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15話
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第15話 「赤き警鐘」
——夜が、赤く染まった。
《神谷蓮領域》の空に、静かに走った一本の光。
それは稲妻でも流星でもなく、まるで“血のような”赤。
空の裂け目が脈打つように明滅し、世界全体が微かに震えた。
「……なに、これ」
アイが息をのむ。
月光に照らされた彼女の顔にも、赤い反射がちらちらと揺れた。
俺は、空を睨む。
感じる。
あのノアが言っていた——“次は、神々が来る”。
これは、その前触れだ。
ウィンドウが自動的に開く。
────────────────
《警告:神域波動干渉検出》
分類:上位層干渉(Lv.7)
反応元:不明(複数)
推定来訪時間:12分後
────────────────
「……十二分後、か。早いな」
「どうするの!? また神が来るの!?」
「“また”って単語が日常になってきてるのが怖ぇな」
俺は乾いた笑いを漏らした。
けれど、笑ってる余裕なんて本当はない。
ノアを倒した代償で、領域の防御値は急激に下がっている。
このままじゃ、次の干渉で崩壊しかねない。
——そして、俺が倒れたら、みんなも消える。
⸻
一方そのころ、管理局本部・地下層。
黛と七瀬は、廃棄通路を抜けてとある隔離室の前にいた。
扉には「局長代行室・立入禁止」の表示。
「……ここか」
黛が低く呟く。
七瀬が頷く。「うん。でも監視カメラ全部“オフライン”になってる。——誰かが、わざと開けてる」
扉が自動で開いた。
部屋の奥、デスクの前に座っていたのは——白髪混じりの男。
穏やかな顔に、深い隈。
胸元のバッジには、確かに刻まれていた。
《局長代行 日向 誠司》
男は椅子を回し、黛たちを見て微笑む。
「やあ、待っていたよ。——君たちが“神谷蓮の仲間”だね」
「……俺たちを知ってる?」黛が問う。
日向はうなずいた。
「もちろん。君たちは今、都市で最も危険で、最も尊い存在だ。
そして——彼を守る理由も、私にはある」
七瀬が眉をひそめる。「理由?」
「神谷蓮は、“第二神創計画”の鍵だ」
部屋の空気が、止まった。
「第二神創計画(セカンド・ディバイン・プロジェクト)」——
その言葉は、黛も七瀬も初めて聞く名前だった。
日向はゆっくりと立ち上がる。
「五年前、我々は“神を人工的に再現する”プロジェクトを進めていた。
失敗に終わったが、その実験体のひとつ——“被験者Z-01”。
それが、神谷蓮だ」
「——ッ!?」七瀬の息が止まる。
「ちょ、待って。蓮は“普通の高校生”だったはず……!」
「表向きはね」
日向の声は静かだった。
「幼少期、彼は交通事故で脳の一部を失った。
そのとき、研究所が提供したのは“神域演算核”の試験移植体。
神域の演算アルゴリズムを、人間の脳に埋め込む実験——」
黛が拳を握りしめる。
「つまり……最初から“人間じゃなかった”って言うのか」
「違う」日向は首を振った。
「彼は“人間であろうとし続けている存在”だ。
それが、我々研究者にとって最大の奇跡だった。
——神と人の境界で、いまだ“人間”を名乗れる」
七瀬は唇を噛んだ。
「じゃあ、神域が彼を狙うのも……」
「当然だ。彼の中には、“神の設計図”が眠っている。
奪えば、新しい神を作れる。
……そして、破壊すれば、“神と人を分ける壁”が完全に消える」
黛は目を細めた。
「お前はどっちだ。奪う側か、守る側か」
日向は一瞬だけ沈黙し、それから小さく笑った。
「私は“人間側”だ。……ただし、手段は問わない」
そう言うと、デスクの上に一つの装置を置いた。
それは、赤く脈打つ光を放つデータコア。
「この中に、蓮の“神核構造”の解読キーがある。
これを彼に渡せ。だが使えば、彼の存在は神域に完全露見する。
守るか、晒すか——選ぶのは君たちだ」
七瀬が小さく息を呑む。
「選ばせるんだ……最後まで」
日向は微笑んだ。
「それが“人間”というものだろう?」
⸻
一方、《神谷蓮領域》。
空の赤が、さらに強くなる。
まるで“世界そのものが焼けていく”ような光。
アイが叫ぶ。「蓮! 何か降りてくる!!」
俺は空を見上げた。
裂け目の奥、無数の光の柱が蠢いている。
そのひとつひとつが“意志”を持っていた。
ウィンドウが勝手に開く。
────────────────
《神域直系群:降臨シーケンス開始》
構成体数:6体
名称:熾天の軍勢(セラフ・ユニット)
目的:人間代表・神谷蓮の排除および“創造核”の回収
────────────────
「来やがったな……」
アイが小さく震える。
「どうするの……? 六体なんて、無理だよ……」
「無理じゃねぇよ」
俺は笑った。
「“無理”って言葉、うちのクラスにはないんだよ」
その瞬間、地面が光る。
学園の中心——避難していた仲間たちの元に、俺の領域が拡張された。
「《全域リンク展開》」
黒瀬、槙村、七瀬、黛、花音。
全員のステータスが俺の視界に浮かぶ。
「お前ら、聞こえるか」
スピーカー越しに、複数の声が重なった。
『聞こえてる!!』『生きてる限りやるだけだ!』『オーケー!』
アイが微笑む。
「……みんな、来たね」
「ああ。これで“クラス”が揃った」
空が裂け、光の翼を持つ影たちが舞い降りる。
六つの影。
それぞれが“神の炎”をまとい、世界の理そのものを引き連れていた。
「——神谷蓮、貴様は越えてはならぬ境界を越えた」
「その罪、存在の消去をもって贖え」
俺は一歩前に出る。
赤い空を背景に、拳を握る。
「お断りだ。
俺は、“人間の代表”だ。
だから——」
風が巻く。
領域全体が震える。
「“神”だろうがなんだろうが、全部まとめて叩き潰す」
炎が爆ぜた。
戦いが、始まった。
(第15話 終)
——夜が、赤く染まった。
《神谷蓮領域》の空に、静かに走った一本の光。
それは稲妻でも流星でもなく、まるで“血のような”赤。
空の裂け目が脈打つように明滅し、世界全体が微かに震えた。
「……なに、これ」
アイが息をのむ。
月光に照らされた彼女の顔にも、赤い反射がちらちらと揺れた。
俺は、空を睨む。
感じる。
あのノアが言っていた——“次は、神々が来る”。
これは、その前触れだ。
ウィンドウが自動的に開く。
────────────────
《警告:神域波動干渉検出》
分類:上位層干渉(Lv.7)
反応元:不明(複数)
推定来訪時間:12分後
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「……十二分後、か。早いな」
「どうするの!? また神が来るの!?」
「“また”って単語が日常になってきてるのが怖ぇな」
俺は乾いた笑いを漏らした。
けれど、笑ってる余裕なんて本当はない。
ノアを倒した代償で、領域の防御値は急激に下がっている。
このままじゃ、次の干渉で崩壊しかねない。
——そして、俺が倒れたら、みんなも消える。
⸻
一方そのころ、管理局本部・地下層。
黛と七瀬は、廃棄通路を抜けてとある隔離室の前にいた。
扉には「局長代行室・立入禁止」の表示。
「……ここか」
黛が低く呟く。
七瀬が頷く。「うん。でも監視カメラ全部“オフライン”になってる。——誰かが、わざと開けてる」
扉が自動で開いた。
部屋の奥、デスクの前に座っていたのは——白髪混じりの男。
穏やかな顔に、深い隈。
胸元のバッジには、確かに刻まれていた。
《局長代行 日向 誠司》
男は椅子を回し、黛たちを見て微笑む。
「やあ、待っていたよ。——君たちが“神谷蓮の仲間”だね」
「……俺たちを知ってる?」黛が問う。
日向はうなずいた。
「もちろん。君たちは今、都市で最も危険で、最も尊い存在だ。
そして——彼を守る理由も、私にはある」
七瀬が眉をひそめる。「理由?」
「神谷蓮は、“第二神創計画”の鍵だ」
部屋の空気が、止まった。
「第二神創計画(セカンド・ディバイン・プロジェクト)」——
その言葉は、黛も七瀬も初めて聞く名前だった。
日向はゆっくりと立ち上がる。
「五年前、我々は“神を人工的に再現する”プロジェクトを進めていた。
失敗に終わったが、その実験体のひとつ——“被験者Z-01”。
それが、神谷蓮だ」
「——ッ!?」七瀬の息が止まる。
「ちょ、待って。蓮は“普通の高校生”だったはず……!」
「表向きはね」
日向の声は静かだった。
「幼少期、彼は交通事故で脳の一部を失った。
そのとき、研究所が提供したのは“神域演算核”の試験移植体。
神域の演算アルゴリズムを、人間の脳に埋め込む実験——」
黛が拳を握りしめる。
「つまり……最初から“人間じゃなかった”って言うのか」
「違う」日向は首を振った。
「彼は“人間であろうとし続けている存在”だ。
それが、我々研究者にとって最大の奇跡だった。
——神と人の境界で、いまだ“人間”を名乗れる」
七瀬は唇を噛んだ。
「じゃあ、神域が彼を狙うのも……」
「当然だ。彼の中には、“神の設計図”が眠っている。
奪えば、新しい神を作れる。
……そして、破壊すれば、“神と人を分ける壁”が完全に消える」
黛は目を細めた。
「お前はどっちだ。奪う側か、守る側か」
日向は一瞬だけ沈黙し、それから小さく笑った。
「私は“人間側”だ。……ただし、手段は問わない」
そう言うと、デスクの上に一つの装置を置いた。
それは、赤く脈打つ光を放つデータコア。
「この中に、蓮の“神核構造”の解読キーがある。
これを彼に渡せ。だが使えば、彼の存在は神域に完全露見する。
守るか、晒すか——選ぶのは君たちだ」
七瀬が小さく息を呑む。
「選ばせるんだ……最後まで」
日向は微笑んだ。
「それが“人間”というものだろう?」
⸻
一方、《神谷蓮領域》。
空の赤が、さらに強くなる。
まるで“世界そのものが焼けていく”ような光。
アイが叫ぶ。「蓮! 何か降りてくる!!」
俺は空を見上げた。
裂け目の奥、無数の光の柱が蠢いている。
そのひとつひとつが“意志”を持っていた。
ウィンドウが勝手に開く。
────────────────
《神域直系群:降臨シーケンス開始》
構成体数:6体
名称:熾天の軍勢(セラフ・ユニット)
目的:人間代表・神谷蓮の排除および“創造核”の回収
────────────────
「来やがったな……」
アイが小さく震える。
「どうするの……? 六体なんて、無理だよ……」
「無理じゃねぇよ」
俺は笑った。
「“無理”って言葉、うちのクラスにはないんだよ」
その瞬間、地面が光る。
学園の中心——避難していた仲間たちの元に、俺の領域が拡張された。
「《全域リンク展開》」
黒瀬、槙村、七瀬、黛、花音。
全員のステータスが俺の視界に浮かぶ。
「お前ら、聞こえるか」
スピーカー越しに、複数の声が重なった。
『聞こえてる!!』『生きてる限りやるだけだ!』『オーケー!』
アイが微笑む。
「……みんな、来たね」
「ああ。これで“クラス”が揃った」
空が裂け、光の翼を持つ影たちが舞い降りる。
六つの影。
それぞれが“神の炎”をまとい、世界の理そのものを引き連れていた。
「——神谷蓮、貴様は越えてはならぬ境界を越えた」
「その罪、存在の消去をもって贖え」
俺は一歩前に出る。
赤い空を背景に、拳を握る。
「お断りだ。
俺は、“人間の代表”だ。
だから——」
風が巻く。
領域全体が震える。
「“神”だろうがなんだろうが、全部まとめて叩き潰す」
炎が爆ぜた。
戦いが、始まった。
(第15話 終)
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