【小説版】妖精の湖

葵生りん

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1章

新人メイド奮闘記3

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 朝食を済ませて部屋に戻ったディーネはいつも刺繍や編み物をしたり、天気のいい日はアベルと散歩をしたりしながらアレスの帰りを待っている。


 今日はフリーレ達を話し相手にして、アレスが使うクラヴァットに丁寧に刺繍を施していたのだが、ふと手を止めて溜息をこぼした。

 足下にいたアベルもつっと顔を上げてディーネの様子をうかがっているからフリーレの気のせいではないだろう。


「ディーネ様、どうかなさいましたか?」

「え? いえ、なんでもありませんよ」

「今、ため息をつかれましたよね? 心につかえていることがあるなら、どうか話してください!」

「ちょっと、フリーレったら……」


 止めるセティエに構わず、フリーレはぐいと主に詰め寄った。


「ずっと気になってたんです! ディーネ様は時々すごく気落ちした溜め息をついていらっしゃること。なにか気にかかることや嫌なことがあるなら話してください」

「そんなことない、と思うのだけれど……」


 ディーネは困ったように笑みを曇らせ曖昧な言葉で場を濁そうとするが、フリーレは引かない。


「ディーネ様のお役に立ちたいんです!!」


 ディーネは困り顔で微笑んでいるばかりだから、セティエは少し迷った。迷いながら詰め寄るフリーレの肩を引き戻し、口添えする。


「……誰にも、口外はいたしませんよ」

「ですです! だから、ひとりで抱え込まないでください!!」

「わふっ!」


 アベルまで賛同するから、ディーネはようやく小さく笑った。


「そうね……でも、アレス様にはナイショですよ?」

「はいっ!!」


 唇の前に指を立てて声を潜める姿はフリーレが頬を染めるほど愛らしかったが、刺繍の手を止めてアベルを撫でる笑みは寂しげに曇る。


「私が嫁いできてから、もう一月余りも経ってしまいました」


 フリーレとセティエは「はあ」と曖昧な相槌を打って首を傾げる。

 アレス様はとてもよくしてくださいますし、不満などこぼすのはおこがましいのですが、と前置きをしたディーネはさらにもうひとつ溜め息をついた。


「あの方の妻となって一月も経つのに、アレス様はいまだに私のことを『姫』としか呼んでくださらない――それが少し……寂しく思えるのです」

「アレス様は元々、人の名をほとんど呼ばれませんが」

「ええ、存じております。姫はよく人の名を口にするんだなと呆れ顔で言われたこともありますから」


 そう、アレスはおよそ人の名前を口にしない。

 父上、母上、兄上あたりは普通だが、客は称号、使用人に至っては「おい」とか「そこの」とかいった具合だ。長くアレスに仕えているセティエなどはそれに慣れてきっていたため、逆にディーネがとても頻繁に名を呼ぶから最初戸惑ってしまった。


「……それでも、名前を呼んでいただけたらとふと考えてしまうことがあるのです」


 ふわりと朱がのぼる頬を両手で包み隠してしまったディーネは、厚かましい願いだと自嘲した。


「厚かましいだなんて! 名前を呼ばれるのは、とっても嬉しいことですよね!」


 挨拶もお願いもお礼も、ディーネはなにかと相手の名前を添える。そうして名前を添えられると、私に対して言ってくださっているのだとフリーレはとても嬉しくなるのだ。それはディーネが気付かせてくれたことで、だからこそなんとかしてあげたいと思った。


「アレス様がディーネ様の名前で呼ばれないのは、きっと気恥ずかしいからですよ」

「ええ、そうね……」


 セティエがかけた言葉には頷いたが、ディーネの心が晴れた様子は伺えない。


「……ごめんなさい。こんなとるに足らない愚痴など、どうか忘れてください」


 ふるると首を振ったディーネは、にこやかな笑みを張り付けた顔を上げた。


「きっと窓を閉め切っているから、気が塞いでしまったのね。フリーレさん、窓を開けて換気をしましょう」

「はい、かしこまりました」


 季節は冬。

 天気が良くても震えるほど風が冷たい時期だが、今日は抜けるような青い空で、さらに風もほんのり頬を撫でる程度。気持ちのいい天気で、入ってくる風も冷たくない。むしろ、心地いい陽気だった。


「あっ、そうだ。ディーネ様、こんなにいい陽気なんですから、今日はお庭でお茶しましょう!」

「まぁ、それはとても素敵ね」


 フリーレの提案に、ディーネの頬が少しだけ緩んだ。

 足下のアベルが尻尾をぱたぱたと振って、アベルの頭を撫でるディーネは氷が溶けるように柔らかいほほえみを浮かべている。


「ディーネ様は北の庭園に、生け垣で迷路を作ってある場所をご存じですか? 今はとってもバラがキレイに咲いていて、天気のいい日はとても良い香りがするんですよ」

「ええ、何度もアベルと散歩をしたからもうすっかり道を覚えてしまったけれど」

「では早速、手配してきますっ! ディーネ様は中央の東屋でお待ちくださいね!!」


 言い残して駆けだしたフリーレの背中に、ディーネ様が楽しそうにふふっと笑う声が聞こえた。


(いいこと、思いついちゃった!)


 これで少しはディーネの役に立てるかもしれないと期待に胸を膨らませて走るフリーレの息はあがっていたが、ほんのり冷たい風が火照った頬を心地よく冷やしてくれた。








 ディーネが庭園の東屋についた頃合いを見計らい、フリーレは仕事中のアレスの元へ駆け込んだ。


「アレス様、大変です! ディーネ様が……いらっしゃらないんです!」

「――は?」


 駆け込んだ時のまたお前かと言わんばかりの怪訝な表情は、ディーネの名が出た途端に色を失う。


「どういうことだ?」

「アベルと北の庭園の散策に出られたまま、戻ってこられないのです。もしかしたらあの迷路で迷子に……」


 アレスはみなまで聞かず、隣にいた執事長に「手が空いている者は捜索に当たらせろ」と言いつけるなり、執務室を飛び出した。


「あら……」


 それは仕掛けたフリーレでさえ、ぽかんとするほどの勢いだった。自宅の庭で迷子になったかも、と告げたのに、誘拐されたと聞き違えたのかと疑うほどの慌てっぷりだ。


「アレス様の慌てっぷり……想像以上ですね……!!」


 手応えを感じて拳を握ったフリーレの隣で、執事長の眼鏡が鋭く光る。


「フリーレ、主が失踪したのに随分と不謹慎ではないですか?」

「あっ……あの! これにはのっぴきならない事情があって!!」


 執事長に見咎められ、フリーレは目論見を素直に白状した。本当に捜索が行われるような大事にしたいわけではなく、アレスが迷路でディーネを呼ばわって捜してくれればそれでよかったのだから。


「――状況はわかった。騒ぎを起こしたお前の沙汰は追ってする」


 堅い声で執事長はそう言い渡した。

 そして家中の使用人にディーネの失踪は誤報であった旨の伝令を飛ばすと、窓の外を睨んで思い悩んでいるようだった。


「しかしアレス様があれほど取り乱して走って行かれるとは……」


 窓の外から、姫!と呼ばわるアレスの声が風に乗って届く。

 いなくなったと告げられたのがディーネでなければ、妻だろうと誰かにさらりと探しておけと命じる程度の興味しかなかっただろう。


「禍福は糾あざなえる縄の如ごとし――……絆が深ければ傷も深くなるのだろうが……」


 ぽつりとこぼした呟きは微風に乗って消え、執事長は髭を撫でつけながらフリーレを振り返った。


「フリーレ、荷物をまとめておきなさい。正式な沙汰は後からあるだろうが、旦那様が解雇以外の措置を認めるとは思えませんから」

「えっ――」




   *




「姫! どこにいる!!」


 慣れない疾駆に、容易く息が上がっていた。

 空気が喉に張り付いてうまく息ができないが、それでもアレスは叫んだ。

 たった一度出会ったきりだったあの妖精のように、二度とディーネに会えなくなったらと考えると、立ち止まってなどいられなかった。


「おい! お前、姫を見なかったか?」


 ふと、バラの生け垣の剪定作業をしていた庭師が目について声をかける。


「はて、姫君? 今日はどこかの姫君が遊びにおいでだったですかね?」

「………っ」


 白い髭を蓄えた庭師が首を傾げ、名を告げようとすると、一瞬喉が詰まった。

 アレスはファーストネームを呼ぶことに慣れていない。今は縁遠くなった幼なじみがひとりいたくらいで、子どもの頃から友人の一人もいなかったことがその要因だ。仕事では呼び方は普通爵号だから幾分気が楽だし、私生活においては人の名前を呼ぶ必要がなかった。だからなんとなく呼びかけ難くて、ディーネのことも名前で呼ぶのを避け続けてきた。


「先月私の元に嫁いできた――ディーネだ。よく犬を散歩させているだろう!」

「ああ、ディーネ様ですか」


 振り絞るような思いで名を出せば、そんなアレスの気苦労など知るはずのない庭師はぽんと手を打った。


「あの方は大変気さくでお優しい、よく出来た方ですな。毎日私の姿を見かける度に、労いの言葉をかけてくださって。老骨に沁みる想いがします」

「今日、ここを通ったか?」

「ええ、つい先程。いつものように犬と一緒で、この先の東屋に行くとか話していらっしゃいましたよ」


 老人の無駄話に苛立ちながら問えばにこやかな返事が返ってきて、その緊張感のなさにアレスは酷く苛立った。


「失踪したと聞いたが」

「へっ? まさか。あんな利口な犬がついていて、迷子も誘拐もあるわけが――いたたたたっ」


 素っ頓狂な声を上げた庭師は慌てて立ち上がろうとしたが、痛む足腰を押さえる老人を待ってなどいられず、東屋に向かって駆け出した。

 迷路と言ってもアレスにとっては生まれ育った屋敷の庭だ。迷うことなどあり得ない。


「ワンッ!ワンワンッ!」


 犬の鳴き声が聞こえた。中央の東屋の方角だ。


「――ディーネ!」

 大声で呼ばわると、犬の鳴き声がぴたりと止んだ。


「ディーネ、いるのか!?」

「ワォオンッ!」


 姫の返事の代わりに、犬が一声鳴いた。

 そしてガサガサと生け垣の下をくぐって顔を出したのは、姫が可愛がっているあのクリーム色の犬だった。


「アレス様……?」


 心許なげな姫の声が生け垣の向こう側から聞こえ、安堵も不安も同じくらいにこみ上げる。


「そこにいろ!」

「……え? ええ、わかりました」


 姫が返事をすると、犬の頭はひょこっと生け垣の向こうに戻っていった。おそらく姫に付き添っているのだろう。

 急いで入り組んだ迷路を抜け、さっきの生け垣の反対側に出ると、そこに愛犬を撫でている姫君が見えた。


「ディーネ!」


 駆けつけた勢いもそのまま、儚げな姫をきつくきつく抱きとめる。


(よかった。捕まえたーー…)


 大袈裟な安堵の息をつくアレスを、ディーネは腕の中から不思議そうに見上げる。


「そんなに慌てて、一体どうなさったんです?」

「どうって、迷子になったんじゃないかと聞いたから……」

「え? フリーレさんの提案で今日はここでお茶をしようという話になったので、待っていたのですけど……?」

「……は?」


 尻尾をふりふりしている犬が、ワンッと陽気に一声鳴いた。

 さっきから何度か聞いたこの鳴き声が決して危険を知らせるものではないことを、アレスは今さら理解した。

 どっと押し寄せる疲れにうなだれると、とても小さな――でも、とても無邪気な笑い声が腕の中に湧いた。


「あの子ったら……まさかこんなイタズラをするなんて」


 アレスが首を傾げると、腕の中でディーネが申し訳なさそうに眉を下げて笑っていた。


「お騒がせして申し訳ありません。私がアレス様に名前で呼んでいただきたいなんてつまらないわがままを言ってしまったばかりに、フリーレさんたらこんな謀をしてしまったんですね」

「……名前……?」

「ええ。だって、アレス様は私が嫁いできた日に仰ったでしょう。その……営みの最中に名を呼ばなくてもいいのかって」


 冬とはいえ真昼の光が煌々と降り注ぐ中で、ディーネは両手で顔を覆った。でも耳は真っ赤に染まっているし、手のひらまでほんのりと桃色に染まっていた。


「……だから、名前を呼んでもらうことがまずは夫婦の絆を結ぶ一歩になるかしらと、そう思ったんです……」


 その熱が伝染するように頬が熱くなるのを感じて、アレスもまた口元を覆う。


「あの、つまらないことでご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」


おそるおそるふり仰ぐ瞳が、でも、と呟いて細められる。


「でも、名前を呼んでいただけて……とても嬉しかったです」

「………あー……その、ディーネ……と?」


 既に何度も大声で呼び続けた後だからだろうか、ぽろりとこぼれ落ちるように名前を口にする。


「はい……っ」


 すると天真爛漫な笑みとともに返事があって、その愛らしさにどうしようもないほど胸が騒いだ。頬に手を添えれば妻は嬉しそうに目を細め、心を預けるように寄り添った。


「ディーネ……」

「はい」


 幸せそうにはにかんで返事をする妻の唇は艶やかで、無意識に腰を抱き寄せている腕に力がこもる。頬から顎に指を滑らせると、妻はその意図に気づいたのかそっと目を伏せた。

 うるさいほど騒ぐ心音を抑え、唇同士を寄せ合わせる。が、触れたかどうかという瞬間に駆け寄ってくる足音と名を呼ばわる声が聞こえてきた。

 庭で迷子になっているであろうディーネを捜索する騒ぎになっていたことを思い出したふたりは、揃って真っ赤な顔でうつむいた。


「皆が心配しているだろうから戻ろう、ディーネ」


 猫のように柔らかい髪に顔を埋めて、もごもごと呼びかける。


「ふふ、名前を呼んでくださるんですね」

「何度もこんな騒ぎを起こされたのでは堪らないからな」


 忍び笑いからふいと顔を背けると、くすくすと忍び笑う声がこぼれ落ち、揺れる髪が頬をくすぐる。


「笑い事じゃないだろう」

「ごめんなさい。でもこんなに心配していただけるなんて嬉しくて」

「あなたは私が妻の心配をしないほど冷淡な夫だとでも思ってたのか?」

「いいえ。アレス様は5年前も今も、本当にお優しい方です」


 苦し紛れの問いにディーネがてらいもなく宣言するものだから、アレスは今度こそ言葉をなくした。




 そして、元より狂言で杞憂であることはわかっていても、様子を見にきた執事長達は思わず目を逸らさずにいられないほど仲睦まじく寄り添い合っている若夫婦を発見することになる。








 そして。

 ディーネはアレスにしたのと同じように弁明したのだがリベーテ子爵の怒りは収まることなく、結局フリーレはこれ以上リベーテ家の屋敷で働くことを許されなかった。


「短い間でしたが、お世話になりましたっ!」


 使用人が利用する裏口の門扉で別れの挨拶を告げるフリーレを見送るのは、ディーネとセティエのふたりだけだ。

元気よく振り回されるフリーレの手を、ディーネは額に当てるようにして強く握り込む。


「フリーレさん、ごめんなさい。私のためにしてくれたことなのに、なにもしてあげられなくて……」

「いいんです! ディーネ様が幸せなら。私は元々この仕事が向いてなかったんですよ」


 朗らかに笑うフリーレを、ディーネは痛ましげに見つめる。


「フリーレさん。どこかに仕事の伝手か身を寄せるあてがありますか?」

「いいえ。でもなんとかなりますよ!」


 問題を起こして解雇されたというレッテルが張られたフリーレは新しい雇い主を探すのも苦労するだろうことは明白だった。

 それでもアレスが執務室を飛び出していった時の背中や、アレスに寄り添ってとても幸せそうに笑っていたディーネの表情。それから、あれ以来アレスがディーネだけは名前で呼びかけるようになったことを思えば、そのくらいの苦労は厭わないという気持ちでいっぱいだった。


「でしたら、最後にもうひとつお仕事をお願いしたいのだけど、いいかしら?」

「お仕事?」

「ええ。とても遠いけれど、お父様にこの手紙を届けていただきたいの。これは謝礼と旅費です」


 フリーレの手に、蜜蝋で封がされた封筒と茶色い小袋が渡された。

 小袋は開けなくても音と重さで金貨がたくさん入っていることがわかる。貴人の旅費でも多いほどだということは旅慣れていないフリーレにもすぐに判じられる量だ。


「こんなにたくさん、いただけません!」


 押し戻そうとするフリーレの手を包み、ディーネは首を振る。


「私にはこれくらいのことしかできないの。せめてもの気持ちと思って、どうか受け取ってください」

「でも、ディーネ様……っ」


 押しつけるように渡された茶色い小袋と手紙を所在なく握って戦慄いていると、ディーネはふとほほえんだ。


「この手紙には私の近況をしたためてあります。長く筆を置いていたから、お父様はきっととても寂しがっているし、心配もしていると思います。だからきっと、あなたのことも良いように取り計らってくださるわ」


 フリーレは言わんとするところがわからず首を傾げる。


「いずれ出産のために里帰りした時には、もう一度あなたに会えると嬉しいのだけど」

「ディーネ様…!」


ようやく理解が追い付いて瞳を潤ませるフリーレの背中を、ディーネは優しく押した。


「どうか、お父様に伝えてください。私は幸せに暮らしていると」

「……はいっ!」


元気よく返事をして旅立ったフリーレの背中が見えなくなるまで見送ってから、ディーネは隣に付き添っているセティエに視線を流した。


「セティエさんも、ありがとうございました」

「……一体なんのお礼でしょうか?」

「あの子の耳に、最後までもうひとつの噂が入らないよう気を回してくれたでしょう?」


 ぴくりとセティエの眉が揺れると、ディーネは小さく笑った。


「自分のせいで人が死ぬかもしれないなんて業を背負うのは私一人で十分だもの」

「ディーネ様……あなたは……」


 穏やかな笑みと優しい言葉の裏に潜む不穏な闇を感じて、セティエはなんともいえない居心地悪さを噛みしめる。この人は笑顔の裏にいろんな秘密を隠しているが、でもそれは優しさゆえなのだろうと思うと詮索することもできなかった。


「ごめんなさい。あなたには苦労をかけてしまうけれど」

「いえ、ディーネ様は手がかかりませんし。アレス様のことも手伝ってくださるので、かえって楽です」


 答えると、ディーネはくすくすと笑った。

 この一件でディーネに気に入られると不幸になる、という噂に箔がついてしまい、ディーネの傍付きの後任がなかなか決まらず、最終的にはセティエがまとめて引き受けることになったのだ。


「あなたまで不幸にしないよう、心掛けるわ」


 ディーネは足元にいるアベルの耳の裏をしばらくもふもふしてから、セティエに笑みを向けた。


「さぁ、部屋にもどりましょう」


 その笑みは柔らかく、足取りは前よりもずっと軽い。

 幼くなった印象を受けて首を傾げたセティエだったが、この方はフリーレと同じ18の少女なのだと思い当たる。想い人から名前を呼んでもらえる、ただそれだけのことが嬉しくて堪らない……そんな、恋する少女なのだと。



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