1 / 1
桜の君と
しおりを挟む春の訪れを感じさせる古からの国花、並木道に咲き乱れる姿はため息が出るほど美しい。
100在るほどのその中の1本、それが僕だ。
大勢の人が通り過ぎていく。
大勢の人が立ち止まる。写真を撮ったり、ただただ見上げている者、待ち合わせをしている人に、お花見よろしく宴会をはじめる団体さん。
でも、僕の前には立ち止まらない。誰もが通り過ぎていく。
僕は綺麗に咲けない、葉桜だから・・・・・・・
日差しが暖かく春を満喫できるお昼過ぎ、今日も皆の周りにはいろんな人たちがいる。
その中でポツンと佇む僕は、唯でさえみすぼらしいのに少しの風が吹くだけで、残り少ない花びら達を次々と散らしていってしまい、
より惨めな姿となってしまう。
どうして僕はここに在るんだろう・・・・・・。数十年もここに・・・・・誰にも見てもらえないのに、在りつづけている。
うずくまって膝を抱え、通り過ぎていく人波を眺めていた。
「懐かしいな、またこの桜が見れて嬉しいよ。」
頭上から降って来た声。
一瞬自分に向けられた言葉かとおもった。
でも、そんなはずはない。
僕はひとに喜びを与えられる存在ではない、そして
目の前の彼は目を包帯で覆い杖を手にしている。
視えない彼に桜の香りすら届けることの出来ない僕が、彼の「見れて嬉しい桜」なわけがないのだ。
「おや、お久しぶり・・・でいいのかな?また、逢えましたね。」
彼は、うずくまっている僕と同じ目線になるように屈んでいる。
僕に話しかけてくれているのだろうか?
「ここの桜は、少しばかり寂しい恰好をしているのだけれど、なんだか気になる存在でね。」
視えていない筈なのに、この人には何か、いや、僕が見えている?
「たまに、此処を通り過ぎるのですが、やはりこの時期が一番。映え栄えとして綺麗ですよ。」
「・・・この桜、"以外"ですよね」
思わず口を出てしまった言葉に、自分でもドキッとしてしまう。
「君は、この桜といつもいるのに好きではないのかな?」
少し残念そうに、僕を覗き込むような仕草をしてくる。
「あなただって綺麗な桜がすきでしょ?この桜は寂しいって、さっきも言ってたし・・・」
「気になる。とも言いましたよ。」
視えてない筈なのに、凝視されているような感覚を抱かせる彼は、なんだか懐かしかった。
「君がいつも居るから、だけでは無い筈なんですけどね。」
ゆっくりと、優しく微笑んだかと思うと、すくっと立ち上がり、葉桜に近づく。
手を幹に這わせながら、「とても良い木だ。」と呟いている。
「大丈夫ですよ。葉桜でも、とても素敵な、私は大好きな桜の木です。」
僕に言っているのか、桜の木に言っているのか。どちらにしても僕なのだけど。
なんだか、反応に困ってしまうのだが、彼は機嫌良さそうに桜、僕をお花見してくれているので素直に喜んでおこうと思う。
こんな時、命一杯に笑顔溢れさせながら喜べないのは、僕が擦り減ってしまったゆえ、なのかもしれない。
「また、来年も一緒にお花見出来たら良いですね。」
彼は杖で前方確認をしながら人混みに消えていった。
来年・・・また、葉桜になってしまう僕を見に来てくれるのか。
また、素敵だと褒めてくれるのだろうか。
・・・その時は、今度こそは満面の笑みを向けて”ありがとう”を言えるかな?
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
妹ちゃんは激おこです
よもぎ
ファンタジー
頭からっぽにして読める、「可愛い男爵令嬢ちゃんに惚れ込んで婚約者を蔑ろにした兄が、妹に下剋上されて追い出されるお話」です。妹視点のトークでお話が進みます。ある意味全編ざまぁ仕様。
卒業パーティーのその後は
あんど もあ
ファンタジー
乙女ゲームの世界で、ヒロインのサンディに転生してくる人たちをいじめて幸せなエンディングへと導いてきた悪役令嬢のアルテミス。 だが、今回転生してきたサンディには匙を投げた。わがままで身勝手で享楽的、そんな人に私にいじめられる資格は無い。
そんなアルテミスだが、卒業パーティで断罪シーンがやってきて…。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
婚約破棄をしておけば
あんど もあ
ファンタジー
王太子アントワーヌの婚約者のレアリゼは、アントワーヌに嫌われていた。男を立てぬ女らしくないレアリゼが悪い、と皆に思われて孤立無援なレアリゼ。彼女は報われぬままひたすら国のために働いた……と思われていたが実は……。
予言姫は最後に微笑む
あんど もあ
ファンタジー
ラズロ伯爵家の娘リリアは、幼い頃に伯爵家の危機を次々と予言し『ラズロの予言姫』と呼ばれているが、実は一度殺されて死に戻りをしていた。
二度目の人生では無事に家の危機を避けて、リリアも16歳。今宵はデビュタントなのだが、そこには……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる