3つの袋

シュンティ

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3つの袋

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 ぼくは困りはててしまった。今度学校で自分の宝物について発表しないといけないのに、ぼくには宝物と呼べるものがなかったから。
 ぼくはふと、三つの袋のことを思い出した。それは結婚式のスピーチでよく話されるお金を入れる袋、つまりお財布と、胃袋と、お袋つまりお母さんのことだ。なんでこんなことを思い出したのかな。だってぼくは今、宝物を探しているのであって、こんな誰でも持っているもののことを思い出したってしかたがないもの。
 そうだな、例えば、お金がかってにたまるお財布に、おいしいものをずっと食べ続けられる胃袋、それにいつまでも年をとらずにずっと料理を作ってくれるお母さんなんかだったら、ぼくの宝物って言えるかもしれないけど。
 いろいろと想像をふくらませていると、僕はつかれて眠ってしまった。ぼくが夢の中でも宝物のことを考えていたら、どこからか声が聞こえてきた。
「宝物がなくて困っているのはきみか?」
「はい、そうですが、あなたは誰?」
「私は天の声だ。ほしいものを言えば出してあげよう。それをきみの宝物にするといい。」
「え、本当ですか? やった! ぼくは、お金がかってにたまるお財布がほしいです。」
「おやすいご用だ、そーれ。」
 ぼくはとつぜん強い光につつまれた。気がつくと何てことはない、そこはぼくの部屋だった。いつもと違うのは、ぼくの財布がパンパンにふくれあがっていたこと。中を見ると、なんと五〇〇円玉でいっぱいだった! うれしくなったぼくは、新しいくつやおもちゃや筆ばこ、ほしいものを次々と買ったんだ。使っても使っても財布の中には五〇〇円玉がかってにたまっていくから、ほんとに最高だとぼくは思った。
 だけどそのうち、ぼくはものを大切にしなくなっていた。だってこわれてもすぐに代わりを買えばいいから。ものだけじゃない、ぼくは友達も大切にしなくなった。そしてそんなぼくを友達も大切にしてくれなくなって、ぼくのもとから離れていった。ぼくはその時初めて気づいた、友達に代わりはないということ。
 とつぜん天の声が聞こえてきた。
「どうだい、きみの言っていたお金がかってにたまるお財布は本当にほしいものかい?」
「いいえ。そんなお財布を手に入れてしまったら、大切なぼくの友達を失ってしまいそうです。お財布はもとのもので十分です。」
「では、他に望むものはあるかい?」
「そうですね、おいしいものをずっと食べ続けられる胃袋がほしいです。」
「おやすいご用だよ。」
 ぼくは再び強い光につつまれた。今度のぼくは食事中だった。他の家族はとっくに食べ終わったのに、ぼくだけが食べ続けている。ずっと食べ続けているから、炊飯器の中のご飯も、鍋の中のカレーもみんなたいらげてしまった。こんなに食べたのに、ぼくのお腹は全然いっぱいにならないし、もちろんお腹いっぱいのあの満足感もない。ぼくは悲しくなった。
 再び天の声が聞こえてきた。
「どうだい?」
「食べても食べても満足できないなんて悲しいです。やっぱりもとの胃袋でいいです。」
「そうかい、では他に望むものはあるかい?」
 ぼくは、少し考えてから答えた。
「年をとらないお母さんは、お願いできますか?」
「おやすいご用で。」
 ぼくは再び強い光につつまれた。今度のぼくは、老いぼれおじいさんになっていて、病院のベッドに横たわっていた。ぼくの鼻や腕やお腹からは何本ものくだが出ている。ぼくはまもなく死んじゃうみたい。ベッドの横では、ぼくのお母さんが泣きじゃくりながら何かつぶやいている。
「自分の子どもの死ほどつらいことはないよ。」
 ぼくはその時初めて気づいた、お母さんが年をとらないってことは、ぼくの方がお母さんより先に死んじゃうってこと。ぼくの死でお母さんを悲しませたくない、そう思ったぼくは、今度は自分から天の声に話しかけた。
「やっぱり、お母さんも今のままでいいです。いえ、今のままがいいです。」
「では、他に望むものはあるかい?」
 ぼくはしばらく考えてから言った。
「ありません。かけがえのない友達や、お腹いっぱい食べられる胃袋や、大好きなお母さん、ぼくは宝物と呼べるものを、もうこんなに持っているとわかりましたから。」
「そうかい、じゃあ私はもう必要ないね。」
 天の声がそう言ったところで、ぼくは目を覚ました。
「宝物は見つかったの?」
 朝、お母さんがぼくにたずねた。
「うん、見つかったよ。でもお母さんにはないしょだよ。」
 ぼくはすぐ近くにあるとわかったぼくの宝物を、これからもせいいっぱい大切にしていきたいです。
 これでぼくの発表を終わります。
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