詐欺る

黒崎伸一郎

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中年のただの豚

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冗談でもあの直美が「ただの豚」
なんていうとは思わなかったが、たった二ヶ月で二十キロは流石に酷かった。
二十歳の時は五十キロだったがディスコで踊らなくなり少しずつ太った。
が、それでも三十では五十五キロ、四十歳では六十キロ手前、ただ、今は八十の大台も見えてきたのだった。
六十キロでも少し太ったかなと思っていたのについに顎が消えたかと鏡を見て思ったくらいだ。
(これでは直美の言葉も頷ける)と私も頷いたのだから頭が痛くなる。
退院して直美が「二人でジムに行く!」と言ってきた。
すでにジムには行っていたが直美がいいジムがあると言うので今まで行っていた(十回も行ってはいない)ジムを辞めて直美の勧めるジムに行くことにした。
そこは直美の友達が務めるジムだった。中学の一年先輩で綺麗な女性だった。
二十歳前の頃の私ならすぐにナンパしていただろうが流石に今ではそんな気はしなかった。
いや、気はしていたのかもしれなかったが流石にただの豚では声をかけることができなかったと言うのが正解だった。
ただの豚は頑張った。
太っているのだから仕方がないが直美本人の口からただの豚との言葉を聞いたのが信じられなかったのだ。
私は直美に「豚にもプライドがある」と言ったら「どんな?」と聞き返してきたので私は思わず言ってやった。
「豚には豚のやり方がある」
と言ったら直美は腹を抱えて笑った。「私はそのやり方を見せてやる!」と初日からハードなスケジュールをこなそうとしたが若い直美たちには豚はついていけるわけがなく、すぐにペットボトルの水を飲んで倒れ込んだ。
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