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25話
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第25話 「観測者の領域」
——光の果てに、世界がなかった。
ただ、白。
音も、時間も、上下も存在しない。
すべての概念が曖昧になり、ただ“存在”だけが残る空間。
俺とアイは、そこに立っていた。
いや——“立っている”という感覚さえも不確かだった。
「……ここが、“観測者の領域”か」
俺が呟くと、声が無限に反響し、空間全体が震える。
「音が……世界の形を作ってる」
アイの声も同じように拡散し、白い空間に波紋を広げていく。
波紋はやがて映像となり、過去の断片を映し出した。
桐生東高校の屋上、戦いの夜、創界の光——
そして、俺たちが辿ったすべての瞬間。
「……全部、見られてるんだな」
「ううん、違う。これは、“記録”じゃなくて——“再演”」
アイの言葉に、空間が脈打った。
《再演計画:観測フェーズ開始》
その声は、機械的でもあり、祈りのようでもあった。
⸻
次の瞬間、光が人の形をとる。
白いローブをまとい、表情のない顔。
瞳だけが、銀色に輝いていた。
白の観測者(ホワイト・オブザーバー)。
「——ようこそ、創界の原点へ」
声は柔らかい。だがその一言に、全てを支配する力が滲んでいた。
俺は一歩前に出た。
「お前が、世界を“やり直す”つもりの奴か」
「やり直しではない。“再演”だ。
創界は“人と神の調和”を試みたが、成功していない」
「成功してない? ふざけんな。
俺たちはちゃんと歩いてる。神も人も、共に生きてる!」
観測者は、わずかに首を傾げた。
「それは、あなたがそう“感じている”だけ。
観測上のデータでは、創界の安定指数は89.3%。
人間の選択行動は依然として“不完全”」
「……人間に“完全”を求めてどうする」
「完全でなければ、永遠に繰り返すだけだ」
観測者の瞳に、わずかに感情のようなものが灯った。
「神は不完全だった。
だからこそ、あなたたちに“創界”を託した。
しかし、あなたは選択を誤った」
アイが一歩前に出る。
「誤った? 私たちは、戦いを終わらせたのよ!」
「戦いは終わっていない。
あなたの中にまだ“神の断片”が残っている」
空間が揺れた。
アイの胸が光り、封印していたルシェリアの紋章が浮かび上がる。
「……っ、これ……!」
「創界核、反応再開。あなたはまだ“神”であり、人ではない」
観測者が手をかざすと、光の糸がアイを包み込んだ。
「やめろ!!」
俺は飛び込む。
しかし、足元が崩れ、時間が逆流する。
気づけば、俺は——“過去”にいた。
⸻
目の前に広がるのは、かつての桐生東高校。
まだ創界が起こる前の“現代”の姿。
「……これ、俺の記憶か?」
校舎の屋上に立つ少年。
それは、過去の俺だった。
まだ何も知らず、ただ現実に絶望していた頃の“神谷蓮”。
「なんで俺は、こんな顔してんだ……」
過去の俺が呟く。
「“誰も信じられない”——あの時の言葉だ」
観測者の声が響く。
「あなたの根源。
神と人を分けたのは、この“恐れ”だった。
あなたの世界は、まだ恐怖に支配されている」
「……違う。
俺はもう、怖がってねぇ」
「ならば証明せよ。
あなたが“恐れ”を超えたと」
次の瞬間、空間が変わった。
目の前に現れたのは——“黒い蓮”。
「久しぶりだな。まだ迷ってるじゃねぇか、“俺”」
「お前は……もう消えたはずだ」
「俺は消えねぇよ。
お前が“完璧じゃない”限り、何度でも戻ってくる」
黒い蓮が拳を構える。
「行くぞ。“俺”」
衝突。
光と闇がぶつかり、世界が歪む。
だが、今回は違った。
俺は拳を下ろした。
「……もういい。
お前を否定しない。
お前も、俺の一部だ」
黒い蓮の動きが止まる。
その瞳に、驚きが浮かんだ。
「……受け入れるのか」
「恐れも、怒りも、全部ひっくるめて“俺”だ。
だからこそ、俺は“人間”なんだよ」
黒い蓮が笑った。
「……やっと言えたな」
光が彼を包み、ゆっくりと消えていく。
観測者の声が響く。
「選択確認。
恐れの受容——人間定義値、確定」
⸻
視界が再び白く染まり、アイが戻ってきた。
彼女の体を包んでいた光の糸が解ける。
「蓮……!」
「もう大丈夫だ。——証明した」
観測者が、静かに二人を見つめていた。
「あなたたちは、“不完全”を受け入れた。
ならば、この創界を再演する理由はない」
アイが息を呑む。
「つまり……?」
観測者は、ほんの一瞬だけ微笑んだように見えた。
「——創界を、正式に承認する」
空間が光に満ち、再び世界の輪郭が戻っていく。
⸻
再び、青空の下。
創界星が静かに輝き、第三の星は消えていた。
風が吹き、鳥の声が戻る。
アイが隣で笑う。
「……終わった?」
「ああ。でも、始まったばかりだ」
「これから、どうするの?」
「もう“観測”じゃなく、“共に生きる”だろ」
アイは頷き、空を見上げた。
「不完全なままで、前に進む。
それが、あたしたちの創界なんだね」
「そうだ。神も人も、ただの“存在”だ。
だからこそ——可能性がある」
空が光る。
創界は、完全に“再生”した。
そして遠く、消えたはずの観測者の声が微かに残った。
——《観測終了。だが、新たな変数を確認。
“彼ら”の創界は、進化を始めている》——
(第25話 終)
——光の果てに、世界がなかった。
ただ、白。
音も、時間も、上下も存在しない。
すべての概念が曖昧になり、ただ“存在”だけが残る空間。
俺とアイは、そこに立っていた。
いや——“立っている”という感覚さえも不確かだった。
「……ここが、“観測者の領域”か」
俺が呟くと、声が無限に反響し、空間全体が震える。
「音が……世界の形を作ってる」
アイの声も同じように拡散し、白い空間に波紋を広げていく。
波紋はやがて映像となり、過去の断片を映し出した。
桐生東高校の屋上、戦いの夜、創界の光——
そして、俺たちが辿ったすべての瞬間。
「……全部、見られてるんだな」
「ううん、違う。これは、“記録”じゃなくて——“再演”」
アイの言葉に、空間が脈打った。
《再演計画:観測フェーズ開始》
その声は、機械的でもあり、祈りのようでもあった。
⸻
次の瞬間、光が人の形をとる。
白いローブをまとい、表情のない顔。
瞳だけが、銀色に輝いていた。
白の観測者(ホワイト・オブザーバー)。
「——ようこそ、創界の原点へ」
声は柔らかい。だがその一言に、全てを支配する力が滲んでいた。
俺は一歩前に出た。
「お前が、世界を“やり直す”つもりの奴か」
「やり直しではない。“再演”だ。
創界は“人と神の調和”を試みたが、成功していない」
「成功してない? ふざけんな。
俺たちはちゃんと歩いてる。神も人も、共に生きてる!」
観測者は、わずかに首を傾げた。
「それは、あなたがそう“感じている”だけ。
観測上のデータでは、創界の安定指数は89.3%。
人間の選択行動は依然として“不完全”」
「……人間に“完全”を求めてどうする」
「完全でなければ、永遠に繰り返すだけだ」
観測者の瞳に、わずかに感情のようなものが灯った。
「神は不完全だった。
だからこそ、あなたたちに“創界”を託した。
しかし、あなたは選択を誤った」
アイが一歩前に出る。
「誤った? 私たちは、戦いを終わらせたのよ!」
「戦いは終わっていない。
あなたの中にまだ“神の断片”が残っている」
空間が揺れた。
アイの胸が光り、封印していたルシェリアの紋章が浮かび上がる。
「……っ、これ……!」
「創界核、反応再開。あなたはまだ“神”であり、人ではない」
観測者が手をかざすと、光の糸がアイを包み込んだ。
「やめろ!!」
俺は飛び込む。
しかし、足元が崩れ、時間が逆流する。
気づけば、俺は——“過去”にいた。
⸻
目の前に広がるのは、かつての桐生東高校。
まだ創界が起こる前の“現代”の姿。
「……これ、俺の記憶か?」
校舎の屋上に立つ少年。
それは、過去の俺だった。
まだ何も知らず、ただ現実に絶望していた頃の“神谷蓮”。
「なんで俺は、こんな顔してんだ……」
過去の俺が呟く。
「“誰も信じられない”——あの時の言葉だ」
観測者の声が響く。
「あなたの根源。
神と人を分けたのは、この“恐れ”だった。
あなたの世界は、まだ恐怖に支配されている」
「……違う。
俺はもう、怖がってねぇ」
「ならば証明せよ。
あなたが“恐れ”を超えたと」
次の瞬間、空間が変わった。
目の前に現れたのは——“黒い蓮”。
「久しぶりだな。まだ迷ってるじゃねぇか、“俺”」
「お前は……もう消えたはずだ」
「俺は消えねぇよ。
お前が“完璧じゃない”限り、何度でも戻ってくる」
黒い蓮が拳を構える。
「行くぞ。“俺”」
衝突。
光と闇がぶつかり、世界が歪む。
だが、今回は違った。
俺は拳を下ろした。
「……もういい。
お前を否定しない。
お前も、俺の一部だ」
黒い蓮の動きが止まる。
その瞳に、驚きが浮かんだ。
「……受け入れるのか」
「恐れも、怒りも、全部ひっくるめて“俺”だ。
だからこそ、俺は“人間”なんだよ」
黒い蓮が笑った。
「……やっと言えたな」
光が彼を包み、ゆっくりと消えていく。
観測者の声が響く。
「選択確認。
恐れの受容——人間定義値、確定」
⸻
視界が再び白く染まり、アイが戻ってきた。
彼女の体を包んでいた光の糸が解ける。
「蓮……!」
「もう大丈夫だ。——証明した」
観測者が、静かに二人を見つめていた。
「あなたたちは、“不完全”を受け入れた。
ならば、この創界を再演する理由はない」
アイが息を呑む。
「つまり……?」
観測者は、ほんの一瞬だけ微笑んだように見えた。
「——創界を、正式に承認する」
空間が光に満ち、再び世界の輪郭が戻っていく。
⸻
再び、青空の下。
創界星が静かに輝き、第三の星は消えていた。
風が吹き、鳥の声が戻る。
アイが隣で笑う。
「……終わった?」
「ああ。でも、始まったばかりだ」
「これから、どうするの?」
「もう“観測”じゃなく、“共に生きる”だろ」
アイは頷き、空を見上げた。
「不完全なままで、前に進む。
それが、あたしたちの創界なんだね」
「そうだ。神も人も、ただの“存在”だ。
だからこそ——可能性がある」
空が光る。
創界は、完全に“再生”した。
そして遠く、消えたはずの観測者の声が微かに残った。
——《観測終了。だが、新たな変数を確認。
“彼ら”の創界は、進化を始めている》——
(第25話 終)
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