17 / 24
❺
しおりを挟む
恵比寿の土地について従業員に調べさせたが、別段不安なことは感じなかった。
今朝も簡単な調べをしたが、宮本の言う通り斎藤大作という人物が一人で住んでいた。
念のために抵当権も調べたが設定などされてはいない。
月曜日にその土地と建物の中を少し見せて貰えば、後の段取りはスムーズに行くはずだと窪田は感じた。
だが何故志保のところにそんな話が何度も舞い込むのだろう?
どんな伝手を持っているのだろうか?
不思議な女だと感心すると同時に、どうしても志保が自分には必要である事を改めて感じた。
月曜日、宮本と約束をしたした時間に恵比寿の駅前の喫茶店に向かった窪田は今日は志保が来ないことに少し不満を感じていた。
「後は私はわからないからクーさん、あなたの仕事よ!」
と言って、今日は姿を見せないらしい。
いくらわからないといっても七億円の仕事だ。
隣で聴いているだけでもいいから一緒にいて欲しかったが、わからないのだからそばにいてもつまらないと言うのは理解できた。
時間前に喫茶店に着いた窪田だったが、今回も宮本は先にテーブルについていた。
「お世話になります」
宮本の方が先に直立して頭を下げた。
窪田も深々と頭を下げて「こちらこそおねがいします」と少し笑みを見せた。
この喫茶店から歩いてすぐのところが商談の場所である。
「アイスコーヒー、ブラックで!」
店員が置いたアイスコーヒーのグラスをストローも刺さないで一息で飲み干した。
「今日は蒸し暑いですよね」
窪田は脱いだ上着を席にかけて首をおしぼりで拭いた。
「三十度近くになるっていってましたからね」
そう言うと宮本はポケットから鍵を取り出して窪田に見せてから「じゃあ、早めにいきますか」
と窪田に土地を見に行くのを急かした。
今座ったばかりの窪田だったが、宮本と世間話をしても仕方がないので言われるがままに「じゃあ、いきましょうか」
と答えて喫茶店を出た。
「今日は斎藤は病院に行っているのでいないんですよ」
ハンカチで首もとの汗を拭きながら窪田を見つめた。
その場所は喫茶店から歩いて三分ほどでマンションを建てるには丁度いい面積で立地も申し分ない。
この前志保が言っていた通り、この場所だけが古い二階建ての民家で、庭の手当ても出来ていない区域だった。
「家の中を少し見ますか!」
宮本は喫茶店で見せた鍵をドアに差し込んで玄関を開けた。
開けた途端に少しムッとした空気がしたようだった。
「換気悪いでしょう…。
なんせ独り身で趣味らしい趣味もないらしいから」
独り身の爺さんならこんなものなのかもしれないと思った窪田は玄関から中を見渡した。
ごく普通の部屋だが嫌に物が少ないように思えた。
テレビと古びたダンスが二つ。
後は台所に冷蔵庫があるくらいでクーラーはあるのだろうが使っているのかわからなかった。
テレビの前に扇風機があったので今はそれで凌いでいるのかもしれなかった。
そんなことは気にしても仕方がないので、窪田は「二階は見なくてもけっこうです」と宮本に告げると、宮本はドアを閉めて鍵をかけ直して家の前に立った。
「この場所は前から他の不動産屋が狙っていたのですが、斎藤がどうしても売りたがらなかったのです。
でも税金とかいろいろ物入りができたみたいで、私にこの土地を売ってくれないかと話があったんです」
宮本が斎藤のこの家を売ろうとした理由を淡々と語っているのを窪田は黙って聞いていた。
「斎藤とは歳は少し違いますが幼なじみでね…」
そこまで言うと宮本は「私ごとの話で恐縮でしたな。
どうです?
志保さんの紹介でこの話を持ってきたのですが、気に入らなかったらこの話は断ってもらっても結構です。
他に持っていきますので…」
宮本の言葉が終わらないうちに「いえいえ、宮本さん。
いい話を持ってきていただいてありがとうございます。
ただ七億円の話ですから、帰って専務たちと会議を開いてなるべく早めに連絡いたします。
そうですね、三日ください。
木曜日には必ず連絡いたします」
そう窪田は言うと、「この携帯番号にかければいいんですよね」
と、この前交換した宮本の名刺を取り出した。
「それで結構です。
何度も言うようで失礼なのですが、できるだけ早くお願いします。
斎藤もそれを望んでいますので…」
「わかりました。
では早めに連絡いたします。
今日はありがとうございました。」
窪田はそう宮本に告げて恵比寿を後にした。
後は会社に帰って会議をかけてからゴーサインを出すだけだなと思いながら帰宅を急いだ。
今朝も簡単な調べをしたが、宮本の言う通り斎藤大作という人物が一人で住んでいた。
念のために抵当権も調べたが設定などされてはいない。
月曜日にその土地と建物の中を少し見せて貰えば、後の段取りはスムーズに行くはずだと窪田は感じた。
だが何故志保のところにそんな話が何度も舞い込むのだろう?
どんな伝手を持っているのだろうか?
不思議な女だと感心すると同時に、どうしても志保が自分には必要である事を改めて感じた。
月曜日、宮本と約束をしたした時間に恵比寿の駅前の喫茶店に向かった窪田は今日は志保が来ないことに少し不満を感じていた。
「後は私はわからないからクーさん、あなたの仕事よ!」
と言って、今日は姿を見せないらしい。
いくらわからないといっても七億円の仕事だ。
隣で聴いているだけでもいいから一緒にいて欲しかったが、わからないのだからそばにいてもつまらないと言うのは理解できた。
時間前に喫茶店に着いた窪田だったが、今回も宮本は先にテーブルについていた。
「お世話になります」
宮本の方が先に直立して頭を下げた。
窪田も深々と頭を下げて「こちらこそおねがいします」と少し笑みを見せた。
この喫茶店から歩いてすぐのところが商談の場所である。
「アイスコーヒー、ブラックで!」
店員が置いたアイスコーヒーのグラスをストローも刺さないで一息で飲み干した。
「今日は蒸し暑いですよね」
窪田は脱いだ上着を席にかけて首をおしぼりで拭いた。
「三十度近くになるっていってましたからね」
そう言うと宮本はポケットから鍵を取り出して窪田に見せてから「じゃあ、早めにいきますか」
と窪田に土地を見に行くのを急かした。
今座ったばかりの窪田だったが、宮本と世間話をしても仕方がないので言われるがままに「じゃあ、いきましょうか」
と答えて喫茶店を出た。
「今日は斎藤は病院に行っているのでいないんですよ」
ハンカチで首もとの汗を拭きながら窪田を見つめた。
その場所は喫茶店から歩いて三分ほどでマンションを建てるには丁度いい面積で立地も申し分ない。
この前志保が言っていた通り、この場所だけが古い二階建ての民家で、庭の手当ても出来ていない区域だった。
「家の中を少し見ますか!」
宮本は喫茶店で見せた鍵をドアに差し込んで玄関を開けた。
開けた途端に少しムッとした空気がしたようだった。
「換気悪いでしょう…。
なんせ独り身で趣味らしい趣味もないらしいから」
独り身の爺さんならこんなものなのかもしれないと思った窪田は玄関から中を見渡した。
ごく普通の部屋だが嫌に物が少ないように思えた。
テレビと古びたダンスが二つ。
後は台所に冷蔵庫があるくらいでクーラーはあるのだろうが使っているのかわからなかった。
テレビの前に扇風機があったので今はそれで凌いでいるのかもしれなかった。
そんなことは気にしても仕方がないので、窪田は「二階は見なくてもけっこうです」と宮本に告げると、宮本はドアを閉めて鍵をかけ直して家の前に立った。
「この場所は前から他の不動産屋が狙っていたのですが、斎藤がどうしても売りたがらなかったのです。
でも税金とかいろいろ物入りができたみたいで、私にこの土地を売ってくれないかと話があったんです」
宮本が斎藤のこの家を売ろうとした理由を淡々と語っているのを窪田は黙って聞いていた。
「斎藤とは歳は少し違いますが幼なじみでね…」
そこまで言うと宮本は「私ごとの話で恐縮でしたな。
どうです?
志保さんの紹介でこの話を持ってきたのですが、気に入らなかったらこの話は断ってもらっても結構です。
他に持っていきますので…」
宮本の言葉が終わらないうちに「いえいえ、宮本さん。
いい話を持ってきていただいてありがとうございます。
ただ七億円の話ですから、帰って専務たちと会議を開いてなるべく早めに連絡いたします。
そうですね、三日ください。
木曜日には必ず連絡いたします」
そう窪田は言うと、「この携帯番号にかければいいんですよね」
と、この前交換した宮本の名刺を取り出した。
「それで結構です。
何度も言うようで失礼なのですが、できるだけ早くお願いします。
斎藤もそれを望んでいますので…」
「わかりました。
では早めに連絡いたします。
今日はありがとうございました。」
窪田はそう宮本に告げて恵比寿を後にした。
後は会社に帰って会議をかけてからゴーサインを出すだけだなと思いながら帰宅を急いだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる