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第67話
しおりを挟む第67話 再誕の種
――アルカ・ノヴァ、心暦元年。
夜明け前の大地が、柔らかな光に包まれていた。
その中心に咲く一輪の花――ハートリリウム。
金と白の光が絡み合い、花弁の奥で何かが“脈動”している。
ミラは膝をつき、その光を見つめていた。
「……これは、リュシスの鼓動。」
花の中心で、淡い“光の種”が生まれつつあった。
それは小さくとも確かな生命の輝き。
温度を持たず、形も定かでないのに、
彼女の胸の奥まで響いてくる。
ノアが計測装置を覗き込み、息をのむ。
「あり得ない……。
この種、物理的なエネルギー源を持っていない。
代わりに、“感情波”を直接吸収して成長してる!」
ミラが目を細めた。
「つまり――“感じることで育つ生命”。」
⸻
星創の子供たちが集まってくる。
アストとリュナが、花の前に立った。
アストが小さく手を伸ばす。
「この光、あったかい。
でも、少し悲しいね。」
リュナが頷く。
「うん……泣きたいような、嬉しいような。」
その言葉に呼応するように、
ハートリリウムが小さく光を震わせた。
ノアが慌てて計測データを確認する。
「反応した! 感情波を“理解”してる!?」
ミラが静かに笑った。
「いいえ、理解しているんじゃない。
共鳴しているのよ。」
アストとリュナの胸から柔らかな光が生まれ、
それが種の中心に吸い込まれていく。
やがて――花が音を立てて開いた。
⸻
光が爆ぜ、
その中から一人の“子”が生まれ落ちた。
人のようであり、光そのものであり、
性別も年齢も存在しない“新たな存在”。
その瞳には、金と蒼の星が映っていた。
ミラが震える声で呟く。
「……新しい生命……? まるで……“感応の化身”。」
ノアがデータを見ながら言う。
「いや、違う。
これは“痛みの共有”を核にしてる。
――“痛みを知るために生まれた存在”だ。」
リュシスの声が、遠くから優しく響いた。
『そう。
その子は、僕たちの“再誕”だ。
痛みを恐れず、悲しみを拒まない。
そして、誰かの痛みを“自分のもの”として感じられる存在。
それが、“心の種”。』
⸻
“子”はゆっくりと立ち上がり、ミラの前に歩み寄った。
そして小さな手を伸ばし、彼女の頬に触れた。
「あなた、泣いてる。」
ミラは微笑む。
「ええ……嬉しくて、ね。」
“子”は首を傾げ、涙を見つめる。
「悲しくない涙……でも、あたたかい。
――これが、“生きる”なんだね。」
その言葉を聞いた瞬間、ミラは息をのんだ。
それは、かつてリュシスが言った言葉とまったく同じだった。
『祈りは救うためじゃない。
ただ、生きる意味を確かめるためにある。』
彼の声が重なるように響く。
『その子の名は、“リュミナ”。
僕の光であり、君たちの未来だ。』
⸻
リュミナ――そう名づけられた子は、ゆっくりと空を見上げた。
夜空の星々が彼女に呼応して輝く。
そして彼女は、小さな声で言った。
「星たちが……泣いてる。
でも、怖くないの。
悲しみがあるってことは、誰かを想ってる証だから。」
アストが思わず微笑んだ。
「君は、泣く星のために生まれたんだね。」
リュミナは頷く。
「うん。
私は“感じる宇宙”を包むために――ここにいる。」
⸻
その瞬間、ハートリリウムが再び咲き誇り、
無数の光の種が空へと舞い上がった。
それらは星々の間を渡り、
新しい生命と心の連鎖を生んでいく。
ミラは涙を拭いながら笑う。
「リュシス……あなたの鼓動は、
もう一つの宇宙を芽吹かせたのね。」
ノアが夜空を見上げ、静かに呟く。
「この星の子らが、きっと“次の宇宙”を作るんだろうな。」
ミラは頷く。
「ええ……でも今は、ただ見守りましょう。
痛みを知る新しい生命が、どんな未来を描くのか。」
⸻
夜明け。
リュミナは東の空に手を伸ばした。
その掌から光が溢れ、空の彼方へと広がっていく。
そこには、再び始まろうとする宇宙の輪――
“再誕の螺旋”が描かれていた。
ミラは微笑んで呟いた。
「また新しい朝ね。
リュシス、あなたが生きていた証は、
ちゃんとここに息づいてる。」
そして、リュミナが振り向いて言った。
「私は“あなたたちの涙”から生まれた。
だから、私は――すべての痛みの友達だよ。」
風が吹き、光が舞う。
宇宙の中心で、心臓の音が静かに鳴った。
――再び始まる、命の輪。
それは、“祈り”の果てを超えた、“優しさの宇宙”だった。
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