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償い(ラストチャレンジ)
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仕事といっても私はそれらしいものをやった記憶があまり無い。
若い頃から好きな事を好きなようにしてきた。
好きな事と言ってもギャンブル尽くしで他になんの取り柄があるわけでも無い。
悔いがないかと聞かれると好き放題に生きてきたのだからその質問自体が愚問だと私は思う。
ただ、私に関わった人には本当に申し訳がない事をしたと心底思っている。
特に私の両親と文、杏、そして春…。
私の親父は三年前に他界した。
溺愛してもらって育てていただいたのにも関わらず、親孝行の一つもしたことのない私であった。
それどころか逆に針の筵に座らせる様な事件を起こしたり、汗水垂らして築いた財産を湯水の如く垂れ流し状態の様に使い果たしてしまった馬鹿な息子であった。
年老いた母は今私の故郷の実家に妹と住んでいるが、この母にも孝行というものはやったことはない。
せめて元気であることの連絡だけはたまにはしてはいるが、今の状態ではどうすればいいのかがわからない。
文にも謝らねばならないことが山の様にある。
私と知り合ったばかりに不幸のどん底に落としてしまった事…。
何一つ夫らしい事…いや、籍さえ入れていなかったのだから夫ではないか…。
私と知り合わなければ普通の男性と幸せな人生を歩んでいただろうに…。
杏…!
情けない父親で本当にすまない。
誤っても誤っても済むことではないのは十分わかているつもりだ。
それでも謝らせて欲しい。
いや、生きている限り謝り続けていく…。
あなたにはこの想いは届く事はないだろうが、私には今それしかできないのだ。
春にも頭を下げるしかない。
結婚した事は風の便りに聞いた。
もう二年以上前になるだろうから子供がいても不思議ではない。
懺悔しても懺悔してもどうしようもない事はわかっている。
今の私には謝ることしかできないのだ。
この街に来ていろんな仕事をした。
アマゾンでのピッキング…。
不器用な私にとってとても簡単な作業ではなく、あまりに忙しすぎる仕事だったが、半年間なんとか続けた。
たった半年だったが、私には一週間も続けられる様な仕事ではなかった。
朝は五時起きで電車からバスで移動して一日が始まる。
あまりに忙しい仕事が終わりアパートに帰ると夜七時を過ぎている。
それでも生きていくために仕事を続けた。
帰ったらクタクタで、ご飯食べてから風呂に入ったら布団の上ですでに横になって寝ていた。
そんな半年だったが、体がついていけなくなって遂に仕事を変える事にした。
ただ、六十を過ぎた男になかなか金になる仕事など見つからない。
私は一日一万円の求人文字に釣られて警備員の仕事の面接に行った。
もちろん警備の経験などあるわけがない。
立っているだけでいい…と言われて入った会社だったが、重い物を持つ事もしばしばでずっと立ちっぱなし、冬の寒いのも体には堪えるが夏の暑いのにはなかなか対処しようがない。
ヘルメットにマスクは常時着用で、熱射病にならない様に常に水分補給は欠かせない。
炎天下の中でアスファルトの照り返しが半端ない。
靴を履いていても足の裏が火傷する事もしばしばあり、常に水膨れが絶えない。
そんな中、ある日私はアパートの風呂場で足を滑らして背中を打ち付けてしまったのだ。
病院に行き肋骨が一本折れてしまいそのまま入院した。
一ヶ月は入院しろと医師には言われたが、金もかかるので三日で退院した。
肋骨がが折れていたので二週間はくしゃみをしても激痛が走ったが、そのくらいは我慢した。
問題はレントゲンだった。
レントゲンで肋骨が折れていたのはわかったが、その周りに影の様なものが写っていた。
医師にもしかしたら癌かもしれないので精密検査をしたほうがいいと告げられていた。
私はその時に医療保険には入っていたが、死亡保証はつけていなかった。
当たり前のことだが、死亡保証は金が高いからであった。
私は死んだ時のことは全く考えていなかった。
私は私のことしか頭になかったからだった。
もちろん年老いた母に何かを残してあげたい…。と思う気持ちもあった。
私が生まれて何ひとつ孝行をできていなかったからだ。
ただそれよりも杏に残してやりたいとの気持ちが強かった。
そう考えて私は精密検査を受けるのをやめて死亡保証の保険に入った。
それと合わせてがん保険に入ったのである。
私は保険金のことは少しは勉強した。
癌と診断されてからは入れないのはわかっていたし、新しい保険に入っても一年経過しなければ満額は支払われない。
何とか一年間は騙し騙し生活していく事にしたのである。
死亡保険の受け取りは母にした。
金額は少ないが、生活の足しになればいい。
それとは別のがん保険の受け取りは杏にした。
癌で死んだ時の保険金は二千万円。
それほど多くはないがせめてもの償いである。
何故杏だけに?と思われるかもしれない。
本当ならば文にも春にも残してあげるべきなのだが、私には財産と呼べるものが何にもない。
杏は三十二歳になろうとしているがいまだに結婚していない。
仕事も転々として、本当に私と似ていると何度か文に言われたことがある。
春はまだ二十六歳だし、結婚した後も幸せな家庭を築くことだろう。
私にあまり似てはいないが、顔が小さく可愛らしい子だった。
春の旦那の顔は知らないが子供も可愛いに決まっている。
杏にも幸せになって欲しい。
こんな父親だったけど本当にすまなく思う。
もちろん許して欲しいなんて思ってはいない。
私が逆の立場ならグレていても不思議ではないのだから…。
私が、保険に入って十ヶ月が経とうとしている。
半年前に同僚の保険証を借りて診察に行った。
影がはっきりしていて精密検査をしたほうがいいと医師から言われた。
少し胸が痛い気持ちするが、あと二ヶ月待って自分の保険証で病院に行き精密検査を受けるつもりだ。
何もしてやれなかった私だが、最後に幾らかでも渡す事が私にとって最後の償いだと思っている。
こんな事で私の過ちが償えるとは思ってはいない。
だが私にはこれしか出来なかったのだ。
杏よ…、もう一度だけ言わせてくれ!
何にもしてやれない私をお父さんと呼んでくれて本当にありがとう。
そして母さんと春たちと一緒に幸せな人生を歩んでくれ。
私はずっとずっと死ぬまでお前たちの幸せを祈り続けていく。
嫌だと言っても祈らせてくれ!
それが私のせめてもの償いだから…。
完
若い頃から好きな事を好きなようにしてきた。
好きな事と言ってもギャンブル尽くしで他になんの取り柄があるわけでも無い。
悔いがないかと聞かれると好き放題に生きてきたのだからその質問自体が愚問だと私は思う。
ただ、私に関わった人には本当に申し訳がない事をしたと心底思っている。
特に私の両親と文、杏、そして春…。
私の親父は三年前に他界した。
溺愛してもらって育てていただいたのにも関わらず、親孝行の一つもしたことのない私であった。
それどころか逆に針の筵に座らせる様な事件を起こしたり、汗水垂らして築いた財産を湯水の如く垂れ流し状態の様に使い果たしてしまった馬鹿な息子であった。
年老いた母は今私の故郷の実家に妹と住んでいるが、この母にも孝行というものはやったことはない。
せめて元気であることの連絡だけはたまにはしてはいるが、今の状態ではどうすればいいのかがわからない。
文にも謝らねばならないことが山の様にある。
私と知り合ったばかりに不幸のどん底に落としてしまった事…。
何一つ夫らしい事…いや、籍さえ入れていなかったのだから夫ではないか…。
私と知り合わなければ普通の男性と幸せな人生を歩んでいただろうに…。
杏…!
情けない父親で本当にすまない。
誤っても誤っても済むことではないのは十分わかているつもりだ。
それでも謝らせて欲しい。
いや、生きている限り謝り続けていく…。
あなたにはこの想いは届く事はないだろうが、私には今それしかできないのだ。
春にも頭を下げるしかない。
結婚した事は風の便りに聞いた。
もう二年以上前になるだろうから子供がいても不思議ではない。
懺悔しても懺悔してもどうしようもない事はわかっている。
今の私には謝ることしかできないのだ。
この街に来ていろんな仕事をした。
アマゾンでのピッキング…。
不器用な私にとってとても簡単な作業ではなく、あまりに忙しすぎる仕事だったが、半年間なんとか続けた。
たった半年だったが、私には一週間も続けられる様な仕事ではなかった。
朝は五時起きで電車からバスで移動して一日が始まる。
あまりに忙しい仕事が終わりアパートに帰ると夜七時を過ぎている。
それでも生きていくために仕事を続けた。
帰ったらクタクタで、ご飯食べてから風呂に入ったら布団の上ですでに横になって寝ていた。
そんな半年だったが、体がついていけなくなって遂に仕事を変える事にした。
ただ、六十を過ぎた男になかなか金になる仕事など見つからない。
私は一日一万円の求人文字に釣られて警備員の仕事の面接に行った。
もちろん警備の経験などあるわけがない。
立っているだけでいい…と言われて入った会社だったが、重い物を持つ事もしばしばでずっと立ちっぱなし、冬の寒いのも体には堪えるが夏の暑いのにはなかなか対処しようがない。
ヘルメットにマスクは常時着用で、熱射病にならない様に常に水分補給は欠かせない。
炎天下の中でアスファルトの照り返しが半端ない。
靴を履いていても足の裏が火傷する事もしばしばあり、常に水膨れが絶えない。
そんな中、ある日私はアパートの風呂場で足を滑らして背中を打ち付けてしまったのだ。
病院に行き肋骨が一本折れてしまいそのまま入院した。
一ヶ月は入院しろと医師には言われたが、金もかかるので三日で退院した。
肋骨がが折れていたので二週間はくしゃみをしても激痛が走ったが、そのくらいは我慢した。
問題はレントゲンだった。
レントゲンで肋骨が折れていたのはわかったが、その周りに影の様なものが写っていた。
医師にもしかしたら癌かもしれないので精密検査をしたほうがいいと告げられていた。
私はその時に医療保険には入っていたが、死亡保証はつけていなかった。
当たり前のことだが、死亡保証は金が高いからであった。
私は死んだ時のことは全く考えていなかった。
私は私のことしか頭になかったからだった。
もちろん年老いた母に何かを残してあげたい…。と思う気持ちもあった。
私が生まれて何ひとつ孝行をできていなかったからだ。
ただそれよりも杏に残してやりたいとの気持ちが強かった。
そう考えて私は精密検査を受けるのをやめて死亡保証の保険に入った。
それと合わせてがん保険に入ったのである。
私は保険金のことは少しは勉強した。
癌と診断されてからは入れないのはわかっていたし、新しい保険に入っても一年経過しなければ満額は支払われない。
何とか一年間は騙し騙し生活していく事にしたのである。
死亡保険の受け取りは母にした。
金額は少ないが、生活の足しになればいい。
それとは別のがん保険の受け取りは杏にした。
癌で死んだ時の保険金は二千万円。
それほど多くはないがせめてもの償いである。
何故杏だけに?と思われるかもしれない。
本当ならば文にも春にも残してあげるべきなのだが、私には財産と呼べるものが何にもない。
杏は三十二歳になろうとしているがいまだに結婚していない。
仕事も転々として、本当に私と似ていると何度か文に言われたことがある。
春はまだ二十六歳だし、結婚した後も幸せな家庭を築くことだろう。
私にあまり似てはいないが、顔が小さく可愛らしい子だった。
春の旦那の顔は知らないが子供も可愛いに決まっている。
杏にも幸せになって欲しい。
こんな父親だったけど本当にすまなく思う。
もちろん許して欲しいなんて思ってはいない。
私が逆の立場ならグレていても不思議ではないのだから…。
私が、保険に入って十ヶ月が経とうとしている。
半年前に同僚の保険証を借りて診察に行った。
影がはっきりしていて精密検査をしたほうがいいと医師から言われた。
少し胸が痛い気持ちするが、あと二ヶ月待って自分の保険証で病院に行き精密検査を受けるつもりだ。
何もしてやれなかった私だが、最後に幾らかでも渡す事が私にとって最後の償いだと思っている。
こんな事で私の過ちが償えるとは思ってはいない。
だが私にはこれしか出来なかったのだ。
杏よ…、もう一度だけ言わせてくれ!
何にもしてやれない私をお父さんと呼んでくれて本当にありがとう。
そして母さんと春たちと一緒に幸せな人生を歩んでくれ。
私はずっとずっと死ぬまでお前たちの幸せを祈り続けていく。
嫌だと言っても祈らせてくれ!
それが私のせめてもの償いだから…。
完
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