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第1章
本選 2
しおりを挟む「いけっ、人形達!」
既に霊力術《コストアート》で、雷の剣と火焔の剣を出しているアグニルとエンリヒート、そんな二人に人の形をした人形が束になって襲う。
━━数で押し切ろう、という考えなのかな。
「ふっふっふっー、雑魚は雑魚……主様の心配をしなくていい私達に、数で押し切ろうなんて……浅はかだな!」
「かっこつけてないでいいから! 早く終わらせるよ、エンリヒート!」
二人は飛び掛かってくる人形達を切り裂き、ステージ一杯に広がる人形達を次々に捩じ伏せる。
二人と人形達の実力は全然違った、その事実に、向こうの主は理解したのか、怒り、慌てて矛先を変える。
「くそっ! いい、お前ら主を狙え!」
切り離しても動く人形達、その姿に精霊という姿は無かった、既に人形ではない彼らは僕とカノン目掛けて走ってくる。だが、
「まあそれが正しい選択でしょうね……でも、主様に近付けるとは思わない事です」
「眠れ眠れ、静かなる永久に、響け歌声━━精霊達の子守歌《ララバイ》!」
カノンの詠唱が終わると、耳に歌声が鳴り響く、これはカノンの声なのか? とても気持ちが安らぐ綺麗な声、そんな歌声を聴いた瞬間、人形達はバタバタと倒れていく、全く動く気配がない。
そして、カノンから金色に輝く弓を手渡される。
「最後は……主様が決めてください」
優しく、満面の笑み、僕だけ何もしていない、そう思って落ち込んでるのではないかと心配してくれてるのかな。僕は頭を撫で、弓を受け取った。
━━何年ぶりに握るだろうか、昔は父さんに教えてもらってたから、ずっと練習してたけど、最近は父さんの仕事が忙しくて全く練習してなかったからな。
それにこの弓、一般の弓よりかなり重いな、力を入れてないと手が震えてしまいそうだ。
「矢は霊力を抽出して生成します、なので、矢の形状、威力、速さ、それらをイメージして放ってください」
「矢をイメージか……やってみるよ」
今、必要な形状は細い矢、威力は高くなくていい、速さは……できるだけ速く、避けられない速度でそして━━この場で狙うのは。
銀色の矢は勢い良く僕の右手から離れ、相手の精霊召喚士の頬掠める。
「次は……外しません。降参……してもらえますか?」
「「主様、カッコいい!」」
僕の決め台詞……ではないんだが。アグニルとエンリヒートは目を輝かしながらこっちを見ている。カノンは……カノンはよくわからないが何度も頷いてる。
そして、右の頬からは少量の血が流れている相手の精霊召喚士は、少し考えてから、
「っく……わかった、降参だ」
『試合終了! 勝者は、如月 柚木選手です!』
その瞬間、会場は大きな歓声に包まれた。
なんとか一回戦は終わった━━快勝と呼べる程の圧倒的力で。
「いやー、結構いけたな、主様!?」
「そうだね、カノンが入ってくれたおかげで戦いが楽になったよ」
「別に私は……元々お姉ちゃん達の力があればこれくらい」
「あれー、照れてるの? カノン?」
後一戦、今日は行われる為、控え室まで戻る道程、僕も他の皆も上機嫌だ。
とはいえ、苦戦せずに勝てたのは上出来だよな。
━━僕も、今回は皆の力になれたよな。
「いやーまさかお兄ちゃんの精霊ちゃん達があんなに強いなんて……もしかしたら優勝できるんじゃない?」
「いやいや柚葉、まだ一回勝っただけだからね? これから━━」
「主様……誰かいます」
アグニルの言葉に、僕達は足を止める。
アグニルの視線の先、誰か生徒が立っていた、あれは、
「……恵斗!」
「よっ柚木! なかなか強かったな……それに新しい精霊と契約してて焦ったぞ?」
「いやーこれは」
通路の壁に背を付ける恵斗は、僕達を見て笑顔で出迎えてくれた。
今日の朝、恵斗と話した時にはカノンは離れていた、だから恵斗はカノンを見るのは初めてなんだろう。
僕は恵斗のいる場所まで向かおうとした、だがカノンに左手を握られ━━というよりは掴まれ、
「初めまして……私は主様と新しく契約した精霊でカノンって言います」
「丁寧にどうも、俺は逢坂 恵斗、柚木の幼馴染って感じかな?」
「ええ、ご存知ですよ、見てきましたから」
「そうか━━っで? その警戒している行動はなんなんだ?」
「……警戒? 何の事だかさっぱりですね、何か警戒されるような事でもあるんですか?」
二人は笑顔のまま、まるで何かを探っているように話をしている。
二人が何を話しているのか正直、僕にはわからなかった、警戒? 何の事だ。
そんな二人の話し合いに気を取られ気付かなかったが、アグニルは僕の右側に立ち、エンリヒートは柚葉の前に立つ。
━━これじゃ、まるで。
「おいおい、柚木……お前の精霊達はどうしたんだ!?」
「いや……これは、皆どうしたの?」
「精霊ちゃん達? 恵斗さんがどうかしたの?」
僕と柚葉の言葉に、三人は何も返事をしない。
未だ、警戒と呼ぶべきなのか、武器は出していないが恵斗から一切目を離さない三人。
「それで……何かご用でも?」
「ご用……か、友人が初勝利の祝いに来た、他に理由が必要か?」
「まあそうですね━━ですが、今は遠慮してもらえないでしょうか? 私達は疲れているので」
一切の油断を見せないカノン、その敵意むき出しの問い掛けを受け、恵斗は声に出し、笑いながら僕をじっと見て、
「確かにそうだな━━柚木!」
「えっ、何?」
恵斗に呼ばれ、体がビクッと震える。
恵斗の表情は笑顔で、いつもの恵斗だった━━筈なんだけど。
「いい精霊と契約したな……そのカノンって精霊の言うことはよく聞いとけよ?」
「えっ、それはどういう。ってか恵斗どうしたの? 何か変だよ?」
「…………変か、そうだな」
いつもの恵斗と何処か違う。
━━何処が? ……そう聞かれれば答えに苦しむ、だけど幼馴染である僕には何か、いつもと雰囲気が違う、そう思えた。
三人は今にも攻撃を始めようとしている、臨戦態勢の格好。
そんな三人を見て、恵斗は僕達に背を向け、
「昔……小学生の時だったか。お前と四人組中学生に絡まれてた時の事、覚えてるか?」
「……えっ? 覚えてるよ、恵斗と釣りをしていた時の事だよね?」
「覚えてたか……ああ、その時の事を良く思い出しておけ! じゃあな!」
「━━恵斗!? それはどういう」
恵斗はそれだけを言い残し、奥へと歩いていった。
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私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
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