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閑話. プー王国(1)ギャラルホルンが鳴り響いた。
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プー王国は正式名称を『神聖プロイス クィ騎士王国』と言う。
元々、騎士の剣であるクィテス(プース)からクィテス王国を名乗ったが、第2代国王が女帝であった為に、男性系の『テス』を省き、クィ(プー)王国と変名した。
当代の国王はアルベルト・フォン・ブクス国王であり、未曽有の国難の責任を取って退位が決まっていた。
国王を支えてきた三騎士皇、金の騎士団皇ワルポット・ファン・バッセンハイム公爵と白の騎士団皇オットー・フォン・ケルペン公爵は同世代であり、共に引くと噂されている。
次期国王は黒の騎士団皇ハインリヒ・ファン・バルト公爵が有力であった。
今年の不作が確実になり、酷い食糧不足になりそうだった。
兵站部より、兵3万と家畜奴隷10万の処分が必要とされ、冬を越えられない3万人の子供が餓死するであろうと報告があがり、国王が落胆したという。
この責任を取って国王は退位?
ハインリヒが次期国王となる。
武功を上げて国王になる訳でない。
騎士達からどれほどの支持を得られるだろうか?
ハインリヒは悩んだ。
金の騎士団皇ワルポット公爵と白の騎士団皇オットー公爵が居残り、その発言権が増す。
神輿に乗せられて老騎士の思うままに国政を司られる。
黒の騎士団皇の後釜に自らの派閥である赤(薔薇)の騎士団帝 ヘルマン・フォン・ザルツァ侯爵(第5騎士団)を入れたいが余り色よい返事が貰えなかった。
「順列から言えば、青の騎士団帝ホーエン・ファン・ローエ侯爵(第4騎士団)が順当であろう」
「如何にも、如何にも」
「それではお二人も勇退されて、青の騎士団帝ホーエン・ファン・ローエ侯爵(第4騎士団長)、赤(薔薇)の騎士団帝ヘルマン・フォン・ザルツァ侯爵(第5騎士団長)、黄の騎士団帝ゲルハルト・フォン・マール侯爵(第6騎士団長)を三騎士皇(公爵)に上げては如何でしょうか!」
「ハインリヒ殿はまだお若い。我らの助力が必要であろう」
居残るつもりらしい。
そうなると国を建て直し、次の戦で手柄を立てたホーエンに玉座を譲るという未来が見えてくる。
真の国王が出てくるまでの繋ぎ国王にされる。
そんな事は断じてさせん。
サロンで緑の騎士団帝コンラト・フォン・テュリ侯爵(第7騎士団)が囁いた。
「同じ処分をするならば、戦って名誉の戦死にするのはどうでしょうか?」
「6万の兵を失っては責任を取らされるだろう」
「ペニンスラ半島を奪えれば、そのくらいの被害は些細な事ではございませんか」
「そんなことが可能なのか?」
「私に策がございます。最悪でもペニンスラ半島の食糧を奪い、6万人分の食糧が手に入ると試算されております」
「誠か!」
緑の騎士コンラトは東を担当しており、アール王国の情勢に詳しかった。
行商や冒険者装って、アール王国の同盟国のフリをさせて間者を送っている。
そこから集まってきた情報が提示された。
アール王国の新産業となった蒸留酒には大量の穀物を必要としており、作物が一切取れなくとも、アール王国の民は飢えることがない。
また、穀物を輸入しているので消費国と思えば、いつの間にか生産国に変わっていた。
北方港町の倉庫には、蒸留酒用の穀物が備蓄されている。
そこだけで3万人が1年間も食うことができるほどの穀物量があると言う。
「半島を奪えるか、奪えないかは時に運でございますが、敵のハコネ砦を奪取できれば、十分な戦果だと思われます。それに加えて食糧を奪取できれば、文句もございますまい。さらにプロイス王国も王の退位問題もあり、西から討って出る可能性がございません」
「どこの国も同じと言うことか!」
「アール王国の南は大豊作とか」
「まさか!?」
「間者の報告をどこまで信じて良いのかは判りませんが、アール王国を奪えば、プロイス王国に対して、絶対的に優位に立てると確信しております」
「プロイス王国がお家騒動をしている間にアール王国を狙うのだな!」
「はい、その通りでございます。今回はハインリヒ様が王になる為の戦いです。アール王国に一泡吹かせましょう」
「ふふふ、城を襲う振りをして村を襲うのか、中々の悪党ぶりだな!」
「敵のハコネ砦を奪わないのはプロイス王国との両面作戦を避ける為と知りません。本気になれば、いつでも奪えます」
ハコネ山地を超えられると平原が広がる。
大軍に有利な地形だ。
砦を失えば、アール王国も本気で再奪取に来ると思われた。
プロイス王国と争っているプー王国は、アール王国に多くの兵を割きたくないという思惑から東への侵攻を中断し、小競り合いに徹していたのだ。
この30年前、ハコネ山地の砦をすべて奪取したプー王国は侵攻を止めた。
敢えて、出口の砦を残した。
その事実をアール王国は知らない。
プロイス王国との戦いを終わらせた後、全軍でアール王国を侵略する。
これが基本戦略であった。
これを廃し、アール王国を奪ってからプロイス王国を滅ぼしに兵を進める。
戦略の大転換だ。
ハインリヒはこの提案を悪くないと思った。
なぜなら、国王アルベルトも金の騎士団皇ワルポット公爵と白の騎士団皇オットー公爵が好き勝手に国政をする事を避けたかったからだ。
王位を譲渡した後、在らぬ嫌疑を掛けられて資産を奪われるなど在ってならぬ。
在ってはならぬが、あり得るのだ。
故に、武勲を立てたハインリヒに王位を譲り、その部下を騎士皇(公爵)に引き上げて、ワルポット公爵とオットー公爵も一緒に勇退させる。
ハインリヒ王に国威が集まれば、彼に王位を譲った国王アルベルトも安泰であった。
6月1日、密かに国威が発動された。
プロイス王国側に配置した騎士団を西に再配置が始まったのだ。
◇◇◇
7月1日、御前会議で国王アルベルト・フォン・ブクスがアール王国への侵攻を宣言する。
金の騎士団皇ワルポット公爵と白の騎士団皇オットー公爵が慌てた。
「陛下、我々は何も聞かされておりませんぞ!」
「世が決断した。無用の兵を処罰するのは世の願う事ではない。名誉ある戦死を! あるいは、生への渇望! 自らの手で道を開くも良し。戦いこそ、我が王国の本分である」
「我らが聞いていないと言っているのです」
「この度の奇襲を成功させる為だ。許せ! 敵に悟られる訳にはいかない。敵を欺くには、まず味方からという。処分されると、青い顔をして兵達には悪いが、騙させて貰った」
「陛下、責めて我々に!」
「諄い。下がれ!」
「畏まりました」
「黒の騎士団皇ハインリヒ・ファン・バルト公爵、そちに総大将を命ずる」
「拝命致します」
ハインリヒは笑みを零した。
同日、アール王国討伐軍の本部で東軍の大将になった緑の騎士団帝コンラト・フォン・テュリ侯爵(第7騎士団)が作戦を発表した。
承知しているのは、赤(薔薇)の騎士団帝ヘルマン・フォン・ザルツァ侯爵とその腹心達だけであった。
「本作戦の本分は略奪にあります。ペニンスラ半島の備蓄される食糧を奪い取り、我が王国の食糧難を打開する事にあります。ゆえに、最大の武功となる略奪軍の大将は青の騎士団帝ホーエン・ファン・ローエ侯爵(第4騎士団)にやって頂きます」
一同が騒然となった。
他の首脳陣は3万人の兵と10万人の家畜奴隷の処分と考えていた。
処分と言っても一方的に殺される訳ではない。
奴隷兵は市民兵と戦う。
勝てば、奴隷から解放されて市民兵となれる。
市民兵はさらに上級兵と戦う。
その上級兵と戦って生き残らなければならない。
時間切れまで生きていれば、晴れて市民兵になれる。
逆に勝つと、上級兵に昇進できる。
褒美に家畜奴隷を殺してレベル上げも許される。
同じレベルなら魔物を倒すより人を殺した方がレベルは上がった。
家畜奴隷達を殺せるのは生き残った褒美だ。
もちろん、家畜奴隷も上級兵を倒せば、奴隷市民のなる事ができる。
最下層から上級兵まで、生き残りを賭けたバトルロワイヤルだ。
毎年行われている1,000人から2,000人の小さなイベントではなく、16万人が殺し合う大イベントと知らされていた。
当然、16万人が反乱を起こして大丈夫なように最高の騎士団も待機している。
ハコネ山地の麓に大勢力が集まっていても、大侵攻がはじまるなんて誰も思っていなかった。
黒の騎士団皇ハインリヒ・ファン・バルト公爵の命令書を見せられて、各騎士団長が慌てた。
コンラトは地図上に駒を動かして、東軍の駒を領都西砦と港町城砦の周りに置いた。
「我が東軍師団が囮役となります」
「承知した。ラーコーツィ領軍の足止めを頼む!」
「予定通り、兵站部隊として家畜奴隷10万人をお預けします」
「奪った食糧を本国に運ぶ部隊を兵站部隊と言ってよいものか?」
「ははは、まったくです」
兵に持たす食糧は10日分のみであり、今回の作戦で補給部隊は存在しない。
食糧は現地調達だった。
ゆえに、後方から前線に食糧を運ぶ兵站部隊と呼べるものは存在しない。
逆に奪った食糧を本国に運ぶ。
略奪部隊と呼ぶべきだと冗談を言う。
「俺だけ昇進するのは気が引ける。貴公にもウェストゥ川の西岸をすべて落として貰いたい」
「もちろんですとも。その為の細工はしております」
「ほぉ、どんな策だ」
緑の騎士コンラトも正面からラーコーツィ領軍と戦うつもりはない。
最下層の灰騎士団第62騎士団ヴォルフガングに3,000m級のデラモウス山脈を越えて、ウェストゥ川を渡河させる。
ラーコーツィ領内をかき乱す作戦を取った。
陽動部隊だ。
「すでに八日前に出発させております。山越えが成功した時点で鳩を飛ばします。明日か、明後日には知らせがくるでしょう。その時点を持って作戦を開始いたします」
渡河した第62騎士団ヴォルフガング(4,800人)は後背の町を襲い、ラーコーツィ領軍を誘き出す。
領軍が戻ってくる前に領都西砦と港町城砦を落としたいと考えていた。
「コンラトの言いたい事は判った。しかし、敵の領軍が引き返して、砦の救援に向かった場合はどうする?」
「どうも致しません。町を襲い続け、後続の兵力を減らせさせるだけです。ヴォルフガングにそう命じておきました」
「なるほど、領都西砦から討って出られないようになるのか!」
アール王国の戦術は研究されていた。
領都西砦から領都軍が出撃するには、領内の兵を領都に集める必要がある。
領内で陽動部隊が暴れている状況では兵を集められない。
「敵の王都騎士団が到着するまでに略奪を終えておけば、問題ございません」
「騎士団が来るのは?」
「早くて7日後、遅ければ10日後ですか」
「十分だ」
陽動部隊には1ヶ月は粘るように申し付けてあった。
勝つ必要はない。
負けない事が大事であり、町を攻め、村を焼き、敵を殺すだけ殺す。
帰ってくれば、一階層特進を約束しておいた。
最下層の灰騎士団から銀朱騎士団に昇進できる大チャンスだ。
奴隷兵も生き残るだけで市民権が手に入る。
市民権が手に入れば、殺される側から殺す側に変わる。
これはチャンスだった。
バトルロワイヤルで殺されるより、遥かにマシな提案であった。
第62騎士団ヴォルフガング(4,800人)は山脈を登って行った。
7月3日、デラモウス山脈を越えたと鳩が戻ってきた。
ギャラルホルンが鳴り響いた。
元々、騎士の剣であるクィテス(プース)からクィテス王国を名乗ったが、第2代国王が女帝であった為に、男性系の『テス』を省き、クィ(プー)王国と変名した。
当代の国王はアルベルト・フォン・ブクス国王であり、未曽有の国難の責任を取って退位が決まっていた。
国王を支えてきた三騎士皇、金の騎士団皇ワルポット・ファン・バッセンハイム公爵と白の騎士団皇オットー・フォン・ケルペン公爵は同世代であり、共に引くと噂されている。
次期国王は黒の騎士団皇ハインリヒ・ファン・バルト公爵が有力であった。
今年の不作が確実になり、酷い食糧不足になりそうだった。
兵站部より、兵3万と家畜奴隷10万の処分が必要とされ、冬を越えられない3万人の子供が餓死するであろうと報告があがり、国王が落胆したという。
この責任を取って国王は退位?
ハインリヒが次期国王となる。
武功を上げて国王になる訳でない。
騎士達からどれほどの支持を得られるだろうか?
ハインリヒは悩んだ。
金の騎士団皇ワルポット公爵と白の騎士団皇オットー公爵が居残り、その発言権が増す。
神輿に乗せられて老騎士の思うままに国政を司られる。
黒の騎士団皇の後釜に自らの派閥である赤(薔薇)の騎士団帝 ヘルマン・フォン・ザルツァ侯爵(第5騎士団)を入れたいが余り色よい返事が貰えなかった。
「順列から言えば、青の騎士団帝ホーエン・ファン・ローエ侯爵(第4騎士団)が順当であろう」
「如何にも、如何にも」
「それではお二人も勇退されて、青の騎士団帝ホーエン・ファン・ローエ侯爵(第4騎士団長)、赤(薔薇)の騎士団帝ヘルマン・フォン・ザルツァ侯爵(第5騎士団長)、黄の騎士団帝ゲルハルト・フォン・マール侯爵(第6騎士団長)を三騎士皇(公爵)に上げては如何でしょうか!」
「ハインリヒ殿はまだお若い。我らの助力が必要であろう」
居残るつもりらしい。
そうなると国を建て直し、次の戦で手柄を立てたホーエンに玉座を譲るという未来が見えてくる。
真の国王が出てくるまでの繋ぎ国王にされる。
そんな事は断じてさせん。
サロンで緑の騎士団帝コンラト・フォン・テュリ侯爵(第7騎士団)が囁いた。
「同じ処分をするならば、戦って名誉の戦死にするのはどうでしょうか?」
「6万の兵を失っては責任を取らされるだろう」
「ペニンスラ半島を奪えれば、そのくらいの被害は些細な事ではございませんか」
「そんなことが可能なのか?」
「私に策がございます。最悪でもペニンスラ半島の食糧を奪い、6万人分の食糧が手に入ると試算されております」
「誠か!」
緑の騎士コンラトは東を担当しており、アール王国の情勢に詳しかった。
行商や冒険者装って、アール王国の同盟国のフリをさせて間者を送っている。
そこから集まってきた情報が提示された。
アール王国の新産業となった蒸留酒には大量の穀物を必要としており、作物が一切取れなくとも、アール王国の民は飢えることがない。
また、穀物を輸入しているので消費国と思えば、いつの間にか生産国に変わっていた。
北方港町の倉庫には、蒸留酒用の穀物が備蓄されている。
そこだけで3万人が1年間も食うことができるほどの穀物量があると言う。
「半島を奪えるか、奪えないかは時に運でございますが、敵のハコネ砦を奪取できれば、十分な戦果だと思われます。それに加えて食糧を奪取できれば、文句もございますまい。さらにプロイス王国も王の退位問題もあり、西から討って出る可能性がございません」
「どこの国も同じと言うことか!」
「アール王国の南は大豊作とか」
「まさか!?」
「間者の報告をどこまで信じて良いのかは判りませんが、アール王国を奪えば、プロイス王国に対して、絶対的に優位に立てると確信しております」
「プロイス王国がお家騒動をしている間にアール王国を狙うのだな!」
「はい、その通りでございます。今回はハインリヒ様が王になる為の戦いです。アール王国に一泡吹かせましょう」
「ふふふ、城を襲う振りをして村を襲うのか、中々の悪党ぶりだな!」
「敵のハコネ砦を奪わないのはプロイス王国との両面作戦を避ける為と知りません。本気になれば、いつでも奪えます」
ハコネ山地を超えられると平原が広がる。
大軍に有利な地形だ。
砦を失えば、アール王国も本気で再奪取に来ると思われた。
プロイス王国と争っているプー王国は、アール王国に多くの兵を割きたくないという思惑から東への侵攻を中断し、小競り合いに徹していたのだ。
この30年前、ハコネ山地の砦をすべて奪取したプー王国は侵攻を止めた。
敢えて、出口の砦を残した。
その事実をアール王国は知らない。
プロイス王国との戦いを終わらせた後、全軍でアール王国を侵略する。
これが基本戦略であった。
これを廃し、アール王国を奪ってからプロイス王国を滅ぼしに兵を進める。
戦略の大転換だ。
ハインリヒはこの提案を悪くないと思った。
なぜなら、国王アルベルトも金の騎士団皇ワルポット公爵と白の騎士団皇オットー公爵が好き勝手に国政をする事を避けたかったからだ。
王位を譲渡した後、在らぬ嫌疑を掛けられて資産を奪われるなど在ってならぬ。
在ってはならぬが、あり得るのだ。
故に、武勲を立てたハインリヒに王位を譲り、その部下を騎士皇(公爵)に引き上げて、ワルポット公爵とオットー公爵も一緒に勇退させる。
ハインリヒ王に国威が集まれば、彼に王位を譲った国王アルベルトも安泰であった。
6月1日、密かに国威が発動された。
プロイス王国側に配置した騎士団を西に再配置が始まったのだ。
◇◇◇
7月1日、御前会議で国王アルベルト・フォン・ブクスがアール王国への侵攻を宣言する。
金の騎士団皇ワルポット公爵と白の騎士団皇オットー公爵が慌てた。
「陛下、我々は何も聞かされておりませんぞ!」
「世が決断した。無用の兵を処罰するのは世の願う事ではない。名誉ある戦死を! あるいは、生への渇望! 自らの手で道を開くも良し。戦いこそ、我が王国の本分である」
「我らが聞いていないと言っているのです」
「この度の奇襲を成功させる為だ。許せ! 敵に悟られる訳にはいかない。敵を欺くには、まず味方からという。処分されると、青い顔をして兵達には悪いが、騙させて貰った」
「陛下、責めて我々に!」
「諄い。下がれ!」
「畏まりました」
「黒の騎士団皇ハインリヒ・ファン・バルト公爵、そちに総大将を命ずる」
「拝命致します」
ハインリヒは笑みを零した。
同日、アール王国討伐軍の本部で東軍の大将になった緑の騎士団帝コンラト・フォン・テュリ侯爵(第7騎士団)が作戦を発表した。
承知しているのは、赤(薔薇)の騎士団帝ヘルマン・フォン・ザルツァ侯爵とその腹心達だけであった。
「本作戦の本分は略奪にあります。ペニンスラ半島の備蓄される食糧を奪い取り、我が王国の食糧難を打開する事にあります。ゆえに、最大の武功となる略奪軍の大将は青の騎士団帝ホーエン・ファン・ローエ侯爵(第4騎士団)にやって頂きます」
一同が騒然となった。
他の首脳陣は3万人の兵と10万人の家畜奴隷の処分と考えていた。
処分と言っても一方的に殺される訳ではない。
奴隷兵は市民兵と戦う。
勝てば、奴隷から解放されて市民兵となれる。
市民兵はさらに上級兵と戦う。
その上級兵と戦って生き残らなければならない。
時間切れまで生きていれば、晴れて市民兵になれる。
逆に勝つと、上級兵に昇進できる。
褒美に家畜奴隷を殺してレベル上げも許される。
同じレベルなら魔物を倒すより人を殺した方がレベルは上がった。
家畜奴隷達を殺せるのは生き残った褒美だ。
もちろん、家畜奴隷も上級兵を倒せば、奴隷市民のなる事ができる。
最下層から上級兵まで、生き残りを賭けたバトルロワイヤルだ。
毎年行われている1,000人から2,000人の小さなイベントではなく、16万人が殺し合う大イベントと知らされていた。
当然、16万人が反乱を起こして大丈夫なように最高の騎士団も待機している。
ハコネ山地の麓に大勢力が集まっていても、大侵攻がはじまるなんて誰も思っていなかった。
黒の騎士団皇ハインリヒ・ファン・バルト公爵の命令書を見せられて、各騎士団長が慌てた。
コンラトは地図上に駒を動かして、東軍の駒を領都西砦と港町城砦の周りに置いた。
「我が東軍師団が囮役となります」
「承知した。ラーコーツィ領軍の足止めを頼む!」
「予定通り、兵站部隊として家畜奴隷10万人をお預けします」
「奪った食糧を本国に運ぶ部隊を兵站部隊と言ってよいものか?」
「ははは、まったくです」
兵に持たす食糧は10日分のみであり、今回の作戦で補給部隊は存在しない。
食糧は現地調達だった。
ゆえに、後方から前線に食糧を運ぶ兵站部隊と呼べるものは存在しない。
逆に奪った食糧を本国に運ぶ。
略奪部隊と呼ぶべきだと冗談を言う。
「俺だけ昇進するのは気が引ける。貴公にもウェストゥ川の西岸をすべて落として貰いたい」
「もちろんですとも。その為の細工はしております」
「ほぉ、どんな策だ」
緑の騎士コンラトも正面からラーコーツィ領軍と戦うつもりはない。
最下層の灰騎士団第62騎士団ヴォルフガングに3,000m級のデラモウス山脈を越えて、ウェストゥ川を渡河させる。
ラーコーツィ領内をかき乱す作戦を取った。
陽動部隊だ。
「すでに八日前に出発させております。山越えが成功した時点で鳩を飛ばします。明日か、明後日には知らせがくるでしょう。その時点を持って作戦を開始いたします」
渡河した第62騎士団ヴォルフガング(4,800人)は後背の町を襲い、ラーコーツィ領軍を誘き出す。
領軍が戻ってくる前に領都西砦と港町城砦を落としたいと考えていた。
「コンラトの言いたい事は判った。しかし、敵の領軍が引き返して、砦の救援に向かった場合はどうする?」
「どうも致しません。町を襲い続け、後続の兵力を減らせさせるだけです。ヴォルフガングにそう命じておきました」
「なるほど、領都西砦から討って出られないようになるのか!」
アール王国の戦術は研究されていた。
領都西砦から領都軍が出撃するには、領内の兵を領都に集める必要がある。
領内で陽動部隊が暴れている状況では兵を集められない。
「敵の王都騎士団が到着するまでに略奪を終えておけば、問題ございません」
「騎士団が来るのは?」
「早くて7日後、遅ければ10日後ですか」
「十分だ」
陽動部隊には1ヶ月は粘るように申し付けてあった。
勝つ必要はない。
負けない事が大事であり、町を攻め、村を焼き、敵を殺すだけ殺す。
帰ってくれば、一階層特進を約束しておいた。
最下層の灰騎士団から銀朱騎士団に昇進できる大チャンスだ。
奴隷兵も生き残るだけで市民権が手に入る。
市民権が手に入れば、殺される側から殺す側に変わる。
これはチャンスだった。
バトルロワイヤルで殺されるより、遥かにマシな提案であった。
第62騎士団ヴォルフガング(4,800人)は山脈を登って行った。
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