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20話
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第20話 「記憶の欠片」
——創界から、一週間。
世界は、表面上は平穏を取り戻したように見えた。
街には人が戻り、電車が動き、学校には笑い声が響く。
けれど、その裏で確実に“何か”が変わり始めていた。
⸻
朝。
桐生東高校・屋上。
俺は、風に吹かれながら空を見上げていた。
昼間でも輝く、白金の星——創界星(ルシェ・スター)。
「……今日も、光ってるな」
その声に応えるように、後ろから小さな足音が聞こえた。
「また、空見てるの?」
振り向くと、アイが立っていた。
制服姿。髪は風に揺れ、笑顔はいつもの彼女のものだった。
——ただ、一瞬だけ。
その目の奥が、金色に光った気がした。
「なぁ、最近どうだ?」
「うん……ちょっと、変。夢を見るの」
「夢?」
「知らない場所。知らない人。
でも、全部が懐かしくて……怖いくらいリアルなの。
たぶん、“神だった頃”の記憶だと思う」
俺は、胸の奥がざわついた。
(やっぱり——消えてなかったのか)
ルシェリアとしての記憶は、創界のあと消えるはずだった。
でも今、彼女の中で“神の残滓”が目を覚まし始めている。
⸻
一方そのころ。
管理局跡地に設立された新組織——創界維持機構(A.R.C.)。
俺はその指導者として、仲間たちと共に世界の安定を見守っていた。
七瀬が端末を叩きながら言う。
「……報告。昨日までで“神覚醒者”の確認、全国で27人」
黛が眉をひそめた。
「多いな。神の残滓が人間に混ざってる影響か」
黒瀬が腕を組む。
「“覚醒者”って、力を持ってるのか?」
七瀬は頷く。
「うん。軽度の空間操作や未来視、再生能力……
要は、“人間が神の一部を再現してる”」
「……つまり、神はいなくなってない」黛が低く言った。
「形を変えて、世界に散っただけだ」
「その通り」
俺は立ち上がった。
「だからこそ、俺たちは見張る必要がある。
“人間が神に戻らないように”」
七瀬が小さく呟く。
「皮肉だね。
かつて神を倒した人間が、今度は神の芽を管理するなんて」
俺は苦笑した。
「平和ってのは、案外、皮肉でできてるんだよ」
⸻
夜。
俺はアイの家を訪れていた。
ドアを開けると、アイは窓際に座っていた。
月明かりが髪を照らし、その横顔はどこか儚かった。
「……来たんだ」
「呼ばれた気がしてな」
「……ねぇ、蓮」
「ん?」
「私の中にある記憶、消さないほうがいいかな」
その言葉に、胸が締めつけられた。
「消したいのか?」
「……怖いんだよ。
夢の中の私は、“神”で、“あなたを見下ろしてた”。
それが本当の私だったら、今の“私”が偽物みたいで」
俺は、そっと彼女の肩に手を置いた。
「偽物なんかじゃねぇよ。
どんな記憶があっても、“お前が今ここにいる”ことが本物だ」
アイは少し泣き笑いして、俺に額を預けた。
「……じゃあ、少しだけ覚えててもいい?」
「ああ。忘れなくていい」
「ありがと。……ねぇ、蓮」
「なんだ」
「また、夢で見たんだ。“黒いあなた”を」
「黒い俺?」
「うん。あなたと同じ顔で、でも目が赤くて……
『創界は不完全だ。やり直す』って言ってた」
心臓が一瞬、止まった。
「……それ、どんな場所だった」
「地下みたいな場所。光がなくて、冷たかった」
——嫌な予感が、全身を駆け抜ける。
⸻
同じ時刻。
廃墟となった旧神域施設・第零層。
闇の奥で、冷たい光が灯る。
誰もいないはずの実験槽に、ひとつの影が浮かんでいた。
黒い外套、赤い瞳。
そして、その声は——
「神谷蓮……同一遺伝式、Z-01複製体、起動完了」
装置の中で、影が目を開く。
「創界は欠陥だ。
人と神を混ぜた結果、秩序は壊れた。
——俺が、本物の神を創る」
暗闇の中、赤い光がひとつ、静かに輝いた。
⸻
屋上。
俺は風の中で立ち上がり、空を見上げた。
創界星が、微かに赤く染まっていた。
「……始まるのか。
もうひとつの“創界”が」
拳を握る。
世界は、再び動き出す。
(第20話 終)
——創界から、一週間。
世界は、表面上は平穏を取り戻したように見えた。
街には人が戻り、電車が動き、学校には笑い声が響く。
けれど、その裏で確実に“何か”が変わり始めていた。
⸻
朝。
桐生東高校・屋上。
俺は、風に吹かれながら空を見上げていた。
昼間でも輝く、白金の星——創界星(ルシェ・スター)。
「……今日も、光ってるな」
その声に応えるように、後ろから小さな足音が聞こえた。
「また、空見てるの?」
振り向くと、アイが立っていた。
制服姿。髪は風に揺れ、笑顔はいつもの彼女のものだった。
——ただ、一瞬だけ。
その目の奥が、金色に光った気がした。
「なぁ、最近どうだ?」
「うん……ちょっと、変。夢を見るの」
「夢?」
「知らない場所。知らない人。
でも、全部が懐かしくて……怖いくらいリアルなの。
たぶん、“神だった頃”の記憶だと思う」
俺は、胸の奥がざわついた。
(やっぱり——消えてなかったのか)
ルシェリアとしての記憶は、創界のあと消えるはずだった。
でも今、彼女の中で“神の残滓”が目を覚まし始めている。
⸻
一方そのころ。
管理局跡地に設立された新組織——創界維持機構(A.R.C.)。
俺はその指導者として、仲間たちと共に世界の安定を見守っていた。
七瀬が端末を叩きながら言う。
「……報告。昨日までで“神覚醒者”の確認、全国で27人」
黛が眉をひそめた。
「多いな。神の残滓が人間に混ざってる影響か」
黒瀬が腕を組む。
「“覚醒者”って、力を持ってるのか?」
七瀬は頷く。
「うん。軽度の空間操作や未来視、再生能力……
要は、“人間が神の一部を再現してる”」
「……つまり、神はいなくなってない」黛が低く言った。
「形を変えて、世界に散っただけだ」
「その通り」
俺は立ち上がった。
「だからこそ、俺たちは見張る必要がある。
“人間が神に戻らないように”」
七瀬が小さく呟く。
「皮肉だね。
かつて神を倒した人間が、今度は神の芽を管理するなんて」
俺は苦笑した。
「平和ってのは、案外、皮肉でできてるんだよ」
⸻
夜。
俺はアイの家を訪れていた。
ドアを開けると、アイは窓際に座っていた。
月明かりが髪を照らし、その横顔はどこか儚かった。
「……来たんだ」
「呼ばれた気がしてな」
「……ねぇ、蓮」
「ん?」
「私の中にある記憶、消さないほうがいいかな」
その言葉に、胸が締めつけられた。
「消したいのか?」
「……怖いんだよ。
夢の中の私は、“神”で、“あなたを見下ろしてた”。
それが本当の私だったら、今の“私”が偽物みたいで」
俺は、そっと彼女の肩に手を置いた。
「偽物なんかじゃねぇよ。
どんな記憶があっても、“お前が今ここにいる”ことが本物だ」
アイは少し泣き笑いして、俺に額を預けた。
「……じゃあ、少しだけ覚えててもいい?」
「ああ。忘れなくていい」
「ありがと。……ねぇ、蓮」
「なんだ」
「また、夢で見たんだ。“黒いあなた”を」
「黒い俺?」
「うん。あなたと同じ顔で、でも目が赤くて……
『創界は不完全だ。やり直す』って言ってた」
心臓が一瞬、止まった。
「……それ、どんな場所だった」
「地下みたいな場所。光がなくて、冷たかった」
——嫌な予感が、全身を駆け抜ける。
⸻
同じ時刻。
廃墟となった旧神域施設・第零層。
闇の奥で、冷たい光が灯る。
誰もいないはずの実験槽に、ひとつの影が浮かんでいた。
黒い外套、赤い瞳。
そして、その声は——
「神谷蓮……同一遺伝式、Z-01複製体、起動完了」
装置の中で、影が目を開く。
「創界は欠陥だ。
人と神を混ぜた結果、秩序は壊れた。
——俺が、本物の神を創る」
暗闇の中、赤い光がひとつ、静かに輝いた。
⸻
屋上。
俺は風の中で立ち上がり、空を見上げた。
創界星が、微かに赤く染まっていた。
「……始まるのか。
もうひとつの“創界”が」
拳を握る。
世界は、再び動き出す。
(第20話 終)
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