アベレーション・ライフ

あきしつ

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五月:開戦

第21話:何のつもりだ?

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──耳障りな歓声が脳内に鳴り響く。快はこの感覚が好きではなかった

天才だと、そう何度言われたか分からない。自分にそんな自覚は全くないというのに。称えられる時はいつだってこの歓声が渦巻く中心に快は直立していた。

高校に入学し、何かが変わると思っていた。だが結果として変化は訪れなかった。登下校の通学路や廊下で上手くなりたい、強くなりたいと懇願する有象無象に腹を立てていた。本当に恵まれた人間は理解しがたい苦悩を持っていること、それらを分かれと言いたかったわけではないが。正しき強さとはなんなのか、勝つことが正義なのか、敗者は悪なのか。それが、それだけが分からない。そして強者であることを鼓舞する体育大会は今からようやく本番を迎えようとしていた。

『それでは決勝トーナメント、即ち御前試合を始める前に軽いルール説明とトーナメントの発表しちゃいたいと思いまーす』
不意に実里のアナウンスがスタジアム内に響き渡り、無意識にスピーカーを見上げる。白い拡声器に似た構造のスピーカーから場内全域にアナウンスが鳴り響く。
『ルールは至ってシンプル!戦って勝つこと!やりすぎでなければその手法は問わないわ!勝利の条件は相手の降伏か気絶!続いてトーナメントに至っては本部テントの右横に貼っているので自分で見てくださーい』
トーナメントはAリーグ、Bリーグの2つに分かれており、両リーグ10名ずつで試合を行う。先行はAリーグ。

だが電光掲示板に表示される決勝出場のメンバーを見て快は違和感を覚え、それを言葉にする。
「なんで運聖が出てんだよ。お前望美にボール渡したんじゃなかったっけ」
「ああ、あのあと見つけただけだよ。折角カッコつけたのによう!」
周りから見れば、不謹慎なイチャつきを本人はカッコつけと捉えているらしい。まあ運聖らしいと言えば運聖らしいが。

そして同時に電光掲示板の液晶が傍線の複雑に交わる──
トーナメント表が表示される。


快の最初の相手は薔薇解華──嫌な奴に当たったなと快は顔を引き締める。とはいえ快はBリーグ出場のようなので精神統一の時間は充分過ぎるくらいに確保できる。
「おっす快。お互い大変だねえ…」
「うるせぇシード!」
怜奈は一回戦を不戦で突破出来る。対戦数が多いほど削られる体力が多いのは当然であり、決勝に近づくほど消耗させられるのがトーナメントのやらしい所だ。そんな最低限の楽が出来る怜奈のヘラヘラとした態度に快は怒声で返す。
「ハッハハ、でも私だって大変だよ!柔也が来ても運聖が来ても油断なんかできない。そっちこそ薔薇ちゃんに負けるんじゃないの?」
「ぐぬぬ…確かにアイツは何しでかすか分からない…」
「ま、お互い頑張ろーぜ」
爛漫な笑顔を見せ、手を振った後で望美や繭、女性陣の元へ駆け寄っていく。その小さく細い背中を見つめ頭を掻きながら「ああ」と、ただ一言だけ発した。

そして──
実里のアナウンスを合図に舞台を囲む形で、紅く猛々しい炎が上がる。
『それでは長らくお待たせいたしました!それではAリーグ第一試合!雪原冬真!VS!遊佐梳賦斗!!』
両者が登壇する。互いに軽く体を動かしながらその定位置に移動する。炎はより一層唸りをあげ燃ゆる。
「あなたと戦うのは随分と久しぶりな感じがしますね」
「そうだね、初戦が君で僕も正直戦慄したさ」
一見ただの会話にも聞こえるが、快には分かる。2人が交わす心の会話を。
『それでは~?レディィィ…ゴォォォォ!!!』
実里のアナウンスが脳に響く。これを室内で食らえばひとたまりもないだろう。
先に動いたのは冬真だった。氷塊が勢いよく梳賦斗に接近していく。たった一撃で周囲の気温が一気に下がったのを快は肌で感じ、白い息を吐く。
「"円転回避"!」
梳賦斗はそれを身を翻して避ける。硬い地面を足で思い切り蹴り、冬真の氷結を回避しながらその距離を鼻先まで詰める。
「"拳撃・連撃の型"!」
梳賦斗の右腕が虹色に発光する。左手で冬真の胸ぐら掴み、虹色の手腕で乱打を顔面に食らわせる。
(手応えはあった。しかしそれでも反動が少なすぎる。氷から発生する気体…のようなものと殴った際に発生した土煙で一瞬視界を奪われたが、冬真は影だけでも判断出来る程に怯んでいない。)
「初手は相殺と読んでいましたが、回避は想定外でした。しかし氷結を想定して片手の攻撃で責めてくるのは厄介です。ですがそうでなくてはつまらない」
快と祐希、怜奈、電樹と冬真がクラスの中でも頭一つ飛び抜けているのが梳賦斗も理解していた。だからといって自分が弱いとも思っていない。梳賦斗は冬真の氷結を警戒し、後方へ飛び退いて腕にかけたスキルと同様のものを足にかける。脚力を上昇させ、地を抉り、浮いた破片を蹴り飛ばし牽制する。
「冬真ァ!」
瞬きの速度で腕にスキルをかけ直す。その拳で再び地を抉り礫を飛ばす。その1つが冬真の額に命中し、冬真はぐらりと体勢を崩す。梳賦斗はその隙を逃さない。逃せない。
「"拳撃・豪傑の型"!」
礫を投げつけながらも冬真との距離が眼前に迫ったところで、
「うらぁぁぁぁぁぁ!!」
これが今出せる本気だった。スキルをかけた、それも最高級にレアなものを、腕で冬真の左頬を抉る。冬真は「か、ふ……っ」と小さな呻き声をあげる。
だが梳賦斗はその拳を振り切れない。何か硬い物が、冬真の左頬を守っている。氷程度なら砕けるはずだった…それではない何かだ。記憶を巡らせ当てはまる冬真の異能力で可能とする氷結以上の防御力を持つそんな力を探る。──そして答えは出た。
「ま…さか……」
冬真は梳賦斗の手首を掴み、凍てつかせる。「龍鱗…」と小さく呟くと冬真は逆の手で梳賦斗の肩を掴む。
梳賦斗は自分肩を掴むその手に一瞬目を配らせてしまう。そして後悔する。あくまでそれは終わった後に感じたことだが。肩を掴む手に視線が向いたその一瞬、
「"氷結世界・刹那"」
視界から消えていた手首の、凍てついていた氷が一気にその大きさを変える。瞬き以下の速度でそれはまさしく刹那と呼ぶに相応しい、周囲を氷結世界に変える技だった。
「う、ぁ……」
梳賦斗は冷たき氷の中で小さな、声にならない声で呻き声を上げる。全身を凍てつかされ、身動きのとれない梳賦斗はもう、降参せざるを得ない。
「あなたの、敗けです」
「……ちくしょう…」
冬真はくるりと振り返り、物言わず退場しようとする。その背中に向かって梳賦斗は声をかける。
「待って…最後の力は…まさかとは思うけど…」
その言葉を受け、冬真は梳賦斗に背を向けたまま、返答する。
「……察して下さい」
冬真はそうとだけ答え、本当に何も言わずにその場を立ち去る。刹那の氷結攻撃に呆気を取られていた実里はゴホンと咳払いし、リザルトを発表する。
『え~何やら一瞬で全く見えません…というよりは反応出来なかったのですが……勝者は雪原冬真ァァァ!!』
どっと観客が湧く。快はその歓声に鬱陶しさを覚えるが、それよりも冬真の力が気になっていた。以前にも似たような動きや、妙に体が固いと感じたこともあったが。聞く限り梳賦斗は何か知っているようだった。異能力以外にも何か隠しているということだろうか。快は1人腹を立てているように見える電樹に気づかなかった。


「よっ」
「……………なんですか」
試合を終え、客席への通路を歩く冬真は声──宮川電樹に呼び止められ、訝しげな態度で振り返る。そのまるで目の敵に遭遇したような態度に対して電樹はヘラヘラとして返す。
「まあそうイラつくなよ。初戦突破おめでとうを言いに来ただけだ」
「……だけ?」
「ん~?」
電樹はニコリと微笑みながらこちらに歩み寄ってくる。そして、
「──!?」
冬真の眼前から電樹が瞬時に消え失せ、気づいた頃には冬真の右頬を電樹の蹴撃が貫いていた。掠めた蹴りで切れた頬から遅れて血が流れる。
「──何のつもりです?」
「そっちが何のつもりだ?モブの多い体育大会で、"氷龍"の力を使うってことは分かってんだよな?梳賦斗にあの力は使うべきじゃない」
冬真は無言で血を拭うと、抵抗することなく電樹の言葉に続く。
「言いたいことも分かります。あなたにとってそれが過去の傷だということも。ですが私にとってはそうではない。ですので──」
冬真は電樹を振り返り、真っ正面に見据えて、言葉を紡いだ。
「あなたに"氷龍"をぶつけます。ですので、過去は一旦忘れ、あなたも私にぶつけて下さい。"雷龍"を」
電樹は冬真の顔を数秒見つめ、「ヘッ」と鼻で笑い両手を挙げる。
「宣戦布告のつもりかよ。いいぜ。ならお前も負けんじゃねえぞ」
「無論です」
2人は健闘を誓うと、互いに逆方向へ進む。
「……氷龍に雷龍…まさかな…」
そんな2人の会話を近くの曲がり角で盗み聞きしていた人物──鳥束は2人の言う、2匹の龍の名を呟いて、そのまま通路の奥へと消えた。


「すみません、体に異変はありますか?」
保健室に直行し、中にいた梳賦斗を冬真は案じる。いくら氷とはいえ下手なことをすれば命に関わる。凍傷、という症状があるように、冬真の氷を全身に受けるとなると内部から神経が壊死していき、その部位の切断や離断が必要になるほどだ。
「あ、ああ大丈夫だよ。少し焦ったけど」
ベッドに腰をかけた梳賦斗は手元のガーゼを弄りながら、窓の外を眺めながら言う。
「嫌な予感がする…大切で…当たり前にあると思っていたやつがぶっ壊される…そんな予感がさ」
「それは…分かります…皆が口を揃えて言う。ですが、何かが起こる保証はありませんし、私はこれで。あなたに恥じぬ戦いを」
そう言って冬真は立ち上がる。梳賦斗を背にドアノブに手をかけたその時、名前を呼ばれる。
「冬真……」
「なんです?」
振り返って声の主、梳賦斗を見ると震えた手つきで窓の外を指差している。
「あれ…何?」
どうせ見たことない鳥でも、と思い知識のなさに多少呆れつつ外を、彼方を見やると
「──な…」
決して近くではないが、奇妙な空色と、どす黒い血のような色彩感の雲が渦巻いている。冬真はそれを見て、かつてないほどに戦慄する。


冬真が客席に戻る頃には既に電樹が試合を終えていた。冬真は空いている席…丁度快の横に座る。物言わず座ると快は少し肩を震わせてこちらを見る。
「結果は?どうなりましたか?」
「ああ、灰崎と電樹は両者共に瞬殺。まあ生徒会弱すぎな。なにもさせずに終わらせてた」
「つまり私の次の相手は有都、それに勝てば灰崎ですか…手を緩めてくれませんね」

『さあテンポよく行きましょう!つづいてはぁ?』

死した戦士が、
『妖怪・墓場霊太!VS?』

願いを叶える賢者が、
『賢者・永野望美ィィィィ!!』

互いにぶつかる

──Aリーグ一回戦最終戦開始──
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