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絵画のような人魚ー58ー
しおりを挟む日曜日の朝、僕は一人で学生寮の湯船に浸かっていた。立ち込める湯気の中に三葉さんの裸が浮かび上がる。
興奮は静まっていたが、心の中で気持ちが複雑に交錯していた。僕は不器用な人間だと思っていていたけど、実際は器用な人間かもしれない。二人の女性に対して、気持ちをニブンノイチに割って、心の色を二種類に塗っているのだ。
一人は鮎川みゆき、もう一人は西條三葉。馬鹿げた考えに、僕の中で罪の意識が意味を無くしている。彼女の事もあった、真壁純奈に対して僕は何色を塗っているのか?自分の色を一切持たない僕に、神様はどんな罪を与えるのだろうか……
無心になりたくて湯船に顔を沈めた。
ブクブクブク……
雨はすっかり上がって、雲間から夏の予感をさせる陽射しが差し込んでいた。今年の連休はきっと晴れ模様になるでしょう。なんてテレビのお天気お姉さんが満面の笑みで言っていた。
僕はラフな格好に着替えて、まだ眠っている緑郎を起こさないように部屋を出た。5日以上会っていないみゆきと会うことは、嬉しさと複雑な感情が入り混じっている。それとも罪の意識を感じて、僕の色はまたグチャグチャになってしまうのか?
不安な気持ちを胸に添えたまま、僕は待ち合わせ場所へと向かった。山手線を乗り継ぎ、駅を降りて広場を見渡して彼女の姿を探した。
「ワッ!!」
背後からの声に驚いて、僕は変な声を出しながらはねとび上がった!!
「驚いた!!四季、私だよ」と笑いながら立っていたのは、彼女のみゆきだった。
「ビックリした。脅かすなよ!!」予想外の出現にマジで心臓が止まるかと思った。
「ごめん。許して四季。久しぶりなんだもん。嬉しくてついつい」舌を少し出して、みゆきが可愛い笑顔で言うのだった。そんな彼女を見ては一瞬で許してしまう。
みゆきは僕の腕を掴むと、身体を寄せるように腕を組んで来た。久しぶりの再会に、僕は自然と愛おしい気持ちになるのだった。彼女の横顔、笑うと細くなる黒目がちな瞳。そこには絶対的な黄金比率があった。
みゆきは常々、自分に自信がないと言っていた。だけど僕にとっては美しい女性としか思えなかった。
今日の目的はスカイツリー。奇跡的に取れたチケットを手にして、混雑する人々と一緒に展望台へと向かった。
彼女は嬉しそうに笑い、僕との会話を楽しそうにしていた。繋いだ手は一度も離れることもなく、絶えず寄り添うように側から離れなかった。
「すごい!!四季、見てよ」最上階へ着いた時、僕たちの目の前に壮大なパノラの風景が広がっていた。
人はこんなにもデカイ高層タワーを創り上げることができる。まるで空中都市みたいな光景に、僕はしばらく地平線の彼方を見つめていた。
「四季、空が無限に広がっているね」
「うん。向こう側をみることは永遠に無いような気がするよ」
「色と同じよ。無限に広がる空みたいに色彩は限りない」窓ガラスを隔てて広がる光景に、彼女は色の可能性を追求しているみたいだった。
彼女はそっとぼくの肩に頭を傾けて、しばらく風景を眺めていた。
そのあと、僕たちは街をぶらついて二人だけの時間を楽しんだ。早めに夕食を食べ終えて、僕たちは自然と夜の街へと消えて行った。
つづく……
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