夢ゆめ

紀之介

文字の大きさ
2 / 2

忘れたの?

しおりを挟む
 目の前には、ヴァージンロード。

 緊張している私は、隣のお父さんの腕に縋り付く様に歩きます。

 進む先には、彼が微笑んで立っていました。

 祭壇の手前で、立ち止まる私とお父さん。

 一歩踏み出した彼が、手を差し出します。

 お父さんがその手を固く握り、交わさる握手。

 今にも泣き出しそうなお父さんの横から、私はゆっくりと 彼の隣に移動しました。

 腕を絡めながら、感極まって囁きます。

「幸せ過ぎて…夢みたい」

「─ これは、君が見ている夢だよ」

「え…?」

「お父さんも僕も…君がバラバラにした事、忘れたの?」

----------

 夢から覚める私。

「はい、起きて、起きて!」

 居間のソファで居眠りしていた身体を揺らしたのは、旦那様でした。

「準備が出来ました。お・く・さ・ま」

 促され、はっきりしない頭でテーブルに向かいます。

 先に向かいの席に座った旦那様は、何か言いたげに私を睨みました。

「結婚3周年の料理、結局 僕が1人で作ったんだけど!?」

「…ジャンケンに負けたんだから、仕方ないよね?」

「少しぐらい手伝ってくれても、バチはあたらないんじゃないかな。」

 旦那様の機嫌を直すため、私の手がワインの瓶に伸びます。

「はい、注いであげる」

 苦笑しながら、グラスを差し出す旦那様。

「飲ませれば、ごまかせると思ってない?」

「実際、ごまかせてるし♡」

 ワインで満たされたグラスを、旦那様はテーブルに置きました。

「次はワタクシめが、お酌させて頂きますよ、奥様」

 私は、持っていた瓶を手渡します。

「苦しゅうない」

「…あんたは、何処の姫様だ」

 グラスに伸びる私の手。

 それが、途中で止まります。

「今日は、飲むの止めとこうかな」

「どういう風の吹き回し?」

「飲んだら寝ちゃうでしょう? この幸せが…夢になるといけないし」

「何を言ってるんだかるんだか…」

 腰を浮かした旦那様は、腕を伸ばして、私にグラスにワインを注ぎました。

「─ これは、君の見ている夢だし」

「え!?」

「君は…僕を殺して埋めてるんだよ?」

----------

「…意識が戻った様だな」

 きつい何かの匂いで、無理やり覚醒された私。

 いつの間にか、座らされていた椅子の上で身を捩ります。

 そこは、抵抗していた独房ではなく、知らない部屋でした。

 1人の刑務官が差し出した紙が目に入ります。

 それは、私への死刑執行の命令書でした。

 凍りつく意識。

 刑務官は何かを読み上げますが、それは ただ鼓膜を揺らすだけでした。

 一瞬の沈黙の後、部屋に重い声が響きます。

「刑を執行する」

 立たされた私は、目隠しをされ、後ろ手に手錠を掛けられました。

「これは、夢よね!」

 身を揺すって抵抗しますが、数人の手で前方に引きずられます。

「夢なんでしょ!!」

 太い何かを巻きつけられる首、縄で纏められる足首。

「お願い!!! 夢だと言って!!!!」

 大きな音がして身体が宙に浮いた瞬間、頭の中に声が響きました。

「─ これは、現実だよ。」
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

妻を蔑ろにしていた結果。

下菊みこと
恋愛
愚かな夫が自業自得で後悔するだけ。妻は結果に満足しています。 主人公は愛人を囲っていた。愛人曰く妻は彼女に嫌がらせをしているらしい。そんな性悪な妻が、屋敷の最上階から身投げしようとしていると報告されて急いで妻のもとへ行く。 小説家になろう様でも投稿しています。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

盗み聞き

凛子
恋愛
あ、そういうこと。

処理中です...