田舎の犬と都会の猫ー振興係編ー

雪うさこ

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第21章 自分の価値

11 お前が必要だ

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 研修二日目も昼食が終わると佳境だ。さすが十年目メンバーたちだ。出遅れているグループも見られているが、ほとんどのグループは資料の作成とプレゼンの作戦練りを並行して行っているようだった。

 研修施設から提供されるお弁当を頬張りながら、田口たちも同じような進行状況で作業を進めていると、講師からのアナウンスが響いた。

「みなさん、昼食時間も切り詰めながらの作業、お疲れ様です。ここで午後のプレゼンについての追加説明をいたします。プレゼンは研修員同士で聞きあいますが、せっかくの良い機会ですので、特別ゲストが来る予定になっています。あまり気を抜かず、しっかりと準備してくださいね」

「特別ゲストってなんだ」

「変な余興はいらないよね」

「そういう余興は好かんな」

 メンバーは口々に文句を言っている。

 ——ゲストってなんだ。
 
 お遊びめいた言葉は、疲れた心に追い討ちをかける。田口はため息しか出てこない。正直に言えば「もうこりごり」だ。早く日常に戻りたいという気持ちでいっぱいだ。そう思いながらお弁当のコロッケを食べようとして弁当箱に戻す。かなり疲弊しているのだ。食も進まない。

 しかし周囲を見れば、それはみんな一緒だったようだ。天沼も、大堀も、安齋も、確実に口数が減ってきているのは疲労の色が濃いせいだ。後半日の研修をなんとかこなせば終わるのだ。

 ——なんともなく過ごせればいいのだが。

 内心、そんなことを祈りながら、お弁当の蓋を閉じた。


***


「今日はこれを食べてください」

 目の前に置かれたのは、売店のお弁当だった。値札は289円。その格安弁当と十文字を交互に見つめる。彼は肩で息をしていた。よほど急いで来たようだ。

「買ってきてくれたのか」

 保住は目を瞬かせた。そんなに必死に弁当を確保してくれる必要はないと思うが——。

 保住には、十文字に課せられた指令の内容など知るよしもない。

「田口さんから言われていますから」

「田口から? なんであいつ。そんなことをお前に頼むのだ」

 ——確かに、昨日から十文字がやけに周囲をチョロチョロとしているのはそのせいなのか?
 
 保住は「なるほど」と手を打った。

「田口というやつは。後輩にそんなことを頼むだなんて。業務から逸脱している。お前だって断ればいいのだ。おれは一人でも平気だ。弁当くらい、自分で確保できるのだぞ? 昨日だって、コンビニで弁当とやらを買ってみた。大して美味しくもなかったが。大丈夫なのだ」

 保住はえっへんと嬉しそうに言い切って見せるが、周囲の反応はいまいちだ。みんな疲れているような顔をしている。

 ——どういうことだ? 田口がいないと、そんなに業務に負担がかかるものだろうか。
 
 十文字は、落胆したような顔をしてから、「あ、あの。いいんです。おれが好きでやっていますから……」と呟いた。そんな十文字を眺めて、渡辺と谷口は気の毒そうに顔を見合わせた。

 そんな中、内線が鳴った。昼食時間に連絡を寄越すなんて嫌がらせの何ものでもない。十文字が迷惑そうに受けると、人事課から保住への電話だった。

「係長、人事課からお電話です」

 昨晩の澤井の話が脳裏を掠めた。彼の指示通り、午後の会議は渡辺にお願いして時間を空けておいたが、まさか人事課からの電話とは。

『保住係長ですか? お忙しいところすみません。副市長からの指示です』

 相手はそう言った。

『14時半に西口玄関においでください。持ち物等は不要です』

「持ち物不要って、どんなことをさせられるのかも教えないくせに、いらぬコメントだな」

ぼそっと文句を呟くと、隣の渡辺が顔を上げた。

「係長、お出かけですか」

「そうらしい。詳しい内容は教えないのだ。まったくもって秘密主義。人の都合を捻じ曲げても自分の思い通りにさせたいのだったら、もう少しきちんと話をすべきだ」

 田口がいれば彼が聞いてくれる愚痴も、聞いてくれる人がいない。ぶうぶうと口に吐いて出てくる。

「うん。やっぱり振興係にはお前が必要だぞ。田口」

 渡辺と谷口は顔を見合わせて苦笑した。



 
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