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揺らぎ

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「…よし、打て鈴原!」

自分が打つより、こっちのほうがスッキリしそうな気がしたんだ。


「えぇ!?あたしはもういいですよ。打てないし…。
先輩、気にせずどうぞ」

「諦めないんだろ?俺が指導する」

そう言うと、観念して渋々とBOXへ入る鈴原。


ブンッ

「もっと右!」

ブンッ

「今度は下!球をよく見て!!」

ブンッ

「スイングが遅い!」

ブンッ

ブンッ


これで何球目だろう?
やっぱり無理かなと思った、その時――。


カキーンッ



「!!」

二人で顔を見合わせる。


「「やったぁ!」」


鈴原は嬉しそうにぴょんぴょん跳ねている。


結局、当たったのはこれ1回。
でも俺は、確かに何かを感じた。


帰り道でも、鈴原はまだ興奮気味だ。

「先輩、見ました!?あたしやりましたよ!
やっぱり、諦めちゃいけないんです!」

「…そうだな」

寂しそうに笑う俺を見て、鈴原がいきなり真面目な顔になった。


真剣なまなざしで真っ直ぐに瞳を捉えられ、俺は視線を逸らすことができなくなる。


「…先輩。
あたし、退屈させませんよ」

そう切り出すと、さっきよりも興奮しながらずいっと近寄ってきた。

「クリスマスも近いですし、年中行事だってこれからいっぱいあります!
せっかくの高校生活、もっと楽しみましょうよ!
あたし、絶対先輩のこと楽しませますから!!」

その可愛い顔からフンッと息が聞こえてきそうなくらいの勢いに、思わず噴き出してしまった。


「あはは、おま、それ…っ
男のセリフじゃない?」

「えっ?…てか先輩、笑いすぎです!
いいんですよ、この際どっちでも!」

少しすねたように頬を膨らませ、顔を見合わせてまた笑った。


「…そうだな。頼もうかな」

ひとしきり笑った後、静かに呟いた。
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