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13話
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第13話 「神々の議会」
——そこは、空でも大地でもなかった。
上下の概念が存在しない。
ただ、光と影と声だけが漂っている。
この場所は“現実”でも“夢”でもない。
神々の議会(かみがみのぎかい)。
神域の中でも最上層。
あらゆる存在の“法”が決定される場所。
無数の光球が、ゆらりと浮かぶ。
それぞれがひとつの“神”だ。
名を持つものもあれば、概念そのもののものもいる。
⸻
『——人間代表、神谷蓮。』
ひとつの光が低く鳴るように発した。
その声が、次々と他の光に伝播していく。
『人間が神域体に干渉』『しかも“殴打”』
『信じ難い』『ありえない』『面白い』
同時に、幾千の声が重なり、響き合う。
議会の空気が、音の圧力で歪んだ。
やがて、中央の巨大な光が、静かに浮かび上がった。
——監理主(かんりしゅ)・エリオス。
神々の中でも最古にして最高位。
「創造神」ではない。“観測”と“秩序”を司る存在。
『沈黙を』
その一言で、世界の音が止まった。
『処理者が破壊された。神谷蓮——彼は我々の“触れられない領域”に干渉した』
『罰を与えるべきだ』
『排除すべきだ』
『いや、観測を続けるべきだ』
『新しい“人間モデル”の兆候だ』
声が渦巻く。
裁くべきか、観察すべきか、利用すべきか——意見が割れた。
その中で、ひとつの女性の声が響いた。
『静かにしなさい。——あなたたちの“議論”は、いつも結果を出さない』
その声に、光がざわめく。
現れたのは、白銀の髪を持つ神。
淡い青の瞳。
その存在を見た瞬間、他の光たちがわずかに距離を取る。
エリシア。
以前、俺に語りかけてきた“神の一部”。
だが今の彼女は、“個”としてここにいた。
エリオスがゆっくりと言う。
『エリシア。あなたは彼と接触した。——どう見る?』
エリシアは目を閉じ、短く息を吐いた。
『……彼は、“バグ”ではない。
彼は、“意志”だ。』
『意志?』
『はい。あなたたちが切り捨ててきた“個の意思”。
それが、形を持って現れただけ。』
光たちがざわめく。
『神が“意志”を語るのか』『それは秩序の否定だ』『人間に肩入れする気か』
エリシアの瞳が、淡く光った。
『人間は、創造ではなく選択の存在。
選択がなければ、進化も、希望もない。
——神谷蓮は、その極致にある。』
エリオスが黙考する。
沈黙が、議会全体を覆った。
やがて、エリオスは決定を下す。
『よかろう。神谷蓮は“観察対象A”として継続観測とする。
干渉は禁止。ただし、神域からの“誘導”は許可する。』
『誘導』——それは、“接触”の許可。
つまり、“新たな神”が俺の元に現れるということだ。
エリシアの表情がわずかに曇る。
『あなたたち、本気で——』
『沈黙を。議会は決定した。』
光が散り、空間が崩れはじめる。
最後に残ったのは、エリシアひとり。
彼女は、虚空を見上げながら、小さく呟いた。
『……蓮。
あなたは、もう“人間”でいることを許されない。
でも、それでも——人間でいようとするなら、私はあなたの味方になる。』
光が消える。
議会は、終わった。
⸻
一方そのころ、地上。
桐生東高校・地下第2シェルター。
七瀬は黛と並んで、モニターの光を見つめていた。
画面には、都市の外壁映像が映し出されている。
「……なにこれ。外、静かすぎない?」
「嵐の前だ」黛が言う。「神谷が殴った“処理者”の反応を、神域が観測してる。外界の空気が止まるのは、いつも前兆だ」
「……また来るってこと?」
「ああ。次は、“本体”が来る」
七瀬は唇を噛んだ。
「私たち、何ができる?」
黛は、少し笑う。
「なんでもできる。
“人間代表”があいつなら、俺たちは“仲間代表”だ。」
「……何その肩書き。ダサいけど、ちょっと好き」
七瀬が笑う。
その笑い声が、少しだけこの閉ざされた空間に息を吹き込んだ。
⸻
夜。
屋上の空を見上げる蓮の隣で、アイがぽつりと言った。
「……ねぇ蓮」
「ん?」
「さっき、空の向こうで何か動いた気がする」
「動いた?」
「うん。まるで、誰かが“見てた”みたいな……」
その瞬間。
風が止んだ。
そして、空が一瞬だけ“光の目”のように開いた。
その奥から、かすかな声が降ってきた。
——“次に会うとき、君の選択が世界を決める”——
蓮は、拳を握った。
「上等だ。
世界ごと殴り返してやる」
夜空が、静かに閉じた。
(第13話 終)
——そこは、空でも大地でもなかった。
上下の概念が存在しない。
ただ、光と影と声だけが漂っている。
この場所は“現実”でも“夢”でもない。
神々の議会(かみがみのぎかい)。
神域の中でも最上層。
あらゆる存在の“法”が決定される場所。
無数の光球が、ゆらりと浮かぶ。
それぞれがひとつの“神”だ。
名を持つものもあれば、概念そのもののものもいる。
⸻
『——人間代表、神谷蓮。』
ひとつの光が低く鳴るように発した。
その声が、次々と他の光に伝播していく。
『人間が神域体に干渉』『しかも“殴打”』
『信じ難い』『ありえない』『面白い』
同時に、幾千の声が重なり、響き合う。
議会の空気が、音の圧力で歪んだ。
やがて、中央の巨大な光が、静かに浮かび上がった。
——監理主(かんりしゅ)・エリオス。
神々の中でも最古にして最高位。
「創造神」ではない。“観測”と“秩序”を司る存在。
『沈黙を』
その一言で、世界の音が止まった。
『処理者が破壊された。神谷蓮——彼は我々の“触れられない領域”に干渉した』
『罰を与えるべきだ』
『排除すべきだ』
『いや、観測を続けるべきだ』
『新しい“人間モデル”の兆候だ』
声が渦巻く。
裁くべきか、観察すべきか、利用すべきか——意見が割れた。
その中で、ひとつの女性の声が響いた。
『静かにしなさい。——あなたたちの“議論”は、いつも結果を出さない』
その声に、光がざわめく。
現れたのは、白銀の髪を持つ神。
淡い青の瞳。
その存在を見た瞬間、他の光たちがわずかに距離を取る。
エリシア。
以前、俺に語りかけてきた“神の一部”。
だが今の彼女は、“個”としてここにいた。
エリオスがゆっくりと言う。
『エリシア。あなたは彼と接触した。——どう見る?』
エリシアは目を閉じ、短く息を吐いた。
『……彼は、“バグ”ではない。
彼は、“意志”だ。』
『意志?』
『はい。あなたたちが切り捨ててきた“個の意思”。
それが、形を持って現れただけ。』
光たちがざわめく。
『神が“意志”を語るのか』『それは秩序の否定だ』『人間に肩入れする気か』
エリシアの瞳が、淡く光った。
『人間は、創造ではなく選択の存在。
選択がなければ、進化も、希望もない。
——神谷蓮は、その極致にある。』
エリオスが黙考する。
沈黙が、議会全体を覆った。
やがて、エリオスは決定を下す。
『よかろう。神谷蓮は“観察対象A”として継続観測とする。
干渉は禁止。ただし、神域からの“誘導”は許可する。』
『誘導』——それは、“接触”の許可。
つまり、“新たな神”が俺の元に現れるということだ。
エリシアの表情がわずかに曇る。
『あなたたち、本気で——』
『沈黙を。議会は決定した。』
光が散り、空間が崩れはじめる。
最後に残ったのは、エリシアひとり。
彼女は、虚空を見上げながら、小さく呟いた。
『……蓮。
あなたは、もう“人間”でいることを許されない。
でも、それでも——人間でいようとするなら、私はあなたの味方になる。』
光が消える。
議会は、終わった。
⸻
一方そのころ、地上。
桐生東高校・地下第2シェルター。
七瀬は黛と並んで、モニターの光を見つめていた。
画面には、都市の外壁映像が映し出されている。
「……なにこれ。外、静かすぎない?」
「嵐の前だ」黛が言う。「神谷が殴った“処理者”の反応を、神域が観測してる。外界の空気が止まるのは、いつも前兆だ」
「……また来るってこと?」
「ああ。次は、“本体”が来る」
七瀬は唇を噛んだ。
「私たち、何ができる?」
黛は、少し笑う。
「なんでもできる。
“人間代表”があいつなら、俺たちは“仲間代表”だ。」
「……何その肩書き。ダサいけど、ちょっと好き」
七瀬が笑う。
その笑い声が、少しだけこの閉ざされた空間に息を吹き込んだ。
⸻
夜。
屋上の空を見上げる蓮の隣で、アイがぽつりと言った。
「……ねぇ蓮」
「ん?」
「さっき、空の向こうで何か動いた気がする」
「動いた?」
「うん。まるで、誰かが“見てた”みたいな……」
その瞬間。
風が止んだ。
そして、空が一瞬だけ“光の目”のように開いた。
その奥から、かすかな声が降ってきた。
——“次に会うとき、君の選択が世界を決める”——
蓮は、拳を握った。
「上等だ。
世界ごと殴り返してやる」
夜空が、静かに閉じた。
(第13話 終)
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