詐欺る

黒崎伸一郎

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黒崎伸一郎の正体②

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「私、大学を辞めるわ!」突然直美は口走った。
私は酔って口走ったのかと思った。
今日の試合に負けてやけになって出た言葉なのかとも思った。
でも違った。私は静かなところで話をしようと思いスナックを出た。
雨が降って来たのでタクシーを拾いマンションに帰った。
部屋に入り冷蔵庫からペットボトルのミネラルウォーターを二本取り出し一本は直美に渡して飲む。
一気に飲んだところで直美が話し始めた。
大学に入ったのは親にどうやって入院代や手術代を払うのかを説明するのに入ったのだと言う。
確かにテニスは好きだし友達も出来て楽しいらしい。
そうだろう、天真爛漫な直美は友達にも好かれる筈だ。
ただ直美は大学に入ってテニスを続けることに疑問を抱いていた。
二千万円の通帳を受け取り、病院代、大学の授業料、入学金と生活費を払ったら残りはこれだけだと通帳をとノートを見せてくれた。
ノートには引き出した日にちと何の為に使ったかというのがビッシリと書かれていた。
通帳を私が渡した日からずっとである。それはまるで日記のようであった。
通帳の残高は千四百万円余りあった。
一年間経っているので生活費もかかるはずである。
しかし直美は親の病院代と大学費用以外ほとんど使っていないのだ。
直美の家は今は借家とのことで家賃が五万円と書いてある。
毎月の電気、ガス、水道代と食費まで全て細かく書いてある。
普通の家庭は一ヶ月どのくらいいるのか分からないが絶対に贅沢はしていないのはすぐに分かった。
「しんちゃん。私はしんちゃんが助けてくれなかったら本当にどうしていいのか分からない状態だったわ。
通帳を渡してくれて払わなければいけないお金を支払ったらまだ千五百万円はあったわ。
そしてバイトも辞めて素晴らしい高校生活を送る事も出来た。
しんちゃんとも付き合うことができて大学にも入れた。
私には夢の時間だった。
好きだったテニスも思いっきり出来た。でもやっぱり力が違うことも今日の試合で分かったの。
それに私、仕事がしたいの!
この前しんちゃんと行ってたジム。
先輩がバイトでもいいから来たらって言ってくれて面接したらいつでもいいから来てくれって言われてたけど、中途半端は好きじゃないから大学はやめて入るって決めたんだ。
しんちゃんは絶対辞めるなって言うだろうから今まで言わなかったの…。
ごめんなさい」
全部一人で考えて、考え抜いた答えに私が反対なんかできるわけがない。
私はただ頷き直美を抱きしめた。
今夜の直美は酒のせいか激しかった。
私は久しぶりに熟睡した。
朝起きると直美が朝ごはんを作っていた。「おはよう、しんちゃん。
昨日はよく寝れたみたいだったね。」と私の左頬にキスをした。
私はシャワー浴びて歯磨きをしてご飯を一緒に食べた。
「それともう一つ話があるの!」私は昨日の話にも驚いていたのにもっと驚かされる話を聞くことになったのだ!
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