詐欺る

黒崎伸一郎

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直美の通帳の金

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私は浩司に渡した二百万円は実は直美に借りていた。
直美は私が渡した通帳の金はあれからほとんど手をつけていなかった。
 私はメンバー三人の入院代が入る三ヶ月間金を貸してくれと直美に頼んだ。
今まで付き合ってきて金がなくても直美に頼んだことはない。
それだけは拒んできたのだ。
何故なら直美に詐欺師だと告白している以上金を貸してくれなど言えなかったのだ。
でも怪我をした人に早めに払わなければ告訴され浩司は傷害罪で留置所に入れられて詐欺の事がバレてしまう。
そうならないように示談金を早めに作らなければならなかった。
メンバーの保険金の入金日までは待てなかったのだ。
私は二百万を貸してくれないかと直美に頼んだ。
直美はどうして必要なのかは聞かずに私に「この通帳はしんちゃんから預かったお金だからしんちゃんが持ってて」と言って通帳とカード、印鑑をそっと差し出した。
私は「それだけはできない」と言った。直美は「じゃあ」とだけ言って通帳から三百万円を下ろしてきて私に渡した。
私は「必ず返すから…」と言ってその三百万円を受け取った。
通帳はあれから全く引き出した形跡はなかった。
直美は通帳の金には一切手をつけていなかったのだ。
(いったい私は何がしたいんだ?)
私は自分の行動を恥じた。
直美に対して恥ずかしかった。
直美は金には執着はなかった。
別に贅沢も望んでなかった。
そんな直美が私に聞いたことがあった。「しんちゃんの両親は生きているの?」私は「会ってみるか?」と答えた。
「うん!」そう言ったが今の私にはそれはできなかった。
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