20 / 68
第1章
精霊舞術祭 7
しおりを挟む「おつかれ、なかなか面白かったぞ」
「僕は面白くないよ……こんな圧倒的に負けるなんて」
僕達のいるタイルが並べられたステージから少し離れた場所、精霊闘技場の端に設置されている椅子に恵斗は座ってた、唇を横に伸ばしたわざとらしい笑みを浮かべている。
僕は全く笑えない、まさかこんな速攻で敗れるとは、そして隣を歩くアグニルとエンリヒートの表情も暗い。
僕達も恵斗の横に座る、そこに仲神が来て、
「お前らはなんでお互いを信じないんだ?」
「……それは」
「だって主様は精霊術が使えないから……だがら私達が守らないといけないでしょ?」
「そうかもしれないが、その考えを改めない限りお前達は一向に強くなれないぞ? もう少しお互いを信頼したらどうだ?」
心配しているわけでもなく怒っているわけでもなく、仲神の声色はいつもどおりだった。それなのに何故だか心に響く。
別に信頼してないわけではない、ただ、
「体が勝手に反応してしまうというか、それに今回は二人に何かあったのかと思って」
「まあ、今回のは確かに心配するなと言うのは無理があるが━━だからといって剣を構えている奴から目線を離す馬鹿がいるか?」
「それは……」
それは確かにそうだけど━━言い返そうとしたが口をつぐんだ。これ以上言葉を発してもただの言い訳にしかならない。それよりも言われた事を理解し、吸収する方が先決だ。そして今やれる事は、
「先生の言うとおりですね……二人も僕の事は心配しないでほしい、まあ急に言われても無理かもしれないけど」
「でもよ主様、主様は精霊術が使えないんだぜ? それなのにどうやって身を守るんだ?」
「そういえばお前、急に反射神経良くなったな? 何かあったのか?」
「それは……まあその」
皆の視線を感じる━━何か返事を返さないと。だけどなんて説明すればいいのか、カノンには私の事は話さないでと言われてるからな。
そんな中、黙っていた僕にアグニルは「私の目を見てください」と言われ頬を両手で抑えられ顔を近付けられた、小さな目は真っ直ぐに僕の目を見つめ、
「もしかして主様、私達とは別の精霊とお話してませんか?」
「なっ! なんでそれ━━」
『言っちゃだめ!』
アグニルの唐突な言葉に驚き、反応してしまった。カノンに止められ、口に手を当てるが既に遅い、もう否定できない言葉を喋ってしまったのだから。
周りの皆は驚いているのか、口を開け僕を見ている。そんな僕を見てアグニルだけはため息混じりに、
「私だって元々は精霊召喚士、三人の精霊と契約してましたからね、そういった経験はあります━━それに怪しい様子は沢山ありましたからね」
「もう一体って……ほんと柚木ってなんなんだ? 精霊三体と契約って。ありえねぇだろ」
「話をするだけなのか? 召喚はできないのか?」
「それはその……というよりまだ契約はしてないと思うんですが」
恵斗は驚き、仲神は疑問符を浮かべ、両者が僕を見ながら聞いてきた。
ただ、僕にははっきりと何か言葉を返す事ができない。
何故、精霊を三体も契約できるのか?
アグニルは以前、自分の体内にある霊力を半分以上僕に渡していると言っていたが、明確にはどれくらいの霊力が僕の体内にあるのかは不明だ。だがそこまで多くないと僕は思っている。なにせ父親は精霊召喚士だったが、母親は精霊召喚士じゃない、両親共に精霊召喚士の子供よりは少ない筈だ。
できてもカノンを含めた三人が限界だろう━━おそらく。
召喚できないのか?
それについてはカノンが拒んでいる、というよりは僕が主として相応しいかどうかを見定めている、というのが正確か。
どっちにしろ、今の僕にはどうしていいのかわからない。
なので言葉を返すことができなかった。
「それで主様、その私達の仲間になりそうな精霊は何の精霊なんだ?」
『……それは秘密です』
「……秘密らしいよ」
「随分と恥ずかしがり屋な精霊だな、そんな事も教えてくれないなんて、その精霊はお前と契約する気はあるのか?」
『それも秘密です』
「秘密……らしいです」
カノンの言葉を伝える僕、そんな僕に両手を上げ、「いみわからん」と呟く仲神。他の皆も似たような感じで首を左右に振ったりため息をついたりしている。
僕としてはこの板挟みの状況は勘弁してほしい。
「まあ、その精霊には姿を現さない何か理由があるのでしょうね、一度契約をしてしまったら主が死ぬまで契約を解除できませんから」
「だが精霊を召喚するのは精霊召喚士の想いの強さだろ? 声が聞こえるなら契約を交わしたって事だろ」
「それは……」
仲神と恵斗には精霊側が精霊召喚士を選んでいる事は伝えていない。アグニルは僕を見つめてくる。
教えた方がいいでしょうか? という疑問の顔なのか、もしそうなら教えた方が後々楽になるし意見も聞きたい、僕はアグニルに頷き返すと、アグニルは二人に説明を始めた。
ゆっくりとわかりやすい説明を聞く二人の表情はみるみる変わっていった。
赤い口紅を綺麗に塗った仲神の口元は丸く開き、恵斗は驚きよりも呆れたようなため息を漏らし、首を左右に何度も振っている。
「━━という事です」
「なんで、なんで今更こんな大事な話をする? 如月は知っていたのか?」
「えっまあ、アグニルから聞いていたので━━」
「何か二人から話を聞いたか、と前にお前に聞いた筈だが? 何故黙ってた?」
「えっと、それはその」
仲神の目は笑っていない。
おそらく本気で僕に怒っているのだろう。かなり威圧的な言葉に、鋭い眼差しを向けられた。
僕は正直恐いと思った、まだ仲神は二十二才、僕と四つしか変わらないのに威圧感が凄い、汗が額から流れるような恐ろしさを感じる。
「まあ今は許す、終わった話を今更しても仕方ないからな━━話を聞く限りとりあえずは如月を見定めている……そういう事でいいのか?」
「ええ、明確な理由があるはずなんですが、何か言われましたか?」
『それは教えてもいいですよ?』
「えっ! ……僕の気持ちが理解できないみたいで、何の為に僕が戦っているのかがわからないって」
「戦う理由……か。お前は何の為に戦ってるって言ったんだ?」
「二人の力になりたいって言いました、だけどそれは本心じゃないって言われましたが」
「本心じゃないか、そればっかりは柚木の問題だから何も口出しできないな」
「すいません、交代の時間です!」
恵斗の言葉と同時にこの場所に来てから二時間が経過してしまったようだ。
次の順番の生徒が扉を開け入ってきた。
話は途中だったが、僕達は速やかにこの場所を後にして、
「じゃあ話は明日にでも聞く、私は仕事が残ってるからな……帰ってから自分達で戦略を考えとけ、今日みたいな無様な戦い方は無しだぞ」
「じゃ、俺も行くわ!」
仲神と恵斗と別れ、僕達三人は寮へと帰ることにした。
━━その帰り道。
『やっと三人だけになりましたね━━主様、二人に伝えてもらいたい言葉があるんですがいいですか?』
「えっわかったよ、二人に伝えたい事があるって」
「三人目の精霊がですか? なんでしょう」
僕達三人……正確にはカノンを合わせた四人になると、カノンに言伝を頼まれた。僕はその言葉を一言一句間違いなく伝えた。
「アグニル、エンリヒート、二人の捜しているコスタルカを見つけたよ」
「━━っ!! どういう事ですか!?」
「見つけた!? あいつを見つけたのか!?」
僕は言葉を伝えながらも驚いたが、二人の顔は青白くなり、僕以上に驚いていた。
0
あなたにおすすめの小説
「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ
音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。
だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。
相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。
どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる