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閑話. プー王国(2)ラグナロク(神々の黄昏)。
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赤(薔薇)の騎士団帝ヘルマン・フォン・ザルツァ侯爵はハコネ山地の麓に兵を集め、国王陛下からの命令を伝えた。
「偉大なる神聖プロイス クィ騎士王国の兵よ。国王陛下のお言葉を伝える。
我が騎士よ。我らが祖先は困難な日々において立ち上がった。
麦もなく、武器も少なかった。
だが、挫けなかった。意気消沈することなく、神の意志を継いで戦った。
我らは再び困難にある。
だが、挫ける事はない。我らが正義だ。
勇敢なる我が騎士よ。
我らが魔王の配下である魔物と人が混ざりし亜人らに鉄槌を下せ。
亜人と和を結び、帝国を裏切ったアール王国を滅ぼせ!
これは神の意志である。
世は敵を討ち果たし、再び、祖国に戻ってくる事を願う。
勝利は約束されている。進め、戦え、すべてを討ち滅ぼせ!
以上がお言葉である。
我らはこれよりアール王国に侵攻する。
作戦名は『ラグナロク』である」
それだけを伝えると檀上を降り、西軍の軍団長、双翼十四騎士団ボッホ・フォン・オステル伯爵が檀上に上がり、詳細を伝える。
緑の騎士団帝コンラト・フォン・テュリ侯爵の東軍が領都西砦を攻略し、赤(薔薇)の騎士団帝ヘルマン・フォン・ザルツァ侯爵の西軍が王国に侵入する。
総勢34騎士団16万3200人。
プー王国にある兵力の半分を投じる大作戦が『ラグナロク』(神々の黄昏)である。
軍団長ボッホがくけた口調で言う。
東軍が領都西砦を攻略している間、我々は寝ている訳にいかない。
兵達から笑いが起こった。
バトルロワイヤルは敵を欺く虚偽であった事と告げ、片手間でペニンスラ半島を平定する。
各騎士団の大雑把な作戦の概要が伝える。
命を奪われる側から奪う側になって事を知った兵士達の顔が明るくなった。
「諸君らは死ぬ気でこの地に連れられて来た事を忘れるな! 戦う相手が変わっただけである。勝たねば、同じ末路が待っておる。勝てば、未来が開ける。この王国と諸君らの未来を開こうではないか!」
うおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!
実行部隊の鉄紺騎士団、銀朱騎士団、灰色騎士団の兵が雄叫びを上げる。
『出撃!』
西軍がハコネ山地に入ってゆく。
同日、同時刻に東軍でも同じように発表されて軍が動き出した。
7月4日早朝、『ラグナロク』(神々の黄昏)が始まった。
◇◇◇
前日(7月3日)にデラモウス山脈を越えた灰騎士団の第62騎士団ヴォルフガング(4,800人)は切り出されてあった木材を丸太船する作業に掛かった。
同日(7月4日早朝)、丸太船でウェストゥ川を渡河すると、グダニスク領の城壁町を襲った。
突然の奇襲に町は大混乱に陥り、火の手が上がって町の半分が焼失するという事件からプー王国の『ラグナロク』がはじまった。
その知らせは、鳩や魔道具を使ってラーコーツィ領、さらに、王国中に広がった。
7月5日、ラーコーツィ領都から領軍が出撃し、翌日(6日)にグダニスク領外で対峙する。
ラーコーツィ領軍は第62騎士団ヴォルフガングを圧倒したが撃滅には至らず、四散した敵を追撃する。
敗退した第62騎士団ヴォルフガングはを周辺領を逃げて村々を襲う。
領軍は第62騎士団ヴォルフガングを追撃する。
緑の騎士団帝コンラト・フォン・テュリ侯爵の描いたシナリオ通りに進んだ。
◇◇◇
東軍の現場司令である聖十字騎士団の第29騎士団ディートリッヒ・フォン・アルテン子爵は領都西砦(城壁砦)を最優先に考えた。
まず、東軍を一軍の鉄紺騎士団第33騎士団ザヴィシャと二軍の第34騎士団カジミェシに分けた。
黒騎士ザヴィシャはハコネ東砦を無視して山関砦の攻略を命じ、即日(7月5日)の内に陥落させた。
ハコネ東砦の陥落より先に山関砦が陥落した事に衝撃を受けたラーコーツィ領都の首脳部は対応の協議に一日を費やすという失態を演じる。
完全な想定外であった。
山関砦は難攻不落ではなかったのか!
そんなくだらない議論に終始した。
山関砦は3,000人も収容できる大型の砦であったが常備兵が550人と少なく、大きさが仇となって手薄な所から敵が侵入し、呆気なく陥落となったのだ。
指揮官は門を破壊して撤退した。
翌日(6日)に黒騎士ザヴィシャは領都西砦(城壁砦)の攻略を開始した。
二軍を預かった鉄紺騎士団の第34騎士団カジミェシュは東砦を取り囲むと黒騎士ザヴィシャが素通りさせてからハコネ東砦と中央砦の攻略を終える。
6日には領都西砦(城壁砦)を横切って北上し、港町城砦(港町)の攻略に入った。
途中で無人の三村を接収し、大量の食糧を奪取に成功した。
余りに早い侵攻速度にラーコーツィ領兵は怯え、とにかく村民を避難させるだけで精一杯であった。
この食糧を得た事で東軍の悩みが解決したなど知る由もない。
兵がわずか10日間の食糧しか持参していないのだ。
いずれにしろ、大量の戦利品を得て兵の士気も上がり、その勢いで港町城砦(港町)の攻略も巧くいくように思えた。
幸事魔多し!
そう言われるように港町城砦(港町)の攻略で思わぬ敵が現れたのだ。
「何だ? あの白い船は?」
大砲を備えた白い帆船が現れて、有利に進めていた攻城戦がひっくり返された。
ズドン、スドン、スドン!
激しい轟音と共に鉄の玉が降ってきた。
絶え間なく続く砲撃の嵐に兵も驚き、委縮した。
勝利を目の前にして止まってしまった。
陥落寸前、死んでいた城兵が息を吹き返し、反撃が激しくなって第34騎士団カジミェシュは仕切り直す事になった。
結局、港町城砦(港町)の即日陥落という栄誉が消えてしまったのだ。
◇◇◇
東軍の侵攻と同時に西軍も侵攻を開始する。
西軍の半分を預かる事になった鉄紺騎士団の第22騎士団ジャシカは不機嫌であった。
第22騎士団は隻眼のジャシカと呼ばれ、鉄紺騎士団の筆頭を務める。
平民で一番偉い騎士団長だ。
現場司令、聖十字騎士団の第22騎士団ブルヒャド・フォン・シュヴァン子爵は兵を進めるに当たって、その実務的な司令官となる鉄紺騎士団の二人を呼び出した。
第22騎士団ジャシカと第26騎士団オイゲンだ。
そこで第22騎士団ブルヒャドは本作戦の本音を語った。
「ジャシカ、オイゲン、貴公らにはペニンスラ半島の平定を命ずる。現地で得た武器・食糧は国王陛下への供物として接収せよ。兵站部隊として、家畜奴隷5万をそれぞれに貸す」
「そりゃ、楽しそうだ」
「俺に略奪しろと?」
「接収だ。略奪ではない」
「いいじゃないか! 今年は食糧難で兵を捌くほど困窮している。足りない分を奪って来いってことだろう」
「流石、隻眼のジャシカだ、説明が必要もないか」
「なるほど、承知しました。このオイゲン、全力で接収を行います」
「うむ、頼む!」
楽しい話はそこまであった。
ペニンスラ半島を西に回って接収をするのがオイゲンであり、東軍に協力しながら東を回って接収と攻城戦の手伝いをしろと言われた隻眼のジャシカがあからさまに不機嫌な顔をした。
「ジャシカ、お前の部隊の判断は難しい。東軍の状況によってはラーコーツィ領都の進軍部隊になる。協力を求められれば、協力して貰わねばならない。それを行いながら、ペニンスラ半島の平定に協力して貰いたい。言っている意味が判るか!」
「臨機応変、要するに行き当たりばったりって事でしょう」
「その通りだ。緑帝コンラト様は、今回は捨石になるつもりだが、下に付く騎士団長が納得している訳ではない。容易く領都西砦(城壁砦)を落としてくれればいいのだが…………」
「できるのかい?」
「敵の領内に陽動部隊を送っている。敵の領軍を誘き出し、領都西砦(城壁砦)に援軍を送れない状況を作ると言っている」
「へぇ~、やるね!」
「だが、あの方は楽観もされておられぬ。それほど容易いとは思っておられないのだ」
「なるほど、そこで数減らしをするつもりなんだね!」
「察しが良すぎる。他で言うなよ」
「後ろから怒鳴って炊き付けろって事かよ。面倒な事を押し付けるなよ」
「ふん、嫌われ役のお前に打ってつけだろう。あの方はペニンスラ半島の平定を成功すれば十分と考えておられる」
「口減らしをして、食糧を奪取すれば十分って事か!」
「よいか。他言無用だ!」
第22騎士団ブルヒャドが悪い顔をした。
ジャシカが態度悪く、頭を掻いているのに対して、オイゲンは直立不動で話を聞いていた。
「我が主であるハインリヒ様は、この作戦で王都まで進軍する予定を立てていらっしゃらない。山関砦、海関砦まで占領し、我が国の食糧事情を解決する事を最優先と考えておられる」
「へぇ~、随分と安い見積もりだ!」
「考えられたのは、あのお方、緑帝コンラト様である。あのお方は兵を失わせた罪を一人で背負われるつもりだ。ペニンスラ半島の平定という赤(薔薇)の騎士団帝ヘルマン・フォン・ザルツァ侯爵を黒の騎士団皇以上の地位に上げることをも目的とされている。それで我が主であるハインリヒが王に即位しれた時の問題が解決する」
「平民のアタイらには関係のない話だね!」
「そうであるまい。赤帝の椅子が空けば、当然、この作戦で成功した双翼十四騎士団ボッホ様が引き上げられる。そして、私、現場司令の聖十字騎士団ブルヒャド・フォン・シュヴァン子爵は双翼十四騎士団になる事が決定している。その意味が判るか?」
ごくりと隻眼のジャシカが喉を鳴らす。
鉄紺騎士団長の次は聖十字騎士団長であった。
奴隷出身のジャシカにとって遠かった。
生きる為に勲章の数と同じだけ命令違反をやってきた。
異名『隻眼のジャシカ』は悪名でもある。
鉄紺騎士団の筆頭になっても聖十字騎士団長になれる見込みはない。
貴族になるには寄り親となる後見人が必要だった。
聖十字騎士団ブルヒャドはそれになってもいいと誘っていた。
「どちらが相応しいか、見極めさせて貰うぞ」
そう言われて部屋から出された。
奴隷だった私が貴族になる。
試すのは好きだが、試されるのは嫌いだった。
ジャシカは配下の二個灰色騎士団を使って第一西砦と第二西砦を囲わせると、西回りで略奪に向かうオイゲンの花道を作ってやった。
この作戦の主役はオイゲンだった。
体格もよく、愚直で命令に忠実な第26騎士団長だ。
その人望から割といい部下が揃っている。
小舟を使って決死隊を編成し、海から先遣隊を送るという策を実行している。
それなりの無茶を部下にさせる。
銀朱騎士団長から鉄紺騎士団長に上がってくる奴に無能はいない。
「あの性格だ。奇策はない」
1つずつ砦を落とし、北方港砦(港町)の攻略が始めるのが3日後と判る。
そこから部隊の一部を割いて、東海岸にも接収部隊を派遣する。
つまり、ジャシカが出し抜くには3日以内に何とかしなければならなかった。
ジャシカは西砦を陥落させると、東砦付近まで軍団を進めた。
その夜中に部下が走ってきた。
「姉御」
「馬鹿野郎、騎士団長と呼べ!」
「すいません。騎士団長」
「で、なんだ!」
「西砦に残してきた奴らから二つほど連絡です」
オイゲンは山道と海岸の二つの街道に兵を分けて進軍した。
山道に向かった軍団は、敵の火計にあって一時撤収する失態を演じた。
西砦から逃げた雑魚を追い駆けて、痛い目にあったのだ。
ははは、ジャシカは腹の底から笑った。
もう1つは、最初の砦を接収し、兵3万人が3ヶ月は食える食糧を手に入れた。
明日、兵站部隊にて本国に送るという。
ジャシカは怒りで机を叩いて真っ二つにした。
砦1つでそれだけの食糧を蓄えていたのが意外だった。
翌日、山関砦の手前まで軍団を移動する。
山関砦は東軍が拠点にしているので、それ以上進ませてくれない。
東軍が村を三つほど接収し、オイゲンが報告の二倍近い食糧を手に入れたと言う。
ジャシカは東軍の鉄紺騎士団カジミェシュに海関砦の攻略を手伝いたいと願い出たが、あっさりと断られた。
東軍にとって少ない手柄を奪われたくないのだろう。
オイゲンなら待てと言われれば、待ってしまう。
だから、現場司令ブルヒャドはこちらをジャシカにした。
つまり、出し抜けと言っている。
だが、味方を襲うのはタブーだ。
「姉御」
「馬鹿野郎、騎士団長と呼べ!」
「すいません。騎士団長」
「で、どうした?」
「東砦の捕虜に商人がおり、大軍が通れませんが山道を通ると海関砦の裏に出られると言っております」
「命乞いか!? また、拷問をしていたな!」
「えへへへ、それが趣味でして」
「だが、悪くない。第55騎士団灰騎士団長ゲオルクを呼べ」
道があるのかい。
ジャシカの目が甘美に光っていた。
「偉大なる神聖プロイス クィ騎士王国の兵よ。国王陛下のお言葉を伝える。
我が騎士よ。我らが祖先は困難な日々において立ち上がった。
麦もなく、武器も少なかった。
だが、挫けなかった。意気消沈することなく、神の意志を継いで戦った。
我らは再び困難にある。
だが、挫ける事はない。我らが正義だ。
勇敢なる我が騎士よ。
我らが魔王の配下である魔物と人が混ざりし亜人らに鉄槌を下せ。
亜人と和を結び、帝国を裏切ったアール王国を滅ぼせ!
これは神の意志である。
世は敵を討ち果たし、再び、祖国に戻ってくる事を願う。
勝利は約束されている。進め、戦え、すべてを討ち滅ぼせ!
以上がお言葉である。
我らはこれよりアール王国に侵攻する。
作戦名は『ラグナロク』である」
それだけを伝えると檀上を降り、西軍の軍団長、双翼十四騎士団ボッホ・フォン・オステル伯爵が檀上に上がり、詳細を伝える。
緑の騎士団帝コンラト・フォン・テュリ侯爵の東軍が領都西砦を攻略し、赤(薔薇)の騎士団帝ヘルマン・フォン・ザルツァ侯爵の西軍が王国に侵入する。
総勢34騎士団16万3200人。
プー王国にある兵力の半分を投じる大作戦が『ラグナロク』(神々の黄昏)である。
軍団長ボッホがくけた口調で言う。
東軍が領都西砦を攻略している間、我々は寝ている訳にいかない。
兵達から笑いが起こった。
バトルロワイヤルは敵を欺く虚偽であった事と告げ、片手間でペニンスラ半島を平定する。
各騎士団の大雑把な作戦の概要が伝える。
命を奪われる側から奪う側になって事を知った兵士達の顔が明るくなった。
「諸君らは死ぬ気でこの地に連れられて来た事を忘れるな! 戦う相手が変わっただけである。勝たねば、同じ末路が待っておる。勝てば、未来が開ける。この王国と諸君らの未来を開こうではないか!」
うおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!
実行部隊の鉄紺騎士団、銀朱騎士団、灰色騎士団の兵が雄叫びを上げる。
『出撃!』
西軍がハコネ山地に入ってゆく。
同日、同時刻に東軍でも同じように発表されて軍が動き出した。
7月4日早朝、『ラグナロク』(神々の黄昏)が始まった。
◇◇◇
前日(7月3日)にデラモウス山脈を越えた灰騎士団の第62騎士団ヴォルフガング(4,800人)は切り出されてあった木材を丸太船する作業に掛かった。
同日(7月4日早朝)、丸太船でウェストゥ川を渡河すると、グダニスク領の城壁町を襲った。
突然の奇襲に町は大混乱に陥り、火の手が上がって町の半分が焼失するという事件からプー王国の『ラグナロク』がはじまった。
その知らせは、鳩や魔道具を使ってラーコーツィ領、さらに、王国中に広がった。
7月5日、ラーコーツィ領都から領軍が出撃し、翌日(6日)にグダニスク領外で対峙する。
ラーコーツィ領軍は第62騎士団ヴォルフガングを圧倒したが撃滅には至らず、四散した敵を追撃する。
敗退した第62騎士団ヴォルフガングはを周辺領を逃げて村々を襲う。
領軍は第62騎士団ヴォルフガングを追撃する。
緑の騎士団帝コンラト・フォン・テュリ侯爵の描いたシナリオ通りに進んだ。
◇◇◇
東軍の現場司令である聖十字騎士団の第29騎士団ディートリッヒ・フォン・アルテン子爵は領都西砦(城壁砦)を最優先に考えた。
まず、東軍を一軍の鉄紺騎士団第33騎士団ザヴィシャと二軍の第34騎士団カジミェシに分けた。
黒騎士ザヴィシャはハコネ東砦を無視して山関砦の攻略を命じ、即日(7月5日)の内に陥落させた。
ハコネ東砦の陥落より先に山関砦が陥落した事に衝撃を受けたラーコーツィ領都の首脳部は対応の協議に一日を費やすという失態を演じる。
完全な想定外であった。
山関砦は難攻不落ではなかったのか!
そんなくだらない議論に終始した。
山関砦は3,000人も収容できる大型の砦であったが常備兵が550人と少なく、大きさが仇となって手薄な所から敵が侵入し、呆気なく陥落となったのだ。
指揮官は門を破壊して撤退した。
翌日(6日)に黒騎士ザヴィシャは領都西砦(城壁砦)の攻略を開始した。
二軍を預かった鉄紺騎士団の第34騎士団カジミェシュは東砦を取り囲むと黒騎士ザヴィシャが素通りさせてからハコネ東砦と中央砦の攻略を終える。
6日には領都西砦(城壁砦)を横切って北上し、港町城砦(港町)の攻略に入った。
途中で無人の三村を接収し、大量の食糧を奪取に成功した。
余りに早い侵攻速度にラーコーツィ領兵は怯え、とにかく村民を避難させるだけで精一杯であった。
この食糧を得た事で東軍の悩みが解決したなど知る由もない。
兵がわずか10日間の食糧しか持参していないのだ。
いずれにしろ、大量の戦利品を得て兵の士気も上がり、その勢いで港町城砦(港町)の攻略も巧くいくように思えた。
幸事魔多し!
そう言われるように港町城砦(港町)の攻略で思わぬ敵が現れたのだ。
「何だ? あの白い船は?」
大砲を備えた白い帆船が現れて、有利に進めていた攻城戦がひっくり返された。
ズドン、スドン、スドン!
激しい轟音と共に鉄の玉が降ってきた。
絶え間なく続く砲撃の嵐に兵も驚き、委縮した。
勝利を目の前にして止まってしまった。
陥落寸前、死んでいた城兵が息を吹き返し、反撃が激しくなって第34騎士団カジミェシュは仕切り直す事になった。
結局、港町城砦(港町)の即日陥落という栄誉が消えてしまったのだ。
◇◇◇
東軍の侵攻と同時に西軍も侵攻を開始する。
西軍の半分を預かる事になった鉄紺騎士団の第22騎士団ジャシカは不機嫌であった。
第22騎士団は隻眼のジャシカと呼ばれ、鉄紺騎士団の筆頭を務める。
平民で一番偉い騎士団長だ。
現場司令、聖十字騎士団の第22騎士団ブルヒャド・フォン・シュヴァン子爵は兵を進めるに当たって、その実務的な司令官となる鉄紺騎士団の二人を呼び出した。
第22騎士団ジャシカと第26騎士団オイゲンだ。
そこで第22騎士団ブルヒャドは本作戦の本音を語った。
「ジャシカ、オイゲン、貴公らにはペニンスラ半島の平定を命ずる。現地で得た武器・食糧は国王陛下への供物として接収せよ。兵站部隊として、家畜奴隷5万をそれぞれに貸す」
「そりゃ、楽しそうだ」
「俺に略奪しろと?」
「接収だ。略奪ではない」
「いいじゃないか! 今年は食糧難で兵を捌くほど困窮している。足りない分を奪って来いってことだろう」
「流石、隻眼のジャシカだ、説明が必要もないか」
「なるほど、承知しました。このオイゲン、全力で接収を行います」
「うむ、頼む!」
楽しい話はそこまであった。
ペニンスラ半島を西に回って接収をするのがオイゲンであり、東軍に協力しながら東を回って接収と攻城戦の手伝いをしろと言われた隻眼のジャシカがあからさまに不機嫌な顔をした。
「ジャシカ、お前の部隊の判断は難しい。東軍の状況によってはラーコーツィ領都の進軍部隊になる。協力を求められれば、協力して貰わねばならない。それを行いながら、ペニンスラ半島の平定に協力して貰いたい。言っている意味が判るか!」
「臨機応変、要するに行き当たりばったりって事でしょう」
「その通りだ。緑帝コンラト様は、今回は捨石になるつもりだが、下に付く騎士団長が納得している訳ではない。容易く領都西砦(城壁砦)を落としてくれればいいのだが…………」
「できるのかい?」
「敵の領内に陽動部隊を送っている。敵の領軍を誘き出し、領都西砦(城壁砦)に援軍を送れない状況を作ると言っている」
「へぇ~、やるね!」
「だが、あの方は楽観もされておられぬ。それほど容易いとは思っておられないのだ」
「なるほど、そこで数減らしをするつもりなんだね!」
「察しが良すぎる。他で言うなよ」
「後ろから怒鳴って炊き付けろって事かよ。面倒な事を押し付けるなよ」
「ふん、嫌われ役のお前に打ってつけだろう。あの方はペニンスラ半島の平定を成功すれば十分と考えておられる」
「口減らしをして、食糧を奪取すれば十分って事か!」
「よいか。他言無用だ!」
第22騎士団ブルヒャドが悪い顔をした。
ジャシカが態度悪く、頭を掻いているのに対して、オイゲンは直立不動で話を聞いていた。
「我が主であるハインリヒ様は、この作戦で王都まで進軍する予定を立てていらっしゃらない。山関砦、海関砦まで占領し、我が国の食糧事情を解決する事を最優先と考えておられる」
「へぇ~、随分と安い見積もりだ!」
「考えられたのは、あのお方、緑帝コンラト様である。あのお方は兵を失わせた罪を一人で背負われるつもりだ。ペニンスラ半島の平定という赤(薔薇)の騎士団帝ヘルマン・フォン・ザルツァ侯爵を黒の騎士団皇以上の地位に上げることをも目的とされている。それで我が主であるハインリヒが王に即位しれた時の問題が解決する」
「平民のアタイらには関係のない話だね!」
「そうであるまい。赤帝の椅子が空けば、当然、この作戦で成功した双翼十四騎士団ボッホ様が引き上げられる。そして、私、現場司令の聖十字騎士団ブルヒャド・フォン・シュヴァン子爵は双翼十四騎士団になる事が決定している。その意味が判るか?」
ごくりと隻眼のジャシカが喉を鳴らす。
鉄紺騎士団長の次は聖十字騎士団長であった。
奴隷出身のジャシカにとって遠かった。
生きる為に勲章の数と同じだけ命令違反をやってきた。
異名『隻眼のジャシカ』は悪名でもある。
鉄紺騎士団の筆頭になっても聖十字騎士団長になれる見込みはない。
貴族になるには寄り親となる後見人が必要だった。
聖十字騎士団ブルヒャドはそれになってもいいと誘っていた。
「どちらが相応しいか、見極めさせて貰うぞ」
そう言われて部屋から出された。
奴隷だった私が貴族になる。
試すのは好きだが、試されるのは嫌いだった。
ジャシカは配下の二個灰色騎士団を使って第一西砦と第二西砦を囲わせると、西回りで略奪に向かうオイゲンの花道を作ってやった。
この作戦の主役はオイゲンだった。
体格もよく、愚直で命令に忠実な第26騎士団長だ。
その人望から割といい部下が揃っている。
小舟を使って決死隊を編成し、海から先遣隊を送るという策を実行している。
それなりの無茶を部下にさせる。
銀朱騎士団長から鉄紺騎士団長に上がってくる奴に無能はいない。
「あの性格だ。奇策はない」
1つずつ砦を落とし、北方港砦(港町)の攻略が始めるのが3日後と判る。
そこから部隊の一部を割いて、東海岸にも接収部隊を派遣する。
つまり、ジャシカが出し抜くには3日以内に何とかしなければならなかった。
ジャシカは西砦を陥落させると、東砦付近まで軍団を進めた。
その夜中に部下が走ってきた。
「姉御」
「馬鹿野郎、騎士団長と呼べ!」
「すいません。騎士団長」
「で、なんだ!」
「西砦に残してきた奴らから二つほど連絡です」
オイゲンは山道と海岸の二つの街道に兵を分けて進軍した。
山道に向かった軍団は、敵の火計にあって一時撤収する失態を演じた。
西砦から逃げた雑魚を追い駆けて、痛い目にあったのだ。
ははは、ジャシカは腹の底から笑った。
もう1つは、最初の砦を接収し、兵3万人が3ヶ月は食える食糧を手に入れた。
明日、兵站部隊にて本国に送るという。
ジャシカは怒りで机を叩いて真っ二つにした。
砦1つでそれだけの食糧を蓄えていたのが意外だった。
翌日、山関砦の手前まで軍団を移動する。
山関砦は東軍が拠点にしているので、それ以上進ませてくれない。
東軍が村を三つほど接収し、オイゲンが報告の二倍近い食糧を手に入れたと言う。
ジャシカは東軍の鉄紺騎士団カジミェシュに海関砦の攻略を手伝いたいと願い出たが、あっさりと断られた。
東軍にとって少ない手柄を奪われたくないのだろう。
オイゲンなら待てと言われれば、待ってしまう。
だから、現場司令ブルヒャドはこちらをジャシカにした。
つまり、出し抜けと言っている。
だが、味方を襲うのはタブーだ。
「姉御」
「馬鹿野郎、騎士団長と呼べ!」
「すいません。騎士団長」
「で、どうした?」
「東砦の捕虜に商人がおり、大軍が通れませんが山道を通ると海関砦の裏に出られると言っております」
「命乞いか!? また、拷問をしていたな!」
「えへへへ、それが趣味でして」
「だが、悪くない。第55騎士団灰騎士団長ゲオルクを呼べ」
道があるのかい。
ジャシカの目が甘美に光っていた。
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