を届けにやって参りました。どうか、一晩の宿をお貸下さい」
「これはご丁寧に。でも、生憎、ご主人様と奥様は畑に出ております。どうか中に入っておくつろぎぎ下さい」
「よろしければ、お名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「お名前なんて大層な者ではないわ。私はただの掃除婦よ。女中はいないから、お茶が欲しかったら自分で入れて頂戴ね。では、私は次の家が残っているのよ。またね!」

そう言って、女は屋敷を後にした。
屋敷に中は誰もいなかった。
オルガにお茶を入れて貰って、とにかく落ち着く。

「ラファウ、私に判るように説明してくれる?」
「畏まりました」

イアスト山脈に広がる盆地は岩肌がころがる荒野ばかりだったらしい。
別名が『流刑の地』と呼ばれていたらしく、アール王国の建国当初の勢力争いに負けた貴族達が追って逃れて山に入ったと伝わる。
わずかに草木は生える貧しい土地であり、辿り着いてもほとんどが飢えて死を待つだけの不毛な大地であったらしい。

不毛な大地?

カロリナが首を傾げるのも当然だ。
村は緑の木々に溢れ、畑では沢山の作物が取れていた。
これのどこが不毛な大地なのだろう。

300年前、やはり権力争いに負けた貴族が流れ着いたが、その貴族の子息は妖精王と盟約を結び、それ以来、緑溢れる国に変わったらしい。

「それが妖精の国と呼ばれる由縁ね。それと屋敷の主がいない理由とどう関係するの?」
「初代王のミスホラ様は100人の子供を作って各土地を治めさせました」
「100人?」
「町や村の長はすべて王の直系であり、村の民も王の子孫か、妻に迎えたか、そうでなくとも何某かの縁者です」
「もしかして、 村人全員が王族ってこと?」
「はい、そうなります。村人全員が家族ですので通貨も必要ありません。貧しい村なので、村人すべてが畑や狩りなどに出ます。
パン屋は村人のパンを作るのが仕事。
鍛冶は村人の農具や武器を作るのが仕事。
先ほどの掃除婦は家の掃除をするのが仕事なのでしょう。
通貨も存在しませんので、金で支払うこともできません」
「信じられないわ?」
「我々はここに泊めて頂きますので、そのお礼として料理と草刈りを行います。それが侍女と冒険者(領兵を含む)を連れてきた理由でございます」

カロリナは隣の王国にあいさつに行くのに、どうして侍女や冒険者を連れて来るのか不思議だった。
カロリナの世話ならオルガ一人で十分だ。
政情不安という訳でもないのに護衛が多いと不思議に思っていた。
まさか、料理や草刈りをする為に連れて来たとは。

「材料は村に行けば手に入りますので料理を作って振る舞い、村人に感謝を示さねばなりません」
「それでオルガの他に料理をできる者を連れてきたのね!」
「はい、そうなります」
「そして、私達の料理のお返しに。ミスホラ王国の郷土料理を食べるのね!」
「残念ながら料理を作るのは我々のみです」
「郷土料理は?」
「王都に着くまで無理ですね」

そぉ、そんな!
カロリナは落ち込んだ。
楽しみにしていた郷土料理が食べられないと知った。
村には屋台のような店もなかった。

詐欺だ!

こんな事なら引き受けなければよかった。
大失敗である。
がっかりされるカロリナを見て、ラファウは軽い感動を覚えていた。

流石、カロリナ様。
文化の劣った小国であっても、カロリナは何か学ぶ所を探しておられる。
見習わねば!

頭がキレるのも考えものだ。
カロリナの奇妙な行動に何某なにがしかの理由を付ける癖を身に付けて、その行動を歪曲した。
ラファウの解説は親衛隊にはどうしようもないほど理想のご令嬢像が浸透し、皆を狂信者へと導いていた。
今日もカロリナ経典で新たな一行が加えられた。

『ラファウ様はどんなに劣った文化の者にも偏見を持たない。そして、その向上心は塵芥ちりあくたの中から宝石を探そうと努力される。劣った者を見下してはならない。その者の中にも見習うべき所は必ずあるのだ』

ラファウの色眼鏡はどうしようもないほどねじ曲がっていた。
もう手遅れであった。

「オルガ、どこに行くの?」
「夕食の材料を仕入れに行きます」
「なら、私も行きます」
「お嬢様」
「散歩くらい許してよ。楽しみにしていた郷土料理がおあずけになったのよ」
「仕方ありませんね」
「流石、オルガ! 大好きよ」
「はい、はい、では、皆さん、行きますよ」

国境を超えると文化が違う。
訪れた方が料理を作って振る舞うなんて聞いたことがない。
宿はタダだけど!
カロリナはカルチャーショックで軽い目眩を覚えていた。


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