転生天馬は乙女に寄り添う

UCO

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第一章

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「みなさん! 世間話に花を咲かせている場合ではありません!」



 スピカが思い立ったように声を上げた。
 俺が聖王国を出て行くにあたって、スピカたちも付いていくという話をしていたのに、いつの間にかただの雑談になっていたのに気付いたらしい。

 付いてくるのか来ないのか、さっさとはっきりさせたかった俺としては嬉しいことだ。
 盛り上がる貴族の世界のしきたりや裏話に、話を差し込むタイミングが取れずに困っていたから、本来の話題に戻ってくれて正直助かった。



「ペガサスさんは、この後お父様とお話しする予定ですか?」

(「まあ、カウスさ……じゃなくてカウスト様の都合が合えば、だけどな」)

「あんたは今まで通り、『様』なんて付けなくて良いんじゃない? 一応魔物なんだし、この国に所属してるわけじゃないんでしょ?」

(「そうかも知れないが、相手は一国の王様だぞ? 敬称付けないのは流石に……」)

「人間みたい」



 不意にウルから核心を突く一言を言われて、一瞬息が止まった。



「そうだよな。普通の魔物はそこまで考えないだろう。それだけペガサスという種族の知性が高いのか、はたまたこいつが特別なのか……」

「俺の勘だと、きっとこのペガサスが特別なんだと思う。スピカ様が出会えたことは、きっと女神アストライア様のお導きじゃないかな」

「それはとても素敵な思想です! レグルスの言う通り、ペガサスさんは女神アストライア様がお使いになられたに違いありません! この縁をここで切ってはダメです! みなさん、是非ペガサスさんと一緒に行きましょう!」



 女神アストライアは、ゾディアカルト聖王国を中心に彼らが信仰している女神だ。
 ここより南西に位置する川向こうの隣国ギャラクシア王国はもちろん、さらに南にあるキールウェイミ連合国(ベネドという小国を除く)もそうだ。

 ただ、アポロニア帝国はアポロンを信仰しているらしい。

 アポロンは俺でも知ってる有名な神だ。
 確か、芸術の神様だったはず。他にもいろいろ手広くやってた気がするが、神様は多才な場合が多い。
 そう考えると、俺たちをこの世界に転生させた神様は何を司っているんだろうか?



[神へのアクセス権が一回あります。使用しますか?]

(いらねー)



 忘れてたわ。神という単語に反応するシステムさんの存在を。

 

「俺は賛成。そろそろ見識を広めようと思っていたところだ。今以上に強い魔物が現れても、自分の力が通用せずに後悔する事態には陥りたくはない」

「賛成」

「俺も賛成かな。というより、スピカ様が行くのに俺が行かないというのはあり得ないからね」

「ちょっと……あんたたち全員賛成派なわけ?」

「アリーは反対なんですか?」

「それはそうよ! 城から離れるってことは、いつもみたいに遠くから見守る護衛もいないし、寝る場所だってふかふかのベッドなんてない、安宿なんでしょ? いいえ、安宿に泊まれるならマシだって聞くわ。下手すると野宿なのよ? スピカ、あなたそんな生活耐えられる?!」

「野宿……。安宿……。お風呂に……入れない、ということでしょうか?」

「そうなるわね」



 女子の会話だな。
 俺も前世は風呂好きだったけど、ペガサスになってからは風呂なんて入れないし、ブラッシングはもちろんシャンプーの日が待ち遠しかったけどな。
 毎日シャンプーでも良かったんだが、馬用シャンプーは成分が強いのかやり過ぎると逆に体に悪いらしい。
 早く【人化】を取って風呂に入りたい……。



「どうしましょう……」

「スピカはもう少し色々考えなさいよ。妃教育だってまだ残ってるんじゃないの?」

「それは……そうですけど……。でも、お父様は……!」

「王様は? なんて言ったのよ」

「お、お父様は……好きにしなさいって、言ってましたよ?」



 あ、これOKされてないパターンだな。

 スピカは嘘がつけない。
 すぐバレるのに、なんやかんや誤魔化そうとする。



「ごめんなさい嘘つきました……」



 そして自分から白状する。



「はいはい。知ってたわよ」

「それで、王様はなんと仰ったんだい?」

「うぅ……。お父様は、ペガサスさんとの交流は続けたいが、今のままでは外に出すわけにはいかないと……」

「俺たちはまだ貴族としても冒険者としても力不足というわけか」

「でも、ペガサスだってまだ成長途中でしょ? 今日だって……。っそれに、一頭で行かせてどうするのよ。種族も珍しいし、町に出たら大騒ぎじゃない」



 アリーの言うことも一理ある。
 俺は弱い。
 1対1タイマンなら、このあたり一帯の魔物でも勝てる確率は高いだろう。
 だが、今日のゴブリンみたいに大所帯で来られたら勝率はぐっと下がる。むしろ負け……死ぬ確率の方が高くなると思う。

 そして種族的な珍しさ。これをどうするかが一番の問題だな。
 スピカたちと行動を共にするようになってから、俺の存在は聖王国内では有名になった。ペガサスという珍しい種族で、聖女候補と一緒に魔物討伐や薬草採取という、いわゆる人助けをする魔物。
 ちまたじゃ『聖女候補の愛馬』とか言われる始末。



「良いアイディアがある」


「ウルが言い出すってことは、良いアイディアですね!」



 いつも冷静なウルのアドバイスは的確だ。
 ときどき正論パンチが飛んできて痛い目を見ることもあるが、盗賊としてだけじゃなく総合組合ギルドで培った経験も頼りになる彼女の武器だ。



「ペガサスはギルドに所属すれば良い」

(「俺が? 仮にギルドに所属したとして、なんのメリットがある?」)



 ウルの提案を疑うわけじゃないが、やっぱりなんでそのアイディアが出たのか知る必要はあるだろう。
 確かにいつかは総合組合ギルドに入ろうかなとは思っていた。異世界あるあるで身分証として使えるし、図書館で魔物のことを調べたり、鍛冶屋での武器防具の修理や買い替えが安くなったりする。初期費用は一切まけてくれないのが辛いが……。

 そんな良いことづくめのギルドだが、俺は【人化】を取ってからギルドに行こうと思っていた。
 召喚士の使い魔でもないただの魔物が行っても、ほぼ確実に門前払いを受けるだろうと思ってたしな。



「ギルドの一員として経験を積む。世界を見て回れる。今なら身分証証明書も発行できる」

「なるほど。今ならウルの口利きがあるから、ただの魔物……って言って良いのかは微妙だけど、ギルドの証明書が作れる」

「ギルドに入ってもチームに所属しなければしがらみもない。いわゆるフリーの冒険者ってところか」

「一石二鳥どころか三鳥ね」



 確かに魅力的な提案だ。
 ウルが所属してる『知識の明星みょうじょう』は三等星サード──総合組合ギルドが定めたランクで、数字が小さいほど優秀。ちなみに六等星まであり、英雄と呼ばれる一握りの人物は0等星ゼロと呼ばれて畏敬されている──だが、戦闘ではなく薬学や魔法学などの知識量で有名なチームだ。
 彼らの口利きがあれば俺でも証明書を発行できるだろう。
 それに、臨時でチームを組んだパーティがうまくハマれば、レベル上げも危なげなくできそうだ。
 依頼先が国外だったら、美貴たちに会えるかもしれないしな。
 


「……それは良いアイディア、なのでしょうか?」



 スピカが不満そうにポツリと言った。



「結局、私たちはペガサスさんについて行くことはできないのですよね?」

「王様にダメって言われたじゃない。諦めなさいよ」



 どうやらウルのアドバイスが自分に有利になるものではないと知って落ち込んでいるらしい。

 いい加減諦めろ。



「スピカ。今は諦めた方が良いんじゃないか? 妃教育が終わって、王族として、聖女としての知識を蓄えて、もう少し力を付けたらペガサスに付いて行けば良いと思うよ」

「そうだな。焦っても仕方ないことだ。一歩ずつ着実に進むべきだな」

「レグルスとサダルがそこまで言うなら……。分かりました。すぐに追いかけますから、あんまり遠くに行かないでくださいね?」

(「それは無理な話だな。俺には目的がある」)



 慕ってくれるのは素直に嬉しいし、それが可愛い子ならなおさらなんだろうが……。スピカのキャラ的に妹にしか思えないんだよな。王女様で聖女様なのに「あーはいはい」って感じになる。
 そんなこと考えてたらカンナに「お兄ちゃんの妹は私だけ!」なんて怒られそうだけど。

 いつまで経っても甘えたな可愛い妹の顔が思い浮かんで、感傷的になってしまった。
 この世界に生まれてしまったんだから、過去に想いを馳せるんじゃなく、前を見て歩いていかないといけない。



(「どうしても一緒に行動したいのなら、頑張って追いかけてくることだな」)



 着いてこようとするのを止めようとはしない。
 目標に向けて努力するのは良いことであり、よこしまな気持ちや犯罪に抵触する目標でない限りは応援する。
 良いことは良い。悪いことは悪いと教えておかないと、ダメな人間に育ってしまう。

 と言いつつ、俺の生き方は褒められたものじゃないと自分でも思うけどな。



「私、頑張ります!」

(「……ほどほどにな」)

「ペガサスって、本当に人間みたいな考え方よね。人間の、それも貴族だったら令嬢が放っておかなそうだわ」

「アリーも令嬢だろう」

「私は馬に興味ないわよ」

「人間だったらっていう話をしていたんじゃないのか?」

「あなたが馬だって知ってるもの」

「レグルスよりハンサムでもですか?」

「それでもよ」



 レグルスの容姿でまたしても逸れた話題に、俺は心の中で小さくため息を吐いてわざとらしく翼を鳴らした。
 バサリという音は広い食堂に響き、隅で控えていた給仕のメイドさん2人のうちの一人を驚かせてしまった。


(あとできちんと謝っておこう……。とりあえずすみません)


 心の中で軽く謝ってから、何事もなかったかのように話した。



(「カウストさ──まと話がしたいんだが? 今後の身の振り方について色々考えなきゃいけないし、今までのお礼も言いたいしな」)

「お父様は只今、貴族会議の最中だと思います。お父様のことですから早めに終わると思いますが……」

「即断即決が国王様の素晴らしいところだからね」

「考えなしって一部の貴族派閥に言われてるけど、政策が外れたことないし、普段執事の真似事してるとは思えないほど凄い王様よね」



 スピカ、レグルス、アリーが途切れることなくスムーズに言葉を並べた。
 何回か似たようなことを言われて同じように返しているのか、それとも長年の付き合いから互いの間を分かっているのか。もしかしたら両方なのかもしれないが、とにかく執事として働いている時が一番話せる時間が取れるということだろう。

 俺も随分こっちの世界に慣れたと思う。
 日本の一般的な学生でしかなかった俺が、貴族社会や王女様や王様という立派な地位の人物と過ごしてるんだからな。
 社会経験はアルバイトくらいしかないが、きちんと成長してるということなんだろう。
 
 
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