まほう

紀之介

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たらい。。。

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「…何処に、行くの?」

 文月さんに声を掛けられて、水無月さんが立ち止まります。

「─ 河原の芝生広場。」

 水無月さんは、カートを引いて歩いていました。

  大きな たらいが、紐で括りつけられたカートです。

 たらいは、小柄な水無月さんなら、余裕で中に正座が出来そうなものでした。

 カートを凝視する文月さん。

「それ…どうするの?」

「…乗る。魔法で飛ぶ時に。」

 ゆっくりと、水無月さんが身体の向きを変えます。

「何かに乗らないと 飛べない訳じゃないけど、乗った姿勢の方が 収まりが良い」

 カートの引き手から手を離した水無月さんに、文月さんは納得いかない目を向けました。

「そう言う時は…箒じゃ、ないの?」

「跨って…宙に浮くと、柄が…痛い。」

「…絨毯は?」

「座って空中に浮くと…柔らかくて、不安定」

「─」

 沈黙して口を歪める文月さんに、水無月さんは たらいを指し示します。

「色々試した中では…この中に座って、縁を持った姿勢が、1番無難。」

----------

 芝生広場に到着した水無月さんは、たらいをカートから降ろしました。

 興味津々で見学する文月さんの前で、たらいに正座します。

 呪文らしき低い呟きが辺りに響きました。

「おお!」

 驚きの声を上げた文月さんの目の前で、徐々に浮き始める たらい。

 2メートル程の高さまで、浮き上がりました。

 たらいの上からの声が、文月さんに伝えます。

「じゃあ、飛ぶから…」

 そして たらいに正座した水無月さんは、他に人がない芝生広場を、10分程飛び回ったのでした。。。

----------

 宙に留まる たらい。

 それを見上げる位置まで、文月さんは近づきます。

「何で、芝生広場まで…飛んでこなかったの?」

 たらいの縁から、水無月さんの顔が覗きました。

「─ 道路を飛ぶと…迷惑」

 文月さんの顔に苦笑が浮かびます。

「律儀に道路を飛ばなくても…屋根の上とかを 突っ切って飛べば良いんじゃないの? その方が早そうだし」

 水無月さんは ゆっくりと たらいの高度を落としました。

「家からここまで、平屋の家が続くコースを飛ぶと…遠回り。」

 1メートルの高さまで降りた たらいの上で、水無月さんは顔をしかめます。

「高く飛んで、墜ちたら…痛い」

「…?」

「何かの拍子に気を抜いたら…墜落する」

「─ 泳いでる時に気を抜いたら、溺れるのと同じ理屈?」

 着地した たらいで、腰を浮かた水無月さんが 文月さんに頷きます。

「ここまで、普通に歩いて来て…芝生の上で飛ぶのが、無難…」

「─ 魔法で空を飛ぶのって…そんなに便利じゃ、ないんだね。。。」
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