詐欺る

黒崎伸一郎

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転落への序章

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何もかもうまく行きそうだった詐欺に陰りが見えてきて、私は少し焦りを感じていた。
実際メンバーが入院するとなると仕事は休むか辞めるのどちらかにしなくてはならなかった。
退院した後、同じ仕事には戻れなくなる可能性もあり仕事を探さなければならない。
百二十万円を受け取ってもすぐにギャンブルで使い果たすメンバーが多くその都度私に借りにくる奴も出てきた。
私も次の入院までのつなぎの金は貸してやるのだけれどそれはもちろん次に入院し、退院した後でもらう金が減るわけだからメンバーにとってはあまりしたくはない。
たが仕事に戻ったとしても半年後にはまた休むか辞めなければいけなくなる為、入院を辞める奴も出てきた。
そりぁそうだ、全部いっぺんにもらったところで百二十万円である。
半年間仕事をしなければなくなるに決まっている。
私はその半年間をどうにかすることを考えた。
私は会社を作ることにした。
会社を作り退院しての半年間をその会社で仕事をさせていけばメンバーは入院するまで食いつなぐことができる。
どんな会社を作るのかをよく吟味する必要があった。
知り合いに派遣会社を経営していた人がいた。
その人は派遣元責任者の資格を持っているのでその人の下で仕事をすることにした。
年配で以前は人数を入れて会社を運営していたが、今は一人で切り盛りしていた。
私は自身で会社を作り、その人の下で仕事をすることにした。
つまり人材派遣会社を作ったのだ。
もちろん派遣会社は派遣元責任者が必要で知り合いの名義でできるようにした。
つまりその人の下で仕事を取るようにしたのである。
建築とか土木作業とかなら誰でもできると思い、その仕事がないかを探す。
幸い仕事はその人がとってくれだのでメンバーをそこに入れればよかったのだ。これなら別に会社など作らなくてもよかったのだ。
私はすでに会社を作る準備をして書類を作成し、法人の手続きをするつもりだったが止めた。
それをすると後々面倒なことになりそうだと思ったからである。
これでメンバーが退院した後の仕事のことと金の心配はしなくても良くなると思った。
だがこれが私のつまづきになろうとはその時はわからなかった。
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