同級生のお兄ちゃん

若草なぎ

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柏木マオの場合

side:柏木マオ 撮影の日②

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本屋さんにつくと、絵本コーナーに向かった。

もうすでに19時をまわっているので、子供は少ない。

絵本のコーナーは誰もいなかった。

本を選ぶには好都合。私は平置きになっている本を手に取る。

恐竜のお話もいいな……おばけが可愛い絵本もいいな…

新作の絵本がオーダーだったので出版時期の確認をして本を選んだ。

家族のお話、友達を大切にするお話、子ども達が爆笑してくれそうなお話の3冊。

これを会計して…と。

時計を確認すると、余裕で1時間は経っていた。

家に帰るまで少し時間もかかるし、コンビニでお菓子でも買って帰ろ。

「柏木さん?」

後ろから声をかけられた。水無月くんだ。

「俺は塾の帰りなんだけど、柏木さんもどこかに通ってるの?」

「わ、私はそういうのじゃないです。ちょっと用事で」

ふーん。と興味なさそうな答えが返ってきた。

コンビニに着いたので会釈をして立ち去ろうとしたが「俺も行く」と言われた。

水無月くんが良くわからない…

私はお菓子を買って外に出ると、水無月くんからまた声をかけられた。

「なんでお兄ちゃんなの?」

「え?」

「何で桜井のこと、お兄ちゃんって、呼んでるの?」

コンビニの自動ドアが閉まる。

「はい。これあげる」

半ば強制的に缶ジュースが渡される。

「お金払うから、ちょっと待っ…」

「いらない。気になってたこと教えてもらうためだから」

水無月くんが私の腕をひっぱって、邪魔にならないスペースに移動させられる。

「えっと…文化祭の準備の時に…私が転びそうになったのを助けてくれて……

その感じがお兄ちゃんっぽいな、っ思って……」

私は少し下を向きながら答える。

「それって、好きってこと?」

「もちろん、好きじゃなきゃわざわざお兄ちゃんって呼ばせてなんて言わないですよ!」

「あー…そうじゃなくて。恋愛的な意味で」

「ん?え…?」

思わず水無月くんの顔を見た。

水無月くんはこちらを睨むように見ている。

「い、いやいやいや!考えたことなかった!」

「そう。まあ、いいけど…。桜井、意外と後輩からのウケがいいらしいから」

「お兄ちゃん、モテるんですか?なんだか私も鼻が高い気分です!」

「……じゃなくて。邪魔はしてやるな、ってこと」

「?? ……!ご心配なく!兄妹なので、そのあたりはわきまえます!」

ちょっと状況は飲み込めないが、後輩ちゃんの恋路の邪魔するな、ってことだよね!

「わかってない感じしかないケド………一応忠告はしたからな。じゃ、そろそろ帰るわ」

そう言って水無月くんは帰って行った。

私の気持ちは兄妹愛なので何も心配することないのに……

駅に向かって歩き出した。

角を曲がろうとすると人影があったので振り向くと………

「お兄ちゃん…?」

「うわっ!」

お兄ちゃんの声が響き渡る。私はびっくりして、少し後ずさった。

「ごめんなさい!そんな角に人がいると思わなくて…しかもお兄ちゃんだし」

「こっちこそ、大きな声出してごめん」

お兄ちゃんの話をした後だったからか、

何だか隠れて悪いことをしてしまったような気持ちになった。

「お、お兄ちゃんってこの辺の人だっけ?」

「隣町だよ。今日はうっちゃんの家に泊まり」

「そうだったんだ。さっき水無月くんにも会ったんだけど、水無月くんは塾の帰りだって」

「…柏木さんは?家、近いの?」

「ううん。バスに乗って帰るよ。本屋さん行ってたので。ちょっと遅くなっちゃった」

「ちょっとじゃないと思うけど」

お兄ちゃんは少し間をあけて「駅のバス停だろ。送るよ」言ってくれた。

胸の中がギュッと締め付けられる。

やっぱりお兄ちゃんは偉大な人だ。

「え。いいの?お兄ちゃん、ありがとう」

思いっきり《妹》させていただきます!

といっても、お兄ちゃんのことをあまり知らないから、なんか質問してみようかな。

そうだ!吹奏楽部だし、音楽の話がいいかも!

「お兄ちゃんはどんな音楽が好きなの?」

「え」

あ、急な質問で困るよね……まず己から話せよ、的な……そうだよね……ごめんなさい。

「私は意外とジャパンロックが好きだよ。あとはクラシックかな。ピアノ習ってるし」

「柏木さん、結構音楽聴くの?」

「ラジオ聞くのが好きだから聴いてる方だと思う」

「……クラシックは?」

「リストの曲が好きかな。あとはジムノペディとかトロイメライとか好きで聴いてる」

「ショパンは?」

「子犬のワルツ?」

「そこなの?w」

あれ?めっちゃ笑われてる。

お兄ちゃんが楽しそうで良かった♪

「お兄ちゃんのオススメはショパンなの?」

「………聴くなら貸すけど。CD」

えっ?え??

私の顔を全然見てくれないけど、これは打ち解けられている!?

「うん!聴く」

「気が向いたら持ってくる」

「ありがとう。楽しみ!あ、そうだ。お兄ちゃん、連絡先教えてよ」

「面倒くさい」

「ケチ!」

あー!ダメだった!!

兄妹なら、連絡先知っててもいいじゃーーん!

気軽にお兄ちゃんと連絡取れると思ったのに!!





バスが到着するのはもう少しのはずだが、まだ来ていない。

お兄ちゃんはバス停のベンチに座ってこちらを見る。

私もベンチに座る。

お兄ちゃんの隣に座るなんて…思ってなかったな…

ふと、水無月の顔がよぎる。

『それって、好きってこと?』

違う。私の好きはそういうのじゃない。

純粋に兄だと思っているんだ。

「柏木さんさ、B型じゃない?」

お兄ちゃんが私の顔を見ながら言った。

唐突な血液型当て!当たってるし!!

「ええ!?なんでわかったの?結構O型って言われるよ?」

「O型はないでしょ」

「がーん…ショック…」

目を瞑って頭を抱えた。

「俺の妹に強引な所が似てるからB型かなって思った」

「え、ガチのお兄ちゃん!?」

「……そうだね」

「と言うことは私の妹という…「なりません」

言い終わる前に否定されてしまった。

妹だと認めてくれた発言かと思ったのに…ちぇ!

「……………………あー」

急に口を抑えながらお兄ちゃんが声を出した。

「ん?どうしたの、お兄ちゃん?」

「いやなんでもない」

そんな話をしているとライトが近づいてきた。

「バス来ちゃったね」

少し名残惜しい。

「気をつけて。転ばないように」

「はい!お兄ちゃん」

また心配してくれた。嬉しいな。

お兄ちゃんの見える位置が空いているので座席に座って手を振った。

照れながら会釈するお兄ちゃん。

お兄ちゃんが見えなくなるまで手を振った。

お兄ちゃんのこと、少しわかって嬉しい。

私は心からそう思った。短かったけど楽しい時間が過ごせて良かったな。

でも、水無月くんに言われたことがどこか引っ掛かっている気がした。

ああ、もう窓の外はもう真っ暗で見えないや。
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