猫少女は俺の隣で眠る

アロマサキ

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悪魔の抽選会

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 ベルベット商会━━従業員数は、五十人を超える大手商会。
 この大きな建物の他に、うちのラノ商会のように、他の村に行き荷馬車での商売もしている。
 ラノ商会とは雲泥の差だ。
 俺は荷馬車を建物の前に置くと、赤い布地の服を着た兵士が近付いてきた。



「私はラノ商会のラノ・ホーフェンで、彼女は私の連れのアニです」

「ラノ商会さん……ラノ商会、あ、ありました、中で首領《ボス》もお待ちです。どうぞ」



 俺が名乗ると、兵士は手元の名簿を確認し、中へと促される。
 兵士はこのベルベット商会で雇われた者で、商品と商人の護衛を勤めている。
 二人の兵士を雇うのに、月にいくらの硬貨を支払っているのか……考えただけでも腹立たしい。

 俺とアニは木製の扉を開き、建物の中へと入って行く。
 建物の中は広く、客も従業員も活気があって、良い空気感を感じられる。
 そして、俺とアニは先程の兵士に連れられ、木製の階段を登っていく。
 二階建ての建物、これだけでも良い額になる━━駄目だ、妬みの感情しか生まれない。
 そして、階段を上がって一番端の部屋に入ると、中は薄暗く、円卓の机が一つ中央に置かれている。
 既に八の商人は来ているみたいだな━━空いてる席が四つ、まだ来てないのは俺を抜いたら後三つの商会か。



「首領《ボス》、ラノ商会のラノ・ホーフェンさんが参られました」

「ふっふっふー、やっと来ましたわね、ラノ!」



 ああ、いきなり嫌な声が聞こえた。
 兵士の言葉に不気味な笑いを浮かべ、こちらに指を突きつける少女、彼女が、



「久しぶりだね、マリリン・ベルベット。相変わらず不気味な笑い方だ」

「━━なっ! こう言った方がカッコいいと思ったから言ったの! 勘違いしないでよね!」



 彼女は顔を真っ赤にしながら、プイッとそっぽを向く。

 マリリン・ベルベット、まだ年齢は一七になったばかりだが、既にベルベットの首領《ボス》だ━━俺なんかとは生まれた時からの才能が違う。

 容姿は一五〇くらいと小さめで、サファイアのような綺麗な緑色の髪を後頭部で縛り、歩く度にぷらんぷらんと揺れるのが特徴的な髪型、瞳は髪の色よりも暗めな緑色。
 そして年齢には似合わない程の大きな胸が彼女の一番の良い所だ。

 そんな彼女に、俺はゆっくり頭を下げる。



「本日はお招きありがとうございます、今回も宜しくお願いします」

「ふんっ! どうせ、今日もガラクタを持って来たのでしょ!」

「まあ、ベルベット商会の良い商品に比べれば、私の商品なんてガラクタですかね」

「そうよそうよ! ほら早く座りなさいよ」



 彼女は自分の商品に絶対の自信を持っている、だから褒めれば嬉しそうな顔をして、満足して話を終えられる。
 できれば不用意に関わりたくはない、前回みたいに邪魔をされたくないからだ。

 俺とアニは座ろうと思った、だが「ちょっと待ちなさいよ!」という無駄に大きなマリリンの声が聞こえ、足を止めた。



「ラノ……その後ろの者は誰よ! この会場には関係者以外立ち入り禁止よ!」

「……彼女は私の従業員ですが、何か問題でもありますか?」

「従業員? 彼女? だめだめだめ、ぜーったい駄目、従業員も立ち入り禁止よ!」

「いやいや、他にも従業員を連れて来ている者がいますが?」

「それでも駄目よ! ……女なんて」



 彼女は首を横に何度も振り、だだっ子のように話を聞かない。また始まったよ。
 こうなったら聞き分けないんだよな、ベルベットは。
 仕方ない、アニには外で待っていてもらうか━━



「まあまあベルベットさん、良いじゃないですか? 他の方も従業員を連れて来ている事ですし?」

「なっ……リード商会の━━それでも私がここの首領《ボス》なんだから、私の言う事は絶対なんです!」

「……ベルベットさん耳を貸してください」



 ベルベットは「何よ」と呟きながらリードに耳を寄せる。
 何を話したのか、ベルベットは真っ赤な表情になり、一度咳払いをしてから、



「まあ……仕方ないわね。今回は特別に許すわ。ほら、早く座りなさい」

「えっ、ああ、ありがとうございます。ほらアニ、早く座るよ」

「……はい、にゃ」



 小さな声で、にゃを付けたのは後で説教するとして、俺とアニも椅子に座る。
 隣にはさっき止めてくれたリード、この会場の中で唯一仲が良いと言える少年だ。
 俺はリードに小さな声でお礼をした。



「リード……助かったよ、ありがとう」

「いえいえ、それよりどういう風の吹き回しですか? ラノさんが従業員を雇うなんて」

「まあ色々と合ってな、これ以上は聞かないでくれよ」

「えー気になりますね、商売の匂いがしますよ?」

「いやいや、リードの得になるような話じゃないから安心してくれ」



 リードはなんとか納得してくれたのか、白い歯を出しながら、ニコリと笑った。
 リード商会の領主《ボス》━━リード・マクスウェル。
 俺よりも三つ下の二一歳だが、既に従業員一〇名の商会を営んでいる。
 金色の長髪に白い肌、身長は一六〇と小さめだが、低身長と顔の良さが合っていて、かなりの美少年な容姿だ。
 商人になってからはまだ三年くらいだが、彼には二つの武器がある、一つはその天から頂いた容姿、そしてもう一つは巧みな話術だ。

 見た限りでは、俺よりは従業員数は多いが、ベルベット商会とリード商会の他にはあまり有名な商会はいないな、これなら場所さえ良ければ━━



「それでは皆さん集まったので、始めたいと思います」



 ベルベットは一度手を叩き、全員の注目を集めたとこほで話始めた。



「本日の夜、おそらくハーモニク国の騎士団がこの村に来ると思われます━━理由は皆さんもご存知だと思います、近隣の森で魔物が異常発生し、その魔物達の討伐だと思われます」



 やっぱりそんな大事になっていたのか。
 ハーモニク国ともなれば、一度の派遣で数百人は来る、それに冒険者も合わせれば━━商人としては美味しいな。



「おそらく、怪我を癒す薬草の補充は不可欠、そして武器も防具も新調するのは必然━━ですので、売上はいつもの倍以上にはなるでしょう。そこで、今回もくじ引きを行います」



 今回もこのくじ引きシステムを採用するのか。
 前回はこのくじ引きシステムで最悪の数字を引いてしまい、最悪の売上だった、今回はなんとしても、良い数字を引く! いや、引かせて下さい神様! 

 ベルベットは透明の小さな箱と、一二枚の数字の書かれた白い紙を手に取り、



「ルールは前回同様です、なので詳しい説明は省きますね」



 本当に簡単なくじ引きだ。
 時計と同じで、一二の数字の場合だと門から反対側、そして当たりなのは六の数字で、門から正面の位置になる。

 そして、 ベルベットは紙を透明の箱に入れ、箱を置く。



「さあ、好きに取りに来て下さい、あっ、見るのは皆さんが取ってからにしてください」



 誰も動かない、周りを伺っているのか?
 こんなの運だ、前回は最後に引いて失敗した、今回は一番に引く。
 だが、隣に座っていたアニに袖を掴まれ、



「……主、私が引く」

「……なんで?」

「……われは元猫、視力は良い。あんな少し混ぜただけじゃあ、わが目は誤魔化せない」

「……なるほど、わかった。頼むよ」

「任せる、にゃ」



 親指を立てるアニ、また「にゃ」と言った、完全に後で説教だ。
 まあ、結果次第だが━━



「じゃあ、私から引かせてもらいます」

「ラノの……ええ、どうぞ」



 アニは手を上げ、ゆっくりと箱に向かった。
 この時点で、ある疑問が生まれた。

 ━━あれ、アニはルール知ってるのか?

 詳しい説明は省いたよな?
 じゃあ、アニは何の数字を狙ってるんだ?

 アニを止めようとした、だが既に引き終わり、アニはフードで暗くなった表情からうっすらと笑みを浮かべている。



「……主、引いてきたぞ」

「……アニ、念のために聞くが、何の数字を狙ったんだ?」、



 淡い期待を胸に宿し、アニに問い掛ける。
 すると彼女はニコリと笑い、



「……もちろん、一番数字の高い一二にゃ」



 あっ、終わった。後で完全に説教だ。 
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