23 / 26
23話
しおりを挟む
第23話 「創界の再生」
——世界が、目を覚ました。
創界星が一つに統合されてから三日。
崩壊しかけた大地は再構築され、
空には新しい青が戻っていた。
風は柔らかく、
街には子どもたちの笑い声が響く。
けれど、その“日常”はまだ不安定だった。
神と人、二つの理が完全に融合したこの世界は、
まだ名前さえ決まっていない。
——人々はそれを“再生創界(リバース・エデン)”と呼び始めた。
⸻
朝。
A.R.C.本部。
俺は、会議ホールの中央に立っていた。
巨大なモニターには、世界各地のデータが流れている。
七瀬がレポートを読み上げる。
「神覚醒者の発現率、全人口の0.02%。
そのうちの半数は安定状態。
でも、残りは“人格の分離”や“幻視”が見られるわ」
「つまり、創界の副作用だな」黛が腕を組む。
「力を持つのはいいが、心が壊れちゃ意味がない」
「放っておくと“神化暴走”が起きる可能性がある」
七瀬の声は重かった。
俺は、静かに立ち上がる。
「——だから、俺たちが必要なんだ。
“創界維持機構”を、“調律機関”へ変える」
皆が息を呑む。
「これからは、力を抑えるんじゃない。
人間が“神と共に生きる術”を見つける。
創界を“共存の世界”として完成させるんだ」
黛がうなずく。
「……いいな。支配でも管理でもなく、“共生”。
神谷、お前らしいやり方だ」
七瀬も微笑んだ。
「なら、私たちはその調律者(ハーモナイザー)ね」
黒瀬が拳を掲げる。
「いいじゃねぇか。やること増えたな!」
笑い声が会議室に響く。
だが、その奥で俺の胸の中には、小さな不安が残っていた。
——創界星の光が、昨夜、一瞬だけ“揺れた”。
⸻
夜。
廃墟となった学園の屋上。
月の光の下、アイが立っていた。
白いワンピースに風が通り抜ける。
「……来たね、蓮」
「ここに来ると、全部思い出すからな」
アイは、ゆっくりと振り向いた。
その瞳の奥には、もう“ルシェリア”の輝きはない。
けれど、人間としての強さが宿っていた。
「創界、安定してる?」
「今のところはな。でも、妙な波動がある」
「……見えた?」
アイが、空を指さした。
夜空の彼方——
第三の光が、微かに瞬いていた。
「……まさか、もう一つ?」
「創界星が、分裂を始めてるの。
あの光……“観測者”の領域よ」
俺は息をのんだ。
「観測者って、エリシアのことか?」
アイは首を振る。
「違う。“上位の観測者”。
神をも観測する存在。
創界の“根源”にいる、誰か」
空の光が、まるでこちらを見ているように瞬く。
その光の中心に、微かに人影が浮かんでいた。
——“あれ”が、創界を見下ろしている。
⸻
同じころ、地下第零層。
黒い蓮が消えたはずの場所に、残留データが微かに光を放っていた。
そこに、新たな存在が立っていた。
白いローブ、無表情の瞳。
その声は、人でも神でもなかった。
「創界、確認。統合率89%。
次段階《創界再演計画(Project・Replay)》へ移行」
端末に手をかざし、光を集める。
「創造主の観測を再構築。
——“神谷蓮”に次ぐ、新たな創界主を選定開始」
冷たい光が、世界の裏側に広がっていった。
⸻
再び、屋上。
風が吹く。
アイの髪が揺れ、星が瞬く。
「蓮……あたし、また“ルシェリア”になるのかもしれない」
「どういうことだ」
「夢の中で、声が聞こえるの。
“もう一度、創れ”って。
まるで……上から指示されてるみたい」
俺は拳を握る。
「そんなの、誰にも命令させねぇ。
創界は、俺たちが作ったんだ」
アイが微笑む。
「……うん。だから、もう一度“二人で”止めよう」
空の奥で、第三の創界星が静かに燃え始めていた。
それは、次の世界を試すように脈打っていた。
⸻
そして、その光を見上げる誰かがいた。
廃墟のビルの屋上。
フードを被った人物が、淡く笑う。
「ようやく、“彼ら”が見つけたか。
——創界の真の観測者《オブザーバー》を」
風が吹く。
その人物の目が、銀に光った。
「世界は、まだ終わらない」
創界の“第二章”が、静かに始まった。
(第23話 終)
——世界が、目を覚ました。
創界星が一つに統合されてから三日。
崩壊しかけた大地は再構築され、
空には新しい青が戻っていた。
風は柔らかく、
街には子どもたちの笑い声が響く。
けれど、その“日常”はまだ不安定だった。
神と人、二つの理が完全に融合したこの世界は、
まだ名前さえ決まっていない。
——人々はそれを“再生創界(リバース・エデン)”と呼び始めた。
⸻
朝。
A.R.C.本部。
俺は、会議ホールの中央に立っていた。
巨大なモニターには、世界各地のデータが流れている。
七瀬がレポートを読み上げる。
「神覚醒者の発現率、全人口の0.02%。
そのうちの半数は安定状態。
でも、残りは“人格の分離”や“幻視”が見られるわ」
「つまり、創界の副作用だな」黛が腕を組む。
「力を持つのはいいが、心が壊れちゃ意味がない」
「放っておくと“神化暴走”が起きる可能性がある」
七瀬の声は重かった。
俺は、静かに立ち上がる。
「——だから、俺たちが必要なんだ。
“創界維持機構”を、“調律機関”へ変える」
皆が息を呑む。
「これからは、力を抑えるんじゃない。
人間が“神と共に生きる術”を見つける。
創界を“共存の世界”として完成させるんだ」
黛がうなずく。
「……いいな。支配でも管理でもなく、“共生”。
神谷、お前らしいやり方だ」
七瀬も微笑んだ。
「なら、私たちはその調律者(ハーモナイザー)ね」
黒瀬が拳を掲げる。
「いいじゃねぇか。やること増えたな!」
笑い声が会議室に響く。
だが、その奥で俺の胸の中には、小さな不安が残っていた。
——創界星の光が、昨夜、一瞬だけ“揺れた”。
⸻
夜。
廃墟となった学園の屋上。
月の光の下、アイが立っていた。
白いワンピースに風が通り抜ける。
「……来たね、蓮」
「ここに来ると、全部思い出すからな」
アイは、ゆっくりと振り向いた。
その瞳の奥には、もう“ルシェリア”の輝きはない。
けれど、人間としての強さが宿っていた。
「創界、安定してる?」
「今のところはな。でも、妙な波動がある」
「……見えた?」
アイが、空を指さした。
夜空の彼方——
第三の光が、微かに瞬いていた。
「……まさか、もう一つ?」
「創界星が、分裂を始めてるの。
あの光……“観測者”の領域よ」
俺は息をのんだ。
「観測者って、エリシアのことか?」
アイは首を振る。
「違う。“上位の観測者”。
神をも観測する存在。
創界の“根源”にいる、誰か」
空の光が、まるでこちらを見ているように瞬く。
その光の中心に、微かに人影が浮かんでいた。
——“あれ”が、創界を見下ろしている。
⸻
同じころ、地下第零層。
黒い蓮が消えたはずの場所に、残留データが微かに光を放っていた。
そこに、新たな存在が立っていた。
白いローブ、無表情の瞳。
その声は、人でも神でもなかった。
「創界、確認。統合率89%。
次段階《創界再演計画(Project・Replay)》へ移行」
端末に手をかざし、光を集める。
「創造主の観測を再構築。
——“神谷蓮”に次ぐ、新たな創界主を選定開始」
冷たい光が、世界の裏側に広がっていった。
⸻
再び、屋上。
風が吹く。
アイの髪が揺れ、星が瞬く。
「蓮……あたし、また“ルシェリア”になるのかもしれない」
「どういうことだ」
「夢の中で、声が聞こえるの。
“もう一度、創れ”って。
まるで……上から指示されてるみたい」
俺は拳を握る。
「そんなの、誰にも命令させねぇ。
創界は、俺たちが作ったんだ」
アイが微笑む。
「……うん。だから、もう一度“二人で”止めよう」
空の奥で、第三の創界星が静かに燃え始めていた。
それは、次の世界を試すように脈打っていた。
⸻
そして、その光を見上げる誰かがいた。
廃墟のビルの屋上。
フードを被った人物が、淡く笑う。
「ようやく、“彼ら”が見つけたか。
——創界の真の観測者《オブザーバー》を」
風が吹く。
その人物の目が、銀に光った。
「世界は、まだ終わらない」
創界の“第二章”が、静かに始まった。
(第23話 終)
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
『ミッドナイトマート 〜異世界コンビニ、ただいま営業中〜』
KAORUwithAI
ファンタジー
深夜0時——街角の小さなコンビニ「ミッドナイトマート」は、異世界と繋がる扉を開く。
日中は普通の客でにぎわう店も、深夜を回ると鎧を着た騎士、魔族の姫、ドラゴンの化身、空飛ぶ商人など、“この世界の住人ではない者たち”が静かにレジへと並び始める。
アルバイト店員・斉藤レンは、バイト先が異世界と繋がっていることに戸惑いながらも、今日もレジに立つ。
「袋いりますか?」「ポイントカードお持ちですか?」——そう、それは異世界相手でも変わらない日常業務。
貯まるのは「ミッドナイトポイントカード(通称ナイポ)」。
集まるのは、どこか訳ありで、ちょっと不器用な異世界の住人たち。
そして、商品一つひとつに込められる、ささやかで温かな物語。
これは、世界の境界を越えて心を繋ぐ、コンビニ接客ファンタジー。
今夜は、どんなお客様が来店されるのでしょう?
※異世界食堂や異世界居酒屋「のぶ」とは
似て非なる物として見て下さい
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる