吾輩は野良の猫である

シュンティ

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時短

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 吾輩は先だって「時短」という言葉を知った。文字通り時間を短くするということらしい。時間短縮と言えばよいところを、縮めて時短としていることからもわかるように、人間は余程時間が惜しいらしい。
 
 しかも時短家電だの、時短レシピだの馬鹿の一つ覚えのように何でも時短していって、浮いた時間をどうするのかと言えば、やっぱり忙しく何かをはめ込むのだから、なんとも滑稽である。

 時短したところで、一日の長さは変わらぬ。機械に代替させることがあるとはいえ、時短するほど、総体としてやる項目が増えて生活が余計にせわしなくなったように見える。時間の束縛から逃れるために時短しているはずが、時短によってかえってその束縛に拍車がかかっているように見受ける。

 時短という言葉が生まれるほど、現代の人間社会は時間の観念に染まっていると言える。そして悲しいかな、野良の猫である吾輩も時間によって後ろ足くらいは捕まれている感覚がある。というのも人間と生活領域を重ねる吾輩が、人間の家々で芳しき振る舞いを受けるには、時間を気にしないわけにはゆかぬからである。吾輩が決まった時刻に現れたほうが、時間に束縛された日々を送る人間に好都合というのは、人間諸君の想像にも難くないと思う。

「決まった時刻に」と言ったが、吾輩が定時に出向くということを人間の脳裏に植え付けておいて、時折あえて定時に現れないのは、人間を毛玉、もとい手玉に取る高等技術に他ならない。この術は吾輩が人間の心理を研究しつくした末に編み出したものであるから、そうやすやすと口外しないつもりであったが、こうして披瀝してしまった。

 野良の猫の吾輩でさえ、時短を強いられるような、気ぜわしくて窮屈な時代がすぐそこまで来ておるやもしれぬ。そんな時代になろうとも1日16時間の睡眠だけは、頑として死守していきたいと思う。
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