詐欺るシリーズ「冤罪！幾重にも塗り替えられた真実」

黒崎伸一郎

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苦渋の決断

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新谷は少し考えてから言葉を選ぶようにゆっくりと話し出した。
何故なら新谷が「NO！」と言えば、どんな仕打ちが待ち受けるかは容易に想像できた。
新谷自身が、情報として持ってきた日比野誠司は何らかの形で消されて、もうこの世にはいないだろう…。
この自分もこの話を蔑ろにしてしまえば、同じ様に跡形も無く消されてしまう。
蛇に睨まれたカエルのように動けなくなった自分がいることに気付いてしまったのだ。
今から警察に話に行くことももちろん考えはした。
だが、何の証拠もない。
その前に殺されてしまうのがオチだ。
新谷は八方塞がりになったと悟った。
隣で肩を落とす新谷を見てジェーン斎藤は「どうやら商談は成立のようだな…。
うん！賢い決断をしてくれた…」
二度ほど軽く頷いたジェーン斎藤は、カウンターの上に自分のポケットの中から黒色の携帯を置いた。
「これが君の携帯だ！
私以外から鳴る事はない。鳴ったら必ず出るように…」
そう言い残し椅子から立ち上がった。

悪魔の男がドアを開け立ち去った後も肩を落としまままでしばらく動けなかった新谷に「あんたも楽して儲ければいいのよ…。あたしのように、ね…！」
今まで一言も喋らなかったカウンターの真ん中にいた女性が呟いた。
あたしのように…？
「君もあの男の仲間なのか？」
かすれた声でハイカラな女性に問いただした。
「どうしたの？息を切らせて…」
さっきマスターから注いでもらったビールを飲んだばかりだというのに、緊張でもう喉がカラカラになっていた。
「もう一杯ビールを…」
マスターに注文したビールを新谷はまた一息で胃袋に流し込んだ。
いつもはうまいはずのビールだが今日は全く味がしない。
「あなたはもう長いのですか？」
絞り出すように出た言葉がこれだった。
「そうね…。
三度ほど一緒だったかしら…？
あ、最初に言っとくけどジェーンの事、調べたって無駄よ。
彼はずる賢いから必ずしっぺ返しをしてくるから…」
しっぺ返し…？
どんな仕打ちが待ち受けているか分からないから逆らうな…。
ということなんだな！
「ジェーンって言われてるのか？彼は…」
「そう、ここではね。
そして私はゼロ。
ま、名前が怜子だから彼がつけたあだ名よ。よろしく…。
あなたもかっこいい名前つけて貰えば」
「俺は…いい…」
闇のあだ名なんていらない。
新谷は心底そう思った。
とにかく闇の軍団に足を踏み入れた事は確実になった。
これからどうやって生きていけばいいのか全く先が見えない状態なのを新谷は感じていた。
「ビ、ビールをおかわりください。
いや、なんかそれよりずっと強い酒を…」
そこまで酒は強くない。
だけど、どんなに強い酒を飲んでも今日は全く酔わないような気がしていた。
今日だけは…。

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