【改訂版】ダンジョンと株式会社 ~目指せビリオネイヤー(1千億円長者)私たちはこの会社で世界を取る~

早坂明

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6.モンスター料理と魔石

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●5月1日 自宅 水沢健司

「さて、それじゃあもうすぐお昼時でもあるし、トカゲ料理に挑戦するわよ」
「毒があったら大変じゃからやめとけ」
「大丈夫。さっきヘルプを調べてあのトカゲが食用になることは確認したから」
「そんなことまで、載っているんですか⁉ うわ、本当だ」
 清美の指摘にヘルプを確認していた水沢が驚きの声を上げる。
「ね、本当でしょう」
「……はあ、言ってもやめそうにないし、仕方がないか」
 清美の言葉に、伊吹がため息をつく。

「私も見学させてもらっていいですか?」
 キッチンに向かおうとする清美に、水沢がそう尋ねた。
「トカゲを捌くくらい、一人でできるけど?」
「いえ、未知のモンスターですし、純粋に解体するところを見学したいと思って」
「そう言うことなら、かまわないわよ」

「うーん。魚を捌く時の応用で何とかなるかと思ったけど、骨格が異なるから予想より難しいわね」
「皮を剥がすのにも、もう少し慣れが必要ですね」
「まあ、皮と内臓を取り除いておけば、鳥の骨付き肉みたいなものだから、食べられるわよ」

「ところで、内臓を調べていて気になったのですが、この心臓と対になった位置にある器官は何なんですかね?」

「どれどれ。切り開いて中を見てみるわね」
 そう言って清美は水沢が示した部位を、まな板の上に取り出し包丁で2つに切ろうとした。
 しかし、包丁は何か固いものにあたり途中で止まる。
 清美は指でその固いものを取り出すと、水道の水で洗った。
「あら、中から奇麗な石が出てきたわ」
 そう言って、清美は1センチ角ほどの赤い石を、水沢に見せる。
「何かしら? もしかして魔石?」
 清美はその石を見つめながら、わくわくとした表情で言った。

「どうでしょうかね? 食道にはつながっていませんでしたので、ただの砂嚢とも思えませんが。とりあえず保管しておきましょう」
 水沢は、石を蓋つきのビンの中にしまいながら、そうつぶやく。

「それで、トカゲはどう料理するつもりですか?」
「コンソメで、野菜と一緒にポトフ風に煮込んでみようかと思うの」
「ポトフですか。いいですね」

 しばらくして、料理が三人の前に並べられる。
 大きく乱切りにされた人参、ジャガイモ、玉ねぎといった色とりどりの野菜とともに、大きめに切られた骨付き肉が浮かんでいる。
「これが、トカゲ料理か。見かけは脂身のない鶏肉っぽいのう」
「お味の方はと……うん、なかなかいけるじゃない。あっさりとしていながらも旨味があって、口の中でとろけるような柔らかさね」
「野生動物ですからもっと筋張っていて硬かったり、臭みがあったりすると予想していましたが、意外と柔らかくて癖のない味ですね」

 ぶつぶつ言いながらも、ポトフを食べていた伊吹が感想を言う。
「不味くはないが……普通じゃな。わざわざトカゲを食う必要があるとも思えんが」
「確かにゲームでよくあるように、モンスターの肉を食べたら、他の物が食べられなくなるというほど極端においしいというわけではないわね」

 その言葉に伊吹がぎょっとする。
「おい、それは依存性があるということではないのか」
「まあ、今のところその様子もありませんし、大丈夫では?」

「むしろ、少しコクが足りない気がします。何日か冷蔵庫で熟成させてからの方が、よかったのかも知れませんね」
「余計なことを言うな」
「そうか、熟成かあ……何日か置いてから、また挑戦してみるわ」

 ふと、思いついたように水島がステータスを表示させ、それを確認する。
「おや、トカゲの肉を食べたことで1ポイントだけですが、経験値が入ったようです」
「1ポイントかあ。レベル1までに60回となるとどうなのかしら」
「そうですね。ですが、特に危険をおかさずに、食事のたびに経験値が入ると考えると、長期的には悪くないのかもしれません」
「……毎食、トカゲを食わせるつもりかい」

 食事を終え、三人がリビングでお茶を飲んでいる時、清美が思い出したように水島に話しかける。
「ねえ、そういえばあの魔石はどうなったの」

「ここにありますよ」
 そう言って、ガラス瓶に入れられた石を見せる。

「そんな石ころが何かの役に立つのか?」
 伊吹の疑問に、清美が食いつき気味に説明を始める。
「魔石と言ったらすごいのよ。ネット小説なんかじゃ、万能のエネルギー源と言われているんだから」

「まあ、この石が魔石と決まったわけではありません。それに、万能のエネルギー源は明らかに言いすぎですよ」
「うーん。やっぱり?」

「ええ、ガソリン自動車に、この石を入れても動かないのは明らかでしょう? そして、新しい燃料が開発されたからと言って、今自分が持っているガソリン自動車をわざわざ買い替えようとは、なかなか思わないでしょう」
「水素燃料や電気動力の自動車も、なかなか普及しないものねえ」

「かといって、発電所のような大型設備となると、さらに大変ですしね。既存の設備は、化石燃料や水力、原子力といった、既にあるエネルギー源に特化しています。これを別のエネルギー源に対応させるのは、ほぼ不可能です」

「ほぼということは、完全に不可能というわけではないんじゃろう?」
「確かにその通りですが、改修費用が、改修後の運用で得られる利益を上回るでしょうね。化石燃料が完全に枯渇したという事態にでもならない限り、現実的ではありませんよ」

「また、改修するにしろ、新造するにしろ、発電所のような大型の建造物の建築には、数年から10年単位の時間と、数千億円から兆単位の金が必要です。仮にエネルギー源が魔石にシフトするにしても、相当な時間が必要です」

「じゃが、ダンジョンの中で落ちているものを拾ってくるだけじゃ、ただみたいなもんじゃろう?」
 伊吹の思い付きには、清美が反論する。
「甘いわね。誰かが必要とするものなら、それには必ず値段が付くのよ。そもそも、地面に落ちているものが無料というなら、石油も石炭も無料ということになるはずだけれども、そうじゃないでしょう?」

「それに、供給側の原価、つまり人件費などの問題もあります。命がけでダンジョンに潜っていながら、生活費も稼げないで餓死するのは誰だって嫌でしょう?」
「まあ、そうは言っても供給過剰になれば、価格が大暴落ということもあり得るのだけれど……」
「その場合には、魔石を掘る人間自体がいなくなり、需要と供給のバランスを保とうとするでしょうね」

 伊吹は、参ったという風に手を上げる。
「分かった、分かった。わしの負けじゃ」
「ふふん。元SF研を舐めないでよね」
「……この石が魔石と決まった訳ではないんですが……」

「それで、仮に魔石が手に入ったとして、それを利用するのにはどうすれはいいと思う?」
「魔石固有の性質については、空想の領域をでないので置いておくとして……やはり、熱エネルギーとして取り出す方法を探すのが手っ取り早いでしょうね」

 清美も、その意見に同意する。
「熱さえ取り出せれれば、それで水を沸騰させて蒸気タービンで発電機を回せばいいものね。蒸気タービンは、火力発電所や原子力発電所で用いられている、十分に実績のある方法だから問題ないと思うわ」

 あきれたように、伊吹が呟く。
「SF研は、そんなことばかり考えとるのか……」
「その通りよ!」

「さて、午後からもダンジョン探索よ。トビトカゲを5匹、いえ、14匹以上倒して、レベル3まで上げるわよ」
 清美の元気な声がリビングに響き渡った。
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