同級生のお兄ちゃん

若草なぎ

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柏木マオの場合

side:柏木マオ 文化祭①

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お兄ちゃん達が映画を完成させてから文化祭まではあっという間だった。

映画は完成したけど、面白くはない。

思い出にはなると思うから、まあいっかって思ってる。

私は放送委員会なので朝から仕事があるためあまりクラスのお手伝いはできそうにない。

教室に顔を出すのは午後でカーテンの開け閉めと、換気を行う係。

その後は後夜祭の準備をしなければいけない。

そろそろ、文化祭のスタートだ。

私は放送室でマイクのスイッチをオンにした。

ミキサー担当の子から合図が出る。

『ピーンポーンパーンポーン』

『これより火裡高校ひうちこうこうの文化祭を開始いたします。今日は一日楽しく過ごしましょう』

マイクをオフにし、間を開ける。

次は校内案内を放送するため原稿をチェックした。

今日は5分置きくらいに各クラスや各部活の催し内容紹介を行う予定だ。

もちろん、交代制なので私ひとりで放送するわけでは無い。

外部から遊びに来てくれている人も多いので原稿を読むのはドキドキしてしまう。

私は演劇部、弓道部、柔道部、3年生のクラスの催し内容を読む。

誰か1人でも放送を聞いて興味を持ってくれる人がいればいいな…

それと読んだ事に気づいて喜んでくれる部活の人とかがいれば嬉しいな…

そう思いながらたくさん原稿を読んだ。


「じゃあ、そろそろ交代かな」

「あ、委員長」

放送委員長の3年生から声をかけられた。

「柏木さんの仕事は一旦終了~!お疲れ様!」

「はい!お疲れ様です」

「さっきの演劇部の紹介、めっちゃ気持ち込めて読んでて面白かった。原稿にセリフとかあるんだね」

「気合入れて読もうと思ったんですけど、途中でなんか恥ずかしさが出ちゃって後半は声小さかったかもです…すみません」

「全然大丈夫だったよ。演劇部の子と友達なんだけど、めっちゃ喜んでたよ」

「そ、そうなんですか?!良かったです」

「それじゃあ、交代。時間になったら戻って来てね!それまで文化祭、楽しんで♪」

委員長に挨拶をして放送室を後にした。

廊下を歩いているとボタンちゃんとモミジさんが前から歩いて来る。

笑顔で駆け寄っていくと2人と目が合った。

ボタンちゃんが「ちょうど良かった」と言ってた。

「ちょっとこの子から質問あるんだって。マオちゃん」

「えっ…私に??」

何のことか分からず、2人の影にいた子を見る。

誰かはわからないが…。

「柏木先輩…ですか?」

「え、っと…はい」

「単刀直入に聞いても良いですか?」

「あー、先に名前とか聞いても……」

「す、すみません……猪狩。猪狩サトミです」

「猪狩さん。私は、柏木マオです。よろしくお願いします」

ぺこっとお辞儀をする。

ボタンちゃんとモミジさんはなんとも言えない表情で見守っていた。

「それで。質問っていうのは…」

「柏木先輩は、桜井センパイの何なんでしょうか?」

「え、クラスメイトです」

「………」

猪狩さんはボタンちゃんの方を見た。

ボタンちゃんは、はいはい、という顔をして私に話してくれた。

「えっと、桜井くんに気があるのか、って聞きたいそうですよ」

「ふぇ?」

私は間抜けな返事をしてしまった。

「んっと…私が?お兄ちゃんを?」

3人ともコクコクと頷いた。

「いやいや、お兄ちゃんはお兄ちゃんです。もちろん、好きですが、兄妹愛!恋愛感情はないです!」

結構自信満々に発言した。

猪狩さんはあまり面白くなさそうな顔をしていた。

これは、猪狩さんはお兄ちゃんのことが好きということかもしれない!!

「安心してください!私はお兄ちゃんの恋路の邪魔はしませんので!」

私はピースサインを顔の横で作りながら言った。

「……だそうよぉ。サトミちゃん」

「吉岡センパイ……」

「じゃあ、質問に答えたことだし、猪狩さんのクラスにクレープでも食べに行こうよ」

ボタンちゃんが場の空気を変えようとしていた。

「そうねぇ。小腹もすいたし移動しましょう。ね、マオさん」

モミジさんがこちらを向く。

「………わかりました。最後にもう一つだけ答えてください」

猪狩さんが真剣に私を見る。

「その、お兄ちゃんって呼ぶの……もし、桜井センパイに恋人が出来たらやめてください」

もう、質問じゃなくてお願いだった。

少し戸惑ったが、私はお兄ちゃんの嫌がることをしたいわけじゃないので「いいよ」と答えた。

猪狩さんは頭を下げて私たちの元から離れていった。

「じゃあ、行こっか」

ボタンちゃんが歩き出した。
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