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第二章 魯坊丸と楽しい仲間達
七十七夜 魯坊丸の耳長 (遊郭ネットの件)
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〔天文十九年 (一五五十年)2月10日〕
その日も楓は見回り組の指揮を取り、熱田・古渡の町を警邏から戻ってくると、輪互屋と数珠屋の手紙を預かって戻ってきた。
楓が熱田見回り組の総責任者になったのは今月からであり、先月の熱田衆の会合で決まった。
熱田衆に緊張が走ったのは、今年のはじめであった。
輪互屋の主人徳太郎が末森に挨拶に行くと、古渡の旧城下町に傾城のお茶屋、遊郭を開きたいと願い出た。
普通ならば断るところだ。
しかし、織田家に縁の深い飛鳥井-雅綱と山科-言継の両卿の推薦状を持っていたので、対応した信光叔父上が許可を出した。
京の余所者が突然に京から現れて店を開く。
熱田衆はそのイライラを会合でぶつけ、織田家の俺が責任をもって輪互屋を監視すると約束した。
で、その責任者に楓を据えた。
なぜ、楓になったのか?
単なる消去法だ。
千代女は忙しい。
見回り組の指揮を取らせるのはもったいない。
さくらは無理だ。
単純なさくらは荒くれ者の処理は得意だが、争いの調停ができるだろうか。
時には商人の感情を掬って、両者の波風を立てないとか不可能だ。
紅葉は優秀だ。
しかし、背が低く、丸みの幼い顔立ち、痩せ型の為に、裳着を済ませていない幼女と間違われる。
調停となると、見た目は大事だ。
機転が利く上に記憶力が優れており、人間辞書として便利なのだ。
痒い所に手が届く癒し系。
手元に置きたい人材だった。
楓は程良くいい加減だ。
身体・頭脳のスペックは千代女に負けないほど天才肌らしい。
しかし、努力が大嫌い。
サボって屋根の昼寝をしている。
猫のような気儘な性格なのだ。
さくらをからかって遊ぶ。
ゴロゴロしたい俺と気が合うので、楓を叱る気になれない。
無難に熟すから楓に任せた。
十日に一度、見守り組を率いて、「今日もちゃっちゃと終わらせましょう」と引き連れて、熱田と古渡の町を巡回した。
そして、輪互屋には厳しく、抜き打ちの立ち入り荷物検査を執り行う。
いつもは「特に問題なし」と軽く口調で報告書する。
しかし、今日は俺の前でひざまずいて手紙を差し出した。
「輪互屋の女将蝋梅から伝言です。来月の頭から今川が動きありそうです」
「そうか。仁平太を通じて親父にも知らせておけ」
「わかりました」
そう言うと、楓は忍びの里へ走っていった。
俺は受け取った報告書を開いて目を通した。
お茶を持ってきた紅葉が声を掛けた。
「若様。情報収集が機能したみたいでよかったです」
「去年は間に合わず、一方的にやられたからな」
「若様の策は素晴らしいです」
「俺の策ではない。兵大夫の人脈の広さの勝利だ」
俺は以前、望月-兵大夫は情報を集めろと命じた。
兵大夫は遊郭による情報ネットワークを考えて実効していた。
遊郭ネットワーク。
京女は地方で人気があり、地方の女は都に憧れる。
この女達を交換する事で人の行き来を流動的にして、全国の情報を集める。
輪互屋はその中核を為す店だ。
地方の大名や武将が都の情報を知れる貴重なサロンを提供しよう。
俺の言葉をヒントに兵大夫が考えた。
戦国時代には、いくつかのネットワークが存在する。
もっともポピュラーらなのが山伏だ。
高野山や比叡山の修験僧が全国を歩いて寺に情報を伝達する。
だから、全国の情報を欲する武将は菩提寺などを創建して、全国の大名の動きを知る。
沢山の僧が訪れる寺に沢山の情報が入ってくる。
各地の拠点となる寺は、さならばサロンとなっていた。
大元締めの比叡山、高野山、浄土真宗の石山御坊、日蓮宗の妙顯寺などである。
ここには全国津々浦々の情報が集まっている。
坊さんネットワークだ。
次が公家だ。
朝廷や公家は各地に荘園をもっており、荘園を武士に預けて糧を送ってもらう。
つまり、京と地方を行き来する。
地元の情報を京に送り、京で全国の情報を得て持ち帰る。
京に全国の情報が集まる。
中央で華々しい活躍をする殿上人も地方からの支援なしでは弾が尽きる、
だから、その殿上人を支持する一族のドサ回り公家が地方を巡回する。
今川義元の御生母である寿桂尼や武田晴信の妻の三条の方という公家の姫を妻にする事で中央とのパイプを太くしたい大名も多い。
公家ネットワークは馬鹿にできない。
三ツ目が商人である。
船問屋・馬借などの商人が情報を交換する。
これが網目のように広がる。
特に堺津、博多津、安濃津を代表とする三津七湊と呼ばれる湊を中心に情報が集まり、各自のネットワークを構築し、互いの情報を交換している。
全国を網羅している商人ネットワークだ。
四ツ目は行商人、旅芸人、歩き巫女、武芸者、忍びなどだ。
彼らは宿屋や茶屋で互いの情報を交換する。
最初に僧や、俺が各地に送っている草も含まれる。
草の職業は、武芸人、神人、僧、山師、絵師、囲碁や将棋の棋士などと多岐に渡る。
一芸者を食客として受け入れ、各地を回って各国を探ってもらっている。
そこに連絡役の行商人を送り、独自のネットワークを構築した。
加えて地元の真面目な行商人を取り込み、あるいは、行商人になりたい者に資金を支援する事で数を増やし、東海からはじまった行商人ネットワークは関東、畿内一円まで広がった。
行商人の主な仕事は価格の調査と買い入れであり、安い所で仕入れて、高値の所に持って行って売る。
それだけ十分なのだ。
時折、面白い情報を引き当てる。
気を付けなければいけないのは、宿や茶屋で仕入れる情報は誤情報も多い。
陰謀・罠・愉快犯の情報が入り混じり、嘘・妬み・デマ・ねつ造が溢れ、さながらSNSのネットのようだ。
少し違うが、伊勢座という組合もある。
熱田、津島、伊勢の商人で作った座であり、駿河なら今川の御用商人である友野-宗善の友野座m0加盟している。
代表的なポピュラー商品は尾張布団だ。
友野座から綿を仕入れ、伊勢経由で熱田に卸し、布団に仕上げて、京などへ持ってゆく。
友野座は綿で儲け、加藤家の絹で儲け、熱田屋は仕上げで儲けている。
足踏み手動ミシンは熱田屋にしかない機械だ。
他にも仕上げの美しい職人を抱える店は多いが、仕上げの安さで熱田屋に敵う店はいない。
表で戦争をする織田家と今川家が、裏で布団を売って互いに儲けている。
実に奇妙な関係である。
五ツ目は文通である。
信用のある人物と情報を交換し、必要な情報を集める。
他のネットワークを利用している人が多く、人と人のネットワークで全国を網羅できる。
俺は織田家と交流がある家の贈答品を信光叔父上に任されているので、尾張周辺の領主と文を交わすようになっている。
酒を売りはじめると、畿内の寺、商家、どちらかに縁の深い武家とも文を交わす。
どうでもよい取り留めない事が書かれているが、貴重な情報が紛れている。
実際、手紙を書いているのは右筆の定季だ。
一方、有益な手紙は安芸の小早川-隆景と文通だ。
隆景は中国や九州の情報を仕入れており、俺と情報を交換している。
尾張と安芸ほど距離が離れると嘘を混ぜる必要ない。
関東や奥州にも盟友を増やしたいものだ。
北条家は去年 (天文18年)に起こった大地震で後手を踏み、領民の不満が爆発寸前となっているそうだ。
北条家は軍事行動を取る余裕がない。
また、武田家は佐久郡に進出し、砥石城の攻略で忙しい。
今川家は昨年に続き、背後を気にせずに兵を動かせる状況となった。
遊女を抱く駿河の武将は、今年を織田家の息の根を止めると鼻息を荒くしているらしい。
士気が高く、兵を出せる状況が整った。
正月から河原者への大量の矢の材料を求める受注が増えた。
去年より注文が多いそうだ。
昨年の末、今川義元の正室定恵院が体調を崩し、まだ加減が悪い。
正月以来、武田晴信も姉を気遣って連絡を密に交わしている。
また、太原雪斎が甲斐と相模を飛び回っているが、帰ってくれば動き出すと思われる。
それが駿河輪互屋の女将の見解だ。
去年、関東は地震の影響で不作だった。
駿河・遠江は不作ではなかったが、東国から売られてくる米はなかった。
逆に、去年の冬から相模と駿河は伊勢から米を買い入れている。
俺は西国の米を仕入れて、高値の売らせて頂いた。
俺もかなり儲けさせて頂いた。
つまり、今川家には当分の間は兵糧に困らない。
できれば、米を止めて今川家の動きを封じたい所だが、織田家に米を買い占めるほどの資金力はない。
今川家から銭をむしり取ったと褒めてくれ。
しかし、親父や信長兄ぃに知れたら大目玉である。
この案件は秘密だ。
去年は今川の好きにやられた。
刈安賀の戦いの後に寝込み、しばらく部屋に閉じ込められ、俺は働かない時間を満喫した。
ゴロゴロしながら思い付いた。
親父が美濃攻めをしていた時、清須が寝返るのをどうして知る事ができたのか?
楓を呼んで調べさせた。
五条川付近の河原者が清須の様子が変だと知らせてくれた。
それは承知していた。
今回は具体的に“何が変だったか”を調べさせた。
美濃に出陣していない家から大量の矢と鎧の注文があったのだ。
矢の羽や鎧の皮は河原者が用意する。
矢や防具を揃えるには、今日明日で準備できない。
余裕をもって注文する必要がある。
つまり、河原者への注文で戦の準備をしているかを知る事ができるのだ。
千代女を呼んで、育てている“歩き巫女”を使って駿河・遠江・三河の河原者から情報を集められないかと尋ねた。
「申し訳ございません。まだ、使いモノになる状況ではございません」
「無理か」
「兵大夫叔父上に相談されてはいかがでしょうか?」
「兵大夫」
「京で若様と同じような事を準備されています」
「呼んでくれ」
すぐに兵大夫は甲賀から駆け付けてくれた。
兵大夫には西村-貞喜という商人の知り合いがいた。
貞喜は藤原淡海公の末裔であり、春日神社の若宮祭の時に興福寺衆徒の供進する千切花の台を毎年作成して奉納していた一族であり、桓武天皇と一緒に京に移住した。
しかし、応仁の乱で店を失い、甲賀に避難していた。
貞喜の店を再建する資金を提供する変わりに、六条三筋町に『輪互屋』という名の店を出すのを手伝ってもらった。
美人を傾城と呼び、そんな美人遊女屋が集まる遊郭を傾城町と呼ぶ。
京の傾城町は六条三筋町にあったからだ。
輪互屋は、京、堺、近江観音寺の三箇所に店を出していた。
「なるほど、相模、遠江、三河の河原者と連絡を取りたい訳でございますな」
「そうだ。今川の動向を探れとは言わん。戦の準備をしているかを知りたい」
「問題ございません。すぐに相模、駿河、遠江、熱田、伊勢に店を出しましょう」
「すぐにできるのか?」
「京女は地方で人気がございます。すでに権大納言正親町三条-公兄様の推薦で、今川の寿桂尼様から店を出す許可は頂いております。また、そこに目を付けた堺の商人の支援をもらっております。出店を疑う者はおりません。」
「権大納言の推薦か」
「公兄様は天文16年に甲斐に下向されていましたが、元関白二条-尹房様の頼みに京に戻っておりました。甲斐や駿河に顔が利くお方です」
「よく頼めたな」
「貞喜殿は公家ではありませんが、名家です。ほとんどの公家様と親しくされているのです」
貞喜の一声で京の美人が集まるそうだ。
輪互屋は堺、近江、美濃、伊勢、尾張、摂津、播磨、若狭、越前、駿河、相模に美人を送り、遊郭の店を広める計画を立てており、すれに公家様を使って大名に許可を取り付けていた。
俺が出した潤沢な資金を元手にはじめ、遊郭拡大に天王寺屋が賛同し、魚屋、納屋などの堺商人も融資を表明したので、資金も困らないそうだ。
「兵大夫、遊郭を作って終わりではないだろうな」
「もちろんです。京の美人はどこへ出しても売れっ子となります。そして、地方の美人を京に集めます。これで人の行き来が自由に行えます」
「もう一つの情報網を作るのだな」
「はい。そして、木を隠すならば、森の中。人を隠すなら、人混みへ。忍びの女を隠すなら、遊郭が一番なのです」
「忍びを使って情報を操作する気か」
「お察しの通りです。情報を集めるのも流すのも忍びですが、伝えるのは何も知らない遊女です。そして、千代女から相談された歩き巫女ですが、遊郭の見習いとして歩き巫女で使うのはどうでしょうか」
「そんな事ができるのか?」
「尼寺を一つ取り込めば、問題ありません。河原者から遊女になる女を捜し、手解きを終えた見習いの遊女を歩き巫女として町や村へ派遣する。しかも色々な地域の女を混ぜれば、尾張の女が混ざっても不思議ではありません。むしろ、知人がいない土地の方が働き易いでしょう」
兵大夫が次々を思いつく事をしゃべり出した。
俺は兵大夫に経済学や情報価値を突き詰めて話した記憶はない。
俺の言葉の端々から経済論や情報操作に気づいた兵大夫から様々な質問をされた。
一を聞いて百を知る。
気持ち悪いほどに、頭の回転が速い気がする。
話から一月も欠けずに、駿河、伊勢、熱田に店を出した。
各地から女を集め、歩き巫女として町や村は放ち、新たな人材捜しに精を出す。
一見、商売熱心な商人にしか見えない。
あれが俺の息が掛かった甲賀衆と知る者はほとんどいない。
その日も楓は見回り組の指揮を取り、熱田・古渡の町を警邏から戻ってくると、輪互屋と数珠屋の手紙を預かって戻ってきた。
楓が熱田見回り組の総責任者になったのは今月からであり、先月の熱田衆の会合で決まった。
熱田衆に緊張が走ったのは、今年のはじめであった。
輪互屋の主人徳太郎が末森に挨拶に行くと、古渡の旧城下町に傾城のお茶屋、遊郭を開きたいと願い出た。
普通ならば断るところだ。
しかし、織田家に縁の深い飛鳥井-雅綱と山科-言継の両卿の推薦状を持っていたので、対応した信光叔父上が許可を出した。
京の余所者が突然に京から現れて店を開く。
熱田衆はそのイライラを会合でぶつけ、織田家の俺が責任をもって輪互屋を監視すると約束した。
で、その責任者に楓を据えた。
なぜ、楓になったのか?
単なる消去法だ。
千代女は忙しい。
見回り組の指揮を取らせるのはもったいない。
さくらは無理だ。
単純なさくらは荒くれ者の処理は得意だが、争いの調停ができるだろうか。
時には商人の感情を掬って、両者の波風を立てないとか不可能だ。
紅葉は優秀だ。
しかし、背が低く、丸みの幼い顔立ち、痩せ型の為に、裳着を済ませていない幼女と間違われる。
調停となると、見た目は大事だ。
機転が利く上に記憶力が優れており、人間辞書として便利なのだ。
痒い所に手が届く癒し系。
手元に置きたい人材だった。
楓は程良くいい加減だ。
身体・頭脳のスペックは千代女に負けないほど天才肌らしい。
しかし、努力が大嫌い。
サボって屋根の昼寝をしている。
猫のような気儘な性格なのだ。
さくらをからかって遊ぶ。
ゴロゴロしたい俺と気が合うので、楓を叱る気になれない。
無難に熟すから楓に任せた。
十日に一度、見守り組を率いて、「今日もちゃっちゃと終わらせましょう」と引き連れて、熱田と古渡の町を巡回した。
そして、輪互屋には厳しく、抜き打ちの立ち入り荷物検査を執り行う。
いつもは「特に問題なし」と軽く口調で報告書する。
しかし、今日は俺の前でひざまずいて手紙を差し出した。
「輪互屋の女将蝋梅から伝言です。来月の頭から今川が動きありそうです」
「そうか。仁平太を通じて親父にも知らせておけ」
「わかりました」
そう言うと、楓は忍びの里へ走っていった。
俺は受け取った報告書を開いて目を通した。
お茶を持ってきた紅葉が声を掛けた。
「若様。情報収集が機能したみたいでよかったです」
「去年は間に合わず、一方的にやられたからな」
「若様の策は素晴らしいです」
「俺の策ではない。兵大夫の人脈の広さの勝利だ」
俺は以前、望月-兵大夫は情報を集めろと命じた。
兵大夫は遊郭による情報ネットワークを考えて実効していた。
遊郭ネットワーク。
京女は地方で人気があり、地方の女は都に憧れる。
この女達を交換する事で人の行き来を流動的にして、全国の情報を集める。
輪互屋はその中核を為す店だ。
地方の大名や武将が都の情報を知れる貴重なサロンを提供しよう。
俺の言葉をヒントに兵大夫が考えた。
戦国時代には、いくつかのネットワークが存在する。
もっともポピュラーらなのが山伏だ。
高野山や比叡山の修験僧が全国を歩いて寺に情報を伝達する。
だから、全国の情報を欲する武将は菩提寺などを創建して、全国の大名の動きを知る。
沢山の僧が訪れる寺に沢山の情報が入ってくる。
各地の拠点となる寺は、さならばサロンとなっていた。
大元締めの比叡山、高野山、浄土真宗の石山御坊、日蓮宗の妙顯寺などである。
ここには全国津々浦々の情報が集まっている。
坊さんネットワークだ。
次が公家だ。
朝廷や公家は各地に荘園をもっており、荘園を武士に預けて糧を送ってもらう。
つまり、京と地方を行き来する。
地元の情報を京に送り、京で全国の情報を得て持ち帰る。
京に全国の情報が集まる。
中央で華々しい活躍をする殿上人も地方からの支援なしでは弾が尽きる、
だから、その殿上人を支持する一族のドサ回り公家が地方を巡回する。
今川義元の御生母である寿桂尼や武田晴信の妻の三条の方という公家の姫を妻にする事で中央とのパイプを太くしたい大名も多い。
公家ネットワークは馬鹿にできない。
三ツ目が商人である。
船問屋・馬借などの商人が情報を交換する。
これが網目のように広がる。
特に堺津、博多津、安濃津を代表とする三津七湊と呼ばれる湊を中心に情報が集まり、各自のネットワークを構築し、互いの情報を交換している。
全国を網羅している商人ネットワークだ。
四ツ目は行商人、旅芸人、歩き巫女、武芸者、忍びなどだ。
彼らは宿屋や茶屋で互いの情報を交換する。
最初に僧や、俺が各地に送っている草も含まれる。
草の職業は、武芸人、神人、僧、山師、絵師、囲碁や将棋の棋士などと多岐に渡る。
一芸者を食客として受け入れ、各地を回って各国を探ってもらっている。
そこに連絡役の行商人を送り、独自のネットワークを構築した。
加えて地元の真面目な行商人を取り込み、あるいは、行商人になりたい者に資金を支援する事で数を増やし、東海からはじまった行商人ネットワークは関東、畿内一円まで広がった。
行商人の主な仕事は価格の調査と買い入れであり、安い所で仕入れて、高値の所に持って行って売る。
それだけ十分なのだ。
時折、面白い情報を引き当てる。
気を付けなければいけないのは、宿や茶屋で仕入れる情報は誤情報も多い。
陰謀・罠・愉快犯の情報が入り混じり、嘘・妬み・デマ・ねつ造が溢れ、さながらSNSのネットのようだ。
少し違うが、伊勢座という組合もある。
熱田、津島、伊勢の商人で作った座であり、駿河なら今川の御用商人である友野-宗善の友野座m0加盟している。
代表的なポピュラー商品は尾張布団だ。
友野座から綿を仕入れ、伊勢経由で熱田に卸し、布団に仕上げて、京などへ持ってゆく。
友野座は綿で儲け、加藤家の絹で儲け、熱田屋は仕上げで儲けている。
足踏み手動ミシンは熱田屋にしかない機械だ。
他にも仕上げの美しい職人を抱える店は多いが、仕上げの安さで熱田屋に敵う店はいない。
表で戦争をする織田家と今川家が、裏で布団を売って互いに儲けている。
実に奇妙な関係である。
五ツ目は文通である。
信用のある人物と情報を交換し、必要な情報を集める。
他のネットワークを利用している人が多く、人と人のネットワークで全国を網羅できる。
俺は織田家と交流がある家の贈答品を信光叔父上に任されているので、尾張周辺の領主と文を交わすようになっている。
酒を売りはじめると、畿内の寺、商家、どちらかに縁の深い武家とも文を交わす。
どうでもよい取り留めない事が書かれているが、貴重な情報が紛れている。
実際、手紙を書いているのは右筆の定季だ。
一方、有益な手紙は安芸の小早川-隆景と文通だ。
隆景は中国や九州の情報を仕入れており、俺と情報を交換している。
尾張と安芸ほど距離が離れると嘘を混ぜる必要ない。
関東や奥州にも盟友を増やしたいものだ。
北条家は去年 (天文18年)に起こった大地震で後手を踏み、領民の不満が爆発寸前となっているそうだ。
北条家は軍事行動を取る余裕がない。
また、武田家は佐久郡に進出し、砥石城の攻略で忙しい。
今川家は昨年に続き、背後を気にせずに兵を動かせる状況となった。
遊女を抱く駿河の武将は、今年を織田家の息の根を止めると鼻息を荒くしているらしい。
士気が高く、兵を出せる状況が整った。
正月から河原者への大量の矢の材料を求める受注が増えた。
去年より注文が多いそうだ。
昨年の末、今川義元の正室定恵院が体調を崩し、まだ加減が悪い。
正月以来、武田晴信も姉を気遣って連絡を密に交わしている。
また、太原雪斎が甲斐と相模を飛び回っているが、帰ってくれば動き出すと思われる。
それが駿河輪互屋の女将の見解だ。
去年、関東は地震の影響で不作だった。
駿河・遠江は不作ではなかったが、東国から売られてくる米はなかった。
逆に、去年の冬から相模と駿河は伊勢から米を買い入れている。
俺は西国の米を仕入れて、高値の売らせて頂いた。
俺もかなり儲けさせて頂いた。
つまり、今川家には当分の間は兵糧に困らない。
できれば、米を止めて今川家の動きを封じたい所だが、織田家に米を買い占めるほどの資金力はない。
今川家から銭をむしり取ったと褒めてくれ。
しかし、親父や信長兄ぃに知れたら大目玉である。
この案件は秘密だ。
去年は今川の好きにやられた。
刈安賀の戦いの後に寝込み、しばらく部屋に閉じ込められ、俺は働かない時間を満喫した。
ゴロゴロしながら思い付いた。
親父が美濃攻めをしていた時、清須が寝返るのをどうして知る事ができたのか?
楓を呼んで調べさせた。
五条川付近の河原者が清須の様子が変だと知らせてくれた。
それは承知していた。
今回は具体的に“何が変だったか”を調べさせた。
美濃に出陣していない家から大量の矢と鎧の注文があったのだ。
矢の羽や鎧の皮は河原者が用意する。
矢や防具を揃えるには、今日明日で準備できない。
余裕をもって注文する必要がある。
つまり、河原者への注文で戦の準備をしているかを知る事ができるのだ。
千代女を呼んで、育てている“歩き巫女”を使って駿河・遠江・三河の河原者から情報を集められないかと尋ねた。
「申し訳ございません。まだ、使いモノになる状況ではございません」
「無理か」
「兵大夫叔父上に相談されてはいかがでしょうか?」
「兵大夫」
「京で若様と同じような事を準備されています」
「呼んでくれ」
すぐに兵大夫は甲賀から駆け付けてくれた。
兵大夫には西村-貞喜という商人の知り合いがいた。
貞喜は藤原淡海公の末裔であり、春日神社の若宮祭の時に興福寺衆徒の供進する千切花の台を毎年作成して奉納していた一族であり、桓武天皇と一緒に京に移住した。
しかし、応仁の乱で店を失い、甲賀に避難していた。
貞喜の店を再建する資金を提供する変わりに、六条三筋町に『輪互屋』という名の店を出すのを手伝ってもらった。
美人を傾城と呼び、そんな美人遊女屋が集まる遊郭を傾城町と呼ぶ。
京の傾城町は六条三筋町にあったからだ。
輪互屋は、京、堺、近江観音寺の三箇所に店を出していた。
「なるほど、相模、遠江、三河の河原者と連絡を取りたい訳でございますな」
「そうだ。今川の動向を探れとは言わん。戦の準備をしているかを知りたい」
「問題ございません。すぐに相模、駿河、遠江、熱田、伊勢に店を出しましょう」
「すぐにできるのか?」
「京女は地方で人気がございます。すでに権大納言正親町三条-公兄様の推薦で、今川の寿桂尼様から店を出す許可は頂いております。また、そこに目を付けた堺の商人の支援をもらっております。出店を疑う者はおりません。」
「権大納言の推薦か」
「公兄様は天文16年に甲斐に下向されていましたが、元関白二条-尹房様の頼みに京に戻っておりました。甲斐や駿河に顔が利くお方です」
「よく頼めたな」
「貞喜殿は公家ではありませんが、名家です。ほとんどの公家様と親しくされているのです」
貞喜の一声で京の美人が集まるそうだ。
輪互屋は堺、近江、美濃、伊勢、尾張、摂津、播磨、若狭、越前、駿河、相模に美人を送り、遊郭の店を広める計画を立てており、すれに公家様を使って大名に許可を取り付けていた。
俺が出した潤沢な資金を元手にはじめ、遊郭拡大に天王寺屋が賛同し、魚屋、納屋などの堺商人も融資を表明したので、資金も困らないそうだ。
「兵大夫、遊郭を作って終わりではないだろうな」
「もちろんです。京の美人はどこへ出しても売れっ子となります。そして、地方の美人を京に集めます。これで人の行き来が自由に行えます」
「もう一つの情報網を作るのだな」
「はい。そして、木を隠すならば、森の中。人を隠すなら、人混みへ。忍びの女を隠すなら、遊郭が一番なのです」
「忍びを使って情報を操作する気か」
「お察しの通りです。情報を集めるのも流すのも忍びですが、伝えるのは何も知らない遊女です。そして、千代女から相談された歩き巫女ですが、遊郭の見習いとして歩き巫女で使うのはどうでしょうか」
「そんな事ができるのか?」
「尼寺を一つ取り込めば、問題ありません。河原者から遊女になる女を捜し、手解きを終えた見習いの遊女を歩き巫女として町や村へ派遣する。しかも色々な地域の女を混ぜれば、尾張の女が混ざっても不思議ではありません。むしろ、知人がいない土地の方が働き易いでしょう」
兵大夫が次々を思いつく事をしゃべり出した。
俺は兵大夫に経済学や情報価値を突き詰めて話した記憶はない。
俺の言葉の端々から経済論や情報操作に気づいた兵大夫から様々な質問をされた。
一を聞いて百を知る。
気持ち悪いほどに、頭の回転が速い気がする。
話から一月も欠けずに、駿河、伊勢、熱田に店を出した。
各地から女を集め、歩き巫女として町や村は放ち、新たな人材捜しに精を出す。
一見、商売熱心な商人にしか見えない。
あれが俺の息が掛かった甲賀衆と知る者はほとんどいない。
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小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
『イージス艦長、インパール最前線へ。――牟田口廉也に転生した俺は、地獄の餓死作戦を「鉄壁の兵站要塞」に変える』
月神世一
SF
【あらすじ】
「補給がなければ、戦場に立つ資格すらない」
坂上真一(さかがみ しんいち)、50歳。
かつてイージス艦長として鉄壁の防空網を指揮し、現在は海上自衛隊で次世代艦の兵站システムを設計する男。
背中には若き日の過ちである「仁王」の刺青を隠し持ち、北辰一刀流の達人でもある彼は、ある日、勤務中に仮眠をとる。
目が覚めると、そこは湿気と熱気に満ちた1944年のビルマだった。
鏡に映っていたのは、小太りで口髭の男――歴史の教科書で見た、あの「牟田口廉也」。
しかも時期は、日本陸軍史上最悪の汚点とされる「インパール作戦」決行の直前。
部下たちは「必勝の精神論」を叫び、無謀な突撃を今か今かと待っている。
(……ふざけるな。俺に、部下を餓死させろと言うのか?)
現代の知識と、冷徹な計算、そして海自仕込みのロジスティクス能力。
すべてを駆使して、坂上(中身)は歴史への介入を開始する。
精神論を振りかざすふりをして上層部を欺き、現地改修で兵器を強化し、密かに撤退路を整備する。
これは、「史上最も無能な指揮官」の皮を被った「現代の有能な指揮官」が、確定した敗北の運命をねじ伏せ、数万の命を救うために戦う、逆転の戦記ドラマ。
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?
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