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恵比寿の土地について従業員に調べさせたが、別段不安なことは感じなかった。
今朝も簡単な調べをしたが、宮本の言う通り斎藤大作という人物が一人で住んでいた。
念のために抵当権も調べたが設定などされてはいない。
月曜日にその土地と建物の中を少し見せて貰えば、後の段取りはスムーズに行くはずだと窪田は感じた。
だが何故志保のところにそんな話が何度も舞い込むのだろう?
どんな伝手を持っているのだろうか?
不思議な女だと感心すると同時に、どうしても志保が自分には必要である事を改めて感じた。
月曜日、宮本と約束をしたした時間に恵比寿の駅前の喫茶店に向かった窪田は今日は志保が来ないことに少し不満を感じていた。
「後は私はわからないからクーさん、あなたの仕事よ!」
と言って、今日は姿を見せないらしい。
いくらわからないといっても七億円の仕事だ。
隣で聴いているだけでもいいから一緒にいて欲しかったが、わからないのだからそばにいてもつまらないと言うのは理解できた。
時間前に喫茶店に着いた窪田だったが、今回も宮本は先にテーブルについていた。
「お世話になります」
宮本の方が先に直立して頭を下げた。
窪田も深々と頭を下げて「こちらこそおねがいします」と少し笑みを見せた。
この喫茶店から歩いてすぐのところが商談の場所である。
「アイスコーヒー、ブラックで!」
店員が置いたアイスコーヒーのグラスをストローも刺さないで一息で飲み干した。
「今日は蒸し暑いですよね」
窪田は脱いだ上着を席にかけて首をおしぼりで拭いた。
「三十度近くになるっていってましたからね」
そう言うと宮本はポケットから鍵を取り出して窪田に見せてから「じゃあ、早めにいきますか」
と窪田に土地を見に行くのを急かした。
今座ったばかりの窪田だったが、宮本と世間話をしても仕方がないので言われるがままに「じゃあ、いきましょうか」
と答えて喫茶店を出た。
「今日は斎藤は病院に行っているのでいないんですよ」
ハンカチで首もとの汗を拭きながら窪田を見つめた。
その場所は喫茶店から歩いて三分ほどでマンションを建てるには丁度いい面積で立地も申し分ない。
この前志保が言っていた通り、この場所だけが古い二階建ての民家で、庭の手当ても出来ていない区域だった。
「家の中を少し見ますか!」
宮本は喫茶店で見せた鍵をドアに差し込んで玄関を開けた。
開けた途端に少しムッとした空気がしたようだった。
「換気悪いでしょう…。
なんせ独り身で趣味らしい趣味もないらしいから」
独り身の爺さんならこんなものなのかもしれないと思った窪田は玄関から中を見渡した。
ごく普通の部屋だが嫌に物が少ないように思えた。
テレビと古びたダンスが二つ。
後は台所に冷蔵庫があるくらいでクーラーはあるのだろうが使っているのかわからなかった。
テレビの前に扇風機があったので今はそれで凌いでいるのかもしれなかった。
そんなことは気にしても仕方がないので、窪田は「二階は見なくてもけっこうです」と宮本に告げると、宮本はドアを閉めて鍵をかけ直して家の前に立った。
「この場所は前から他の不動産屋が狙っていたのですが、斎藤がどうしても売りたがらなかったのです。
でも税金とかいろいろ物入りができたみたいで、私にこの土地を売ってくれないかと話があったんです」
宮本が斎藤のこの家を売ろうとした理由を淡々と語っているのを窪田は黙って聞いていた。
「斎藤とは歳は少し違いますが幼なじみでね…」
そこまで言うと宮本は「私ごとの話で恐縮でしたな。
どうです?
志保さんの紹介でこの話を持ってきたのですが、気に入らなかったらこの話は断ってもらっても結構です。
他に持っていきますので…」
宮本の言葉が終わらないうちに「いえいえ、宮本さん。
いい話を持ってきていただいてありがとうございます。
ただ七億円の話ですから、帰って専務たちと会議を開いてなるべく早めに連絡いたします。
そうですね、三日ください。
木曜日には必ず連絡いたします」
そう窪田は言うと、「この携帯番号にかければいいんですよね」
と、この前交換した宮本の名刺を取り出した。
「それで結構です。
何度も言うようで失礼なのですが、できるだけ早くお願いします。
斎藤もそれを望んでいますので…」
「わかりました。
では早めに連絡いたします。
今日はありがとうございました。」
窪田はそう宮本に告げて恵比寿を後にした。
後は会社に帰って会議をかけてからゴーサインを出すだけだなと思いながら帰宅を急いだ。
今朝も簡単な調べをしたが、宮本の言う通り斎藤大作という人物が一人で住んでいた。
念のために抵当権も調べたが設定などされてはいない。
月曜日にその土地と建物の中を少し見せて貰えば、後の段取りはスムーズに行くはずだと窪田は感じた。
だが何故志保のところにそんな話が何度も舞い込むのだろう?
どんな伝手を持っているのだろうか?
不思議な女だと感心すると同時に、どうしても志保が自分には必要である事を改めて感じた。
月曜日、宮本と約束をしたした時間に恵比寿の駅前の喫茶店に向かった窪田は今日は志保が来ないことに少し不満を感じていた。
「後は私はわからないからクーさん、あなたの仕事よ!」
と言って、今日は姿を見せないらしい。
いくらわからないといっても七億円の仕事だ。
隣で聴いているだけでもいいから一緒にいて欲しかったが、わからないのだからそばにいてもつまらないと言うのは理解できた。
時間前に喫茶店に着いた窪田だったが、今回も宮本は先にテーブルについていた。
「お世話になります」
宮本の方が先に直立して頭を下げた。
窪田も深々と頭を下げて「こちらこそおねがいします」と少し笑みを見せた。
この喫茶店から歩いてすぐのところが商談の場所である。
「アイスコーヒー、ブラックで!」
店員が置いたアイスコーヒーのグラスをストローも刺さないで一息で飲み干した。
「今日は蒸し暑いですよね」
窪田は脱いだ上着を席にかけて首をおしぼりで拭いた。
「三十度近くになるっていってましたからね」
そう言うと宮本はポケットから鍵を取り出して窪田に見せてから「じゃあ、早めにいきますか」
と窪田に土地を見に行くのを急かした。
今座ったばかりの窪田だったが、宮本と世間話をしても仕方がないので言われるがままに「じゃあ、いきましょうか」
と答えて喫茶店を出た。
「今日は斎藤は病院に行っているのでいないんですよ」
ハンカチで首もとの汗を拭きながら窪田を見つめた。
その場所は喫茶店から歩いて三分ほどでマンションを建てるには丁度いい面積で立地も申し分ない。
この前志保が言っていた通り、この場所だけが古い二階建ての民家で、庭の手当ても出来ていない区域だった。
「家の中を少し見ますか!」
宮本は喫茶店で見せた鍵をドアに差し込んで玄関を開けた。
開けた途端に少しムッとした空気がしたようだった。
「換気悪いでしょう…。
なんせ独り身で趣味らしい趣味もないらしいから」
独り身の爺さんならこんなものなのかもしれないと思った窪田は玄関から中を見渡した。
ごく普通の部屋だが嫌に物が少ないように思えた。
テレビと古びたダンスが二つ。
後は台所に冷蔵庫があるくらいでクーラーはあるのだろうが使っているのかわからなかった。
テレビの前に扇風機があったので今はそれで凌いでいるのかもしれなかった。
そんなことは気にしても仕方がないので、窪田は「二階は見なくてもけっこうです」と宮本に告げると、宮本はドアを閉めて鍵をかけ直して家の前に立った。
「この場所は前から他の不動産屋が狙っていたのですが、斎藤がどうしても売りたがらなかったのです。
でも税金とかいろいろ物入りができたみたいで、私にこの土地を売ってくれないかと話があったんです」
宮本が斎藤のこの家を売ろうとした理由を淡々と語っているのを窪田は黙って聞いていた。
「斎藤とは歳は少し違いますが幼なじみでね…」
そこまで言うと宮本は「私ごとの話で恐縮でしたな。
どうです?
志保さんの紹介でこの話を持ってきたのですが、気に入らなかったらこの話は断ってもらっても結構です。
他に持っていきますので…」
宮本の言葉が終わらないうちに「いえいえ、宮本さん。
いい話を持ってきていただいてありがとうございます。
ただ七億円の話ですから、帰って専務たちと会議を開いてなるべく早めに連絡いたします。
そうですね、三日ください。
木曜日には必ず連絡いたします」
そう窪田は言うと、「この携帯番号にかければいいんですよね」
と、この前交換した宮本の名刺を取り出した。
「それで結構です。
何度も言うようで失礼なのですが、できるだけ早くお願いします。
斎藤もそれを望んでいますので…」
「わかりました。
では早めに連絡いたします。
今日はありがとうございました。」
窪田はそう宮本に告げて恵比寿を後にした。
後は会社に帰って会議をかけてからゴーサインを出すだけだなと思いながら帰宅を急いだ。
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