精霊召喚したら、幼女の精霊を召喚してしまいました

アロマサキ

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第1章

精霊舞術祭 6

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「主様、何だか疲れた顔をしてますね?」

「確かに、大丈夫か主様? 寝不足なんじゃないのか?」

「いやー、ははは 」



 寮から学校まで向かう道は、いつもよりぼやけたり暗く見えた。理由は簡単で、僕は瞼を閉じたり開けたりしているからだ。二人の言葉に「大丈夫」と返事をしたのだが━━正直眠たい。
 あの後、アグニルに話をかけられて直ぐベッドに戻ったのだが直ぐには眠れなかった。
 瞼を閉じる度に昨日の戦闘の映像が見え、カノンに言われた言葉が脳裏に響く。
 ━━さすがにそんな状況で眠れる筈が無かった。それに気になるのはあれからカノンの声が聞こえない事だ。



「……やっと来たか」



 眠たい気持ちを圧し殺し、約束の時間の九時に、正確には十分前に学校に到着した。
 職員室の中には仲神の姿しか無かった、他の教師は皆、精霊舞術祭《スピリフェスタ》を見に行ったのだろう。
 椅子に座り、優雅にコーヒーを嗜む姿、━━そして、




「おはようございます、先生その格好はどうしたんですか?」



 
 仲神の格好を見て驚いた、胸元には精霊《スピリット》召喚士《サモナー》の証である天使の羽の紋章《エンブレム》を付けた朱色のジャケットに、黒色のスーツのようなずぼん、これは初めて仲神と侵略者《アンドロット》の巣窟に行った時の格好━━そして戦闘する時の格好だった筈だ。



「ああ……今日は私が直々に指導してやろうと思ってな」

「直々にって、いいんですか? 一人の生徒に肩入れするなんて━━」

「まあ本来はあまりよろしくないんだが……堅いこと言ってねぇでとっとと行くぞ!」



 そう言って立ち上がる仲神。
 仲神は最近、妙に優しくて面倒見が良い気がする━━何か心境の変化でも? いやそんな簡単に変わる程、単調な性格ではない筈だ。三年間見てきて言えるのは、仲神が極度のめんどくさがりで口が悪いって事だけ、今の雰囲気と正反対だ。



「主様? あの人先に行ってしまいましたよ?」

「えっ!? ごめん、少しばーっとしてて」



 アグニルの言葉を聞いてふと我に帰った。
 もう既に仲神の姿は職員室には無い。置いていかれたのか。
 優しくなったと思ったが、どうやら気のせいのようだ。優しくなっていたのなら可愛い生徒を━━行き先も教えないで置いていく筈が無い。

 僕達は走って消えた仲神を追いかけた。
 職員室のある三階から一階まで降りる途中、廊下に設置されている窓の近くに群がる生徒達の姿。おそらく精霊舞術祭《スピリフェスタ》の予選二日目を見ているのだろう。
 僕達は群がりを一瞥し、下駄箱付近にいた仲神の姿を見つけた。どんだけ足が速いんだ━━それとも、長い時間僕は考え事をしていたのか? その答えは直ぐにわかった。



「先生、歩くの速くないですか!?」

「そうか? まあ少しは急いではいるがな。なんせ九時から精霊闘技場を借りる事になっているからな」



 仲神は少し早歩きで目的地へ向かっていた。

 精霊闘技場━━それは精霊舞術祭の本選で使われる会場で、この学校の所有施設だ。
 生徒達からはステージと可愛らしい名称で呼ばれてるが、正式名称は精霊闘技場。文字通り精霊達が戦い合う場所だから精霊闘技場だ。

 僕達も自然と早歩きになり進むと、精霊闘技場の入り口の前には見慣れた男子生徒の姿が、



「よっ、柚木!」

「えっ恵斗? なんでここに?」

「いや……俺もよくわからないんだがな」

「私が呼んだんだ、こいつには色々と手伝ってもらう為にな」



 恵斗は屈強な体格に似合わない程、満面の笑顔をこちらに向け手を振っている。
 どうやら仲神が呼んだらしい。いったい何の為に? 少し疑問に思ったが、仲神の言葉を聞いて直ぐに予想はついた。



「準備ができたら教えろ、時間が無いから早くしろよ!」

「あっはい、二人とも準備運動でもしようか?」

「えっと……なんの説明も無いんですね? あの人は」

「あはは、そういう人だからね」




 精霊闘技場の中に入ると、仲神は上着を脱ぎ捨て、黒のタンクトップ姿で準備運動を始めていた。
 そんな仲神の姿を見て恵斗は何かを察したのか、手足をぶらぶらと振り準備運動を始めていた。
 不思議そうにしていたのはアグニルとエンリヒートだけだった。
 僕もおそらくだが状況を把握できた、今から行われるのは戦闘だ、それも教師である仲神とだ。まさか本気ではやらないよな。

 僕達は準備運動を終え、仲神の待つ場所へと向かった。
 頑丈な石畳で固められたタイルが一面に並べられ、本選が始まったら見学者が沢山入るであろう観客席、ここが来週から始まる本選の会場か、少し想像しただけでも身震いしてしまいそうだ。



「準備運動終わりましたよ!」

「そうか、私達がここを使えるのは十一時までで後二時間も無いからな……早速始めるぞ?」


 
 ━━本当に何も説明をしないつもりなのかこの人は? 特訓してくれるのは有難い、だが一言説明があってもいいのでは無いのだろうか。
 アグニルとエンリヒートはいまだに状況を把握していなかったが、雷の剣と炎の剣を呼び出し戦闘体制に入る、僕は━━ただ二人の後ろに立っているだけだった。



『3…………2…………1…………』



 本番と一緒で機械の音声が鳴り響き、アグニルとエンリヒートが剣を構える、それを見て仲神は、



「氷を統べる全ての精霊の主、その汝の主たる我の呼び掛けに応え、力を与え給え━━、召喚《サモンネージ》!!」



 足下の石畳からは少し涼しい風が流れてくる、そして空気中の水蒸気は凍え、薄い霧が発生する。仲神の背後には白い妖精の姿、氷霧神《アイミス》、氷と霧を操る上級精霊。まさか僕と、僕の精霊が戦う事になるとは、一週間前の僕には予想もつかなかっただろう。 



「さあ行くぞ、氷霧《ひょうむ》!」



 仲神の言葉が発せられた瞬間、さっきよりも濃い霧が発生した、あっという間に近くにいたアグニルとエンリヒートの姿が見えなくなった。
 二人からは「主様!?」と僕を呼ぶ声が聞こえる。ただ僕には好都合だと思えた、これで二人の邪魔にならないなら━━。



『主様、後ろにジャンプ』

「━━ッ!!」

「まさか二人の邪魔にならなくて良かった、なんて思ってるんじゃないよな?」



 霧に囲まれた空間でカノンの声が聞こえて慌てて後ろ飛びをする、その瞬間、僕のいた場所には氷柱が四本刺さってる。昨日と全く一緒じゃないか━━それに仲神は本気で狙いにきている、避けられなかったらどうするんだ、それにどうして皆僕の気持ちがわかるんだ、



『それは主様がわかりやすいからですよ? 今度は右に横っ飛び!』

「……っく━━そんなにわかりやすい性格はしてないと思うんだけど!?」

「何をぶつぶつと、それにお前。そんなに反射神経良かったか?」 



 一見軽々と避ける僕に疑惑の目を向け氷柱を連射する仲神、そんな仲神の放つ氷柱を、カノンの言葉を聞いて避ける。
 このまま仲神を引き付ければアグニルとエンリヒート対アイミスの二対一の戦況にできる、それなら僕にだって力になれる筈だ━━そう思ったのだが、



「主様!? 何処ですか!?」

「大丈夫か主様!!」

「僕は大丈夫だから二人は━━」

「キャアアアア!!」

「アグニル!? エンリヒート!?」

「余所見する程……お前は余裕なのか?」

『主様危ない!』

「━━えっ!?」



 僕は声のする方に一瞬、ほんの一瞬だけ視線を向けてしまった。その瞬間を狙っていたかのような笑みを浮かべ、僕の首には氷柱が当てられた。



『試合終了です』



 その瞬間、試合終了の合図のブザーが鳴り響き、濃い霧が晴れた。



「主様!」

「二人とも! 怪我は無かった?」

「それはこっちの台詞だよ、いきなり叫び声が聞こえて焦ったぞ!?」

「えっ? でも━━」

「ああ、それは私の精霊の能力の幻聴だ。とはいえ、試合時間は五分━━お前らには教えがいがありそうだな」
 


 たった五分、それだけの時間で敗戦した。
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