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78. カロリナ、夜空の星に守られて眠りにつく。
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カロリナが宣誓し、火の矢を放って機先を制した。
頭に血が上った敵が襲い掛かった。
そんなに単純でいいの?
余りにもラファウの予想通りにニナは敵の事が心配になった。
ニナとジクは戦いがはじまる前に斜め前に前進して、敵から見て側面に移動していた。
ニナは弓を取り出して静かに『双弓』と呟き、スキルを発動する。
魔力が弓に這って弓の質を上げると、ニナも戦闘開始だ。
ニナは背の低さをカバーする為に岩の上に乗り上げている。
そこから敵の指揮官と思われる100人隊長を狙った。
『流星矢』
矢スキルが発動して、光に加護が纏った100発100中のロングショットを放れる。
ズバ、ズバ、ズバ!
矢は弧を描くこともなく、レザービームのように一直線に敵を射抜いてゆく。
「小賢しい小娘に兵を向けよ」
なぜか隊長が倒されて士気は落ちない。
殺された隊長の代わりに次の者が叫んだ。
そんな事はどうでもいい。
それならば、その次の指揮者を射抜くだけだ。
ニナの方にも敵兵が押し寄せてくる。
ズドドド~!
カロリナを襲っていた敵兵の前面から爆音が鳴り響いた。
爆発の魔法が炸裂した。
それによって敵の兵の足が止まった。
「あいつら馬鹿なのか?」
「ほとんど、矢を撃っていませんね」
「最近の盗賊でも、もう少し頭を使うぞ」
「あははは、ですね」
乱戦になるまで、矢で援護射撃するのは常識だ。
でも、敵から矢が一本も放たれていない。
カロリナが敵の足を止めたので空中戦は一方的な展開になって来ている。
敵の弓士は何をやっているのかしら?
ニナが疑問に思うのも当然であった。
実は敵の弓士は矢を前に飛ばす程度の腕前でしかない。
味方を避けて撃つことができないのだ。
ニナが首を捻っている間に敵が近づいてくる。
「ジク、私は移動します」
「判った」
ニナの仕事は遊撃であり、敵の意識を分散する事にある。
弧を描いて敵の周辺を回ってゆく。
そのニナに兵が迫ってきた。
刹那!
ニナを襲った兵にその影から飛び出したジクが体当たりを決めた。
「ニナに近づけると思うな!」
左腕に装備した盾を前に突き出して体ごと敵にぶつかってゆく。
『シールド・バッシュ』
盾士や盾持ちの戦士が割と簡単に手に入れることができるスキルだ。
レンジャーが手に入れるのは珍しい。
ジクの『シールド・バッシュ』はイージスの盾という特殊レアな神具から得た。
タイミングと気力で発動する普通の『シールド・バッシュ』ではなく、魔力と気力を消費する。
ステータスには、『シールド・バッシュ(神)』と記入されているが、本人も知らない。
巨大な魔獣ベビモスの突進すら受け止められる特殊スキルだった。
シールド・バッシュが決まった瞬間、ニナの頭に『???』(クエスチョンマーク)が浮かんだ。
ぐわぁぁぁ、盾の衝撃を受けた兵が周りを撒き込んで本隊まで飛ばされた。
人間大砲だよ!?
ジクの動きは止まらずにその横の敵に狙いを定める。
『シールド・バッシュ、シールド・バッシュ、シールド・バッシュ』
人間大砲が四発も本隊に撃ち込まれてしまった。
敵の本隊に大被害を出した。
味方も敵も何が起こっているのか、よく判らない。
「ねぇ、ジク」
「何だ!」
「ラファウさんが怒っているみたい」
「え~~~!? 俺、悪いことしたか?」
「カロリナ様も怖い顔で睨んでいる」
「止めてくれ! 昨日からカロリナ様がぴりぴりして怖いんだぞ!」
「だよね! 私も声を掛け辛かった」
よく判らないが、何か拙い事をしたらしい。
それだけは判った。
叱られる!
ジクとニナはもう敵の事はどうでもよくなった。
◇◇◇
人間という生き物は理解できるモノを怖がらないが、理解できないモノに恐怖を覚える。
兵達が足止めを食らっている所に人間を飛ばして本隊を攻撃する化け物が現れた。
あそこで戯れているのは、妖精か? 悪魔か?
幼そう少女は妖精に見え、護衛の小さな護衛はドワーフにも見える。
だが、普通の妖精にそんな力はない。
ならば、小悪魔か?
敵の指揮官(ラファウ)が小悪魔を怒鳴っている。
その光景が異様に映った。
誰か言った!
あれは伝説の魔王の娘に違いない。
プー王国の伝承にある魔人だ。
気まぐれに現れて町1つを破壊した悪魔だ。
魔王の娘には従者と家臣がいたと言う。
あの小汚い子供が従者で、炎使いが家臣に違いない。
見かけは小さいが悪魔だ。
アール王国の連中は悪魔を召喚した。
プー王国の最強の四騎士団が戦って相打ちになって倒した怪物を、最下層の灰色騎士団の一部隊で勝てる訳がない。
「化け物だ」
「嫌だ! 俺はまだ死にたくないぞ!」
「勝手に動くな! 死罪にするぞ!」
100人隊長の声など聞こえていない。
欲望と恐怖に縛られた兵など崩れはじめると脆かった。
次々と兵士達が戦意を喪失して逃げ出した。
ジクの人間大砲は大隊の首脳部を崩壊させていた。
死んでいないけど!?
ボーリングでいうピンがすべて倒れた『ストライク』状態である。
この大隊でもっと強い者が倒された。
小隊(ケントゥリア)の100人隊長が逃げ出す奴隷兵を抑えようとするが、部下の仕官も浮き足立って機能しない。
ラファウの思惑と違ったが、敵兵に恐怖を植え付けることに成功したようであった。
一方的に戦いを進め、時間を掛けて敵兵に恐怖を植え付ける。
そのハズだった。
予定外であったが、敵が崩れてしまった。
ルドヴィクの大きな声で叫ぶ。
「蹂躙せよ!」
レフ達と漁村民が飛び出した。
勝利の美酒は人を凶暴化する。
従順で素朴な漁民達が猟人のように目をギラつかせて追い駆ける。
開発を携わった者の中には漁民村から移住した者もいた。
この土地のルールを教え、道具や家を建築する大工などは漁民村から派遣された。
こうして、やっと村ができたのだ。
隣人を失った恨み、兄弟を失った恨み、思いは人それぞれだが、その激しい憎しみが力となって襲い掛かった!
敵を刺し殺す。
殺して、殺して、殺しまくった。
「カロリナ様はよろしいのですか?」
「こんな下らない連中に大切な村人が殺されたと思うと興が醒めたわ」
「確かに、血肉が湧き踊るほどの強敵であれば、失われた命も仕方ないと思えますな!」
「ルドヴィク、それはお前だけだ」
「何を言う。高度な知略戦を好むのはお前もそうだろう。俺は武術で、お前は智略だ。本質は変わらん」
「それでは困るのよ。私のやり場のない怒りはどうなるのでしょう」
「どうにもなりません」
「ラファウ、命令です。考えなさい」
カロリナはいつもラファウに難し過ぎる課題を与える。
◇◇◇
敵に逃げた。
予定と少し違ったが、ラファウの思惑通りである。
逃げた兵が軍団に恐怖を伝えてくれる。
策ははじまったばかりだ。
玉ねぎの皮を剥ぐように恐怖を植え付けてゆく。
そして、恐怖の種を持った者を本陣に逃がし、本陣の恐怖を誘う。
恐怖は正常な判断を鈍らせる。
少数のカロリナ達ができる領都軍への援護攻撃だ。
ラファウは随分と回り諄い作戦を考えていた。
「カロリナ様、この者達をどういたしましょう」
殺すだけ殺すと気が済んだのか、降伏した者をロープに縛って一箇所に集めていた。
皆、奴隷兵だ。
奴隷兵の証言から、降伏した仕官や兵は殴り殺されていた。
そりゃ、仕官や兵が最後に生き残っていた女や子供をおもちゃにして殺したと聞けば殺されもする!
さて、残った13人をどうするか?
「村長、復興にこの奴隷を使いますか?」
村長は首を横に振った。
信用のできない者を奴隷として置きたくないのだろう。
奴隷魔術も完璧でない。
奴隷商人に売る手もあるが、戦いの後は売られる奴隷は値段より食事代の方が高くつくこともある。
おっさんはいらないな。
見た目が麗しい美少年なら、自分の奴隷にしてもよかったのに!
「カロリナ様、声に出ています」
感情が高ぶっているのか、思った事を声に出していたようだった。
ニナ達も奴隷はいらないだろう。
カロリナは困った!
「そうですわ! 神に祈りましょう」
カロリナが何を言っているのか判らない。
中央広場に捕まった奴隷兵を集め、その周りに村の遺体を円状に並べてゆく。
おおよそ300人の遺体が並び、その中央に捕虜が置かれた。
「この村の者が天に召されるように祈りを奉げます。供物として、この奴隷達を添えました」
「待ってくれ! 殺さないでくれ!」
「貴方が訴えるべきは、この遺体の方々です。神が許せば、私も許しましょう」
漁村民はカロリナが何を言っているのか判らなかった。
『ホーリー・フレア』
広範囲に光の魔法が放たれた。
冒険者ならゾンビや零体を燃やし滅ぼす魔法と知っている。
教会では死んだ者の魂を天界に運ぶ儀式とされる。
牧師の祈りで遺体は白い灰になってゆく。
聖なる光はその魂を迷わずに天界に旅立たせる。
その火は骨すら焼き尽くす神の炎だ。
「止めてくれ…………何だ! 熱くないぞ?」
「聖火は熱くありません。生身の人間に掛けても焼け死ぬことはないのです」
捕虜達がほっと息を付いた。
漁村民はさらに意味が判らなくなった。
ここで冒険者達は気が付いた。
ゾンビを燃やすと、その炎で冒険者が焼け死ぬ事もあったのだ。
牧師が言うのは、聖火はゾンビの穢れた魂魄を焼いている間に出る残り火だそうだ。
この残り火は生身の人間を焼く。
狭いダンジョンでは逃げ場を失って、ゾンビに囲まれて焼死してしまう事があるのだ。
墓など、広い場所なら問題がないが、狭い場所では注意がいる。
捕虜達は遺体の中心に置かれて、捕虜と遺体にはそれなりの距離がある。
焼死するかどうか微妙だった。
なるほど、それを決めるのが神という訳か!
冒険者達は納得した。
そう思っていた?
炎が生き物のように炎柱となって立ち上がる。
蛇のように空中を蛇行してから捕虜達を包み込んで燃やし始めた。
まるで意志を持ったように!
亡くなった怨念が復讐を果たしているように思えた。
『カロリナ様は去りゆく魂の怨念も払って下された』
漁村民達は涙を流して眺めていた。
13人も神に召された。
あははは、カロリナは苦笑いをする。
思惑と違ったが結果オーライだ。
「あの者達も恨みを果たせて幸せでしたでしょう」
そう言って漁村民が一度帰っていった。
壊された村に200人が寝る場所も食糧もないからだ。
カロリナ達だけ村に残った。
すぐにアザが護衛をしてオルガ達が食事をやってくると、皆と楽しい食事だ。
すぐに世が更けていった。
カロリナは屋根が焼けてなくなった家を借りで眠ることにした。
「アザさん、まだ寝るつもりですか?」
「まだ、まだ寝足りないわ」
「いいわ、一緒に寝ましょう」
「カロリナもいいって言っている事だし!」
「はい、はい」
アザがカロリナの横に転がった。
ニナも反対の場所は自分の場所とばかり横を占領した。
三人は仲良く、川の字だ。
カロリナは余り語る事もなく、すぐに眠りについた。
久しぶりの眠りだった。
空に掛かった煙が晴れて、夜空に明るい星が輝いていた。
頭に血が上った敵が襲い掛かった。
そんなに単純でいいの?
余りにもラファウの予想通りにニナは敵の事が心配になった。
ニナとジクは戦いがはじまる前に斜め前に前進して、敵から見て側面に移動していた。
ニナは弓を取り出して静かに『双弓』と呟き、スキルを発動する。
魔力が弓に這って弓の質を上げると、ニナも戦闘開始だ。
ニナは背の低さをカバーする為に岩の上に乗り上げている。
そこから敵の指揮官と思われる100人隊長を狙った。
『流星矢』
矢スキルが発動して、光に加護が纏った100発100中のロングショットを放れる。
ズバ、ズバ、ズバ!
矢は弧を描くこともなく、レザービームのように一直線に敵を射抜いてゆく。
「小賢しい小娘に兵を向けよ」
なぜか隊長が倒されて士気は落ちない。
殺された隊長の代わりに次の者が叫んだ。
そんな事はどうでもいい。
それならば、その次の指揮者を射抜くだけだ。
ニナの方にも敵兵が押し寄せてくる。
ズドドド~!
カロリナを襲っていた敵兵の前面から爆音が鳴り響いた。
爆発の魔法が炸裂した。
それによって敵の兵の足が止まった。
「あいつら馬鹿なのか?」
「ほとんど、矢を撃っていませんね」
「最近の盗賊でも、もう少し頭を使うぞ」
「あははは、ですね」
乱戦になるまで、矢で援護射撃するのは常識だ。
でも、敵から矢が一本も放たれていない。
カロリナが敵の足を止めたので空中戦は一方的な展開になって来ている。
敵の弓士は何をやっているのかしら?
ニナが疑問に思うのも当然であった。
実は敵の弓士は矢を前に飛ばす程度の腕前でしかない。
味方を避けて撃つことができないのだ。
ニナが首を捻っている間に敵が近づいてくる。
「ジク、私は移動します」
「判った」
ニナの仕事は遊撃であり、敵の意識を分散する事にある。
弧を描いて敵の周辺を回ってゆく。
そのニナに兵が迫ってきた。
刹那!
ニナを襲った兵にその影から飛び出したジクが体当たりを決めた。
「ニナに近づけると思うな!」
左腕に装備した盾を前に突き出して体ごと敵にぶつかってゆく。
『シールド・バッシュ』
盾士や盾持ちの戦士が割と簡単に手に入れることができるスキルだ。
レンジャーが手に入れるのは珍しい。
ジクの『シールド・バッシュ』はイージスの盾という特殊レアな神具から得た。
タイミングと気力で発動する普通の『シールド・バッシュ』ではなく、魔力と気力を消費する。
ステータスには、『シールド・バッシュ(神)』と記入されているが、本人も知らない。
巨大な魔獣ベビモスの突進すら受け止められる特殊スキルだった。
シールド・バッシュが決まった瞬間、ニナの頭に『???』(クエスチョンマーク)が浮かんだ。
ぐわぁぁぁ、盾の衝撃を受けた兵が周りを撒き込んで本隊まで飛ばされた。
人間大砲だよ!?
ジクの動きは止まらずにその横の敵に狙いを定める。
『シールド・バッシュ、シールド・バッシュ、シールド・バッシュ』
人間大砲が四発も本隊に撃ち込まれてしまった。
敵の本隊に大被害を出した。
味方も敵も何が起こっているのか、よく判らない。
「ねぇ、ジク」
「何だ!」
「ラファウさんが怒っているみたい」
「え~~~!? 俺、悪いことしたか?」
「カロリナ様も怖い顔で睨んでいる」
「止めてくれ! 昨日からカロリナ様がぴりぴりして怖いんだぞ!」
「だよね! 私も声を掛け辛かった」
よく判らないが、何か拙い事をしたらしい。
それだけは判った。
叱られる!
ジクとニナはもう敵の事はどうでもよくなった。
◇◇◇
人間という生き物は理解できるモノを怖がらないが、理解できないモノに恐怖を覚える。
兵達が足止めを食らっている所に人間を飛ばして本隊を攻撃する化け物が現れた。
あそこで戯れているのは、妖精か? 悪魔か?
幼そう少女は妖精に見え、護衛の小さな護衛はドワーフにも見える。
だが、普通の妖精にそんな力はない。
ならば、小悪魔か?
敵の指揮官(ラファウ)が小悪魔を怒鳴っている。
その光景が異様に映った。
誰か言った!
あれは伝説の魔王の娘に違いない。
プー王国の伝承にある魔人だ。
気まぐれに現れて町1つを破壊した悪魔だ。
魔王の娘には従者と家臣がいたと言う。
あの小汚い子供が従者で、炎使いが家臣に違いない。
見かけは小さいが悪魔だ。
アール王国の連中は悪魔を召喚した。
プー王国の最強の四騎士団が戦って相打ちになって倒した怪物を、最下層の灰色騎士団の一部隊で勝てる訳がない。
「化け物だ」
「嫌だ! 俺はまだ死にたくないぞ!」
「勝手に動くな! 死罪にするぞ!」
100人隊長の声など聞こえていない。
欲望と恐怖に縛られた兵など崩れはじめると脆かった。
次々と兵士達が戦意を喪失して逃げ出した。
ジクの人間大砲は大隊の首脳部を崩壊させていた。
死んでいないけど!?
ボーリングでいうピンがすべて倒れた『ストライク』状態である。
この大隊でもっと強い者が倒された。
小隊(ケントゥリア)の100人隊長が逃げ出す奴隷兵を抑えようとするが、部下の仕官も浮き足立って機能しない。
ラファウの思惑と違ったが、敵兵に恐怖を植え付けることに成功したようであった。
一方的に戦いを進め、時間を掛けて敵兵に恐怖を植え付ける。
そのハズだった。
予定外であったが、敵が崩れてしまった。
ルドヴィクの大きな声で叫ぶ。
「蹂躙せよ!」
レフ達と漁村民が飛び出した。
勝利の美酒は人を凶暴化する。
従順で素朴な漁民達が猟人のように目をギラつかせて追い駆ける。
開発を携わった者の中には漁民村から移住した者もいた。
この土地のルールを教え、道具や家を建築する大工などは漁民村から派遣された。
こうして、やっと村ができたのだ。
隣人を失った恨み、兄弟を失った恨み、思いは人それぞれだが、その激しい憎しみが力となって襲い掛かった!
敵を刺し殺す。
殺して、殺して、殺しまくった。
「カロリナ様はよろしいのですか?」
「こんな下らない連中に大切な村人が殺されたと思うと興が醒めたわ」
「確かに、血肉が湧き踊るほどの強敵であれば、失われた命も仕方ないと思えますな!」
「ルドヴィク、それはお前だけだ」
「何を言う。高度な知略戦を好むのはお前もそうだろう。俺は武術で、お前は智略だ。本質は変わらん」
「それでは困るのよ。私のやり場のない怒りはどうなるのでしょう」
「どうにもなりません」
「ラファウ、命令です。考えなさい」
カロリナはいつもラファウに難し過ぎる課題を与える。
◇◇◇
敵に逃げた。
予定と少し違ったが、ラファウの思惑通りである。
逃げた兵が軍団に恐怖を伝えてくれる。
策ははじまったばかりだ。
玉ねぎの皮を剥ぐように恐怖を植え付けてゆく。
そして、恐怖の種を持った者を本陣に逃がし、本陣の恐怖を誘う。
恐怖は正常な判断を鈍らせる。
少数のカロリナ達ができる領都軍への援護攻撃だ。
ラファウは随分と回り諄い作戦を考えていた。
「カロリナ様、この者達をどういたしましょう」
殺すだけ殺すと気が済んだのか、降伏した者をロープに縛って一箇所に集めていた。
皆、奴隷兵だ。
奴隷兵の証言から、降伏した仕官や兵は殴り殺されていた。
そりゃ、仕官や兵が最後に生き残っていた女や子供をおもちゃにして殺したと聞けば殺されもする!
さて、残った13人をどうするか?
「村長、復興にこの奴隷を使いますか?」
村長は首を横に振った。
信用のできない者を奴隷として置きたくないのだろう。
奴隷魔術も完璧でない。
奴隷商人に売る手もあるが、戦いの後は売られる奴隷は値段より食事代の方が高くつくこともある。
おっさんはいらないな。
見た目が麗しい美少年なら、自分の奴隷にしてもよかったのに!
「カロリナ様、声に出ています」
感情が高ぶっているのか、思った事を声に出していたようだった。
ニナ達も奴隷はいらないだろう。
カロリナは困った!
「そうですわ! 神に祈りましょう」
カロリナが何を言っているのか判らない。
中央広場に捕まった奴隷兵を集め、その周りに村の遺体を円状に並べてゆく。
おおよそ300人の遺体が並び、その中央に捕虜が置かれた。
「この村の者が天に召されるように祈りを奉げます。供物として、この奴隷達を添えました」
「待ってくれ! 殺さないでくれ!」
「貴方が訴えるべきは、この遺体の方々です。神が許せば、私も許しましょう」
漁村民はカロリナが何を言っているのか判らなかった。
『ホーリー・フレア』
広範囲に光の魔法が放たれた。
冒険者ならゾンビや零体を燃やし滅ぼす魔法と知っている。
教会では死んだ者の魂を天界に運ぶ儀式とされる。
牧師の祈りで遺体は白い灰になってゆく。
聖なる光はその魂を迷わずに天界に旅立たせる。
その火は骨すら焼き尽くす神の炎だ。
「止めてくれ…………何だ! 熱くないぞ?」
「聖火は熱くありません。生身の人間に掛けても焼け死ぬことはないのです」
捕虜達がほっと息を付いた。
漁村民はさらに意味が判らなくなった。
ここで冒険者達は気が付いた。
ゾンビを燃やすと、その炎で冒険者が焼け死ぬ事もあったのだ。
牧師が言うのは、聖火はゾンビの穢れた魂魄を焼いている間に出る残り火だそうだ。
この残り火は生身の人間を焼く。
狭いダンジョンでは逃げ場を失って、ゾンビに囲まれて焼死してしまう事があるのだ。
墓など、広い場所なら問題がないが、狭い場所では注意がいる。
捕虜達は遺体の中心に置かれて、捕虜と遺体にはそれなりの距離がある。
焼死するかどうか微妙だった。
なるほど、それを決めるのが神という訳か!
冒険者達は納得した。
そう思っていた?
炎が生き物のように炎柱となって立ち上がる。
蛇のように空中を蛇行してから捕虜達を包み込んで燃やし始めた。
まるで意志を持ったように!
亡くなった怨念が復讐を果たしているように思えた。
『カロリナ様は去りゆく魂の怨念も払って下された』
漁村民達は涙を流して眺めていた。
13人も神に召された。
あははは、カロリナは苦笑いをする。
思惑と違ったが結果オーライだ。
「あの者達も恨みを果たせて幸せでしたでしょう」
そう言って漁村民が一度帰っていった。
壊された村に200人が寝る場所も食糧もないからだ。
カロリナ達だけ村に残った。
すぐにアザが護衛をしてオルガ達が食事をやってくると、皆と楽しい食事だ。
すぐに世が更けていった。
カロリナは屋根が焼けてなくなった家を借りで眠ることにした。
「アザさん、まだ寝るつもりですか?」
「まだ、まだ寝足りないわ」
「いいわ、一緒に寝ましょう」
「カロリナもいいって言っている事だし!」
「はい、はい」
アザがカロリナの横に転がった。
ニナも反対の場所は自分の場所とばかり横を占領した。
三人は仲良く、川の字だ。
カロリナは余り語る事もなく、すぐに眠りについた。
久しぶりの眠りだった。
空に掛かった煙が晴れて、夜空に明るい星が輝いていた。
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