精霊召喚したら、幼女の精霊を召喚してしまいました

アロマサキ

文字の大きさ
17 / 68
第1章

精霊舞術祭 4

しおりを挟む

 今到着したばかりだが戦況は直ぐに理解でき程に明確だった。
 雅と小人達は弓矢を構えシノとシルフィーを囲んでいる、この状況だけを見れば雅達が優勢だと思えるのだが━━。

 そんな姿を見ながらシノとシルフィーは余裕の笑みを浮かべている。
 二人の手には長身の槍、そして二人の周りを大気が渦巻き状に巻き上げ包んでいる、おそらく風を操る精霊なのだろう、もしそうなら二人には相性が悪い。



「お姉さん……さっきから囲んで見てるだけだけど━━攻撃してこないの?」

「おい姉ちゃん……弓と風じゃあ相性が悪すぎるぞ。━━どうするよ?」

「わかってる━━わかってるんだけど逃げる事ができないのよ」



 余裕の表情で語りかけるシルフィーとは対称的に、赤い帽子を被った小人の精霊、ヤキトは苦い顔をしながら主である雅に指示を仰ぐ。
 たが雅はその問い掛けに答えを出す事ができないでいた。
 少し離れた草木に身を隠している僕達まで、殺伐とした空気が感じられる。

 僕達が助けに入れば雅達の逃げる時間は稼げるが、




「━━主様、どうしますか? 助けに行きますか?」

「そうだね、助けに行けば雅達が逃げられる時間を稼ぐ事はできると思う……だけど僕達は本選に進む為に必要なバッチをもう手に入れてるからね、ここで助けに行って万が一負ける事があったら━━」

「……主様は私達が負けると?」



 左からエンリヒートの睨んでいる視線を感じる。
 二人の実力はたった数日一緒に居ただけだが理解しているつもりだ。
 最強の精霊だと自信を持って言えるし、二人が負ける筈は無いとも思う。

 ただ━━。 



「僕が足手まといにならないかなって思って」

「はぁ……なんとも主様らしい考えですね、でも安心してください。私達が全力でお守りしますから」

「いや、それが━━」



 それが足手まといと言うのでは?
 そう二人に言おうとしたが、



『主様の回避は私にお任せ下さい』

「…………」

『━━何か言ってくださいよ』

「わかったよ。それじゃあ助けに行こうか!!」



 脳裏に響く謎の女性の声。
 僕の両隣にいるアグニルとエンリヒート、そして謎の声、三人に守られている事を自覚した途端、何故だか笑いが込み上げてきた。



「あっ、ちょっと待ってくれ主様!!」

「えっ?」



 僕は顔を二回程叩いて気持ちを引き締め、草木から身を出そうとしたが、エンリヒートに袖を掴まれ止められた。



「さっきの戦いでちょっと霊力を使ったからな……かいふくかいふくっと」

「じゃあ私も」



 二人は僕の手を掴み自分の首もとに当てる、



「「ふぅあふー」」



 二人は顔を赤くしながら吐息を漏らしている。子供の姿なのに妙に色っぽい姿、その姿を見て少しだけ、僕は欲情したのを自覚した。

 これはアグニルの能力か、僕達の耳に付けていた精霊石が赤い輝きを放つ。




「━━誰かいるんですか!?」

「それじゃあ行ってくるぜ!!」

「主様は無理しないでくださいね!?」



 輝きは予想以上に眩しく、シノの驚いた声が聞こえる。
 次の瞬間、アグニルとエンリヒートは飛び出し僕を置いて走っていった。



「来い、雷の剣よ!!」

「来い、火焔の剣よ!!」

「隠れてたのはエンリヒート達だったんだね!!」 



 アグニルとエンリヒートは雷と炎の剣を呼び出し、アグニルはシノに、エンリヒートはシルフィーへと剣を振りかざす。




「やあシルフィー、こうやって戦うのは初めてじゃないか?」

「そうね……でもあなたの実力は知ってるわ━━【塵旋風《ダストデビル》】!!」




 シルフィーは後ろへ飛び下がり、手に持っていた槍を大きく横に振る。
 槍を振った瞬間、何もない所からつむじ風が巻き上がりエンリヒートに襲いかかる。

 だがエンリヒートも予測していたのだろう、人の体くらいの大きさのあるつむじ風を難なく避け、



「さすがは風神、こりゃあ当たったら痛いじゃ済まなそうだなっと!!」

「当たったらその貧相な体が露になっちゃうかもねっ!!」

「貧相言うな!! 主様の欲求を満たせるくらいにはある!!」



 エンリヒートとシルフィーは何故だか楽しそうだ、そしてさらっと変な言葉を言っている。
 だが今は突っ込みを入れている状況じゃない。まだ状況を把握できてない雅達のもとに僕は走りだす。



「雅、大丈夫!?」

「如月君? 私達は大丈夫ですが、どうして?」

「話は後にしよう、僕達が時間を稼ぐから雅達は今の内に逃げて!!」



 雅は困惑していたが、「ありがとうございます」とだけ言い残し、精霊を連れてこの場を後にする。
 とりあえず雅達を逃がす事には成功した━━、だがこの先どうするか、



『主様、後ろへジャンプ!!』

「えっ、はい!!」



 不意に脳裏に響く女性の声。
 僕は咄嗟に後方飛びをした。
 僕がさっきまで立っていた場所には一直線に吹き抜ける鎌鼬《かまいたち》、



「まさか避けられるとは……意外に良い反応をしますね」

「それはどうも……間一髪でしたが」

「主様すみません!!」



 アグニルと相対していたシノは、少し不服そうにこちらを見ている。
 驚くのは当然だろう、僕はシノを見ないで避けたのだから。
 僕は額に流れる汗を拭い答える。



『間一髪でしたね主様』

「本当にね、君のおかげで助かったよ」

『礼には及びません、でも……これ以上戦闘が続くと厳しいかもしれませんね』

「そう……だね」



 新米精霊召喚士である僕から見ても、今の現状どちらが優勢なのかは一目瞭然だ。
 アグニルとエンリヒートは全く戦闘に集中していない、━━おそらく、



「余所見は良くないよ、エンリヒート!!」

「━━っ!!」

「エンリヒート━━全く集中してないよね? そんなに主が心配?」

「別に……そんな事ねぇよ!!」




 エンリヒートはちらちらと僕を見ている。
 精霊術の使えない僕は格好の的だ、二人だってその事は理解してる筈、だから危害が加わらないように心配してくれている。
 だけど二人のその優しさは大きな隙を作ってしまう、実力では上の筈の相手に。



「エンリヒート……契約する主を間違えたんじゃない?」

「━━なっ!! 主様を侮辱するのか!?」

「侮辱ね……まっこれは侮辱に入るのかな? だってそうでしょ、さっきから精霊術も使わないでただ見てるだけ━━、言い方悪いけど、【役立たず】でしょ?」



 シルフィーはこの場にいる者全てに聞こえるように声を張り上げる━━役立たずと。
 その言葉を聞いて薄々感じていたが、はっきりと実感させられた。二人は僕がこの場にいなければ既に勝っていただろう、まだ決着が付かず、劣勢を強いられているのは僕の責任だ。
 気付くと拳を強く握り締めていた。



「貴様!! よくも主様に!!」

「舐めるなよシルフィー!!」



 アグニルとエンリヒートは目の色を変え、シルフィー目掛けて走り出す。
 だがシルフィーはそんな二人を見て笑みを浮かべていた、まるで予想していたかのように。

 すると、不意に脳裏に響く声が、




『主様二人を止めて!!』

「━━二人とも待て!!」

「直ぐに取り乱す……戦闘中には命取りだよ」




 脳裏に響く謎の声は、いつもの穏やかな声とは違い、焦りを含んだ声色だった。
 僕も二人を止めるが既に遅かった。
 アグニルとエンリヒートを挟むようにしてシノとシルフィーは詠唱を始めている。



「「 風神の名のもとに、大気の風よ鋭い刃となりて、彼の者を切り刻め、【風刃天昇《エアシャイド》】」」



 シノとシルフィーの詠唱が終わると、木々は揺れ出し、轟音が鳴り響きながら無数の風の刃がアグニルとエンリヒートを襲う。

 二人は動きを止め、回避しようとしたが避ける事ができない。
 風の刃に真っ向から切り刻まれその場に倒れ込む。



「アグニル!! エンリヒート!!」

「━━っ!! 油断したか」

「エンリヒート。それは油断じゃなくて経験の違いだよ? 私とシノは二年も一緒に戦ってきたからね……残念だけど私達には勝てないよ」



 倒れているアグニルとエンリヒートに吐き捨てるようにして言葉を投げ捨てるシルフィー。
 そんな姿を見たシノが、



「じゃあ、勝負はついたみたいだから私達は行くね?」

「……バッチは、バッチは取らないんですか?」

「私達はもう二つ持ってるから。それに━━」



 帰ろうとしている二人は足を止める。
 僕達三人の方を振り返り、笑いながら、



「本選に来ても貴方達なら負ける気がしないから……いらないかな?」

「ばいばい、エンリヒート」



 二人はそれだけを伝え、再び去っていった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ

音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。 だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。 相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。 どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

処理中です...