溺愛の価値、初恋の値段

C音

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金曜日の贖罪 2

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わたしが、F県の高校を卒業してすぐに就職したのは、大手不動産会社。よくも悪くもアットホームな職場で、定年まで勤める人がほとんどだった。

人間関係が密で、職場での飲み会や食事会は半ば強制参加。高卒のわたしは、お酒の席でどう振る舞うべきかわからず、上司が身体に触れてきても、強く拒否できなかった。

仕事の上でとてもお世話になっているし、いやだとは言いにくかったのだ。

でも、何度かそんなことが続いたある日、二人きりで残業している時に、無理やりキスされそうになった。

さすがに拒んだら、「何様のつもりだ」とキレられた。

それから、なぜか話したこともない男性社員から、あきらかに身体目当ての誘いを度々受けるようになった。

誰かが、わたしのことを「誰とでも寝る女」だと噂を流したのだ。

噂の発信元は上司だろうと思ったけれど、証拠はない。
否定しようにも、面と向かって訊ねられることなどないから、どうしようもなかった。

噂が広まるにつれ、女性社員からも白い目で見られるようになり、居づらくなった。


結局、一年半ほどで退職し、知り合いのいるN市へ引っ越した。


正社員の口はそう簡単には見つからず、内情を知らないまま密な人間関係に飛び込むのも怖かったので、派遣社員として働くことにした。

待遇面で差を感じることはあるけれど、一線を引いた付き合いができるのが、楽だった。


それでも、新しい会社に移るたび、長く働きたいと思っていた。

今度こそ、と思って働いてきた。

なのに、いつも長く続けられずに、辞めている。


前に働いていた会社では、彼女がいる男性社員から、一方的に言い寄られて修羅場になりかけた。

その前は、奥さんを亡くして独り身だというふた回り以上も年上の役員に、愛人契約を持ちかけられた。

さらにその前は、単身赴任歴が長いという中年の男性社員と残業した帰り、夕食を一緒に食べに行くはずが、ラブホテルに連れ込まれそうになった。

自分では隙を作らないようにしているつもりだけれど、もともと要領がよくないし、頭もよくないから、傍から見れば「簡単な女」に見えるのかもしれない。


(いっそのこと、結婚でもすればいいのかな? 偽装でもいいから……)


そんなことを考えかけ、首を振る。


(世の中には、「人のもの」だからこそ欲しくなる人もいるよね……)


大きな溜息を一つ吐き、ロッカーを閉め、更衣室を出るとまっすぐ人事部のあるフロアへ向かった。

セキュリティカードを返却し、必要書類にサインしてオフィスビルを出れば、もう会社とは関わりのない人間だ。

ビルの前にあるちょっとした広場にそびえるメタリックな時計塔は、午前十時を指していた。

次々とビルへ呑み込まれていく人波に逆らって歩き出しながら、必要のなくなったメガネを外し、スーツのポケットへ押し込む。

俯きそうになる顔を上げ、見上げた空はきれいに晴れ渡っていた。
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