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19話
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第19話 「神なき朝」
——夜が明けた。
創界の光が消えてから、どれほど時間が経ったのか。
俺は、ゆっくりとまぶたを開けた。
空は、青い。
雲が動いている。
風が、ちゃんと吹いている。
当たり前の“朝”——
でも、その空には、ひとつだけ違うものがあった。
創界星(ルシェ・スター)。
昨日までなかったはずの、淡い白金色の星が、昼でもはっきりと輝いている。
あれは、俺たちが“繋いだ”証。
⸻
「……おはよう」
振り向くと、アイ——いや、ルシェリアが立っていた。
光の翼はもうない。
髪も、元の黒に戻りつつある。
だが、その目の奥だけはまだ金色の光を宿していた。
「どうだ、体の調子は」
「悪くないよ。でも……少し、記憶が抜けてる」
彼女は苦笑しながら、こめかみを押さえる。
「昨日までのことが、夢みたい。神様だったなんて、今でも信じられない」
「俺も信じられねぇよ。……でも、証拠は空にある」
空を見上げる。
創界星が、淡く脈を打つように光った。
アイはその光を見上げながら、ぽつりと呟いた。
「ねぇ、蓮。
この世界……ちゃんと、続いていくのかな」
「続けるんだよ。俺たちが」
彼女は微笑んだ。
その笑顔が、あの日のままだった。
⸻
一方そのころ——
管理局跡地、地下。
黛、七瀬、黒瀬、槙村、花音が、再起動したターミナルの前に集まっていた。
ディスプレイには、混在したコードが流れ続けている。
「……何これ」七瀬が眉をひそめる。
「“神域データ”と“人間文明コード”が混ざってる」黛が唸った。
「つまり、世界そのものが“融合体”になったってことだ」
花音が恐る恐る聞く。
「それって、危険なの?」
七瀬が答えた。
「いいえ……でも、完全に安全とも言えない。
“神の記憶”を持つ人間が出始めてる」
黛「神の記憶……?」
七瀬「たとえば、“昔の神々”が使ってた力や記録を、人間の脳が思い出し始めてるの。
つまり——“神の残滓”が、私たちに混ざってる」
その言葉に、全員が沈黙した。
花音が小さく呟く。
「ねぇ、それって……もしかして、“神がいない世界”なのに、神が生き続けてるってこと?」
黛は空を見上げた。
「……“神なき朝”ってやつだな。
でも、悪くない。神がいないなら、俺たちが世界を守るだけだ」
⸻
創界の中心——廃墟になった学園の屋上。
俺は、ひとりの老人と向かい合っていた。
白髪に、眼鏡。
かつての管理局代行、日向誠司。
「来ると思ってたよ、神谷くん」
「生きてたのか、あんた」
日向は穏やかに笑った。
「創界の波に巻き込まれて死んだと思ったろう? 残念ながら、私はしぶとい」
「何の用だ」
「後始末だよ。君たちが作った新しい世界を、“人の手”で安定させるためにね」
「……まだ研究を続ける気か?」
「いや、もう違う。私は、観測者になる」
日向はポケットから、古い通信端末を取り出した。
そこには、無数の新しい数式が流れている。
「神谷くん。君の中の“Z-01”——あれは、ただの実験体なんかじゃない。
“人間が神を理解するための、鏡”だったんだよ」
俺は息を呑んだ。
「鏡……?」
「そう。“Z”は“Zero”。始まりであり、終わり。
神と人を映す、真っ白な鏡。
そして、君が選んだ道は——“創る側”だった」
日向は目を細め、空を見上げる。
「この世界がどう転ぶかは、もう君たち次第だ。
だが、もしまた“神を名乗る者”が現れたら——」
「——そのときは、俺がぶん殴る」
日向は声を出して笑った。
「ははは……その意気だ。やはり君は、人間代表だね」
⸻
夕暮れ。
アイが屋上に現れた。
制服姿。
もう神の気配はない。
「蓮。さっき、創界星がまた光ったよ」
「そうか」
「たぶん、誰かが“祈った”んだと思う。
もう神はいないのに、不思議だね」
「人間は祈るんだよ。
神がいなくても、誰かを想うから」
彼女はそっと、俺の隣に座った。
「じゃあ、私も祈ろうかな」
「何を」
「——“この朝が、続きますように”って」
風が吹く。
空に浮かぶ創界星が、ゆっくりと瞬いた。
俺は空を見上げ、心の中で答えた。
(——続けよう。
神のいない朝でも、人の願いは消えない)
その瞬間、世界が確かに“息をしている”と感じた。
新しい一日が始まる。
そして、俺たちの“創った世界”も——。
(第19話 終)
——夜が明けた。
創界の光が消えてから、どれほど時間が経ったのか。
俺は、ゆっくりとまぶたを開けた。
空は、青い。
雲が動いている。
風が、ちゃんと吹いている。
当たり前の“朝”——
でも、その空には、ひとつだけ違うものがあった。
創界星(ルシェ・スター)。
昨日までなかったはずの、淡い白金色の星が、昼でもはっきりと輝いている。
あれは、俺たちが“繋いだ”証。
⸻
「……おはよう」
振り向くと、アイ——いや、ルシェリアが立っていた。
光の翼はもうない。
髪も、元の黒に戻りつつある。
だが、その目の奥だけはまだ金色の光を宿していた。
「どうだ、体の調子は」
「悪くないよ。でも……少し、記憶が抜けてる」
彼女は苦笑しながら、こめかみを押さえる。
「昨日までのことが、夢みたい。神様だったなんて、今でも信じられない」
「俺も信じられねぇよ。……でも、証拠は空にある」
空を見上げる。
創界星が、淡く脈を打つように光った。
アイはその光を見上げながら、ぽつりと呟いた。
「ねぇ、蓮。
この世界……ちゃんと、続いていくのかな」
「続けるんだよ。俺たちが」
彼女は微笑んだ。
その笑顔が、あの日のままだった。
⸻
一方そのころ——
管理局跡地、地下。
黛、七瀬、黒瀬、槙村、花音が、再起動したターミナルの前に集まっていた。
ディスプレイには、混在したコードが流れ続けている。
「……何これ」七瀬が眉をひそめる。
「“神域データ”と“人間文明コード”が混ざってる」黛が唸った。
「つまり、世界そのものが“融合体”になったってことだ」
花音が恐る恐る聞く。
「それって、危険なの?」
七瀬が答えた。
「いいえ……でも、完全に安全とも言えない。
“神の記憶”を持つ人間が出始めてる」
黛「神の記憶……?」
七瀬「たとえば、“昔の神々”が使ってた力や記録を、人間の脳が思い出し始めてるの。
つまり——“神の残滓”が、私たちに混ざってる」
その言葉に、全員が沈黙した。
花音が小さく呟く。
「ねぇ、それって……もしかして、“神がいない世界”なのに、神が生き続けてるってこと?」
黛は空を見上げた。
「……“神なき朝”ってやつだな。
でも、悪くない。神がいないなら、俺たちが世界を守るだけだ」
⸻
創界の中心——廃墟になった学園の屋上。
俺は、ひとりの老人と向かい合っていた。
白髪に、眼鏡。
かつての管理局代行、日向誠司。
「来ると思ってたよ、神谷くん」
「生きてたのか、あんた」
日向は穏やかに笑った。
「創界の波に巻き込まれて死んだと思ったろう? 残念ながら、私はしぶとい」
「何の用だ」
「後始末だよ。君たちが作った新しい世界を、“人の手”で安定させるためにね」
「……まだ研究を続ける気か?」
「いや、もう違う。私は、観測者になる」
日向はポケットから、古い通信端末を取り出した。
そこには、無数の新しい数式が流れている。
「神谷くん。君の中の“Z-01”——あれは、ただの実験体なんかじゃない。
“人間が神を理解するための、鏡”だったんだよ」
俺は息を呑んだ。
「鏡……?」
「そう。“Z”は“Zero”。始まりであり、終わり。
神と人を映す、真っ白な鏡。
そして、君が選んだ道は——“創る側”だった」
日向は目を細め、空を見上げる。
「この世界がどう転ぶかは、もう君たち次第だ。
だが、もしまた“神を名乗る者”が現れたら——」
「——そのときは、俺がぶん殴る」
日向は声を出して笑った。
「ははは……その意気だ。やはり君は、人間代表だね」
⸻
夕暮れ。
アイが屋上に現れた。
制服姿。
もう神の気配はない。
「蓮。さっき、創界星がまた光ったよ」
「そうか」
「たぶん、誰かが“祈った”んだと思う。
もう神はいないのに、不思議だね」
「人間は祈るんだよ。
神がいなくても、誰かを想うから」
彼女はそっと、俺の隣に座った。
「じゃあ、私も祈ろうかな」
「何を」
「——“この朝が、続きますように”って」
風が吹く。
空に浮かぶ創界星が、ゆっくりと瞬いた。
俺は空を見上げ、心の中で答えた。
(——続けよう。
神のいない朝でも、人の願いは消えない)
その瞬間、世界が確かに“息をしている”と感じた。
新しい一日が始まる。
そして、俺たちの“創った世界”も——。
(第19話 終)
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