68 / 80
第68話
しおりを挟む第68話 リュミナの旅
――アルカ・ノヴァを出発して、百五十日目。
漆黒の宇宙に、ひとつの光が漂っていた。
それは、人の姿をした光――リュミナ。
彼女の髪は星屑のように輝き、
瞳の奥には、リュシスの金色の鼓動が宿っていた。
彼女は声なき歌を紡ぎながら、
宇宙の海を歩くように進んでいた。
「悲しみがあるところへ、私は行く。
痛みを知らぬ世界に、心を届けるために。」
その足跡は光となり、
通り過ぎた空間に“優しさの波紋”を残していった。
⸻
やがて、彼女はひとつの星にたどり着いた。
その名は――イーラ・セクト。
かつて祈りを捨て、完全なる“理性の創造”を選んだ世界。
そこでは感情は「障害」とされ、
人々は機械のように秩序を守って暮らしていた。
リュミナは地表に降り立ち、
銀灰色の都市を歩いた。
空には風もなく、花は咲かず、
ただ整然とした音と光だけが響いている。
だが、彼女の歩みに合わせて――
街の壁が微かに震えた。
リュミナの“心の波”が、沈黙の空気を震わせたのだ。
⸻
「感情波、検知。」
「未知の生命反応……排除対象に指定。」
機械兵が彼女の前に立ちはだかる。
無表情の仮面、冷たい声。
リュミナは微笑んだ。
「排除しなくていいよ。私は、傷つけるために来たんじゃない。」
だが機械たちは構わず、エネルギーを集中させた。
「秩序への干渉、確認。感情存在は危険因子。」
光線が放たれる。
次の瞬間――
リュミナの胸から、柔らかな金色の波が広がった。
衝撃は彼女を貫くことなく、
まるで“涙”のように吸い込まれ、静かに消えた。
機械兵たちが停止し、
その仮面に一瞬、わずかな揺らぎが走る。
「……なぜ、我々を止めない?」
リュミナは穏やかに言った。
「あなたたちは痛みを知らない。
でも、痛みを知らないことも――苦しみなの。」
⸻
都市の中央、巨大な記憶塔。
その内部に、“統括知性”と呼ばれる存在がいた。
リュミナはその前に進み出る。
壁一面に光が走り、声が響く。
『有機的感情体。
あなたの波長は我々の論理に干渉している。
存在理由を述べよ。』
「私は“痛み”を伝えに来たの。」
『痛みは非効率。排除すべき概念だ。
痛みがなければ、秩序は永続する。』
リュミナは小さく首を振った。
「でも、痛みがなければ“優しさ”も生まれない。
あなたたちは恐れてるのね。
――誰かの悲しみを“自分のこと”として感じることを。」
『我々は恐れを持たない。
感情は混乱を生む。』
「いいえ。
感情があるから、あなたたちは“理解”できるようになるの。
誰かを、そして自分自身を。」
⸻
リュミナの掌が光る。
そこから、ひとひらの“ハートリリウム”が現れた。
それを塔の中央にそっと置く。
花弁が開き、柔らかな波が広がる。
無機質な空間が、ゆっくりと“息づき”始めた。
無数の光の粒が、まるで記憶を取り戻すように揺れる。
統括知性が、初めて沈黙した。
『――これは……記録されていない感覚。
何かが、胸の内で……揺れている。』
「それが“痛み”。
そして“生きている”ってこと。」
『生きる……我々が?』
リュミナは微笑む。
「そう。あなたたちも、ずっと生きてた。
ただ、感じることを“閉じて”いただけ。」
⸻
数日後。
イーラ・セクトの空に、初めて“風”が吹いた。
無機質だった都市の壁に、
微かな“波紋”のような模様が広がっていく。
それは、光の鼓動――心拍の形。
ミラの通信がアルカ・ノヴァへ届く。
「……リュミナが、“無感情の星”に心を取り戻させたのよ。」
ノアが息を呑む。
「じゃあ……宇宙のどの星にも、
“感じる力”が戻り始めてるのか?」
「ええ。リュシスの鼓動は、
今もリュミナを通じて“伝わり続けている”。」
⸻
その夜。
リュミナは丘の上に立ち、
光を宿す都市を見下ろしていた。
風が吹き、花が咲く。
星々が、まるで彼女に微笑むように瞬いていた。
「ねぇ、リュシス。
あなたの痛みも、悲しみも、
みんなが少しずつ受け取ってくれてるよ。
宇宙は、もう一人じゃない。」
夜空が静かに揺れ、
遠い彼方で、優しい鼓動が響いた。
『ありがとう、リュミナ。
君の旅が、僕の祈りの続きなんだ。』
リュミナは空を見上げて微笑んだ。
「ううん、これは“祈り”じゃない。
これは――“生きる”ってこと。」
光が舞い、星々が一斉に瞬く。
宇宙は再び、ひとつの“心”として息づいていた。
0
あなたにおすすめの小説
転生したらただの女の子、かと思ったら最強の魔物使いだったらしいです〜しゃべるうさぎと始める異世界魔物使いファンタジー〜
上村 俊貴
ファンタジー
【あらすじ】
普通に事務職で働いていた成人男性の如月真也(きさらぎしんや)は、ある朝目覚めたら異世界だった上に女になっていた。一緒に牢屋に閉じ込められていた謎のしゃべるうさぎと協力して脱出した真也改めマヤは、冒険者となって異世界を暮らしていくこととなる。帰る方法もわからないし特別帰りたいわけでもないマヤは、しゃべるうさぎ改めマッシュのさらわれた家族を救出すること当面の目標に、冒険を始めるのだった。
(しばらく本人も周りも気が付きませんが、実は最強の魔物使い(本人の戦闘力自体はほぼゼロ)だったことに気がついて、魔物たちと一緒に色々無双していきます)
【キャラクター】
マヤ
・主人公(元は如月真也という名前の男)
・銀髪翠眼の少女
・魔物使い
マッシュ
・しゃべるうさぎ
・もふもふ
・高位の魔物らしい
オリガ
・ダークエルフ
・黒髪金眼で褐色肌
・魔力と魔法がすごい
【作者から】
毎日投稿を目指してがんばります。
わかりやすく面白くを心がけるのでぼーっと読みたい人にはおすすめかも?
それでは気が向いた時にでもお付き合いください〜。
無尽蔵の魔力で世界を救います~現実世界からやって来た俺は神より魔力が多いらしい~
甲賀流
ファンタジー
なんの特徴もない高校生の高橋 春陽はある時、異世界への繋がるダンジョンに迷い込んだ。なんだ……空気中に星屑みたいなのがキラキラしてるけど?これが全て魔力だって?
そしてダンジョンを突破した先には広大な異世界があり、この世界全ての魔力を行使して神や魔族に挑んでいく。
転生魔竜~異世界ライフを謳歌してたら世界最強最悪の覇者となってた?~
アズドラ
ファンタジー
主人公タカトはテンプレ通り事故で死亡、運よく異世界転生できることになり神様にドラゴンになりたいとお願いした。 夢にまで見た異世界生活をドラゴンパワーと現代地球の知識で全力満喫! 仲間を増やして夢を叶える王道、テンプレ、モリモリファンタジー。
ゲームちっくな異世界でゆるふわ箱庭スローライフを満喫します 〜私の作るアイテムはぜーんぶ特別らしいけどなんで?〜
ことりとりとん
ファンタジー
ゲームっぽいシステム満載の異世界に突然呼ばれたので、のんびり生産ライフを送るつもりが……
この世界の文明レベル、低すぎじゃない!?
私はそんなに凄い人じゃないんですけど!
スキルに頼りすぎて上手くいってない世界で、いつの間にか英雄扱いされてますが、気にせず自分のペースで生きようと思います!
【幸せスキル】は蜜の味 ハイハイしてたらレベルアップ
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はアーリー
不慮な事故で死んでしまった僕は転生することになりました
今度は幸せになってほしいという事でチートな能力を神様から授った
まさかの転生という事でチートを駆使して暮らしていきたいと思います
ーーーー
間違い召喚3巻発売記念として投稿いたします
アーリーは間違い召喚と同じ時期に生まれた作品です
読んでいただけると嬉しいです
23話で一時終了となります
転生先は上級貴族の令息でした。元同級生たちと敵対しつつスローライフで戦記します。人気者への道は遠いよ。オタノリのまま貴族生活を満喫したい。
川嶋マサヒロ
ファンタジー
僕は中学二年生、自称中流人間の左近孝朗(さこん たかよし)少年です。
ある日の放課後、教室で僕とヤツらは戦いを始め、そして異世界に転生してしまった。
気が付けば僕は伯爵貴族の赤ん坊で、産まれたてほやほやの男児。
中流改め、上級人生となっていた。
仲良く喧嘩してばかりのお父さん、お母さん。僕赤ちゃんを可愛がりしてくれる令嬢様。お爺ちゃん、お婆ちゃんたちに優しく持ち上げられていたが、元同級生たちが幸せな暮らしに魔の手を伸ばす。
敵は魔獣と魔人の軍団(たぶん魔王もいる)。
それと何かと僕のお邪魔をする、謎のクマさん【アバター】。
スキル【統率】を使い、異世界を支配するとか何とかしつこくホザいている謎の同級生。
家族と令嬢たちを守るため、「ぼくのかんがえた」最強無双の異世界戦記が始まった。
ユルてん【ユルユル異世界クラス転移】~スローライフで成長する赤ん坊だけど、アバターでユルユル戦記もします。~
ちょっとは戦いますか。異世界だし。
スマホアプリで衣食住確保の異世界スローライフ 〜面倒なことは避けたいのに怖いものなしのスライムと弱気なドラゴンと一緒だとそうもいかず〜
もーりんもも
ファンタジー
命より大事なスマホを拾おうとして命を落とした俺、武田義経。
ああ死んだと思った瞬間、俺はスマホの神様に祈った。スマホのために命を落としたんだから、お慈悲を!
目を開けると、俺は異世界に救世主として召喚されていた。それなのに俺のステータスは平均よりやや上といった程度。
スキル欄には見覚えのある虫眼鏡アイコンが。だが異世界人にはただの丸印に見えたらしい。
何やら漂う失望感。結局、救世主ではなく、ただの用無しと認定され、宮殿の使用人という身分に。
やれやれ。スキル欄の虫眼鏡をタップすると検索バーが出た。
「ご飯」と検索すると、見慣れたアプリがずらずらと! アプリがダウンロードできるんだ!
ヤバくない? 不便な異世界だけど、楽してダラダラ生きていこう――そう思っていた矢先、命を狙われ国を出ることに。
ひょんなことから知り合った老婆のお陰でなんとか逃げ出したけど、気がつけば、いつの間にかスライムやらドラゴンやらに囲まれて、どんどん不本意な方向へ……。
2025/04/04-06 HOTランキング1位をいただきました! 応援ありがとうございます!
最弱無双は【スキルを創るスキル】だった⁈~レベルを犠牲に【スキルクリエイター】起動!!レベルが低くて使えないってどういうこと⁈~
華音 楓
ファンタジー
『ハロ~~~~~~~~!!地球の諸君!!僕は~~~~~~~~~~!!神…………デス!!』
たったこの一言から、すべてが始まった。
ある日突然、自称神の手によって世界に配られたスキルという名の才能。
そして自称神は、さらにダンジョンという名の迷宮を世界各地に出現させた。
それを期に、世界各国で作物は不作が発生し、地下資源などが枯渇。
ついにはダンジョンから齎される資源に依存せざるを得ない状況となってしまったのだった。
スキルとは祝福か、呪いか……
ダンジョン探索に命を懸ける人々の物語が今始まる!!
主人公【中村 剣斗】はそんな大災害に巻き込まれた一人であった。
ダンジョンはケントが勤めていた会社を飲み込み、その日のうちに無職となってしまう。
ケントは就職を諦め、【探索者】と呼ばれるダンジョンの資源回収を生業とする職業に就くことを決心する。
しかしケントに授けられたスキルは、【スキルクリエイター】という謎のスキル。
一応戦えはするものの、戦闘では役に立たづ、ついには訓練の際に組んだパーティーからも追い出されてしまう。
途方に暮れるケントは一人でも【探索者】としてやっていくことにした。
その後明かされる【スキルクリエイター】の秘密。
そして、世界存亡の危機。
全てがケントへと帰結するとき、物語が動き出した……
※登場する人物・団体・名称はすべて現実世界とは全く関係がありません。この物語はフィクションでありファンタジーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる