溺愛の価値、初恋の値段

C音

文字の大きさ
7 / 175

金曜日の贖罪 1

しおりを挟む
湯川さんに水をかけられ、怪しい外人さんにナンパされた二週間後。

わたしは、会社の更衣室でロッカーを片づけていた。


(二年いても……こんなものか)


会社に置きっぱなしにしていた細々した私物は、紙袋一つに収まった。就業開始前に片づけたデスクも、持ち帰るのは筆記用具くらいしかなかったので、これで全部だ。

あとは、人事部に入退室に必要なセキュリティカードを返却するだけ。

派遣会社の担当者は、スケジュールの都合がつかないため、午後から顔を出すと言っていた。
たぶん、わたしの代わりを引き連れて来るつもりなのだろう。

『Y電気工事株式会社』は、大手電力会社のグループ会社で、これまで働いた企業の中でもかなりの高時給、好待遇だった。

総務部で、派遣社員として働き始めてから二年。つい先日、来月から契約社員として採用したいと言われたばかりだったのに、とばっちりで辞めるはめになるなんて、思ってもみなかった。





湯川さんに水をかけられた翌日、わたしは人事部長に呼び出された。


『湊さんと沼田課長が不適切な関係にあるという噂を聞いてね。ひと悶着あったそうだね?』


いきなりズバリと訊かれ、相手が部長であることも忘れて叫んでしまった。


『あれはっ……わたしと沼田課長は何の関係もありませんっ!』

『うん。わかっているよ。でもね、残念ながらこういう噂は、一度立つとなかなか消えないんだよね。誰と誰がそういう関係か、公にするわけにはいかないから、表立って否定することもできいないし。基本的にはプライベートの話だからね。業務に支障がなければ強く咎めることは難しい。とはいえ、当人たちはそれなりの報いは受けることになる。ただ、君も居づらくなると思うんだよねぇ……わたしとしては、ぜひ続けてほしいと思っているんだけれどねぇ……』


その場ではっきり「クビ」とは言われなかったが、面談した翌日、派遣会社から直接雇用の話は白紙、契約更新もなくなったと連絡があった。

沼田課長は新年度から支店へ異動。湯川さんは、総務部から経理部へ異動。二人とも、引っ越しの準備と病気療養という理由で会社を休んでいる。

わたしは、残務整理のために有給休暇を消化できないまま辞めるというのに、だ。


(どうして、いつもこうなるの? 目立たないようにしていたのに。誘ってもいないのに。彼氏がほしいとも、結婚したいとも言ったことなんかないのに……)


「これで、不倫はないでしょ」


ロッカーの内扉に映っている自分の顔を見て、苦笑いする。

黒縁の眼鏡をかけ、伸ばしっぱなしの黒髪はうなじで一つに束ねただけ。メイクは、ファンデーションを塗って眉を整え、口紅を塗っただけの適当具合。十五分もあれば終わる。

地味で冴えない女。

でも、わたしはそんな自分の外見に満足している。

高校時代の親友が言うには、わたしは『見かけ倒しのクールビューティー』らしいけれど、男性に興味を示されたくないし、こちらも興味を持つ気はまったくない。

それなのに、高校を卒業して以来、いつも同じような原因で会社を辞めている。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

優しい雨が降る夜は

葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン 無自覚にモテる地味子に 余裕もなく翻弄されるイケメン 二人の恋は一筋縄ではいかなくて…… 雨降る夜に心に届いた 優しい恋の物語 ⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡ 風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格 雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン

純愛以上、溺愛以上〜無愛想から始まった社長令息の豹変愛は彼女を甘く包み込む~

芙月みひろ
恋愛
保険会社の事務職として勤務する 早瀬佳奈26才。 友達に頼み込まれて行った飲み会で 腹立たしいほど無愛想な高原宗輔30才と出会う。 あまりの不愉快さに 二度と会いたくないと思っていたにも関わらず 再び仕事で顔を合わせることになる。 上司のパワハラめいた嫌がらせに悩まされていた中 ふと見せる彼の優しい一面に触れて 佳奈は次第に高原に心を傾け出す。

フローライト

藤谷 郁
恋愛
彩子(さいこ)は恋愛経験のない24歳。 ある日、友人の婚約話をきっかけに自分の未来を考えるようになる。 結婚するのか、それとも独身で過ごすのか? 「……そもそも私に、恋愛なんてできるのかな」 そんな時、伯母が見合い話を持ってきた。 写真を見れば、スーツを着た青年が、穏やかに微笑んでいる。 「趣味はこうぶつ?」 釣書を見ながら迷う彩子だが、不思議と、その青年には会いたいと思うのだった… ※他サイトにも掲載

やさしいキスの見つけ方

神室さち
恋愛
 諸々の事情から、天涯孤独の高校一年生、完璧な優等生である渡辺夏清(わたなべかすみ)は日々の糧を得るために年齢を偽って某所風俗店でバイトをしながら暮らしていた。  そこへ、現れたのは、天敵に近い存在の数学教師にしてクラス担任、井名里礼良(いなりあきら)。  辞めろ辞めないの押し問答の末に、井名里が持ち出した賭けとは?果たして夏清は平穏な日常を取り戻すことができるのか!?  何て言ってても、どこかにある幸せの結末を求めて突っ走ります。  こちらは2001年初出の自サイトに掲載していた小説です。完結済み。サイト閉鎖に伴い移行。若干の加筆修正は入りますがほぼそのままにしようと思っています。20年近く前に書いた作品なのでいろいろ文明の利器が古かったり常識が若干、今と異なったりしています。 20年くらい前の女子高生はこんな感じだったのかー くらいの視点で見ていただければ幸いです。今はこんなの通用しない! と思われる点も多々あるとは思いますが、大筋の変更はしない予定です。 フィクションなので。 多少不愉快な表現等ありますが、ネタバレになる事前の注意は行いません。この表現ついていけない…と思ったらそっとタグを閉じていただけると幸いです。 当時、だいぶ未来の話として書いていた部分がすでに現代なんで…そのあたりはもしかしたら現代に即した感じになるかもしれない。

【完結】女当主は義弟の手で花開く

はるみさ
恋愛
シャノンは若干25歳でありながら、プレスコット伯爵家の女当主。男勝りな彼女は、由緒ある伯爵家の当主として男性と互角に渡り合っていた。しかし、そんな彼女には結婚という大きな悩みが。伯爵家の血筋を残すためにも結婚しなくてはと思うが、全く相手が見つからない。途方に暮れていたその時……「義姉さん、それ僕でいいんじゃない?」昔拾ってあげた血の繋がりのない美しく成長した義弟からまさかの提案……!? 恋に臆病な姉と、一途に義姉を想い続けてきた義弟の大人の恋物語。 ※他サイトにも掲載しています。

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜

ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。 そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、 理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。 しかも理樹には婚約者がいたのである。 全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。 二人は結婚出来るのであろうか。

ルピナス

桜庭かなめ
恋愛
 高校2年生の藍沢直人は後輩の宮原彩花と一緒に、学校の寮の2人部屋で暮らしている。彩花にとって直人は不良達から救ってくれた大好きな先輩。しかし、直人にとって彩花は不良達から救ったことを機に一緒に住んでいる後輩の女の子。直人が一定の距離を保とうとすることに耐えられなくなった彩花は、ある日の夜、手錠を使って直人を束縛しようとする。  そして、直人のクラスメイトである吉岡渚からの告白をきっかけに直人、彩花、渚の恋物語が激しく動き始める。  物語の鍵は、人の心とルピナスの花。たくさんの人達の気持ちが温かく、甘く、そして切なく交錯する青春ラブストーリーシリーズ。 ※特別編-入れ替わりの夏-は『ハナノカオリ』のキャラクターが登場しています。  ※1日3話ずつ更新する予定です。

処理中です...