精霊召喚したら、幼女の精霊を召喚してしまいました

アロマサキ

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第1章

本選

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 あの日からどう戦うか、そしてどうやって危険を脱するか、そればかりを考えていた。
 だけど、全く結論が出ないまま━━本選開始当日を迎え、僕達は控え室にいた。



「お兄ちゃん……私がここにいてもいいの?」

「ああ、僕の近くで見ててよ」

「そうだぜ妹ちゃん、私達の勇姿を見ててよ!」



 小さな控え室に僕、アグニル、エンリヒート、カノン、そして妹の柚葉は椅子に座り、日常会話に花を咲かせていた。

 妹の柚葉を僕達の側にいさせる、これはエンリヒートの意見で決まった。
 ━━精霊召喚の使えない柚葉、反日本政府に僕達が襲われる時、きっと……柚葉も無事ではないだろう、柚葉の身を守る為、僕達の近くにいる事が一番だろうという決断になった。

 そして、あの日から大きく変わった出来事が一つある、



「そういえば……お兄ちゃん知ってたの? 仲神先生が退職するって」

「いや、それは知らなかったよ……僕も聞いた時は驚いた、急にどうしたんだろうね」



 柚葉は不思議そうに僕を見ているが、はっきり答える事ができなかった、本当に、本当に驚いたのだから。
 それは僕だけじゃなく━━他の三人も同様だ。
 僕達がこの事実を知ったのは今日の朝、この控え室に来る前に恵斗に急に止められ知った。
 恵斗の話によれば姿すらも消して、教師達も連絡が取れないらしい。
 そして、カノンの精神感応《テレパシー》にも全く反応が無いそうだ、僕達は信頼して話したのだが、こうもあっさりいなくなるとは、一言あっても良いのではないのだろうか。

 そして、時は刻一刻と過ぎ、不意に入り口の扉を三回叩く音が聞こえる。
 その音に、心臓がビクッと反応したのを感じ、扉が開く。



「如月 柚木くん……一回戦が始まります、会場にお越し下さい」

「えっはい。わかりました」



 同じ学校の学生にびくつくとは……少し心配し過ぎかもしれないな。
 僕は気持ちをリセットするように首をぶんぶん横に振り、会場まで向かおうと歩き出すが、




「主様、緊張しすぎですよ?」

「そう……だね、僕は人前に立つの苦手だからさ」



 歩こうとする僕の足を掴むアグニル、その表情は心配している子供のような愛らしさがあった、そんな彼女の綺麗な青みがかった白髪を撫でると、嬉しそうな満面の笑みを返してくれた。

 緊張か……これはどっちの緊張なのだろうか。
 これから始まる戦いに緊張しているのか、それともこれから始まるかもしれない反日本政府の襲撃に緊張しているのか。それはわからない。
 そして僕達は歩き始めた、会場までの道程は天井に吊るされたライトで照らされ明るかった。
 そして僕達以外には人の姿がない、そんな中、後ろを歩く柚葉からガサガサと音が聞こえ、「お兄ちゃん」と呼ばれ振り返る。



「お兄ちゃん試合相手が誰だかわかってる?」

「えっ? あれ誰だったっけ」



 正直全く気にしてなかった、それどころではなかったのだから━━まあ、ただの言い訳にすぎないが。



「全く、お兄ちゃんは相手の事も気にしない程に強いのかな? ……はいこれ」

「これは?」

「今から当たる対戦相手の情報、あまり時間無かったけど調べておいたよ」



 呆れた表情の柚葉から紙の束を手渡される。
 その資料には文字が沢山書かれていた。
 本選は総勢六十四人の参加者で行われるトーナメント形式だ。そして柚葉から渡された資料には、参加者の情報が沢山書かれ、かなり事細かく記されていた。
 どんな名前、精霊かはもちろんの事、召喚士の使う精霊術、精霊が使う霊力術、召喚士と精霊の癖。
 参加者は昨日発表された筈なのに━━この量は凄いな。三人も僕の手を掴み、資料を眺め、




「これは凄いですね、中々上質な情報ばかり」

「よくこんなに集められたね、こんな才能、柚葉にあったっけ?」

「失礼な、私だってただぼけーっと、この予選の七日間を過ごしてきたわけじゃないんだからね!」
 


 柚葉は「ぷんぷん」と言いながら怒る素振りを見せている━━その表情は可愛い、それは兄である僕も認める。

 資料を眺めながら嬉しく思う、ここまで頑張ってもらったら、



「負けられない……ですね」

「ああ、なんとしても勝ち上がらないとね」



 カノンの言葉を聞き、頷きながら答える。
 カノンの正体を隠す為、本気を出さずに戦おうか、という意見も話し合いの時に出た。
 だが当のカノンはこの意見に反対した。

 ━━こんな貴重な実践経験を培える場面はこの先無い、だから本気で勝ちにいこう、と。

 だけどアグニルとエンリヒートは僕の身を心配してか、明確な答えを出さず、結局今になるまで結論が出なかった。

 だが今の三人の表情を見ていると、どうやら結論が出たみたいだ。



「それじゃあ勝ってくるよ、柚葉」

「はい、私はここで待ってるから……精霊ちゃん達もお兄ちゃんの事よろしくね!」

「主様は私達が勝たせますから、だから安心してください」

「じゃあね妹ちゃん、勝ってくるよ!」

「戦ってもないのにそんな……まあやれるだけやってきますよ」



 柚葉は笑顔で送り届けてくれた、僕達は会場の扉を開く。
 その瞬間、眩しい程の光と歓声に出迎えられる。

 これが本選か。前は見ているだけだったのに、今ではこうして選手としてこの場に立つとは━━人生何があるかわからないなと思う。
 そして、見てただけでは感じなかった緊張感を感じる。

 僕の隣を歩く三人も興奮、そして楽しそうに辺りを見渡している。



『さぁー始まりました、一回戦第二試合、実況は私一年、琴崎《ことざき》春菜《はるな》と!』

『精霊研究科目の教師を勤める、椎名《しいな》鹿波《かなみ》で勤めます』

「本選になったら実況もつくんですね……なんだか本当に大会みたいになってきましたね!」




 陽気な声の琴崎と、落ち着いた声の鹿波の声が会場内に響くと、会場内の熱気はさらに上がる。
 本選からは実況も付く、それは見に来ている生徒に━━というよりはお偉いさん方に生徒の良さをアピールする為だ。




『まず最初に紹介するのはー、六年生の赤城 響選手です! 今年で三度目の出場になりますが、椎名先生、赤城選手はどういう選手なんですか?』

『彼の精霊は個々の戦闘力は低いけど、扱う精霊の数が多いからね、私は苦手なタイプだな』

『次に紹介するのはー、三年生の如月 柚木先輩です! 初出場の選手ですね?』

『彼は……あまりわからないね、最初は双子の精霊と言ってたけど、今見るともう一人いますね、三姉妹? ということになるのかな? まあ、何はともあれ楽しみな選手には変わりないけど』




 実況はここまで聞こえる、やっぱり怪しまれてるのか、まあそれはそうだよな。だって仲神は教師達に僕の精霊は双子の精霊で通してるんだから、それが急に一人増えたら━━怪しまれて当然か。

 だけど確信に迫ってこないのは単純に、精霊の同時召喚が本来できない、そう思っているからだろう。それが今では有難い。



「あれは……人形ですか」




 アグニルの言葉に、正面に立つ生徒に目を向ける。
 目の前に立つ男子生徒の周りには、既に十体以上の精霊、というよりは人形━━あれは個々に霊力を分配させた自我を持つ人形の類いか。

 だけど複数の人形は……僕達には有難い、これで僕達の事を疑う人は少なくなる。




『さあ、常連の赤城選手が勝つのか、それとも初参加の如月選手が勝つのか━━それでは試合開始です!』

『3……2……1』

『━━GO!!』
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