猫少女は俺の隣で眠る

アロマサキ

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いざ、勝負!

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 俺とアニは近くの酒屋に来ていた。
 確かに俺は、何でも好きな物を食べてくれ、そう言ったが。



「おやじ! おかわりにゃ!」

「はいよ……良く食べる嬢ちゃんだ」



 何も乗っていない皿を高々と上げ、その姿に驚く男性店主。

 猫である彼女が、鹿肉と豚肉を焼いて白米に乗せた料理━━鹿豚肉丼を食べる姿を誰が予想しただろうか?
 俺は予想していなかった。
 そして、既に五杯目を注文した……食べる速度はまだ落ちない。



「アニ……良く食べるね、それに━━にゃって言ってるよ?」

「━━しまったにゃ! あっ、しまいましたね、おっほっほ」



 慌てて口調を変えたが、完全におかしな少女だ、そして、口に手を添えるポーズ、どこのお金持ちの真似だ? どこでそんなの覚えた? 恥ずかしいから止めなさい。

 それから、アニは六杯目を食べ終えると、華奢な体から一部だけ膨らんだ部分、お腹を撫でながら。



「はあー、もう食べられない」

「これ以上食べられても困るんだけど? それより、アニって肉食だったんだね」

「お肉は最高にゃ━━じゃなくて最高です」

「もういいよ、周りも騒がしくなってきたからね」



 慌てて言い直す彼女に、俺は周りを見るように促す。

 周りには既に、本日の狩りを終えた冒険者や、営業を終えた商人が集まり、六〇ある席が全て埋まっている。
 誰もがばか騒ぎしてるここで、何を言っても聞かれないだろう。
 アニは周りを見渡し、



「ふうー良かったにゃ。アニは人が大勢いるとこは苦手にゃ、耳が痛くてかなわんにゃ」

「それにしては堂々としていて、いい食べっぷりだったと思うけど?」

「それとこれとは別問題にゃ」



 ━━別問題なんだ。
 アニは高々と笑いながら、
 オレンジの果実とアルコールを二対一で割った飲み物、オレンジ酒を飲んでいる。
 
 話を聞くかぎり、アニは未成年ではないらしい。
 猫の年齢にするなら四歳だが、人間の年齢にするなら二〇歳━━だからこの姿、オレンジ酒を軽々飲む姿は法には触れてないんだとか。
 まあ、フードを被っていない時の本当の彼女の姿を知っている俺は、彼女から年齢を言われても未成年に酒を飲ましているようで気が引けるが。

 彼女は少し頬を赤らめながら、



「それで、アニが言うのもあれにゃんだけど、明日の考えは決まってるにゃ?」




 オレンジ酒を飲み終え、新しいオレンジ酒を頼むアニに聞かれた。
 まだ飲むのか!? 
 そう聞こうと思ったが、アニには先程の儲けさせてもらった恩がある、ここで止める事はできなかった。
 俺は少し悩んだあげく、



「いや、まだ決まってないんだ。一応、場所が悪いから数少ない通行人に狙いを定めて、一人にかける時間を増やそうかと思ってるけど」

「……。アニも精一杯頑張るにゃ、だけど━━アニは何をしたらいいにゃ?」

「んー、明日どれぐらいの人と対応できるかわからないけど……。そういえば、明日何を売ろうと思ってるかわかる?」



 アニは唸るように悩んだ。
 それから少しして、明るい表情がフードから見えた。



「武器と防具にゃ!」

「そう! さすがいつも見ているだけあるね、うちが仕入れた武器と防具は一級品だから、見てもらってお金があれば━━それなりの売り上げにはなると思うんだ、だけど」

「だけど? にゃんにゃ?」

「場所がなー」



 場所が悪い━━この事が唯一の懸念材料だ。
 前回来た時は九番の場所で、まだ人はそれなりに来ていた、まあ、それなりだが。

 今回はもっと最悪。
 前回の一二番の場所て商売していた商人を見ていたが、一時間に数人通るかどうかだ、そしてその数人には遊んでる子供が半分だ。
 全く稼げるとかそんな話じゃない。

 そして、明らかに悲しい表情を見せるアニ、それを見て、自分が言った言葉の攻撃力に気づいた。



「いや、アニが悪いとか言ってるんじゃないからね!?」

「……言ってるにゃ! 遠回しに言ってるにゃ! アニが悪いって言ってるにゃ!」



 顔を俯き、今にも泣きそうなアニ。
 耳が見えていたら、おそらく前方に倒れているであろう。

 確かに遠回しに言ってしまった感もある、それでも、本当に悪気は無かったんだ。
 ただ、本音の部分が出てしまったというか━━仕方ない、奥の手を使おう。



「アニ! 一緒にブドウ酒を飲もう! ここのブドウ酒は美味しいって評判なんだよ、オレンジ酒よりも甘味があって━━」

「━━飲むにゃ!」



 前屈みになって笑顔を見せるアニ。

 ふっ、容易い。
 アニが人の姿になってからまだ一日経っていない、だけど、ある程度の彼女を把握した。

 かなりの大食い。
 お酒が大好き。
 考えている事がすぐに顔に出る。
 可愛い。

 最後のは完全に俺の勝手な判断だが、おそらく間違いないだろう。

 なのでここは、ご飯かお酒で機嫌をとるのが最良の策だ。
 お代の事とアニの機嫌、どちらを優先するかと言われたら。
 今の状況だったらアニの機嫌を直す方を優先する。

 だが問題はある、それは俺がお酒が苦手だということだ。
 だけど、そこは仕方ない、アニの機嫌の為なら一杯飲んだだけでも視界がぼやけるお酒を、今日は付き合おう。



「お待たせしました! ブドウ酒二つです」

「わー、主よ、早く乾杯するにゃ!」

「わかったわかった、ほら乾杯!」

「乾杯にゃ!」



 高々と上げたグラスが、チリンという綺麗な音を奏でる。

 この時の俺は甘く考えていた。
 このグラスに注がれ紫色に輝く飲み物━━ブドウ酒を一杯飲めば良いのだと。

 だが、俺達は二人合わせて八杯を飲んだ。
 そして次の日、当然のように地獄の朝が待っていた。





* ** ** ** ** ** ** **



「ああああ、頭が、頭がいてぇ」

「大丈夫かにゃ主?」



 頭が割れる程に痛い朝、俺は目覚めると、全く知らない景色の中にいた。
 木の良い香りがする室内、ふかふかの羊の毛でできたベッド、そして隣で寝ているアニ。

 ん? アニ?



「ちょ、ちょっと! 何でここで寝てるのさ!」

「にゃんでって主が心配だったにゃ! 昨日あれから急に倒れてにゃ、それをここまで運んだのはアインとツヴァイ、それにアニにゃ!」

「いやいや、そういう事じゃなくて━━って、それになんで服を脱いでるのさ!?」

「服を着たままで寝るのは息苦しかったんだにゃ、どうしたにゃ? 顔が真っ赤にゃ?」



 俺がどうしてこの困惑した表情になっているか、その理由がわからないといった表情をしているアニ。
 俺がこうなるのは当然だろう。
 頭痛で目覚め、隣には全裸の少女━━そして、記憶に無い部屋。

 ━━記憶に無い部屋?



「アニ……この部屋は?」

「昨晩、主が急に倒れて慌てて入った部屋にゃ! 主が寝てたから食事代と宿泊代のお金はアニが払っといたにゃ!」



 褒めてくれと云わんばかりに、顔をすりすりしてくるアニ。
 感謝はしている、だが、気になるのは値段だ。
 こんな高級な宿屋は泊まった事はない。



「ありがとう……えっと、いくらしたのかな?」

「食事代が二〇金貨、宿泊代が二人合わせて一〇金貨にゃ!」



 
 ありがとう、ここまで運んでくれて。
 でも……一番安い宿屋なら、宿泊代は一日金貨二枚でいける、一日の食事も金貨一枚、もしくは銀貨八枚でいける。
 それを、それを一日の食事と宿泊で三〇金貨って。
 まあ、記憶を無くした自分が悪いんだ、だからもう悔やむのは止めよう、なんとしても今日稼げばいいんだ。



「……それじゃあ行こうか、アニ!」 

「はいにゃ!」
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