26 / 26
26話
しおりを挟む
第26話 「創界の子ら」
——あれから一年が経った。
世界は落ち着きを取り戻しつつあった。
創界の再生によって、街の空気は変わった。
空は青く、風は穏やか。
けれど人々の中には、確かに「何か」が芽生えていた。
神と人が融合した創界——その記憶は、無意識の奥で受け継がれている。
人の中に眠る“光の記憶”。
それが、次の時代を動かし始めていた。
⸻
桐生市東部、新設学園——創界学舎(エデン・アカデミア)。
そこでは、特殊な能力を持つ少年少女たちが集められていた。
彼らはみな、「創界の記憶」を部分的に受け継いでいる“創界子(リジェネラント)”と呼ばれる存在。
俺——神谷蓮は、その学園の理事兼教官として日々を過ごしていた。
教師になったなんて、自分でもまだ信じられない。
「——おはよう、先生!」
明るい声が響く。振り向けば、一人の少女が駆け寄ってきた。
黒髪のツインテールに、蒼い瞳。
名前は、天城澪(あまぎ・みお)。
創界学舎一期生にして、もっとも強い“共鳴適応率”を持つ生徒だった。
「おはよう、澪。今日はシミュレーション授業だろ」
「うん! でも……ちょっと怖いんです。昨日から夢を見るの」
「夢?」
「……空の上に、もう一つの星が見えるの。
みんな忘れてるのに、私だけ見える」
俺の心臓が、ひとつ跳ねた。
(まさか……)
「どんな星だ?」
「白くて……でも、目みたい。
見られてる気がする」
俺は静かに息を吐いた。
——まさか、“観測者”の残響がまだ残っているとは。
⸻
その日の放課後。
俺は職員室で端末を開いた。
創界星観測システム《EVE》が異常を検出していた。
────────────────
《観測値変動》
光度変化:+0.002%
推定発生源:個体コード R-01(天城澪)
────────────────
「……やっぱり、彼女か」
そこへ、アイ——いや、今は月城アイ=ルシェリアとして正式に副理事を務めている彼女が入ってきた。
白いジャケットに、少し疲れた笑顔。
「澪ちゃんのデータ、見た?」
「見た。創界子の中で唯一、観測層と干渉してる」
「まるで、“次の観測者”みたいね」
アイの声には不安が滲んでいた。
俺は首を振る。
「違う。まだ子どもだ。
観測者の力なんかじゃなく、自分の意志で進もうとしてる」
「でも、その力が暴走すれば、再び“再演”が始まるかもしれない」
「……それでも、俺たちは見守るしかねぇよ」
「……創界の時と同じだね」
「そうだ。見届ける。それが“創界を生きる”ってことだ」
⸻
夜。
学園の屋上で、澪は空を見上げていた。
月の隣に、かすかな光が瞬いている。
「……あなた、誰なの?」
彼女の中で、声が響いた。
——《リジェネラント第01号、観測値安定。君は“新しい創界”の種だ》
「誰……? やめて……!」
光が弾け、瞳の奥に紋章が浮かぶ。
それはかつてルシェリアが持っていた創界の印だった。
「……先生……助けて……」
⸻
その瞬間、蓮の端末が真っ赤に点滅した。
《創界波動検知:第3層干渉開始》
《発生源:創界学舎屋上》
俺は駆け出した。
夜風を切り裂きながら、屋上の扉を開ける。
そこにいたのは、光に包まれた澪。
彼女の背後に、うっすらと観測者の輪郭が浮かんでいた。
「澪っ!!」
彼女が振り向く。
その瞳は、銀に染まっていた。
「……先生、聞こえるの。
“彼ら”の声が。世界を“もう一度見たい”って」
「やめろ! それはお前の声じゃない!」
俺が叫んだ瞬間、
空に亀裂が走った。
まるで、新しい創界の芽が芽吹くように。
⸻
アイが駆け込んでくる。
「蓮! 創界波、臨界点超えた!」
「わかってる! ……澪を止める!」
彼女が俺の腕を掴む。
「待って! 今無理に止めたら、創界層が崩壊する!」
「じゃあ、どうしろってんだよ!」
アイが小さく息を吸い、瞳を閉じる。
「——私が、繋ぐ」
次の瞬間、アイの体が光に包まれた。
ルシェリアの紋章が胸に浮かび上がる。
「待て、アイっ!」
「大丈夫。私は“神でも人でもない”。
だから、両方を繋げる」
光が二人を包み込み、空が開く。
その中心で、澪が涙を流しながら呟いた。
「先生……これが、“創界の続き”なんですね……」
「違う、澪。これは“お前たちの創界”だ」
白い光が夜空を染め、
新しい星が静かに生まれた。
⸻
夜明け。
世界は何事もなかったかのように穏やかだった。
ただひとつ、空に四つ目の星が輝いている。
それは——
次世代の創界子たちが導く、“未来”の印だった。
アイが微笑みながらつぶやく。
「……世界は、まだ進化してる」
俺は頷き、青空を見上げた。
「不完全なまま、進む。
それが、創界の子らの使命だ」
(第26話 終)
——あれから一年が経った。
世界は落ち着きを取り戻しつつあった。
創界の再生によって、街の空気は変わった。
空は青く、風は穏やか。
けれど人々の中には、確かに「何か」が芽生えていた。
神と人が融合した創界——その記憶は、無意識の奥で受け継がれている。
人の中に眠る“光の記憶”。
それが、次の時代を動かし始めていた。
⸻
桐生市東部、新設学園——創界学舎(エデン・アカデミア)。
そこでは、特殊な能力を持つ少年少女たちが集められていた。
彼らはみな、「創界の記憶」を部分的に受け継いでいる“創界子(リジェネラント)”と呼ばれる存在。
俺——神谷蓮は、その学園の理事兼教官として日々を過ごしていた。
教師になったなんて、自分でもまだ信じられない。
「——おはよう、先生!」
明るい声が響く。振り向けば、一人の少女が駆け寄ってきた。
黒髪のツインテールに、蒼い瞳。
名前は、天城澪(あまぎ・みお)。
創界学舎一期生にして、もっとも強い“共鳴適応率”を持つ生徒だった。
「おはよう、澪。今日はシミュレーション授業だろ」
「うん! でも……ちょっと怖いんです。昨日から夢を見るの」
「夢?」
「……空の上に、もう一つの星が見えるの。
みんな忘れてるのに、私だけ見える」
俺の心臓が、ひとつ跳ねた。
(まさか……)
「どんな星だ?」
「白くて……でも、目みたい。
見られてる気がする」
俺は静かに息を吐いた。
——まさか、“観測者”の残響がまだ残っているとは。
⸻
その日の放課後。
俺は職員室で端末を開いた。
創界星観測システム《EVE》が異常を検出していた。
────────────────
《観測値変動》
光度変化:+0.002%
推定発生源:個体コード R-01(天城澪)
────────────────
「……やっぱり、彼女か」
そこへ、アイ——いや、今は月城アイ=ルシェリアとして正式に副理事を務めている彼女が入ってきた。
白いジャケットに、少し疲れた笑顔。
「澪ちゃんのデータ、見た?」
「見た。創界子の中で唯一、観測層と干渉してる」
「まるで、“次の観測者”みたいね」
アイの声には不安が滲んでいた。
俺は首を振る。
「違う。まだ子どもだ。
観測者の力なんかじゃなく、自分の意志で進もうとしてる」
「でも、その力が暴走すれば、再び“再演”が始まるかもしれない」
「……それでも、俺たちは見守るしかねぇよ」
「……創界の時と同じだね」
「そうだ。見届ける。それが“創界を生きる”ってことだ」
⸻
夜。
学園の屋上で、澪は空を見上げていた。
月の隣に、かすかな光が瞬いている。
「……あなた、誰なの?」
彼女の中で、声が響いた。
——《リジェネラント第01号、観測値安定。君は“新しい創界”の種だ》
「誰……? やめて……!」
光が弾け、瞳の奥に紋章が浮かぶ。
それはかつてルシェリアが持っていた創界の印だった。
「……先生……助けて……」
⸻
その瞬間、蓮の端末が真っ赤に点滅した。
《創界波動検知:第3層干渉開始》
《発生源:創界学舎屋上》
俺は駆け出した。
夜風を切り裂きながら、屋上の扉を開ける。
そこにいたのは、光に包まれた澪。
彼女の背後に、うっすらと観測者の輪郭が浮かんでいた。
「澪っ!!」
彼女が振り向く。
その瞳は、銀に染まっていた。
「……先生、聞こえるの。
“彼ら”の声が。世界を“もう一度見たい”って」
「やめろ! それはお前の声じゃない!」
俺が叫んだ瞬間、
空に亀裂が走った。
まるで、新しい創界の芽が芽吹くように。
⸻
アイが駆け込んでくる。
「蓮! 創界波、臨界点超えた!」
「わかってる! ……澪を止める!」
彼女が俺の腕を掴む。
「待って! 今無理に止めたら、創界層が崩壊する!」
「じゃあ、どうしろってんだよ!」
アイが小さく息を吸い、瞳を閉じる。
「——私が、繋ぐ」
次の瞬間、アイの体が光に包まれた。
ルシェリアの紋章が胸に浮かび上がる。
「待て、アイっ!」
「大丈夫。私は“神でも人でもない”。
だから、両方を繋げる」
光が二人を包み込み、空が開く。
その中心で、澪が涙を流しながら呟いた。
「先生……これが、“創界の続き”なんですね……」
「違う、澪。これは“お前たちの創界”だ」
白い光が夜空を染め、
新しい星が静かに生まれた。
⸻
夜明け。
世界は何事もなかったかのように穏やかだった。
ただひとつ、空に四つ目の星が輝いている。
それは——
次世代の創界子たちが導く、“未来”の印だった。
アイが微笑みながらつぶやく。
「……世界は、まだ進化してる」
俺は頷き、青空を見上げた。
「不完全なまま、進む。
それが、創界の子らの使命だ」
(第26話 終)
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
『ミッドナイトマート 〜異世界コンビニ、ただいま営業中〜』
KAORUwithAI
ファンタジー
深夜0時——街角の小さなコンビニ「ミッドナイトマート」は、異世界と繋がる扉を開く。
日中は普通の客でにぎわう店も、深夜を回ると鎧を着た騎士、魔族の姫、ドラゴンの化身、空飛ぶ商人など、“この世界の住人ではない者たち”が静かにレジへと並び始める。
アルバイト店員・斉藤レンは、バイト先が異世界と繋がっていることに戸惑いながらも、今日もレジに立つ。
「袋いりますか?」「ポイントカードお持ちですか?」——そう、それは異世界相手でも変わらない日常業務。
貯まるのは「ミッドナイトポイントカード(通称ナイポ)」。
集まるのは、どこか訳ありで、ちょっと不器用な異世界の住人たち。
そして、商品一つひとつに込められる、ささやかで温かな物語。
これは、世界の境界を越えて心を繋ぐ、コンビニ接客ファンタジー。
今夜は、どんなお客様が来店されるのでしょう?
※異世界食堂や異世界居酒屋「のぶ」とは
似て非なる物として見て下さい
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる