転生天馬は乙女に寄り添う

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第一章

初めての戦闘は人助けから

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 結構歩いた。
 既に日は沈みかけて空は綺麗な星が煌めく紺とオレンジのグラデーションになっている。
 散策の結果、一応降りられそうな場所はいくつか見つけたけど、断崖絶壁に近い場所を死と隣り合わせで降りるしかなさそうだった。

 ペガサスなんだから、空を自由に、飛びたい……なぁ…………。
 ……よし。こういう時は先人(大人)に聞くべきだな。


(《交信コンタクト》)


((「……母さん、ちょっと聞きたいことがあるんだけど、今時間平気か?」))

((「すぐに参ります」))

((「え? 俺の居る場所分かるの?」))

((「……王に、飛ばしてもらいますので」))



 っあ(察し)。
 夫婦仲睦まじい時にスミマセン……。

 数分後、目の前の空間が歪んで、そこから母さんが出てきた。

 空間魔法だ……凄い、格好いいな。
 俺もいつか空間転移とか空間収納とか使いたい。



(「次期王、お待たせしました」)

(「いや、俺の方こそ……なんか、悪いな。王は、大丈夫か?」)

(「意味を測りかねます」)

(「何か、大事な話とか……あったりとか……その…………」)

(「特に。次期王の事について少し話していただけなので大丈夫です」)



 気を使っているのか本当のことなのか分からないな。
 いや、人間じゃないし……裏とかは無いはず……。
 でも、次期王の事って俺の事なのか俺が生まれてくる前の次期王の事なのかは分からないな。

 ここで悩んでも仕方ない。それに、俺はあいつらを探しに行くから、ここのことに執着しても意味ないだろ。



(「じゃあ、本題な。俺も空を飛びたいんだけど、飛行訓練っていうのか? それを頼みたい」)

(「飛行、訓練。ですか?」)



 あれ? 俺、変な事言った?
 母親の表情が困ったような顔になってる。
 馬も表情変わるんだ……。



(「次期王には、まだ早いかと……」)



 あ、そういうことか……。
 確かに生まれて1日も経ってない俺が空を飛びたいって、まあ無謀な話だよな……。



(「成長するには……」)

(「基礎レベルを上げれば自ずと強力な肉体も手に入るでしょう」)

(「レベル上げか……。俺、強くなれるかな?」)

(「ふふっ……っあ、失礼しました」)

(「ん? なんで笑った?」)

(「いえ、なんでもありません。ただ、貴方様は御自身の力をもっと知った方がよろしいですね」)



 規格外、なのか……?



(「そうか。分かった。あ、あと、この山から降りるには空を飛ぶ以外でどうしたらいい?」)

(「山を、降りるのですか?」)

(「そのつもり」)

(「王が、許可するとでもお思いですか?」)

(「王は、俺を必要としてるのか?」)

(「それはっ……! ……この、山に、地上へと繋がる洞窟があります」)



 反射的な否定なのかなんなのか……。
 母親の反応に違和感があった。けど、空を飛ぶ以外にも下山方法があると分かったことで、その違和感はどうでも良くなった。



(「ありがとう」)

(「しかし、洞窟の中は強大な敵がいます。なので、私が──」)

(「付いてくる……なんてのは要らないから」)

(「なぜ、とお聞きしてもよろしいですか?」)

(「……俺の戦いだから。誰かに守られていたようじゃ、俺は成長できない。それに、俺も男だし。母親と言えど女に守られるのは、俺のポリシーじゃないんだよ」)



 ……なんて格好付けたけど、ぶっちゃけ不安でしかない。
 けど、男は一度言ったことを引っ込めたりはしない。
 女に守られるなんて一番格好悪いこと。
 そうだよな? 父さん?



(「……何かあったら、すぐにお呼びください。《交信コンタクト》は、一度出会った個体ならば個別への使用も可能ですので」)

(「わかった。……ん? って事は、今の俺の《交信コンタクト》って全員に聞こえてたってことか?」)

(「私を思って使用なされたので、私にしか聞こえていませんが……王に、盗み聞きはされたでしょう」)



 盗み聞き? スキル……かも知れないし、俺の能力不足かも知れないな。



(「そうか、ありがとう」)



 来た時と同様に時空が歪み、こちらに頭を向けたまま後退して入っていった母親。

 ありがとう、この世界の母さん……。
 俺の味方が母さんだけしか居なくても、そのたった一人の味方がどれだけ心強いことだろうか……。
 いつか、あいつらを探し出したら、俺の第二の故郷であるこの場所に連れてくるよ。



 俺は、【自動地図】で周囲を埋めながら、見つけた洞窟に片っ端から足を踏み入れた。

 結局、行き止まりでしかない洞窟を三箇所踏破(笑)した俺は、日も落ちきって少し寒くなってきたから新たに発見した四つ目の小さな洞窟で一夜を過ごすことにした。

 わらの布団でも良いから、寝心地のいい場所で寝たかった……。
 あー、布団が、ベッドが恋しい……。
 早く人間になりたーい。

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 翌朝、魔物に襲われるかハラハラしながら眠った俺は日が上り切る前に目が覚めた。
 洞窟内は相変わらず暗い。まあ、暗いって言っても【暗視】があるからどうって事はない。
 何でレベル1にも関わらず他の魔物が襲ってこないのか不思議でしょうがないけど、今が大丈夫だからって気を抜くような馬鹿なことはしない。
 常に【索敵】と【魔力感知】を使って周囲の警戒を怠らないように、これからも油断せずに行こう。

 使って分かったけど、二つのスキルは微妙に違いがあるからな……。

 【索敵】は名前の通り俺以外、俺が仲間と認めた奴以外の魔物(多分人間も含まれる)の反応を直感的に知ることが出来る。【自動地図】との併用で赤い点で表示されるのはありがたい。

 【魔力感知】は魔力を有するもの全てを直感的に知ることが出来る。これは【自動地図】上には表示されることはなく、本当に「あ、あそこになんかある」って感じ。
 多分、魔法を使われたりしても反応しそう。

 あと、嬉しい発見が一つ。
 今俺が居る洞窟の【自動地図】が別のマップに切り替わった。
 世界地図から街地図になった感じと言えば分かるだろうか?

 もしかしたらここはダンジョンの一部なのかも知れない。

 そう思って【鑑定】をしてみた。



《ヘルブゴルト洞窟・山頂部=ステライト山脈の中を血管のように縦横無尽に掘られた洞窟。
 山頂部は比較的魔物が大人しい。
 トラバント大陸五大ダンジョンの一つで、ヘルブストの迷宮と呼ばれる》



 ビンゴ。
 異世界でお馴染み、ダンジョンと言えば強いモンスターとレアなアイテム。
 本来ならワクワクする展開のはずなんだけど……。

"山頂部は比較的魔物が大人しい"

 この一文がおかしい。
 普通、山頂付近って言ったらラスボスないし大ボス、中ボスが待ち構えてて、見事倒したらレアなアイテムや装備が貰えるというRPGの醍醐味。

 ……しかし考えてもみてほしい。
 今はゲームでもなく漫画や小説の世界でもない、現実真っ只中で死んだら即終了の人生。
 むしろ出生地の山頂部が強い魔物の巣窟じゃなかった事を喜ぶべきかもしれない。生まれた瞬間ドラゴンや悪魔とかに囲まれてなくて良かったと……。

 ぶっちゃけ俺は平和主義だしな。
 モットーは"やられたら倍で返す"だけど……。

 さて、洞窟内を進んでから大体1時間くらい経ったと思う。今のところ何事もなく順調に進んでる。それはもう怖いくらいに。



《ジーニス鉱石=トラバント大陸の一部の山にある珍しい魔鉱石。魔石との相性が非常に良く魔法付与された武器や防具、装飾品など幅広い用途に使われるが、扱いが難しく加工出来る職人は少ない》

《ホライズ鉱石=トラバント大陸の山にあるやや珍しい魔鉱石。魔石との相性が良く、魔法付与された武器や防具、装飾品に使われる》

《ナディル鉱石=トラバント大陸の山にある一般的な魔鉱石。一般的な魔法付与された武器や防具、装飾品に使われる》



 で、道すがら綺麗な鉱石を見つけて鑑定してみた結果がこれ。他にも金鉱石、銀鉱石、鉄鉱石、銅鉱石もあった。

 ……にも関わらず、結構進んでも【索敵】に敵が引っ掛からない。
 なんでだ?
 別に【威圧】使ってるわけでもないのに……。
 やっぱり野性的で本能的な何かか?

 洞窟内の違和感に首を捻っていると──。



「グゥォオオオーーー!!!」



 ──洞窟内を震わせるほどの凶悪な咆哮が響き渡った。
 地面が揺れてフラつきながらも倒れることはせず、しかし咆哮の衝撃で天井から垂れ下がっている鍾乳洞が落ちてきたのは避けられず傷を負ってしまった。

 っ痛……!
 HP減った? 減ったよな……。


(【鑑定】!)



HP体力:90/100》



 10?!
 今のでHP10減ったのか?!
 あ、でも【HP自動回復】のお陰で回復するか……。

 なんてお気楽に考えてたのも束の間。
 洞窟の奥から大量の魔力反応と【自動地図】に敵を示す赤い点がブワァーっとこっちに向かってくる。

 嘘だろ……?



「キィイーーー!!!」

「キャィイーーー!!!」

「キュキュッ!!」



 甲高い……と言うか超音波に近い鳴き声が洞窟内に反響して辺りがにわかに騒がしくなった。



「バウワウ!」

「ギャワン!!」

「クゥーン……」



 それと、まるで会話しているような犬の鳴き声と地鳴り。
 それが徐々にこっちに近付いてくる。

 あれ? これ、俺やばいんじゃね?

 そう思えたのも束の間。
 洞窟の奥から通路を埋め尽くす大量の魔物が押し寄せてきた。
 二車線道路なりの広さがあった洞窟の通路が血のように赤い蝙蝠こうもりとゴツゴツした岩のような犬で埋まり、俺はその波に呑まれるように元来た道を押し戻された。

 ちょっっっと待て!
 これはまずいだろっ!
 1時間の苦労が水の泡……っつうか、質量の暴力でHPが減るッ!!


(押すなっ! ちょっ…………テメェら! 邪魔だ!!!)



[【威圧】が使用されました]



「キィッ!?」

「キャウン!?」



 意図せずに【威圧】を使ってしまったようだ……。
 まあ、さっきまでバーゲンセールに群がるおばちゃん並みに押し寄せていた蝙蝠と犬が金縛りに遭ったように固まってくれたのは助かったけど。

 でも、【威圧】ってどうやったら解けるんだ?
 取り敢えず近くの奴らにガン見されてるし、謝っとこう。



(「えっと……すまん」)

「…………キィ」

「…………クゥン」



 伝わった……か……?



(「すまないついでに、【威圧】の解き方がわからないんだけど……大丈夫か?」)

「キィキィッ!」

「バウワウ、ワフゥ」



 何言ってるのかさっぱり分からん。
 多分【念話】が思ったこと、念じたことを伝えてるからだろうけど、向こうの言い分が言語でしか返ってこないからだろうな……。

 【威圧】、解除出来ないかな?



[【威圧】を解除しますか?]



(…………する)


 なんだこのタイミングの良いアナウンスは……。
 どっかから見てんのか?
 いやでも、心まで読めるっつうのは流石に……なあ……? プライバシー的に問題あるだろう?


(なあ、神様?)



[神へのアクセス権が一回あります。使用しますか?]



(……いらねえよ!)


 なるほどな。
 こっちの世界に転生して、きっと辰巳たつみ夏帆かほが神へのアクセス権を使ったんだろう。

 神へのアクセス権、か。
 それを使えば魔物との意思疎通ができるんだろうけど、そんな裏技チートはここぞと言う時に使うべきだ。

『切り札は先に見せるな。見せるなら更に奥の手を持て』

 俺の好きな漫画のセリフ。
 うろ覚えだけどそんな感じの事を言っていて、格好良くて今でも気に入ってる。
 マスターの店で初めて読んだけど、アレは面白かった。
 もう一回……いや、3回くらいは読みたいな。



「キィイ」

「バウゥ、ワフッ」



 もう戻れない前世に想いを馳せていると他の個体とは明らかに見た目もオーラも違う二匹が魔物の群れを掻き分けてやって来た。



(「お前、言葉が分からないのか?」)



 お、念話。ありがたい。



(「ああ。生まれてからまだ間も無くってな……」)

(「なん……だと? にも関わらず、私達を【威圧】で止めたというのか?」)

「ワフッ!」



 どうやら念話が使えるのは赤い蝙蝠だけっぽいな。



(「それより、そんなに慌ててどうしたんだよ」)

(「お前も聞いただろう。あの雄叫びを。アレはこの洞窟のボスだ。普段は中層から上層を縄張りにしているのだが、どうやらこの山に人間が入り込んで山頂を目指した折にアレの縄張りを荒らしたらしい」)

(「で、その人間達を追いかけてそのボスがここまで来たってわけか」)

「バフゥッ!!」



 俺の言葉を肯定するように犬が一声鳴いた。

 ……なんか、犬って呼ぶの抵抗あるよな。
 いや、犬だけど……ゴツゴツだし。
 蝙蝠だって鮮血って言葉がぴったりの鮮やかな赤だし。


(ってことで【鑑定】)



《種族:魔獣種 ロックドッグ
 LV:3
 HP体力:199
 PW攻撃力:162
 DF防御力:209
 SP素早さ:83
 MP魔力:108
 称号:『小隊長』
 スキル:【土属性魔法】Lv.2
     【心身】Lv.1
     【頑強】Lv.1
     【嗅覚強化】Lv.2
     【暗視】
     【準統率行動】
 スキルポイント:1300》



《種族:魔獣種 ブラッドバッド
 LV:8
 HP体力:93
 PW攻撃力:120
 DF防御力:80
 SP素早さ:168
 MP魔力:108
 称号:『班長』
 スキル:【風属性魔法】Lv.2
     【重力魔法】Lv.2
     【毒牙】Lv.3
     【危険察知】Lv.3
     【暗視】
     【念話】
     【吸血】
     【超音波】
 スキルポイント:800》



 覚えやすい名前で良かった。俺、人の名前覚えるの苦手なんだよな……。
 あと、隊長格なんだろうとは思ってたけど、『小隊長』と『班長』か。思ってたより偉くないな。



「グゥオオオオ!!!」

(「っな?!」)

(「まずい。雄叫びが近づいて来ている。お前達、さっさと逃げるぞ!」)

「ワオォオオン!!」

(「ペガサスの仔よ。お前も早々に逃げろ」)

(「あ、ああ」)



 ブラッドバッドとロックドッグは群を引き連れ洞窟の出口を目指して駆けて行った。

 俺も逃げるか……。
 折角下山できそうな洞窟に当たったと思ったのに、敵がいるなら仕方ないか……。

 そう思って体を出口に向けた時──。



「きゃあぁあああ!!!」



 っ悲鳴!?
 ……近い、か?
 …………くそっ!!

 俺は出口に行こうとしてた体を反転して悲鳴が聞こえて来た洞窟の奥へと駆け出した。
 そう時間をかけることなく、頭の中に表示されている【自動地図】に5つの緑色の点と、点滅している赤黒い大きな点が表示された。

 これは……。予想以上にまずい状況か?

 【自動地図】は敵を表す赤黒い点に緑の点が押されている状況をリアルタイムで教えてくれている。
 壁の向こう側、この道を左に曲がったらそこはもう戦場である。
 足を止めて呼吸を整えながらも、耳に届く爆音が心拍数を正常に戻してくれない。
 怒号と悲鳴と雄叫び。
 金属のぶつかる音。
 魔法を使っているのか爆発音や水音まで聞こえる。


(敵のステータスも分からない。襲われている側が善人とも限らない。でも、悲鳴は確かに女の人の声だった)


 ……くそっ! 俺は、フェミニストなんだよ!

 短く息を吐いて戦場へと足を踏み入れた。
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