猫少女は俺の隣で眠る

アロマサキ

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いざ商売!

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 俺とアニは荷馬車に乗り込み、次の目的地に向かう。
 太陽は隠れ、辺りは薄暗く、村を照らす街頭が等間隔に設置されている。
 無事、明日の場所決めは終わった━━色々な意味で。



「ごめんにゃ主、われは勘違いをしていたみたいにゃ」

「もうわかったから……大丈夫だよ?」



 正直、絶望的な状況だが、隣で悲しい表情を見せるアニを咎める気持ちにはならない。
 前回の数字は九、今回の数字は一二、前回より悪くなっている━━さて、どうするか。



「とりあえず食材を宿屋に渡してから、どっかで食事にしようか?」

「食事! やったにゃ、もうおにゃかペコペコにゃ」



 へっこんだお腹をさすっている、そういえば、朝出発してから何も食べてなかったな、俺とアニ、それにアインとツヴァイも。
 そういえば、アニはこの体になったら何を食べるんだ? 今まで通り白米か?



「……アニは何か食べたいのあるか?」

「んー、肉にゃ!」



 あっ、肉食動物に変わるんだ。
 この辺で美味しい肉料理を頂けるお店は━━わからん、適当に探すか。

 っと、こんな話をしていたらお店に到着した。
 俺が降りる前に、「ちょっと散歩してくるにゃ」と言って、アニはどっかに消えてしまった。
 まあ、終わる前に帰って来てくれればいいか。



「すみません、ラノ商会です!」

「はーい、あっ、待ってたよ」

「すみません遅れてしまって」



 優しそうなふくよかな女性だ、これなら値段交渉はいけるかもしれない。
 白米五キロ、鹿肉五キロ、そして野菜がちらほら。
 生産者から買った額は金貨三〇枚。
 普段ならこの量、それにこの質なら、金貨五〇枚と銀貨八枚が妥当だが、



「一応これなんですけど、結構質が良いって皆さんに言ってもらえるんですよ」

「へえ、確かに良さそうだね。いくらくらいが希望だい?」

「そうですね……まあ、遠くから来たので、希望としては金貨七〇枚が希望ですかね?」



 俺の言葉は妥当なところだ、品物を再び眺める女性は何度か頷いてる。
 おそらく、いや十中八九値下げ希望をされる。
 だが、一度提示した額からは急激に減らされない、最初に提示した額が相場になるからだ。
 かといって、最初の提示額が高すぎたら取引されない━━それに金輪際、俺のところから購入してもらえない可能性もある。
 だから向こうが考えている範囲内の妥当な額を展示する、まあ、そこから減らされても金貨六五枚から六〇枚の間だろう。

 女性は決まったみたいだ、頷き、



「んー、まあ金貨五五枚ってところかな?」

「……どうしてでしょうか? これくらいの質の良さならもう少し」

「んー、ちょっと鹿肉の方がね、たぶん来る途中で雨に濡れたんでしょ? すぐに使いたいからここまでぶよぶよだとね……どうかな?」



 盲点だった、水分はしっかり拭いたから明日になれば普通通りの鹿肉に戻る、だがすぐに使いたいと言われるとは。
 仕方ない、予定よりは上乗せできた、



「わかりました……では金貨五五枚で━━」

「あっちょっと待ってくれるかい、やっぱり金貨五〇枚にしてもらえないかしら? 前に来た商人さんが、これぐらいの量で金貨五〇枚で売ってたからさ!」

「いや、それは」

「もし駄目ならそっちで買うけど? 今日使わないからね」



 やられた、一度相場を下げてから再度下げる。
 しかも他商人の名前をちらつかせられたら━━俺みたいな小さい商会じゃあ。
 まずい、どうする。
 ここで「わかりました、では五〇枚で」と言ったら、さらに下げられるかもしれない━━かといってここで「じゃあ今回は無かった事で」なんて言ったらこの食材はどうなる? 白米は日持ちする、だが五キロの鹿肉を冷蔵庫に入れてくれる所なんてないぞ、一日で駄目になってしまう。



「じゃあ、わかり━━」

「……あれ、商人さん?」

「誰だい、あんた?」



 この声は、アニ?
 なんで急に、それになんで他人行儀?



「もしかして、鹿肉を売っているのかい? へえ、これは良い鹿肉だね、いくらで取引するんだい?」

「なんだいあんた、急に割り込んできて、今私が」

「ああ、申し遅れてすみません、私は向こうにある【クラッシュの酒場】の店主をしてましてね? いまちょうど鹿肉を切らしちゃったんですよ」



 凄い━━嘘しか言ってない。
 だがこれは良い作戦だ、この女性店主の顔が一気に変わった。
 これは一か八か、アニに乗っかるしかない。



「あっクラッシュの酒場の店主様でしたか、私はラノ・ホーフェンと申しまして、ラノ商会という小さな商会を営んでいます。それで、鹿肉をお探しという事でしたが、どれぐらいの量、額の物をお探しですか?」

「そうだね……丁度このくらいの量で、白米と野菜も一緒なのは有難いね。これなら私は金貨六五でどうかな? 私はクラッシュの酒場の店主、小細工無しで即決するよ?」

「なっ……」



 店主は驚いた言葉を発している。
 額も妥当、それに挑発も含んでいる。
 これなら━━



「そうでしたか、それなら今ここの店主と━━」

「待ちな! ……私は金貨七〇で即決する、それで良いだろ? ちょっと待ってな、今持ってくるから」



 そう言って、店主は慌てて中に入っていく。
 アニはいなくなるのを確認し、「向こうで待ってるにゃ」とだけ伝えて、再び消えた。
 戻った店主は周りをキョロキョロし、



「あれ、あいつは何処かへ行ったのかい?」

「ええ、もしこの交渉が無くなったら、うちに来てくれと言って、店主は消えてしまいました」

「ふんっそうかい、残念だったね、はい金貨七〇枚、頼むから向こうとは取引しないでくれよ? うちとクラッシュ酒場は敵対してるんだから」



 店主から受け取った金貨を数える。
 よし、確かにある。



「わかってますよ、いつも贔屓《ひいき》にしてもらってますからね……では、また何かありましたら、ラノ商会を宜しくお願いします」

「ああ、また頼むよ!」



 俺は深々と頭を下げ、荷馬車に乗り込むと、即座にアニを迎えに行く。
 少し離れた街頭の真下で、石ころを楽しそうに蹴っている少女を見つけた。



「━━アニ!」

「主、上手くいったにゃ?」

「ああ、助かったよ。アニのおかげだ」

「これでさっきの失敗は帳消しにしてくれるにゃ?」



 笑顔のアニを隣に乗せ、馬を走らせる。
 帳消しどころじゃない、



「もちろんだよ、元値が金貨三〇枚、それが金貨七〇枚になったんだから、金貨四〇枚も儲けだよ!」

「本当かにゃ! それは良かったにゃ」

「それよりどうしてあの二つのお店が敵対してるってわかったんだ? そんなの俺、一言も言ってなかったのに」



 俺の問い掛けに、アニは自分の耳を指差しながら答える。



「われは猫、目も耳も良いにゃ、少し散歩しただけで二つのお店から情報は聞けたにゃ!」

「なるほどね……じゃあ何か食べに行こうか、何でも好きなものを食べてよ!」

「本当かにゃ!? われは美味しい肉料理が食べたいにゃー!」
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