同級生のお兄ちゃん

若草なぎ

文字の大きさ
上 下
6 / 30
桜井リョウスケの場合

side:桜井リョウスケ 文化祭②

しおりを挟む
上映が終わり、お客さんが、ぞろぞろと教室から出てくる。

「桜井センパイ!」

後ろから猪狩さんに声をかけられた。

「あの、お、面白かったです!」

「ありがとう。でも無理にほめなくていいよ。学生の限界を感じる内容でしょ」

「あーもう。リョウは一言多いな!猪狩さん、来てくれてありがとね!」

笑顔でうっちゃんが話しかける。

長谷川さんも「猪狩ちゃんとそのお友達ありがとう♪」と伝える。

「じゃあ、リョウ。休憩行って!」

急に大きな声で休憩を告げられる。

「桜井センパイ、休憩……なんですか?」

「そうだけど」

猪狩さんは友達2人の顔を見る。

友達のひとりが「これから私たち、委員会だから。また後でね!」と告げ、

2人はその場を立ち去っていった。

「なんだ。猪狩ちゃんも一人?せっかくなら桜井くんと一緒に屋台でも行ってきなよ」

長谷川さんが不敵な笑み浮かべている。

俺は猪狩さんを見る。

猪狩さんは「いいんですか?」と俺の方を見ながらいう。

想定外だが、特に問題はないので「うん」と答える。

猪狩さんは少し顔を赤らめながら嬉しそうにしている。

とりあえず、2人で屋台に行くことにした。





「センパイは何食べます?」

猪狩さんは少し距離をとりながら隣を歩く。

「定番の…やきそば?」

「いいですね。3組がやきそばだったと思うので行きましょう!」

こちらを向きながら話しているので、前から来ている人に気付いていない。

俺は咄嗟に猪狩さんを自分の方に引き寄せる。

「っ!!」

少し驚かせてしまったようだ。

「すみません…前から人が来ていたから。無理に引っ張ってごめん」

「い、い、、、いえ。わ、私が前を見ていなかったのが悪いので。こちらこそすみません!」

「じゃあ、やきそば。行こうか」

そのあと猪狩さんはあまり話さないまま、屋台の場所まで歩いた。

「すみません。やきそば2つ」

屋台に着き、やきそばを購入。

近くのテーブルが空いたのでそこで食べることにした。

お腹が空いていたので、すごく美味しく感じた。

猪狩さんは、先程から俯いている。

「ごめん。さっき引っ張ったときどこか怪我した?」

「え。いえ!ご、ごめんなさい。黙っちゃって…」

猪狩さんは少し呼吸を整えてから俺を見た。

「センパイ。今日の後夜祭って誰かと参加したりしますか?」

「誰か?うっちゃんといようかなって思ってたけど」

「じゃあ、あの、途中でいいので少しお時間もらえたり…しますか?」

「今じゃなくて?」

「はい…今は、ちょっと」

「そっか、まあ。見かけたら声かけてくれればいいよ」

猪狩さんの顔がパッと明るくなる。

「ありがとうございます!やきそば、美味しいですね」

やきそばを食べ終え、猪狩さんの教室のクレープに案内された。

せっかくなので!と猪狩さんがクレープを作ってくれた。

バナナチョコクレープ。確かに美味しい。

「どうですか?」

「美味しい。いいデザートの紹介ありがとう」

「はい!」

猪狩さんは嬉しそうに笑ってくれた。

食べ終わったので、猪狩さんにお礼を伝えた。

「今日は発表……頑張りましょうね!センパイ」

「そうだね。頑張ろうね。じゃあ、また発表で」

猪狩さんの教室を後にし、うっちゃんと合流した。

部活の発表前に楽器の確認を行う。俺とうっちゃんはチューバを担当している。

「そろそろ本番か。緊張するなぁ、リョウ!」

「大会よりは緊張しない」

「可愛くないやつ」

「吹奏楽部みなさん、そろそろ移動お願いしまーす」

「「はあーい」」

体育館を仕切っている3年生達から声がかかる。

大会より緊張しない、とは言ったものの吹奏楽はみんなの力で作る音楽だ。

俺の失敗でみんなの努力を無駄にはできない。それは、大会じゃなくても一緒だ。

この数十分間、俺達の音楽に耳を傾けてくれる人たちに少しでもいい時間を

過ごしてもらえるように精一杯、心を込めて演奏する。

わざわざ時間をとって聞きに来てくれている人もいるはずだ。

俺は気持ちを込めて演奏を始めた。
しおりを挟む

処理中です...