感情屋

萌乃頭巾

文字の大きさ
2 / 4

感情屋 陸くん

しおりを挟む
それは満月の夜、池に反射した月の道を渡ってやってくるという。
感情という目には見えないものを具現化させ売買しているらしい。
売った感情は持ち主から綺麗になくなり、買ったものは永遠になくならない。
そんな夢のようなことをしてくれる、感情
屋。

今夜は満月。
そんな噂を聞きつけた依頼者が池に来ていた。

「はぁ…はぁ…うう…会えるといいな…」
陸は誰が見ても痩せ過ぎた肩を小刻みに震わせながら、呼吸を整えた。
「おやおや、また自殺希望者か」
どこか嬉しそうな凛とした声がした。
周りに人はいなかったのにどうしてと慌てて顔を上げると、そこには燕尾服に身を包んだ美しい男がニヤけていた。
月明かりに照らされ煌めく銀髪、そこから覗く切れ長の赤い瞳、その浮世離れした幻想的な美しさに陸は唖然とするしかなかった。
「わあ…本当だったんだ…」
「これはこれは随分いたいけな少年ではないか」
「は、初めまして」
「ああ、初めまして少年。それで少年の依頼はなんだ」
「あのね、僕のパパとママが大好きって感情を買い取って欲しいんだ」
「ほうそれはまた中々…」
「他の人にもね、この感情を分けて欲しくって…うっゴボッゴボッ…」
「おお、どうした少年」
感情屋は陸の背中をさすった。
「だ、大丈夫だよ…ごめんなさい…」
「そうか…、いやそうは見えなかったが…」
「ほ、本当に元気だよ!大丈夫大丈夫!」
陸はわざとらしそうに笑顔を見せた。
「お、おう…そうか…」
「…」
「…」
「僕ね、もうすぐ死んじゃうんだって…」
「少年、死ぬのは怖くないのか?」
「え…うん…大丈夫!僕、ずっと前から知ってたんだ」
「というと?」
「長く生きれないとか、不倫?の子とか… パパもママも泣いてばっかりで…」
「幼子には酷な…」
「だからね、僕だけはいつも笑ってようと思ったんだ」
「…」
「これ以上僕のせいで…もうパパもママも泣かせたくないんだ」
「そうか、わかった。ではそのパパとママが大好きという感情を買い取ろう」
「わあ!ありがとう!」
「だが少年、買い取ってしまうともうその感情はなくなってしまうがそれでも構わないのか?」
「そんなのなくなっても直ぐに僕がまた、パパ、ママ大好きって思えばいいだけでしょ!簡単なことじゃん!」
「クックッ…確かにな」
感情屋は陸の頭に手を載せると目を閉じた。
淡い光が陸を優しく包む。
「終わったぞ」
感情屋は暖かな桃色に染まった瓶をそっと陸に見せた。
「これが僕の感情」
「さてと、じゃあ私はそろそろ行くとするか」
「うん、ありがとう」

感情屋さんはゆっくりと歩き出す。
それを陸はぼんやりと見つめる。

「ちゃんと渡しておくからな」
「え?」
「この感情は少年が亡くなった時、直ぐに君の両親へ」

陸は目に涙を浮かべながら、やっと年相応の笑顔を見せてくれた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貴方の側にずっと

麻実
恋愛
夫の不倫をきっかけに、妻は自分の気持ちと向き合うことになる。 本当に好きな人に逢えた時・・・

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

王様の恥かきっ娘

青の雀
恋愛
恥かきっ子とは、親が年老いてから子供ができること。 本当は、元気でおめでたいことだけど、照れ隠しで、その年齢まで夫婦の営みがあったことを物語り世間様に向けての恥をいう。 孫と同い年の王女殿下が生まれたことで巻き起こる騒動を書きます 物語は、卒業記念パーティで婚約者から婚約破棄されたところから始まります これもショートショートで書く予定です。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

男の仕事に口を出すなと言ったのはあなたでしょうに、いまさら手伝えと言われましても。

kieiku
ファンタジー
旦那様、私の商会は渡しませんので、あなたはご自分の商会で、男の仕事とやらをなさってくださいね。

処理中です...